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日本を待つ「転落の50年」

4月19日の日経新聞に、小竹洋之コメンテーターの「日本を待つ「転落の50年」」が載っていました。
・・・トランプ米大統領が連射する高関税砲は、貿易立国・日本の存立基盤を揺るがしかねない。石破茂首相が「国難」と呼ぶのも、決して大げさではあるまい・・・だが政府・与党の安易な対応は目に余る。自動車をはじめとする基幹産業が高関税にさらされ、成長の源泉が侵食されそうな時に、今夏の参院選をにらんだバラマキに精を出す始末である。
それで当座をしのげても、国民の食いぶちを安定的に稼ぎ出せるわけではない。経済対策の的を真の弱者に絞り、むしろ成長戦略に多くの国費を投じるべきだ・・・

・・・振り返れば、日本の経済はまさに国難続きだった。深刻なデフレや少子高齢化などが重なって、バブル崩壊後の「失われた30年」と評される今の苦境がある。
豊かさの指標といわれる人口1人当たりの国内総生産(GDP)で見ると、1990年代以降の日本は、過去300年余りで3度目の深刻な凋落を経験した――。経済産業研究所の深尾京司理事長(一橋大学特命教授)は、自著「世界経済史から見た日本の成長と停滞――1868-2018」にこう記す。
覇権国とのギャップが著しく拡大するのは江戸時代の末期、第2次大戦の前後に続く現象だ。「過去2回は鎖国や戦争の影響で技術の格差が広がった。今回は資本蓄積の遅れや労働の質の低下も目立つ」と深尾氏は話していた。
その日本で賃金と物価の上昇に好循環の兆しが現れ、長期停滞の出口を探り始めたタイミングでの高関税である。経済と市場の安定に万全を期すのは当然だが、痛み止めに終始していては、いつまでもトンネルを抜けられない。

そして今度は「転落の50年」の扉が開く。日本経済研究センターが3月にまとめた長期経済予測を見てほしい。トランプ関税の影響などを織り込まない標準シナリオで、実質GDPの世界ランキング(83カ国・地域)を試算すると、日本は24年の4位から、75年には11位に後退するという。
1人当たりの実質GDPでは29位から45位に順位を下げ、中位グループに埋没する結果となる。「人工知能(AI)の普及や移民の拡大、雇用制度の見直しなどに取り組み、とりわけ労働力人口1人当たりの生産性を引き上げる努力が欠かせない」と岩田一政理事長(元日銀副総裁)は訴える。

米タフツ大学のマイケル・ベックリー准教授は18年の論文で、経済・軍事両面の国力を測る簡便な指標として「GDPと1人当たりGDPとの積」に注目した。人口大国の実力を過大評価しがちなGDPよりも、一国が抱える正味の資源をいかに効率的に対外活用できるかを的確に示すという。
静岡県立大学の西恭之特任准教授も、これを支持する。日経センターの長期予測を基に、実質GDPと1人当たり実質GDPとの積を試算すると、日本は24年の5位から、50年には8位、75年には14位に後退するそうだ。
いずれも首位は米国で、中国、ドイツ、英国が続く。2位以下を大きく引き離す米国を100とした場合、日本は6.2から3.6、2.6に低下する。「労働力人口の比率を維持し、1人当たり・1時間当たりのGDPを極力増やしたい」と西氏は語る・・・
この項続く

ビッグマックに見る労働生産性

このページでもしばしば言及する「ビッグマック指数」。
2025年1月時点では、日本のビッグマック価格は480円。アメリカのビッグマック価格は5.79ドルで、円にすると894円です(2025年1月時点の1ドル=154.35円で換算)。ユーロ圏では919円です。

日本の経済力の弱さを指摘して、「生産性を上げないといけない」と主張されます。でも、マクドナルドの店内で働いている店員に、これ以上生産性を上げろとは言えないでしょう。彼ら彼女らは、作業手順書に従って、諸外国の店員と同じように仕事をしているでしょう。
原材料費の小麦粉、肉、タマネギ、トマトの価格が、日本の方が安いとは思えません。小麦も肉も輸入しているので、原価もほぼ同じ、場合によっては日本の方が高いと推測されます。

同じような原材料を使って、同じように働いて、日本は安い。おかしいですよね。
円ドル相場に、大きな原因があるようです。1ドル100円になれば、アメリカの5.79ドルは579円です。日本の480円に、ぐっと近づきます。
この点からは、円高になることを期待しましょう。

消費減税論の7つの問題

4月25日の日経新聞大機小機は、「消費減税論への7つの問い」でした。
「物価高や米関税措置への対策として、「時限的な消費税減税」を求める声がある。時事通信社の4月世論調査では、賛成が68.4%と反対の14.0%を大きく上回った。夏の参議院選挙を前に、この議論は与野党を巻き込んで盛り上がることだろう。消費減税は現実的な選択肢となり得るのか。7つのチェックポイントを考えてみた」として、次の7つが挙げられています。

すこしでも経済の仕組みを理解している人なら、わかることです。このような議論を無視して「減税」を主張することは、国民を馬鹿にしているようにも思えます。

(1)今はインフレである。景気刺激のための減税はインフレを加速する。
「困っている人を助ける」ことが目的ならば受給対象を絞った給付金が適切なのではないか。
(2)今の日本経済は、需要が足りないというよりは供給力不足が問題。
コメが典型的で、作る人が足りなくて値段が上がっている。消費減税という政策は、人手不足という課題に対して全く無力である。
(3)いつから税率を下げるのか。
消費税率を変えるには法改正が必要であり、国会が今すぐ取り掛かったとしても年内実施は容易ではない。
(4)時限的な消費減税を実施する場合は「いつ元に戻すのか」。
(5)消費減税の際には、増税時と同じコストがかかる。
商店は値札を替えねばならず、会計ソフトなども更新することになる。納税する事業者の負担がある。
(6)消費減税によって個人消費が増えるという保証はない。
コロナ禍の際の10万円の給付金さえ、ほとんどは貯蓄に回った。
(7)確実なのは、減税によって国の財政赤字がさらに悪化すること。

アテンション・エコノミー

3月28日の朝日新聞オピニオン欄は「奪い合うアテンション」でした。
・・・インターネットの普及で、人々の関心や注目が経済的な価値を持つ「アテンション・エコノミー」はますます社会に浸透している。何が起きているのか。乗り越える方策はあるのか・・・

馬籠太郎・電通デジタルマネージャーの発言から。
・・・アテンション・エコノミーは、広告業界においてはもともと商売の要です。看板や新聞の広告、テレビCMといった従来型の広告でも、アテンションを引くということが商売のもとになっていると言えます。

ただ、デジタル広告が従来型の広告と違うところは、人々の反応のデータが取れることです。どれくらいの人がクリックしたかとか、動画であればどれくらい表示されていたかとか、ユーザーの属性ごとに細かくリアルタイムで分かります。従来型の広告だと、掲載してから反応が見られるまで割と長かったのですが、デジタル広告はフィードバックがすごく速くなってきたと言えます。
スマートフォンの普及も大きいでしょう。今までであれば、テレビを消したりラジオを消したり、雑誌を閉じたりすれば、アテンションはおしまいです。でもスマートフォンは手もとにあるので、いつでもコミュニケーションが取れる状態です。アテンションを強く引くものが出てきた場合、ずっとそれに縛りつけられた状態になってしまいかねません。

人間の時間は有限ですが、情報空間にある情報は膨大に増え続けています。だから、アテンションがより価値を持ってくるのだと思います。ユーザー側の貴重な時間をいかに割いてもらうかがポイントですし、そのための手法がいろいろと考えられています。
良いアテンションと悪いアテンションというのがあるとすれば、扇動的になったり、過度に刺激的になったりするのは、悪いアテンションでしょう。ネガティブな感情に働くものは割とアテンションを引きやすいと思いますが、アテンションを引ければ何でもいい、というような話は危険だと思います。偽・誤情報が広がってしまう恐れがありますし、そうなると情報空間自体の信頼性がどんどん下がってしまいます・・・

催し物の経済波及効果2

催し物の経済波及効果」の続きです。記事を読んだ知人から、次のようなことを教えてもらいました。

総務省が「産業連関分析のための各種係数の内容と計算方法」(「平成27年(2015年)産業連関表(-総合解説編-)」第5章)を公表していて、その最後に「第8節 産業連関分析上の留意点」(19ページ)が載っています。そこに、次のような記述があります。

(1) 発生した最終需要の源泉は問わない
波及分析は、与件データとして需要額を与えることから始まるが、その需要額が何によってもたらされたかは考慮しない。
家計を例に取ると、一部の支出が増加した場合は、所得に変化がなければ、他の支出が減少する。その減少は、いわばマイナスの経済波及効果をもたらしているといえる。もし、貯蓄を取り崩して消費を続けたとしても、貯蓄の減少は投資の減少を通じて、マイナスの経済波及効果をもたらす可能性がある。
産業連関分析は、あくまで生産・分配・支出の循環の一部分を切り取った分析であり、その他の部分は、変化がないことが前提となっている。

(2) 波及の中断等
次に掲げるような場合には、波及の中断等により、短期的には、分析結果ほどの波及が生じないことがある。
ア 需要が生じたとしても、部門ごとに当該需要に応えられるだけの生産能力が常にあるとは限らない。発生した需要が生産能力を超えている場合、実際には、波及の中断が生じる場合がある。
イ 需要が生じても、過剰在庫を抱えている部門においては、過剰在庫の放出で対応することが考えられ、その場合には、期待する程の波及効果が生じない可能性がある。
ウ 需要の増加による雇用者数の誘発についても、現状の人員の範囲で時間外勤務の増加で対応した場合、雇用増には結びつかない場合がある。

(4) 波及効果が達成される時期
産業連関分析において、波及効果がいつの時点で達成されるかは明確にされない。

とのことです。
「家計を例に取ると、一部の支出が増加した場合は、所得に変化がなければ、他の支出が減少する」
「需要の増加による雇用者数の誘発についても、現状の人員の範囲で時間外勤務の増加で対応した場合、雇用増には結びつかない場合がある」
私の疑問そのものでした。
まあ、ええかげんな数値なのですね。政府が発表した大阪・関西万博の経済波及効果もこの方法を取っていると、3兆円という数字は鵜呑みにしてはいけませんね・
催し物の度に、研究所などが経済波及効果を発表します。それらも、これと同じなのでしょうか。すると、それらの数字は信頼性を失っていくでしょうね。