カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

宇奈月温泉引湯管事件

5月9日の朝日新聞夕刊に、「民法の「聖地」、お守りでPR 富山・宇奈月温泉、「権利ノ濫用除」」が載っていました。

・・・権利を振りかざしてあなたを害する人物や出来事をよけ、良い縁を結ぶ。そんなお守りが、トロッコ電車で有名な黒部峡谷(富山県黒部市)にある宇奈月温泉で生まれた。その名も「権利ノ濫用除(らんようよけ)お守り」。モチーフになったのは、法律を学んだ多くの人が知る歴史的事件だ。
今年100周年を迎えた宇奈月温泉は1923年に開湯し、黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。しかし、木管がかすめる約2坪の土地について、利用の承諾を得ていなかったという。
このことを知った人物が土地を購入し、温泉を運営する黒部鉄道(現在の富山地方鉄道)に対し、木管を撤去するか、隣接する土地を含めて高額で買い取るよう要求。
黒部鉄道が断ると、木管の撤去と立ち入り禁止を求める訴えを起こした。最高裁の前身である大審院は35年、双方の利益を比べ、土地所有者が権利を行使する目的を踏まえて「権利の濫用」として訴えを退けた。

宇奈月ダム湖の湖畔には、事件の舞台であることを示す石碑があり、今も法学生や専門家が訪れる「聖地」だ。だが、黒部・宇奈月温泉観光局の石田智章さん(39)は「学術的価値が認められているものの、一般には知られていなかった」と話す。事件を題材にした町おこしの話が出ても具体化しなかったという・・・

民法の授業で必ず出てくる引湯管事件です。私も習ったのですが、富山勤務時代に現地は何度も通りながら、現場には行きませんでした。

祝日大国ニッポン

4月28日の日経新聞夕刊に「「祝日大国ニッポン」どこへ向かう 年16日はG7最多」が載っていました。

それによると祝日の数は、日本が16日に対して、アメリカ・カナダ・イタリアが12日、フランスが11日、イギリスが10日、ドイツが9日です。他方で有休の取得率はドイツが93%、イギリス・フランス・アメリカが8割台、イタリアが77%で、日本は60%です。

日本人が働き蜂だという説は、職場への愛着度が世界でも飛び抜けて低いことから否定されています。休日の数と有休取得率に見ることができるのは、「みんなで一緒になら休む、休みたい。一人で休むのは(周囲の目があるから)嫌だ」ということでしょうか。

相続土地国庫帰属制度

4月27日から、相続土地国庫帰属制度が始まりました。4月28日の日経新聞「所有者不明の土地抑止 相続時、国への譲渡制度開始 国土の2割が登記未了」が解説していました。

・・・相続で譲り受けた田畑や森林などの土地を国に引き渡せる制度が27日、始まった。管理困難といった理由で手放したい場合、所有権に争いがないなどの10要件を満たせば国の管理下に移せる。法務省などに寄せられた相談は既に3000件超。管理が行き届かず「所有者不明土地」になることを防ぐ効果が期待される・・・

所有者不明土地は、2016年時点で410万ヘクタール、全体の24%にも上るそうです。2040年には720万ヘクタールに増えるとの推計もあります。
かつて土地は、最も重要な財産でした。生産の基盤である田畑や山林を巡って、争いが起きたのです。その財産が、一部の地域では負動産になってしまいました。

G7への市民社会の働きかけ

3月30日の朝日新聞オピニオン欄、三浦まり・上智大学教授の「G7へ市民社会が作るアツ」から。

・・・今年のG7サミット(主要7カ国首脳会議)はなんだか騒がしい。7年前の伊勢志摩サミットでは今回の広島サミットほどには市民社会の関与は見えなかったように思う。首脳同士が直接会って信頼醸成を行うことの意義が強調されるサミットだが、G7にしてもG20(主要20カ国・地域)にしても、昨今のグローバルガバナンスでは市民社会との対話が重視されており、市民社会としても政府に対して効果的に発言できる機会となっている。

市民社会が国際的な連携で作り出せる圧力は、外国政府が持ちうる力よりは弱いかもしれないが、それでも人権や平和、気候変動など、さまざまな分野で市民社会がアツを生み出し、政府の決定に影響力を持ってきた。これは外からの圧力というよりも、国内状況を改善したいと願う市民が海外の市民と協力しながら作り出すもので、実際には内圧あってこそ、外圧が梃子になりうる。

広島サミットが日本の市民社会にとって強く意識されるのは、LGBTQ+(性的少数者)の権利や安全、性と生殖に関する健康と権利、性暴力根絶などについて国内法が未整備の状況が続いており、日本とG6を比較することで内圧を高める戦略が一定の効果を持つからだ。とりわけ、ロシアに対して結束を高めるG7は自由、民主主義、人権を高らかに謳う。日本がその一員を占めるのであれば、国内で人権分野の法整備が進まない状況を放置できなくなる。対外アピールを狙った政策転換が打ち出されるのではとの期待が芽生える・・・

意識を変える難しさ

女性の昇進を阻む男性たち」「人は何に従うか」の関連にもなります。
人の意識を変えるといった場合に、二つの状況があります。
例えば、「たばこのポイ捨てをやめましょう」という呼びかけは、たばこを吸う人向けです。たばこのポイ捨てがなくならず、エスカレーター問題に見られるように、呼びかけだけでは効果が少ない場合にどのように働きかけるか。これが課題です。
ところが、女性の昇進を進める場合は、呼びかける相手は女性ではなく、それを阻んでいる男性に向ける必要があるのです。すると、喫煙者向けより、難しくなります。
すなわち、本人の課題か、周囲の課題かです。

少子化問題についても、よく似た課題があります。生まれる子どもの数が減っています。しかし、夫婦から生まれる子どもの平均数は減ってはきていますが2人程度で推移しています。すると、夫婦に向かって「子どもを産みましょう」と呼びかけても、大きな効果はないでしょう。
結婚した夫婦から生まれる子どもの数が減っていないのに、子どもの数が減っているのは、結婚する若者が減っているからです。
夫婦に働きかける以上に、独身者に結婚する気になるように働きかける必要があります。「若者には結婚したい意識がある」という調査結果もあります。彼ら彼女らが結婚に踏み切れない課題を解決する必要があります。それは、彼らに問題があるのではなく、社会の仕組みに問題があります。
「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のような昭和の標準的家庭は、過去のものになりました。非正規の若者は結婚が難しいです。それを変える必要があるのです。