畏友、高岡望さんが、新書『外交官が読み解くトランプ以後』(2017年、祥伝社新書)を出版されました。『アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国』 (2016年、PHP新書)を出版されてから、まだ1年も経っていません。その精力的な活動に脱帽です。
前著も、トランプ大統領を予測した、分析と洞察力に優れた本でした。新著も、アメリカ勤務経験や広い視野から、長期的かつ地球規模の視点で書かれています。これだけの本を書くためには、常に新しい情報それも海外の情報を集めることと、それを冷静に分析し、見通す洞察力が必要です。外交官としての経験と優れた能力の賜、そして努力の成果でしょう。お勧めします。
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社会と政治
京都迎賓館
京都を通るついでに、京都迎賓館を見てきました。ちょうど一般公開の日だったので。この施設は、できて10年あまりです。立派な施設です。それは、皆さんにも実体験していただくとして。
施設の見学だけでは、良さは十分にはわかりません。それは、どの建物についても同じです。この施設の場合は、見学の最後に見ることができるビデオと、売店で売っている解説書で、さらにその良さ、そして建設に携わった人たちの思いがわかります。
和風建築の良さが、全体と随所に見ることができます。責任者の一人であった中村昌生さんが、解説書に書かれている文章を引用します。
・・・京都迎賓館は、日本人のもてなし方で国公賓を接遇するために、国家によってはじめて建設された施設である。脱文明開化を内外に宣言する象徴的な施設であると言っても過言ではあるまい・・・
この一文が、この施設の特徴を表しています。東京赤坂の迎賓館は、開国した日本が列強に追いつこうとして、ヨーロッパの宮殿をまねて作ったものです。建物や調度品はヨーロッパ風です。装飾や絵画に日本風を加えてありますが。そもそもは皇太子であった大正天皇の住まいとしてつくられたものですが、「日本もこんな建物を作ることができるんです」と背伸びしている様子が見えます。
京都迎賓館は、中村先生の言葉にあるように、「脱文明開化を内外に宣言する象徴的な施設」です。日本が明治維新以来「国是」としてきた「西欧に追いつけ追い越せ」を終え、それを克服した象徴だと思います。
「追いつけ追い越せ」の思想では、所詮は評価基準は西欧です。日本らしさを加えても、基本は西欧です。もちろん、西欧を無視して日本標準をつくることは、難しいでしょう。
18世紀まで世界一だった中華文明が、世界トップクラスの経済大国になりましたが、「新中華文明」をまだつくり出してはいません。かつての中華文明の象徴である紫禁城(故宮)の前に並んでいるのは、西欧のどこにでもある鉄筋コンクリートの高層建築です。
では、建築物を和風(新和風)にして、日本らしさが出るか。そこには、あと二つの要素が必要です。一つは、調度品などのしつらえです。もう一つは、おもてなしです。
前者は、京都迎賓館をご覧ください。解説書には、どのように日本の伝統を生かしたかが解説されています。私たちが知らない匠の技があります。
後者のおもてなしは、施設見学ではわかりません。主たる要素は食事でしょう。フランス料理でないもの、外国の方にも食べてもらえる和食です。これも、かつてと違い世界でも食べられ評価されるようになりました。そして、お酒です。
この項、続く。
企業の復興CSR、意識調査
4月20日の河北新報が、「復興CSR89%意欲」を伝えていました。企業の意識調査結果です。
・・・東日本大震災の復興支援で活発に展開されたCSR(企業の社会的責任)活動について、河北新報社は仙台経済同友会(仙台市)と公益社団法人経済同友会(東京)の協力を得て、企業意識調査を実施した。復興支援を実践した企業は全体の9割で、このうち被災地との関係を続けたいとの回答は89.2%に上った。復興支援を自社が取り組む長期的な課題と位置付ける姿勢がうかがえた。
復興支援に関わった企業は仙台82.3%、東京94.9%。被災企業が多い仙台に比べ、震災前からCSRの態勢を整えていた大企業が多い東京が目立った。このうち、現在も支援を継続する企業は72.5%(仙台67.7%、東京76.0%)だった・・・
CSRへの影響は、「被災地との関係強化」「ブランド価値向上」のほか、「従業員の忠誠心・会社への一体感」や「企業理念の再確認」をあげる企業もあります。理念を述べるだけでなく、体を動かすことで社員に浸透すると思います。震災でCSRへの意識が変わったという企業が半数あります。社会との関わりを強められるという企業が多いです。
CSRを推進するために必要なことは、従業員や株主の理解とともに、自治体・NPOとの連携、コーディネーターの存在もあげられています。「解説記事」「解説2」、調査結果と方法は紙面p5に載っています。
企業は近年、CSRに力を入れるようになりました。平時の活動は目立たないのですが、災害支援になると役割が大きくなり、注目されるとともに企業にも効果があるのでしょう。原文をお読みください。
日本の社会システムの改革
4月18日の日経新聞「東電改革、何が必要か」で、冨山和彦さんが、次のように述べておられます。
・・・国鉄の分割・民営化から今年はちょうど30年だ。この30年間は日本の停滞期で、高度経済成長を支えたシステムが次々に耐用期限を迎えてきた。国鉄やNTTの民営化、金融制度改革、そして電力改革と農業改革が恐らく最後の産業社会システムの転換点になる。大手製造業など日本企業が経験してきたことだが、東電の形もこれまでと大きく変わることになるだろう。
6月の株主総会で東電の社外取締役に就く。日本航空の再生にも携わったが、東電との共通点は多い。ともに規制に守られた独占企業で、顧客より監督官庁や政界、経済界の方を向いて仕事をしてきたという点だ。
それが競争を意識しなければならない時代に変わった。かつての東電からすれば、コペルニクス的転回だろう・・・
「この30年間は日本の停滞期で、高度経済成長を支えたシステムが次々に耐用期限を迎えてきた」という見方に同感です。それは、ここに挙げられた企業や経営モデルだけでなく、政治行政を含めた日本社会の転換点でした。
日本の成功の大きな要因は、明治維新以来の西欧をお手本とした追いつけ追い越せ主義、戦後の国内という守られた範囲での競争でした。この国内条件とともに、アジア各国が追いかけてこないという国際条件の下で、経済成長、安定した社会をつくることに成功しました。
しかし、西欧に追いついたとき、国際化の波にのまれたとき、アジアが追いかけてきたときに、これらの条件はなくなったのです。
それに適応するための改革に、時間がかかりました。金融自由化で金融制度改革が必要になりました。独占企業であると思われていた、国鉄、電電公社とともに、電力会社も競争の世界に入ったのです。
また、まだ改革途中のものもあります。その一つが政治と行政であると、私は考えています。
アメリカ白人中年の死亡率増加の原因
3月29日の日経新聞オピニオン欄、The Economist 「米の白人中年、高死亡率の理由」から。
1999年から2013年にかけて、アメリカ白人中年の死亡率が上昇しています。それまでは低下し、欧州でも年間2%のペースで減り続けています。米国白人の死亡率は、スウェーデンの2倍、自殺や薬物、アルコール中毒が原因です。
・・・両氏(ノーベル経済学賞のディートン夫妻)は、長期的により漠然とした力が働いているのではないかと推測する。根本的な要因としては、貿易の拡大と技術の進歩により、特に製造業の低技能労働者が豊かになる機会を失ったというおなじみの説が挙げられる。だが、社会的変化も見逃せないという。
つまり、生活が経済的に不安定になるにつれ、低技能の白人男性の多くは結婚より同棲を選ぶようになった。彼らは昔から地域に根づき、同じ価値観を重視する宗教ではなく、個人の考え方を尊重する教会を頼り始めた。仕事や職探しも完全にやめてしまう傾向が強まった。確かに、個人の選択を優先した結果、家族や地域社会、人生から自由になったと感じる人は多い。反面、うまくいかなかった人たちは自分を責め、無力感から自暴自棄に陥ると両氏はみている。
では、なぜ白人が最も強く影響を受けるのか。両氏は白人の望みが高く、かなわなかったときの失望がその分大きいからだと考える。黒人やヒスパニックも経済環境は白人より厳しいが、そもそも彼らは初期の期待値が白人より低かった可能性がある。あるいは、彼らは人種差別の改善に希望を感じているのかもしれない。対照的に、低技能の白人は人生に絶えず失望し、うつ病になったり薬物やアルコールに走ったりするとも考えられる・・・
数字に表せる経済的事象は、経済学が解き明かしてくれます。しかし、このような数字に表れる社会の変化でも、経済学では分析や解決ができないものがあります。社会学、政治学、行政学の出番です。これらが、政策科学として有効になるためには、これらの事象を分析し、対策を打つ必要があります。原文をお読みください。