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社会と政治

マイナンバーの構造

5月25日の日経新聞に、大林尚・編集委員が、「マイナ失策に15年前のトラウマ 個人情報、分散管理あだに」を書いておられました。

・・・健康保険証の機能を載せたマイナンバーカード(マイナ保険証)に他人の情報がひもづけられている事例があると、加藤勝信厚生労働相が記者会見で明らかにしたのは今月12日だ。厚労相は「いま一斉にチェックし、こうしたことが起こらぬよう入力時に十分に配慮してもらうことを徹底させる」と対応策を述べた。
他人の情報が誤入力されたケースは2021年10月~22年11月に7300件あまり。健康や医療に関する情報は個人情報のなかでも極めてセンシティブだ。誰もが赤の他人になど絶対にみられたくあるまい・・・

・・・実は、ミスが表面化することは政府自身が予見していた。マイナカードの発行やマイナンバーシステムを運用する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が2月に自治体向け文書で警告した。
マイナンバーシステムの情報連携で他人の情報を連携(ひもづけ)するケースが頻発しており「追記処理」と呼ぶ訂正作業を急ぐように、との指示だ。

ミスは情報提供ネットワークシステムがマイナンバーや個人を特定する基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)を介さずに「みえない番号」を使ってやりとりしているという事情に起因する。ひもづけをする担当者は個人を特定する情報に接しないので、照会した本人の情報かを確認するすべがないのだ。
なぜこんなやり方か。万一、情報が漏れてもプライバシーを守れるというのが表向きの政府の立場だ。だが真の理由は、総務省が違憲訴訟を避けたいがために個人を特定できる情報をシステムに流さない方針を徹底させていることにある。

歴史をひもとこう。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)はプライバシー権を侵害し違憲だとして、住民が同省などに個人情報の削除を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は2008年「住民サービスの向上や事務効率化という正当な目的で使われ、情報漏洩などシステムの欠陥もない」として住基ネット合憲の判断を示した。その際の条件が「行政事務で扱う個人情報を一元管理できる主体が存在しないこと」だった。
欧州各国の番号制度は一元管理が主流だが日本はこの判例がトラウマになり、総務省は一元管理の回避を最優先してきた。個人情報は保有機関ごとに分散管理し、それぞれに「みえない番号」をつけるやり方だ。
以来15年。この間にデジタル技術は長足の進歩を遂げ、プライバシーの「守り方」もデジタル時代に即したやり方が適用されつつある。人手による情報のひもづけを変えないかぎり、いくら確認を徹底してもミスは完璧には防げまい。一元管理への移行を検討するタイミングではないか。
むろん堅固なセキュリティー対策が必要なのは言うまでもない。デジタル・警察両庁はマイナカードに運転免許証の機能を載せる計画のピッチを速めようとしている。万人がマイナカードを安心して使うのに足りない視点は何か。政府を挙げて再考するときだ・・・

見なくなったストライキ

5月9日の朝日新聞オピニオン欄、後藤洋平・編集委員の「パリのストと日本のメーデーで考えた 「便利さよりも大事なこと」」から。

・・・8年前に放送と兼務ながらファッション担当になり、コレクション取材のため、継続的にパリを訪れるようになった。流行ブランドのファッションショー取材といえば最先端の服を誰よりも早く間近で見ることができ、世界中からセレブたちも駆けつける。華やかな現場だと思っていたが、実際は過酷だ。朝早くから夜遅くまで、10近いブランドのショー会場を連日ハシゴする・・・

・・・しかし、落とし穴もある。たびたび行われるストライキだ。今年1月中旬から下旬に開かれたパリ・メンズコレクション期間中の同19日も、年金の受給年齢引き上げに反対する労働者たちが大規模なストを打ち、ほとんどの公共交通機関がストップした。
私はルイ・ヴィトンやヨウジヤマモトなど8ブランドのショーと一つの展示会取材、1件のデザイナーインタビューを予定していた。広場ではマクロン大統領を批判するデモが開かれ、封鎖された主要道路もあった。中心地を避けるルートの主催者バスと徒歩で乗り切ると、携帯アプリが記録した1日の歩数は2万3931。夜はもちろん即気絶した。
「こんな観光地で、世界中から人々が集まる時期に、なんでやねん……」
担当してから数回目のスト遭遇までは、そう思っていた。しかし、2018年に始まった「黄色いベスト運動」を含めて何度かストを経験し、パリに住む知人たちが「不便だけど、これは仕方ない。もっと大事なことがあるから」と理解を示していることも知って、考えが変わった。「労働者が団結して主張し、行動しているのは、うらやましい」と・・・

・・・いま47歳の私が幼かった頃、ストライキで電車の運行が止まることがたまにはあった。しかし、海外ではこの8年間で何度か直面しているのに、私は日本では数十年経験がない。厚生労働省に聞くと、21年の労働争議(経営側と労働組合などとの間で生じた紛争)の総数は297件で、うち実際にストなどの行為を伴ったものは55件だったという。
総数が最も多かったのは1974年の1万462件で、この年は紛争行為を伴った件数が9581件だったというから、ものすごい激減ぶりだ。
もちろん、労働環境が向上したという見方もあるだろう。だが、日本の会社員の平均年収は何年もの間、ほぼ横ばい状態だ。それでも争議件数は近年も減少傾向にあり、統計で最も新しい一昨年は19年に次いで過去2番目に少なかったという・・・

宇奈月温泉引湯管事件

5月9日の朝日新聞夕刊に、「民法の「聖地」、お守りでPR 富山・宇奈月温泉、「権利ノ濫用除」」が載っていました。

・・・権利を振りかざしてあなたを害する人物や出来事をよけ、良い縁を結ぶ。そんなお守りが、トロッコ電車で有名な黒部峡谷(富山県黒部市)にある宇奈月温泉で生まれた。その名も「権利ノ濫用除(らんようよけ)お守り」。モチーフになったのは、法律を学んだ多くの人が知る歴史的事件だ。
今年100周年を迎えた宇奈月温泉は1923年に開湯し、黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。しかし、木管がかすめる約2坪の土地について、利用の承諾を得ていなかったという。
このことを知った人物が土地を購入し、温泉を運営する黒部鉄道(現在の富山地方鉄道)に対し、木管を撤去するか、隣接する土地を含めて高額で買い取るよう要求。
黒部鉄道が断ると、木管の撤去と立ち入り禁止を求める訴えを起こした。最高裁の前身である大審院は35年、双方の利益を比べ、土地所有者が権利を行使する目的を踏まえて「権利の濫用」として訴えを退けた。

宇奈月ダム湖の湖畔には、事件の舞台であることを示す石碑があり、今も法学生や専門家が訪れる「聖地」だ。だが、黒部・宇奈月温泉観光局の石田智章さん(39)は「学術的価値が認められているものの、一般には知られていなかった」と話す。事件を題材にした町おこしの話が出ても具体化しなかったという・・・

民法の授業で必ず出てくる引湯管事件です。私も習ったのですが、富山勤務時代に現地は何度も通りながら、現場には行きませんでした。

祝日大国ニッポン

4月28日の日経新聞夕刊に「「祝日大国ニッポン」どこへ向かう 年16日はG7最多」が載っていました。

それによると祝日の数は、日本が16日に対して、アメリカ・カナダ・イタリアが12日、フランスが11日、イギリスが10日、ドイツが9日です。他方で有休の取得率はドイツが93%、イギリス・フランス・アメリカが8割台、イタリアが77%で、日本は60%です。

日本人が働き蜂だという説は、職場への愛着度が世界でも飛び抜けて低いことから否定されています。休日の数と有休取得率に見ることができるのは、「みんなで一緒になら休む、休みたい。一人で休むのは(周囲の目があるから)嫌だ」ということでしょうか。

相続土地国庫帰属制度

4月27日から、相続土地国庫帰属制度が始まりました。4月28日の日経新聞「所有者不明の土地抑止 相続時、国への譲渡制度開始 国土の2割が登記未了」が解説していました。

・・・相続で譲り受けた田畑や森林などの土地を国に引き渡せる制度が27日、始まった。管理困難といった理由で手放したい場合、所有権に争いがないなどの10要件を満たせば国の管理下に移せる。法務省などに寄せられた相談は既に3000件超。管理が行き届かず「所有者不明土地」になることを防ぐ効果が期待される・・・

所有者不明土地は、2016年時点で410万ヘクタール、全体の24%にも上るそうです。2040年には720万ヘクタールに増えるとの推計もあります。
かつて土地は、最も重要な財産でした。生産の基盤である田畑や山林を巡って、争いが起きたのです。その財産が、一部の地域では負動産になってしまいました。