カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

フランスの研究者留学制度

12月15日の読売新聞文化欄「始まりの1冊」は、先崎彰容さんの『個人主義から<自分らしさ>へ』へでした。
日本思想史が専門の先崎さんが、フランスに留学します。そのきっかけが書かれています。

・・・文部科学省の留学制度「日仏共同博士課程」は、応募の条件として、仏語ができてフランスを専門外とする者と定めていた。
この奇妙な条件について、フランス大使館関係者は、大国アメリカに対抗するための制度であること、つまり理系文系を問わず、アメリカ一辺倒の現状を是正するためであると説明した。
フランス専門の研究者なら、黙っていても留学してくる。そうでない学生を自国に呼び込み、仏語で交流させ、各国に帰国させるのだ――国益を明確に説明されたときの驚きは今でも忘れない・・・

よく考えた戦略ですね。

アメリカ大統領選挙、すれ違う争点

11月3日の日経新聞「分断の米国 トランプ氏VS民主 3つのデータ」に、興味深い表が載っていました。「共和・民主支持者が「もっとも重視する政策」はかみ合わない

1999年、2009年、2019年の3回の、両党の重要政策上位5つの対比です。詳しくは原文を見ていただくとして。
1999年は、教育、犯罪対策、社会保障、医療費と4つが共通でした。2009年は、テロ対策、経済、雇用と3つが共通でした。しかし、今回は共通する項目がありません。

アメリカはさておき、日本でこのような表をつくったら、どのような表になるでしょうか。
他国の紹介も必要ですが、ぜひ新聞社の政治部には、そのような検証をお願いします。

規制当局と企業の力関係

9月16日の朝日新聞オピニオン欄、記者解説。ニューヨーク支局・江渕崇記者の「ボーイング機、信頼失墜 規制当局を圧倒、墜落後も構図不変」から。

・・・737MAXは昨年10月にインドネシアで、今年3月にはエチオピアで墜落し、計346人が死亡した。惨劇の遠因は、その誕生の経緯に潜んでいた・・・
・・・危うい飛行機が世に出たのはなぜか。MAXが安全だとお墨付きを与えたのは、規制当局のFAAだ。「認証」という安全性を確認する手続きを踏んだが、現実には、FAAは人手不足から、重要箇所以外の認証はボーイングの技術者に権限を委任していた。米紙によると、問題の飛行システムの評価すら、ボーイングに委ねられていたという。MAX開発を急ぐプレッシャーの中で、危険性は見過ごされた・・・

・・・15年前から、技術者が問題を見つけてもFAAではなく、ボーイングの上司に報告する決まりに変わっていた。MAXとは別の機体の補修をめぐり、レバンソン氏はエンジンを支える重要部品がFAA基準を満たせないと気づいた。決まり通りボーイングの上司に伝えると、「黙って認証するように」と迫られた。拒むと「10分で机を片付けろ」と職場を追われた、と明かす。
業界が規制当局を知識や力で圧倒し、規制を骨抜きにする――。福島第一原発事故を巡り、東京電力と原子力規制当局の関係で指摘された「規制のとりこ」と呼ばれる構図そのものだ。
FAAの上部組織の米運輸省は12年の内部監査で、「FAA幹部とボーイングの近すぎる関係」を警告したが、見直されないまま時は過ぎた・・・

・・・影を落とすのは、独占で巨大化したボーイングとの圧倒的な力の差だ。
米旅客機産業はかつて大手3社が競ったが、1997年の合併でボーイング「1強」になった。ロビー活動や献金でワシントンににらみをきかせ、歴代政権の大物大使経験者を取締役に迎えた。トヨタ自動車やフェイスブックが問題を起こしたとき、米議会は首脳を呼んで質問攻めにしたが、ボーイング幹部は証言台にすら立っていない・・・

時代に合わなくなった日本型雇用

9月11日の日経新聞経済教室、八代尚宏・昭和女子大学特命教授の「70歳雇用時代の正社員改革(上) 定年制・年功賃金、矛盾広げる
・・・今後の人生100年時代に対応するためには、年齢に大きく依存した日本の働き方の改革が不可避だ。20歳前後での新卒一括採用、年齢や勤続年数による昇進や賃金、および60歳代での定年退職など、年齢で区切られた現行のライフサイクルの矛盾が拡大している・・・

・・・非正社員の賃金格差の主因は、中高年で特に大きな正社員の年功賃金にある。大企業と中小企業の社員の格差についても同様だ。大企業では、未熟練の若年労働者を新卒一括採用し、企業内で長期にわたり熟練を形成する方式が採られてきた。そのために年功賃金や退職金など、労働者が中途で辞めると不利になる賃金慣行が必要となった。
この大企業の働き方には若年失業の抑制、熟練労働者の形成、円滑な労使関係などのメリットがあった。しかし新卒で大企業の正社員に採用された者とそうでない者の格差は生涯持続する。改正法はその格差の期間を政府の権力でさらに5年間延長させるものだ。
1990年代以降の長期経済停滞の下で、正社員に対する生涯を通じた訓練投資はもはや過大となった。情報化技術や人工知能(AI)の発展の下では、特定の企業内で蓄積された熟練が急速に陳腐化するリスクも小さくなく、むしろ雇用の流動性がより必要だ。現に大企業の男性の年功賃金は00年時と比べて40歳代前後で顕著に低下しており、市場の調整圧力が働いていることが分かる(図参照)・・・

同日の読売新聞、鶴光太郎・慶応大大学院商学研究科教授の「「日本型雇用」変えるとき…
・・・人口減少や女性の活躍、ワーク・ライフ・バランス推進など企業を取り巻く環境が大きく変化しています。日本型の雇用システムは適応するための変革が求められています。
日本の雇用システムの特徴は〈1〉終身雇用〈2〉年功型の賃金体系〈3〉遅い昇進――にあるとされます。会社に従業員を定着させ、時間をかけて育てるための仕組みだと言えます。欧米からの新技術導入など産業の大規模化に伴い、労働者を確保するため1920年代以降、大企業を中心に定着したのです。
中でも年功型賃金は他国との違いが際立ちます。日本では40歳代を過ぎても給料が上がり続けるが、欧米では30歳代後半でストップする。年齢とともに生産性が上がり続けるわけではないからです。
社員が様々な部署を経験しながら長く働くため、社内のコミュニケーションは密になる。微調整を重ねて高品質な商品を作り上げる「すり合わせ」の技術で日本の製造業が強みを持つことを後押ししました。

しかし、バブル経済が崩壊して低成長時代に入ると、ひずみが生じました。労使は中高年の雇用維持を優先したため、しわ寄せされる形で就職氷河期世代や大量の非正規社員が生まれたのです。
こうした日本型雇用のより根源的な問題として、近年指摘されているのが「無限定正社員」という特徴です。仕事の内容や勤務地、労働時間が限定されていない就労形態を指します。
辞令ひとつでどこへでも転勤しなければならず、残業を伴う仕事を命令されても断りにくい。働き過ぎを助長しかねず、ワーク・ライフ・バランスや女性の活躍を阻害してきました。
欧米では職務の内容などがあらかじめ決まっている「ジョブ型」が主流で、日本のような働き方は非常に少ない。産業構造が変わる中、これまで形成されてきた仕組みが最適との認識を捨て、「無限定」のシステムから転換する必要があります・・・

香港市民抗議運動、リーダー不在で100万人

9月10日の朝日新聞オピニオン欄、周保松・香港中文大学副教授へのインタビュー「香港、自由への闘い」から。

・・・今回の運動はリーダーが見当たりません。
「私自身、不思議に思います。雨傘運動は数人のリーダーがいました。今回はネットでつながり、意見交換をしているだけ。催涙ガスを防ぐマスクをして集まり、互いに誰か知らないまま、一緒にいる。誰が主催しているのかも知らない。でも互いに信頼している。何か運動が提起されると、1週間後に十数万人が参加する。創意工夫を凝らして長期、大規模に闘っています。世界史においてまれな運動ではないでしょうか」
「中国共産党・政府には理解しがたい状況でしょう。交渉したり標的にしたりする相手がいないのですから。中国政府は香港の民主派政治家らを非難しますが、運動とは無関係です。米国をはじめ外国勢力が裏で関わっているとも非難していますが、これもおかしな話。外国勢力が香港市民を100万人も動員できますか?」・・・