カテゴリー別アーカイブ: 復興10年

朝日新聞社説「震災復興10年の教訓」

3月8日の朝日新聞社説は、「震災復興10年の教訓 「制度」見直しに踏み込む時」でした。3つの提言をしています。
第1は、縮む社会に適応する街づくり制度の必要性だ。
第2は被災者への資金支援の少なさである。
第3は防災庁の創設である。
簡潔でわかりやすいです。詳しくは、原文を読んでいただくとして。

大震災の復興では、これまでにない政策をいくつも取り入れました。社説にも「そんななか、復興現場で「行政哲学の転換」と評価された施策があった。被災地の産業再生のために、初めて企業や事業主も支援した「グループ補助金」などだ。新しい現金給付策につながる可能性もありそうだ」と書いてもらいました。

復興政策、終わってからの教訓」にも書きましたが、私たちが走りながら考え実現した新しい政策と哲学を総括し、次への備えとして欲しいです。
1 費用対効果を考えると、現物給付より金銭支援の方が効果的な(安上がりで満足感が高い)場合もあります。
2 人口減少下での復興は、意識にも制度にも、十分に生かされていないようです。

NHKアンケート、復興状況への評価

NHKウエッブサイトに、復興への評価のアンケート結果が載っています。「東日本大震災 復興状況への評価分かれる」(3月6日掲載)岩手・宮城・福島の4000人余りを対象に、回答は1805人です。

震災当時暮らしていた地域の復興状況をどう感じているか尋ねた質問では、
「復興は完了した」が12%、「思ったよりも進んでいる」が34%、合わせて46%。
「思ったよりも遅れている」が43%、「まったく進んでいない」が7%、合わせて51%でした。
去年に比べると肯定的な回答の割合は、およそ6ポイント高くなりました。
肯定的な割合は、宮城県59%、岩手県45%、福島県は29%です。津波被災地での工事が終わったのに対し、原発被災地はまだ始まったばかりですから、当然でしょう。

「当初、思い描いていた復興と比べて、今の復興の姿をどう考えるか」を尋ねた質問では、「思い描いていたより良い」が23%、「思い描いた通りだ」が21%、「思い描いていたより悪い」が53%です。
「思い描いていたより悪い」と答えた人にその理由を複数回答で尋ねたところ、「住民同士のつながり」が59%、「にぎわい」が47%、「商業施設の充実」が40%、「暮らしやすさ」と「交通環境」が39%、「風景」が37%、「雇用」が24%などです。
住民同士のつながりは、行政の力だけでは実現できず、にぎわいの回復も、災害復興だけでは達成できません。

被災地首長、復興はできた

3月2日の朝日新聞が、被災地42自治体の首長アンケートを載せていました。「絆再生・心のケア、課題

2013年からの変化も、載っています。2013年では、「進んでいる」(どちらかといえば進んでいるを含む)が22、「進んでいない」(どちらかといえば進んでいないを含む)が19でした。年を追って好転し、2020年では、「進んでいる」が39、「進んでいない」が1でした。2017年までに、急速に進んだようです。
2021年は質問項目が変わり、「10年で復興できましたか」について、「できた」が36、「できていない」が3です。できていないのは福島県です。残っているのは、コミュニティ再生や心のケア、農林水産業再生です。

別途、復興状況を100点満点で聞いた質問もあります。岩手県と宮城県では100~90点がほとんどで、福島県は80点台~40点台です。原発被災地では、避難指示解除がまだのところ、最近解除されたところが多いのです。

提言、原発事故復興基本法案、2

提言、原発事故復興基本法案」の続きです。

原発事故復興基本法の骨子は、次の通り。
1 原発事故からの復興について、東京電力と政府の責任
2 行うべき作業の全体像
3 各作業の計画と担当者
・廃炉。東電と経産省
・除染と中間貯蔵施設。環境省
・避難指示解除。原災本部
・復興。経産省と復興庁
4 賠償について
5 事故の記録と伝承(東電は廃炉資料館を作り、事故の記録を残し展示しています。国はまだ取り組んでいません)
6 予算と財源
7 担当者。全体を統轄する大臣(経産大臣)とその組織(原災本部事務局。内閣府か経産省に局を置くのも一案です。どこにあるか分かるようにするべきです)。

提言、原発事故復興基本法案

大震災から10年が経過して、残っている大きな課題は、原発事故からの復興です。
取材を受けて、東電福島第一原発事故からの復興については、「復興作業の課題、各論」のほかに、「取り組みの課題、総論」があることが明確になりました。
取材に来る記者さんたちが、課題の全体像を知らない、責任の主体を知らない、これまでの記録も一覧できていないのです。「岡本は津波と復興の責任者だったけれど、原発事故対策は担当でなかった。経産省の岡本に当たる人に取材に行ってよ」と言うのですが、「どこに行けばよいかわからない」と答えるのです。

そうなっているのは、次のような理由からです。
・原発事故からの復興の全体像が示されていないこと。
(これまでの記録すら、政府のホームページで簡単には見ることができません)
・津波災害からの復興については復興庁が作られ、責任組織が明確だったのに対し、原発事故についてはそれが作られなかったこと。
(原災本部はありますが、これは閣僚会合です。その下にあるべき事務局がどこにあるのか分からないのです。原子力安全・保安院がつぶされて、宙に浮いています。原災本部は官邸にホームページがありますが、事務局へのリンクも張られていません。復興庁パンフレットp2。「責任を取る方法4」)

これから、30年以上もの長期間にわたって、廃炉作業が続きます。法律で任務を明確に定めておかないと、だんだん忘れられて曖昧になる可能性があります。また、職員も代替わりします。任務と担当者を明確にしておく必要があるのです。通常、各省の仕事は、法律に基礎があります。そして、担当大臣も定められています。
そこで、東電福島第一原発事故復興基本法(原災復興法)ともいうべき法律を作るべきだと考えました。趣旨は、次の通り。
1 原発事故からの復興について、東京電力と政府の責任を明らかにする。
2 行うべき作業の全体像を示す。
具体例は、次回書きます。

坪井ゆづる・朝日新聞論説委員は、先行きが不透明な廃炉作業について、「廃炉作業も見通せない。計画の遅れを見るにつけ、廃炉をやり遂げることを法律で定めておかなくて大丈夫なのかと思うようになった。・・・ずるずると計画を後退させないための廃炉法の制定が必要ではないか」と書いておられます。月刊『自治実務セミナー』3月号「災害復興法制の光と影」。この項続く