カテゴリーアーカイブ:政治の役割

原発事故、個人の責任と仕組みの責任

2018年11月1日   岡本全勝

東電福島第一原発事故について、会社幹部の責任を問う裁判が続いています。起訴された幹部たちは、「防ぐことは不可能だった」との発言をしているようです。裁判でどのような判決が出るかは、わかりません。
防止策をとっても防ぐことができなかったとして、またそれは幹部たちの責任でなかったとして、無罪になることもあり得ます。防ぐことができた、幹部に責任があったとしても、証拠が不十分で無罪になることもあります。
では、それで、国民は「そうだよな」と納得するか。ある人が、次のような趣旨のことを述べていました。

・・・「十分な措置を講じても、大災害を引き起こす原発事故を防げない」と判断されるなら、今後、原発を動かすことは難しいでしょう。多くの人が、「そんな危険なものを、動かして良いのか」と思うでしょう。
人間が作った道具や機械は、取り扱い方によって、人を傷つけます。包丁も自動車もそうです。しかし、「通常の注意をしていたら、大きな被害は生じない」との前提で、それら「危険物」を日常生活で使っています。通常の注意では大きな災害を起こす可能性がある装置は、このような判断の外にあります。原発は火力発電所に比べ、事故が起きた際の被害が桁外れに大きいのです。
関係者が「防ぐことはできなかった」と発言するなら、今後も同じようなことが起きる可能性があるので、再度動かしてはいけないことになります・・・

これに関して思い出すのが、日航機御巣鷹山墜落事故(1985年)です。ジャンボジェット機が制御不能となり、墜落しました。製造元であるボーイング社は、圧力隔壁の修理不十分が原因だと認めました。原因を究明して、他のジャンボ機は安全であると宣言したのです。もし原因が不明のままだと、世界中のジャンボ機が飛行禁止になる恐れもあります。これはこれで、一つの経営戦略だと思いました(もっとも、ボーイング社の職員は起訴されていないとのこと。事故の原因究明を優先するためだそうです)。

原因と責任が明らかになれば、次への防止策をとることができます。しかし、「防ぐことができなかった」あるいは「原因はわからない」となると、「じゃあ、そんな危ないものは動かしてはいけない」となります。

なお、今回おきた原発事故が、全く防ぐことができなかったわけではありません。東北電力女川原発は、震源により近かったのですが、津波による事故を起こさず停止しました。
この項続く

議員定数を第三者が決める

2018年11月1日   岡本全勝

10月29日の読売新聞連載「時代の証言者」、佐々木毅・元東大総長の「定数是正と格差是正答申」から。
佐々木先生は、2014年、衆議院議長の諮問機関として設置された衆議院選挙制度調査会の座長に就任しました。そして、2016年に、定数削減10と小選挙区(6減)での割り振りを答申します。

・・・各党は定数削減を選挙で約束したので、何とか手形を落とそうとした。でも、自縄自縛に陥り、我々第三者委員会に委ねたわけです。定数是正は我々の答申通りに実現しました。
英国議会を訪問調査した際、議会事務局幹部の言葉が印象的に残っています。「議員の数くらい、議会が決めるものではないか」・・・

保険料+税金で成り立っている社会保障

2018年10月30日   岡本全勝

10月8日の日経新聞オピニオン欄、大林尚・上級論説委員の「「消費税こわい」偏る負担 社会保障、現役もう限界」に、わかりやすい図が載っていました。

「主な社会保障制度の財源構成」です。生活保護、基礎年金、国民健康保険、後期高齢者医療制度、介護保険、協会けんぽ、健保組合、厚生年金です。
このうち、健保組合と厚生年金は全額保険料でまかなっていますが、その他の制度には、国費と自治体負担が入っています。生活保護は全額が公費、基礎年金・国民健康保険・後期高齢者医療制度介護保険は、半分が公費です。この公費は、税金です。
皆さん、ぼんやりとはわかっているのですが、このような図で示されると、わかりやすいですね。

大林さんの原文は、今後も増え続けることが予想されるこれら社会保障費の、財源をどうするのかを問うています。
次のような記述もあります。
・・・増税に真っ向から挑んだのは与謝野馨氏。2009年、麻生政権の経財・財務相として改正所得税法案の国会審議の矢面に立った。付則にこう書かれていた。「消費税を含む税制の抜本改革を行うため11年度までに法制上の措置を講ずる」。増税の法定期限を区切った法案を賛成多数で成立させた自民党は、その年の衆院選に大敗し野に下った・・・
私は、総理秘書官として、その現場に立ち会いました。

自由貿易への反発は、国内問題から

2018年10月16日   岡本全勝

10月5日の日経新聞オピニオン欄、パスカル・ラミー前WTO事務局長の「自由貿易の土台 まず国内から」から。

・・・米欧で自由貿易への反発が広がるのはなぜか。痛みを感じる弱者が適切に扱われていないからだ。グローバル化の勢いが増す一方で、弱者を救済する社会システムが衰えている。ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭は、国内の問題に原因がある。
だから保護主義を封じ込めるには、求められる努力の80%程度を国内に向けなければならない。労働市場や失業保険、年金・医療などの問題を解決する必要がある。これらは世界貿易機関(WTO)が取り組む課題ではない。

残りの20%は国際的な努力だ。貿易自由化のルールブックを更新せざるを得ない。先進国は互恵的な自由貿易を志向し、途上国には非対称性や柔軟性を認めるというのが、WTOの方針だった。だが貧しい国民が多い先進国もあれば、豊かな国民が多い途上国もある。いまの二分法が正しいかどうかを検証すべきだろう・・・

原文をお読みください。

高岡望さんの新著『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』

2018年10月15日   岡本全勝

高岡望さんの新著『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』(2018年、大和書房)を紹介します。すばらしい切れ味の分析です。国際政治、国際秩序、そして学者や私たちが考えていた理想の世界像が大転換していることを、極めて明晰に分析しています。

アラブの春の勃発、イギリスのEU離脱、ヨーロッパ各国でのポピュリズムの台頭、そしてアメリカでのトランプ大統領の誕生。私たちにとって想定外の出来事が続きます。
「そもそも想定が間違っていたのでしょうか。そうであれば、なにか世界情勢を見通す指針のようなものが、見つからないのでしょうか。この本は、そんな思いにこたえるために著したものです。」(本書p1)

私も、大学で学んで以来、世界は経済発展し、相互依存を強め、多少の行きつ戻りつはあっても、国際統合に進むものと考えていました。その際の推進役は、アメリカ、西欧、日本であり、経済成長と国際貿易と政治哲学だと思っていました。イギリスのEU離脱、ポピュリズム、トランプ大統領は、大きな歴史の流れでは「困ったエピソード」と考えていました。でも、この本を読んで、そうではないと思うようになりました。

筆者は、「世界政治のルールが、20世紀型から21世紀型に変わってしまったのだ」と考えます。そして次のような仮説を立て、4つの地域の将来を予想します。
1 世界全体が21世紀に入り、百年に一度の大転換を迎えた。
2 大転換後の21世紀には、グローバリズムに対抗して、世界各地でナショナリズムが復活し、盛り上がる。

4大地域の将来予想は、次の通りです。
1 アメリカの分断は深まるのか
2 ヨーロッパの将来はどうなるのか
3 中東の混乱は続くのか
4 中国の夢は実現するのか

IT産業や金融の発展とグローバリズムが、世界経済を発展させました。ところが、困ったことに、その恩恵は一部の大金持ちに集中し、これまでの経済と社会ひいては民主主義を支えていた中間層が貧しくなったのです。経済の発展は国民を豊かにし、社会を安定させるという「法則」が成り立たなくなりました。そして、彼らが、グローバリズムに反旗を翻したのです。
この説に立つと、各国での社会分裂、ナショナリズムはさらに進行し、政治が不安定になるとともに、国際化は停滞するでしょう。

紀伊國屋新宿本店でも売れ筋新刊コーナーに山積みされ、私の近所の町の本屋さんにも並んでいました。それだけ反響が大きいということでしょう。

高岡さんは外交官で、これまで、アメリカ、イギリス、イタリア、スウェーデン、エジプト、イランでの経験があります。その体験と、深い洞察力とで、できあがった本です。
イギリス・エディンバラ総領事として、先日旅立って行かれました。彼の地での活躍を期待しています。