カテゴリーアーカイブ:政治の役割

メルケル首相、大きなビジョンでなく危機管理

2017年9月23日   岡本全勝

朝日新聞オピニオン欄9月20日の「ドイツ安定の理由」、ラルフ・ボルマンさん(ドイツのジャーナリスト)の発言から。
・・・20世紀前半に大きなカオスを経験したドイツ人にとって、「安定」こそが何よりも重要な価値観です。歴代の首相をみても、戦後初代のアデナウアーが14年、東西ドイツの統一を成し遂げたコールが16年。メルケル首相もすでに就任以来12年になります。
中でもメルケルは「安定」を擬人化したような人物です。金融危機のような混乱にあってもいつも冷静で、国民を安心させる。欧米諸国や旧西独出身の政治家たちは「世界の経済システムが崩壊する」とパニックになりましたが、メルケルは「世界の終わりではない」と言わんばかり。あわてて財政拡大に解決策を見いださず、長期的に何が良いのか、答えが出るまでじっくりと待ちました・・・

・・・彼女は、理想主義者なのか現実主義者なのか、という問いを受けますが、彼女にとってそれは同じことなのです。答えは彼女が愛読する英国の哲学者カール・ポパーの考え方にあります。自由と民主主義をとても大切に考えていますが、その社会では、すべての価値観は相対化されうる。すべての理念は、トライ&エラーのシステムによって検証され続けなければならないという考え方です。脱原発や同性婚の合法化をめぐる態度の変化も、彼女なりの検証の結果なのでしょう。
確かに彼女には、コールに見られたような壮大な「ビジョン」はありませんが、今の時代にビジョンは必要なのでしょうか? むしろ、危機をマネジメントすることによって存在感を増していったという意味で、1970年代の首相シュミットに似ているのかもしれません。
近年、世界をポピュリズムが席巻し、民主主義の危機が叫ばれています。世界が破滅的な状況になるのを防ぐ危機管理能力こそが求められている気がします・・・

トランプ大統領の効果、欧州共同防衛構想

2017年9月4日   岡本全勝

8月28日の読売新聞コラム「地球を読む」は、ジョセフ・ナイ氏の「欧州のトランプ観 不人気だがよい大統領」でした。詳しくは原文を読んでいただくとして。
トランプ大統領の言動によって、欧州ではとても不人気です。信頼すると答えた人は、イギリスでは22%、フランスで14%、ドイツで11%です。しかし、この不人気こそが、ヨーロッパの価値観を強化するのに役立っているという見方です。

欧州でも盛り上がったナショナリズムとポピュリズムは、トランプ大統領当選以降、低下しつつあります。

ヨーロッパ統合は、関税同盟、共通通貨、国境検査廃止と来て、次は共同防衛が議論にのっています。これまでは、アメリカの傘の下(任せておけばよい)で、足並みが揃いませんでした。それぞれの国の事情もあります。
ところが、トランプ大統領が頼りない(頼りにならないかもしれない)という危機感から、ヨーロッパ各国が共同防衛構想を進めざるを得なくなったのです。
皮肉といえば皮肉ですね。時代というのは、敵があることや、危機が進めるのでしょう。

戦争孤児

2017年8月12日   岡本全勝

8月10日の朝日新聞オピニオン欄は、金田茉莉さんの「孤児たちの遺言」です。

・・・72年前の終戦の後、東京・上野の地下道は浮浪児であふれ、数え切れない子どもたちが餓死し、凍死しました。生きた証しすら残せず、「お母さん」とつぶやき、一人で死んでいった・・・浮浪児と呼ばれた子どもの大半は戦争孤児です。学童疎開中に空襲で家族を失った子もたくさん路上にいました。だれも食べさせてくれないから、盗みを働くほかなかった。不潔だ、不良だと白い目でみられた。「浮浪児に食べ物をやらないで」という貼り紙まで街頭にありました・・・
・・・当時5年生だった男性は、集団疎開から戻った上野駅で迎えがなかったそうです。パニック状態になり、焼け跡で家族を捜しても見つからず、日が暮れて駅に戻りました。「生きていないと親に会えない」と思い、盗みを始めたと打ち明けてくれました。同じ境遇で一緒に地下道にいた3年生の男の子は、何日間も何も口にできず、「お母さん、どこにいるの」と言った翌日、隣で冷たくなっていた、と。いったん親戚や里親に引き取られても、重労働や虐待に耐えかねて家出をして、浮浪児になった子も数多くいました・・

戦争孤児については、このページでも、何度か取り上げたことがあります。政府として十分な支援をしなかった、というより責任を果たさなかったことについてです。
何度読んでも、涙が出てきます。ひどいことをしたものです。両親を失い、だれも助けてくれない。子供が一人では、生きていくことはできません。ひもじい思いをして、両親を思い出しながら、ある子どもは生き抜き、ある子供は餓死していったのです。
戦争中も大変な暮らしを強いられましたが、身寄りをなくした子供たちにとっては、戦後の混乱期のほうが過酷でした。大人たちも、生きていくのに精一杯だったのですが。
政治と行政の責任を痛感させられます。

東日本大震災でも、大勢の遺児や孤児が生まれました。子供たちが困らないように、行政やNPOによる支援がなされています。もっとも、心の傷を埋めることはできません。

アメリカ抜きの国際制度

2017年7月24日   岡本全勝

朝日新聞7月19日、藤原帰一・東大教授の「「アメリカ第一」の皮肉 弱まる世界への影響力」から。
・・・トランプ政権が発足してから半年が経った。その間に明らかになったのは、トランプ大統領の下におけるアメリカが国外への影響力を失いつつあることである。
その一面は、アメリカ政府の自発的な行動の結果である。「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権は、政権発足直後に環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、二ログイン前の続きつの首脳会議、G8とG20においてアメリカ以外の諸国が反対を明示したにもかかわらず、環境保護に関するパリ協定からも離脱した。各国がアメリカを追い出そうとしたわけではないから、アメリカが意図的に退いたわけだ。
だが、アメリカが抜けた後にも国際的制度や機構は揺らいでいない。日本は欧州連合(EU)と経済連携協定について大枠合意に達し、TPPについてはハノイでアメリカ抜きのTPP11実現を目指す閣僚会合が開かれた。パリ協定についても、アメリカを除くG8・G20諸国は支える方針で一致している。貿易でも環境保護でもアメリカの撤退はアメリカなき国際合意への道を開いたのである。もしアメリカ政府が、アメリカが国際協定から離脱すれば各国が動揺し、国際協定の再交渉に合意するのではないかと期待していたとすれば、その期待は裏切られた・・・
・・・問題は、トランプ氏が政策遂行を専門家に任せようとしないことだ。この情勢が変わらない限り、つまりトランプ氏がトランプ氏であり続ける限り、アメリカの後退は続き、日本もEUも、アメリカ抜きの国際体制を作ることを強いられる。トランプ氏はアメリカを弱くした指導者として歴史の中で記憶されることになるだろう・・・
原文をお読みください。

説明責任

2017年7月20日   岡本全勝

7月19日の朝日新聞オピニオン欄、「説明責任はどこへ」。
井上達夫・東京大学教授の発言から
・・・アカウンタビリティーは説明責任と訳されますが、私は「答責性」と言っています。ただ説明すればいいというのではなくて、きちんと説明しないと責任を問われて首が飛ぶという緊張感ある概念です。政治家の場合は選挙で落とされ、官僚の場合は解任されたり左遷されたりする・・・

小田嶋隆・コラムニストの発言から
・・・説明責任という言葉をメディアが使う場合は、こういう人にこういう種類の説明責任を問うと、範囲と対象を明確にする「報道責任」があるのではないでしょうか。
日本社会では、アカウンタビリティーはメディア側では首を要求する言葉になり、責められる側では誰の首を差し出せば決着するのかを考える言葉になっているような気がします。
アカウンタビリティーを「説明できる状態での業務遂行を推奨する概念」と表現するべきだと思います。少なくとも、自信を持って説明できる状態で自分の職務に取り組むということです。米英的な民主的で明快な組織運営の中で、個人が緊張感を持って組織と対抗していくなかで出てくる発想です。
しかし、日本の組織は誰の業務なのかがわからず、「みんなでやっています」となっています。問題が起こった時に誰が責任を取るのかといえば、その時に偶然、課長の椅子に座っている人だったりします。単なるトカゲのしっぽ切りのようになって、政治家でいえば秘書に責任を取らせるようなことが起こります・・・