「社会と政治」カテゴリーアーカイブ

社会と政治

幼児教育の重要性

6月14日の読売新聞、「新型コロナ 迫られる変化」、山口慎太郎・東大教授の「今こそ 家族に優しい社会へ」から。
・・・学びの場が大事だという点で特に強調したいのが、幼児への教育は社会全体にとって非常にメリットが大きいということです。
私の研究グループが国の調査データを分析したところ、家庭的、経済的に恵まれない家庭の子どもが保育園に通うと、多動性、攻撃性が減ることがわかりました。本人の学力の向上に役立つのはもちろん、少年犯罪の削減につながります。
幼児教育の効果を長期にわたって検証した米国の研究によると、きちんとした幼児教育を受けた人はそうでない人に比べて所得が高く、犯罪に手を染める回数が減り、生活保護の受給率が下がりました。幼児教育プログラムの費用対効果は、株式投資による収益率を上回ったのです。
一方で、各国の実証研究では、幼児教育の知能面への効果はそれほど長続きしないこともわかっています。いわゆる英才教育は実施直後には大きな効果が表れるのですが、小学校に入学後、数年たつと消えてしまう。幼児教育ではやはり、対人関係を築き、課題に対してきちんと対処するという「一生モノ」の能力が身につくことが大事なのです・・・

・・・やはりまだまだ、国として幼児教育に十分お金を使っていないと思います。国内総生産(GDP)に対する家族関係支出を見ると、スウェーデンなどトップクラスの国が3%台なのに対し、日本は1%台半ばで、先進国では低い方です。まずは目先の待機児童の解消のため、施設の整備、人材の確保にお金を振り向けるべきですし、将来的には義務教育年齢の引き下げも検討すべきでしょう。
自分には子どもがいない、子どもを持つつもりはないという人にも考えてもらいたい。自分が年老いた時、介護サービスや年金などの形で支えてくれるのは子どもの世代です。幼児教育の効果ははっきりしており、そこにお金をかけるのは誰にとっても利益があることなのです・・・

愚行の歴史

6月14日の朝日新聞、日曜に想う、福島申二・編集委員の「あるべきアメリカ 求める人々」から。

・・・アメリカとは、最高裁判所の長官がこんな名言を残す国でもある。
「私はいつも新聞をスポーツ面から開いて読む。そこには人間の成し遂げたことが載っている。1面は人間のしでかした失敗ばかりだ」
ことばの主、故アール・ウォーレン氏は米司法界の大重鎮で、ケネディ大統領暗殺を調査した「ウォーレン委員会」にもその名を残す・・・

「国民の皆さん・・・」

「国民の皆さん・・」という呼びかけがあります。
例えば、総理が記者会見で使われます。5月25日「全ての国民の皆様の御協力、ここまで根気よく辛抱してくださった皆様に、心より感謝申し上げます。」
また、NHKの人気番組「チコちゃんに叱られる」で、森田美由紀アナウンサーが、「今こそすべての日本国民に問います・・・」という決めぜりふを使います。

ある人が、「在日外国人は、対象ではないのか」と、疑問を呈していました。
う~ん、難しい問題ですね。
森田アナウンサーのセリフは、お笑いでしょう。ところが、コロナ対策は、日本にいるすべての人が対象になります。逆に、海外にいる日本人は対象外でしょう。そんなに目くじらを立てる話ではないのでしょうが。

これまで意識せずに、「日本にいる人=日本人」と使っています。これだけ外国人(定住者、旅行者)が増えると、どのような表現を使うとよいのでしょうか。「みなさん」では、対象が確定できませんが、それを使うのですかね。あるいは「日本の皆さん」とか。

日本よりはるかに(その国にとっての)外国人が多い諸外国の指導者は、どのように呼びかけているのでしょうか。
アメリカでは、政治指導者が国民に呼びかける際に、次のような言葉を使っているようです。
「米国の皆様」Americans、American people 、American public
「米国の納税者」American taxpayers
「米国市民」citizens

緊急事態宣言の解除

順に解除されてきた、コロナウィルスによる緊急事態宣言。5月25日に、残っていた首都圏と北海道が解除されました。
よかったですね。国民が外出を控えるなど、自粛に協力した成果です。

諸外国では、「なぜ日本のように緩やかな規制で、感染拡大が防げたのか」と疑問に思う向きもあるようです。国によって、罰則付きの法令で規制する方法、自主的な自粛を求める方法、個人の行動情報を元に拡大を防ぐ方法、免疫が増えることを選ぶ方法など、対応が異なるようです。

とはいえ、薬が開発されたわけではなく、ウイルスがなくなったわけもありません。感染拡大が押さえ込まれているという状態です。
気を許すと、再び感染が拡大するでしょう。規制も、全面解除されたわけではありません。まだ、東京から他県への移動は、規制されています。様子を見ながら、順に社会生活が再開されます。
私の勤務も、それを見ながら元に戻しましょう。

行動制限を法律で行う国とお願いでする国

4月27日の読売新聞文化欄、武田徹・専修大学教授の「総力戦 自粛で結集する日本式」から。
・・・総力戦とは軍人だけでなく、一般市民が兵器生産工場での労働に徴用されるなど、全国民を戦争に動員する体制のこと。第一次世界大戦時に欧州諸国で採用された。1938年に国家総動員法が成立した日本も日中戦争、第二次世界大戦を総力戦体制で戦った。
こうした総力戦体制はその後どうなったか。たとえば第二次大戦後の西ドイツでは非常時に私権の制限も含めた迅速な対応を連邦政府に認める基本法改正を1968年に実施したが、この改正では行政府の暴走を防ぐ歯止めや市民の抵抗権も同時に盛り込まれた。このように欧州の自由主義国は非常時の強権発動を民主主義の枠組みの中に位置づける努力をしてきた。
今回、その成果が新型コロナウイルス感染症対策で発揮される。欧米諸国は緊急事態宣言を発し、都市封鎖などを実施した。ドイツではメルケル首相が演説で国民の理解を求め、強い私権制約を含む対応がスムーズに受け入れられた。

その点、日本は違った。戦後、国家総動員法は廃止されたが、日本人は一丸となって戦災復興や高度経済成長を実現した。法に基づく強制から同調圧力を伴う自発的行動の誘発へと動員方法は変わったが、総力戦体制に通じる結集力を日常的に維持したところが戦後日本の強みとなってきた。
しかし新型コロナ感染症への対応では逆にその弱さが露呈する。日本では緊急事態宣言を出した後も強制よりも自発的行動に期待する、まさに日本式総力戦体制で感染症と戦おうとした。だが、気が緩むと自粛ムードが一気に萎しぼむなど感染防止がうまく進まない・・・

4月25日の朝日新聞オピニオン欄「自粛要請の落とし穴」山崎望・駒澤大教授の発言から。
・・・日本では、緊急事態宣言を出したものの、自粛要請にとどまっている。私権の制限という点では限定的ですが、問題がないとは言えません。
「3密の場所には行かないで」といった要請は、一見、穏当に見えます。しかし、責任の主体が政府ではなく、個人に帰せられている。「個人が勝手に自粛し、責任を負う」図式で、政府は責任を取らない。これは、新自由主義的な自己責任論の典型です・・・

・・・その結果、自分や他人の責任を問い合う、監視社会のようになりつつあります。みんなで社会のルールを決めるという民主主義の原理ではなく、「自分勝手なことをするな」という道徳的な感情が前に出てきてしまっている・・・
原文をお読みください。