カテゴリーアーカイブ:政治の役割

高岡望さんの新著『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』

2018年10月15日   岡本全勝

高岡望さんの新著『グローバリズム後の世界では何が起こるのか』(2018年、大和書房)を紹介します。すばらしい切れ味の分析です。国際政治、国際秩序、そして学者や私たちが考えていた理想の世界像が大転換していることを、極めて明晰に分析しています。

アラブの春の勃発、イギリスのEU離脱、ヨーロッパ各国でのポピュリズムの台頭、そしてアメリカでのトランプ大統領の誕生。私たちにとって想定外の出来事が続きます。
「そもそも想定が間違っていたのでしょうか。そうであれば、なにか世界情勢を見通す指針のようなものが、見つからないのでしょうか。この本は、そんな思いにこたえるために著したものです。」(本書p1)

私も、大学で学んで以来、世界は経済発展し、相互依存を強め、多少の行きつ戻りつはあっても、国際統合に進むものと考えていました。その際の推進役は、アメリカ、西欧、日本であり、経済成長と国際貿易と政治哲学だと思っていました。イギリスのEU離脱、ポピュリズム、トランプ大統領は、大きな歴史の流れでは「困ったエピソード」と考えていました。でも、この本を読んで、そうではないと思うようになりました。

筆者は、「世界政治のルールが、20世紀型から21世紀型に変わってしまったのだ」と考えます。そして次のような仮説を立て、4つの地域の将来を予想します。
1 世界全体が21世紀に入り、百年に一度の大転換を迎えた。
2 大転換後の21世紀には、グローバリズムに対抗して、世界各地でナショナリズムが復活し、盛り上がる。

4大地域の将来予想は、次の通りです。
1 アメリカの分断は深まるのか
2 ヨーロッパの将来はどうなるのか
3 中東の混乱は続くのか
4 中国の夢は実現するのか

IT産業や金融の発展とグローバリズムが、世界経済を発展させました。ところが、困ったことに、その恩恵は一部の大金持ちに集中し、これまでの経済と社会ひいては民主主義を支えていた中間層が貧しくなったのです。経済の発展は国民を豊かにし、社会を安定させるという「法則」が成り立たなくなりました。そして、彼らが、グローバリズムに反旗を翻したのです。
この説に立つと、各国での社会分裂、ナショナリズムはさらに進行し、政治が不安定になるとともに、国際化は停滞するでしょう。

紀伊國屋新宿本店でも売れ筋新刊コーナーに山積みされ、私の近所の町の本屋さんにも並んでいました。それだけ反響が大きいということでしょう。

高岡さんは外交官で、これまで、アメリカ、イギリス、イタリア、スウェーデン、エジプト、イランでの経験があります。その体験と、深い洞察力とで、できあがった本です。
イギリス・エディンバラ総領事として、先日旅立って行かれました。彼の地での活躍を期待しています。

麻生内閣発足から10年

2018年9月25日   岡本全勝

2008年9月24日に、麻生太郎内閣が発足しました。あれから、10年が経ちます。内閣の簡単な記録は、総理官邸のホームページで見ることができます。
私は、総理秘書官に就任しました。その数日の私の動きは、日経新聞夕刊コラム「いつ寝るか」に書きました。緊張する、充実した時間でした。

時間がたつのは、早いですね。私はその後、東日本大震災の対応に呼び出され、7年半にわたってその仕事をしています。
政権は民主党へ、そして自公連立政権へと再交代があり、安倍内閣が6年続いています。

リーマン・ショックから10年3

2018年9月24日   岡本全勝

リーマン・ショックから10年2」の続きです。当時、麻生総理が国際的にリーダーシップを発揮したことに、もう一つ、中国への働きかけがあります。

ちょうどその時期に、北京で国際会議があり、胡錦濤・国家主席や温家宝・首相と会談しました。会食の際、麻生総理と胡主席が熱心に話しておられました。また、温家宝首相とも、話し込まれました。内容は、この経済危機にどのように対応するかでした。
当時、日本は世界第2位、中国は第3位の経済大国でした。アメリカやヨーロッパが機敏な対応ができないので、日本と中国が財政出動して、景気後退を食い止めようということです。
中国はその後、大規模な景気刺激策をとるとともに、日本と同様に1000億ドルを国際通貨基金(IMF)に融資することを決めました。

100年に一度と言われる国際金融・経済危機。それに対し、各国が協力して封じ込める対策を打つ。
1929年の大恐慌の際は、各国が自国の利益優先で囲い込みに走りました。それが、経済危機をさらに深くしました。今回は、その経験を踏まえて、各国が協調し、危機を押さえ込んだのです。
その現場に立ち会い、政治の役割を認識する、貴重な経験でした。

リーマン・ショックから10年2

2018年9月23日   岡本全勝

リーマン・ショックから10年」の続きです。

2008年9月15日に、リーマン・ブラザーズが経営破綻しました。9月24日に麻生内閣が発足し、まずはその対応が仕事になりました。
財務省出身の浅川総理秘書官(現・財務省財務官)が、この分野の専門家でした。これは幸運でした。彼が中心になって、財務省・金融庁・日銀との連絡を取り、対策を作りました。私は、国際金融については素人です。浅川秘書官の解説を受けて、仕組み、問題点、対応策を勉強しました。
日本の金融機関はバブルの記憶が新しく、サブプライムローンはたくさん抱えていませんでした。当時、日本は世界第2位の経済大国です。日本がそして麻生総理が、国際的にリーダーシップをとりました。

各紙は、あまり詳しくはこの功績を書いていませんが。たとえば9月19日の読売新聞「金融危機10年」第7回で、触れています。
・・・「ワン、ゼロ、ゼロ、ビリオン」
リーマン・ブラザーズの破綻から2か月後の2008年11月、米ワシントンで初めて開かれたG20首脳会議。日本の首相、麻生太郎が、日本の外貨準備から、1000億ドル(当時のレートで9.6兆円)を国際通貨基金(IMF)に融資する考えを表明すると、新興国の首脳から拍手が起こった。財政・金融政策などあらゆる政策を総動員することで各国は一致した・・・

浅川・元秘書官は、9月18日の日経新聞で、2008年11月、20カ国・地域(G20)首脳会議をワシントンで初めて開いたことに関して、次のように回想しています。
「呼びかけたのはブッシュ米大統領(子)だ。08年10月、麻生首相が静岡県に出張していた際、ホワイトハウスから同行秘書官の携帯電話に電話が入った。電池切れを心配しながら、日米首脳会談が始まった。財務相らが集まるG20の枠組みを使い、首脳会議を開きたいという話だった。緊急を要しており、それでいきましょうと合意した」
「麻生首相は初回会議の場で危機対応の提言をまとめた資料を配った。資料を用意したのは参加した首脳のなかで麻生首相だけ。必要な短期、中期、長期の対策を提言した。日本は1990年代に金融危機を経験していたので、知見があった」
「特に重要だったのは国際通貨基金(IMF)への融資の提案だ。危機が飛び火しそうになった国に予防的に資金を融資できるようにする狙い。麻生首相が日本から1000億ドルを融資すると表明すると、各国が賛同しIMFの資金基盤は倍になった。G20会議が終わったあとにインドのシン首相とブラウン英首相が麻生首相に近寄って握手を求めてきた」
この項続く

関連「麻生総理配付資料・日本語訳
リーマン・ショック5年、第2の大恐慌を回避した政治」「麻生政権の仕事ぶり

リーマン・ショックから10年

2018年9月22日   岡本全勝

アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズが経営破たんしたのが、10年前の2008年9月15日でした。これを機に、国際的金融危機・経済危機が起きました。日本では、リーマン・ショックと呼んでいます。世界では、金融危機と呼んでいるようです。
各紙が、特集を組んでいます。その当時を振り返るとともに、現時点での潜在的危機に言及している記事が多いです。

100年に一度といわれるほどの、危機でした。アメリカの一企業の倒産ではなく、世界の金融システムを揺るがすような、また世界経済を凍らせるような危機でした。
事の起こりは、サブプライムローンという信用度の低い住宅ローンを、「金融工学」と称する手法で形を変えて売りまくったのです。その信用度が下落して(ばれて)、貸したお金が引き上げられました。それが、ほかの融資にも影響し、雪崩を打ったように金融収縮が進んだのです。
多くの金融機関は、信用に基づいて金を集め、金を貸しています。所有しているお金以上に、貸し出しているのです。「預けている金を返してくれ」という動きが加速すると、金融機関は破たんします。預金は下ろすことができなくなり、金を借りている人たちも、事業ができなくなります。
これが、金融機関1社にとどまらず、ほかの金融機関に連鎖します。それが、金融システムを揺るがす危機だったのです。それは、実物経済をも収縮させます。

「1929年の大恐慌の再来」と、うわさされたのです。あの恐慌を繰り返してはいけない。その経験を踏まえて、対策を打とうとなったのです。
アメリカは震源地ですが、ちょうど大統領の交代(ブッシュ息子からオバマへ)時期で、迅速な身動きが取れません。ヨーロッパ各国は、サブプライムローンをたくさん抱え、これまた身動きが取れません。
この項続く