カテゴリーアーカイブ:政治の役割

村上信一郎著『ベルルスコーニの時代』

2018年4月11日   岡本全勝

村上信一郎著『ベルルスコーニの時代 崩れゆくイタリア政治』(2018年、岩波新書)を読みました。政治、特に西欧民主主義の現在に関心のある方には、お勧めです。
面白いと言ってはお叱りを受けますが、イタリア政治の実態がよくわかります。そしてそれを通して、政治が制度や理論では動いていないことが、よくわかります。複雑怪奇なイタリアの戦後政治を、著者は切れ味良く整理して見せてくれます。
ベルルスコーニの時代と銘打っていますが、それとともにイタリア政治の実情と大変化が主題です。

イタリアは、キリスト教民主党が戦後長く政権にあり、しかし内閣は短命で交代を繰り返していました。また、共産党が大きな勢力を持っていました。それが、1990年代初めに両党がなくなるという、大変化が起きたのです。
私も新聞報道を読んでいましたが、この本を読んで、その背景と過程がよくわかりました。一つは、東西冷戦の終結です。
しかしもっと大きいのは、イタリアの政治と経済を仕切っていたマフィアと秘密結社への戦いが進んだことです。この二つの裏の力には、改めて驚きます。検察と裁判(イタリアでは検察は内閣の下ではなく、この二つが同じ組織に属します)が、暗殺による多数の被害者を出しつつも、切り込みに成功するのです。
戦後長く続いた第一次共和制は、制度と主たる担い手とともに終わるのですが、第二次共和制への移行は混乱を極めます。
この項続く。

麻生政権の仕事ぶり

2018年3月28日   岡本全勝

日経新聞3月25日の風見鶏が「麻生氏不在の存在感」を書いていました。2008年のリーマン・ショック後の経済運営についてです。

・・・麻生氏ら当時の首脳の真剣ぶりを示したのが、日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の創設。リーマン・ショックから2カ月の早さで会議の開催までこぎ着け、結束を新たにした。国際金融の安定を守る国際通貨基金(IMF)の拡充は、日本の音頭でG20会議を舞台に進んだ。
石油危機後の経済を論じるため1975年に日米欧の首脳が集まったことに始まるのがG7の枠組み。G7は共通の価値観をもつ少数のメンバーが集まるのに対し、G20は成長著しい中国やインドも顔をそろえる。「G20会議は出席者が多すぎて言いっ放しになりがち。なかなか議論が深まらない」(国際金融筋)との不満はある。それでも、過去10年でG20はすっかり国際社会に定着した・・・

新聞は往々にして「政局」を追いかけることに熱心ですが、「政策」については関心が少ないことがあります。特に、国際政治や国際金融については、分かる記者も少ないようです。
当時、官邸で麻生総理の近くにいた者として、がっかりしたことを覚えています。
総理官邸ホームページに、いくつか記録が残っています。これは便利です。
麻生内閣」「経済への緊急対応」「主な政策体系

アタリ著『21世紀の歴史』

2018年3月25日   岡本全勝

調べたいことがあり、ジャック・アタリ著『21世紀の歴史』(邦訳2008年、作品社)を読みました。出版された時、本屋で手に取ったのですが、そのときは気が進まず。

フランスで出版されたのは2006年。世界金融危機を予言したと、有名になりました。今読んでも、適確な未来予想に、驚きます。
本の前半は、これまでの資本主義の歴史、経済と権力の中心がどのように移ってきたかを述べます。
後半は、未来予想です。民主主義、政府、国家が破壊され、放っておくと、混沌とした社会が出現すると述べます。市場・商品化の行き過ぎと、地域紛争によってです。
今まさに、進行していることです。市場経済と民衆の感情は、貧富の格差拡大や移民問題によって、放置しておくと、社会の安定が損なわれます。

この社会の分断を、どのように防ぐか。社会の統合(その基礎にある個人の満足。それは承認と再配分によるのでしょう)も、政治の重要な役割です。政治には、重い課題が突きつけられています(もっとも、対外戦争をすることで愛国主義に訴える手法はよく使われます。これには注意が必要です)。
経済成長がある時期にしか、民主主義は成り立たないという説もあります。20世紀の後半は、経済成長と両大国の支配とで、日本をはじめ多くの先進国や中進国にとって良い時代だったのでしょうか。

社会の動きや人の行動や感情を、管理することはできません。また、そんなことをしたら、怖い社会です。しかし、管理までに至らないとして、社会を制御すること、良い方向に導くことが重要です。

金井利之著『行政学講義』

2018年3月2日   岡本全勝

金井利之著『行政学講義ー日本官僚制を解剖する』(2018年、ちくま新書)を紹介します。
行政学講義と銘打ってありますが、少々変わった行政学講義です。著者自身があとがきで、「多くの教科書とは、かなり異なる構成になっています」と書いています。帯には「支配と権力にさらされる被治者のための教科書」と書かれています。

行政学というより、国民統治の機構と機能、日本の実情についての解説です。通常思い浮かべる国の各省庁と自治体役場の解説ではありません。目次にも、「被治者にとっての行政」「支配と行政」といった項目が並んでいます。
日本の国政を対象とした政治学に近いです。統治の機構としては、構成員として政治(政治家)と行政(事務職、職業公務員)があります。この本では、それらをひっくるめて「行政」としています。私の整理では、政治は権力、行政は政策で象徴できると思います。その点で、この本では政策については詳しくは論じられていません。

また、制度や仕組みの説明ではなく、社会的機能など社会学的な説明が多いです。省庁の内部事情に詳しく、新聞記事には出てくるけど教科書など書物には出てこない話もたくさん書かれています。
日本が実質的にアメリカの自治体であると規定して、様々な見方をするなど、著者独自の見立ても多いです。
初心者より、上級者向けの本と思います。

トランプ大統領と中国と、リベラルな国際秩序

2018年2月11日   岡本全勝

2月8日の読売新聞「南シナ海問題と世界秩序の未来」、ジョン・アイケンベリー教授の発言から。
・・・リベラルな国際秩序は、問題が生じた時に支えとなる枠組みとして必要と考えられていた。自由貿易進展で経済が成長し、様々な国際条約が結ばれて大量虐殺が禁止され、人権が守られ、軍縮が進んだ。リベラルな国際秩序は世界の問題を解決してきたのだ。
だが、これまでの制度や枠組みは冷戦を前提に作られていた。グローバル化により民主化の発展段階や文化が違う多様な国家が秩序の中に入って機能不全を起こしている。また、リベラルな国際秩序は繁栄や安全につながり、労働者のより良い生活のためにも必要であったが、今やその関連が途絶えてしまった。グローバル化により途上国では富裕層が生まれた一方、先進国の中間層は所得が下がり、不平等が生じている。
リベラルな国際秩序が将来的に維持されるために重要なことが3つある。まず、国内問題と国際的な課題を関連づける。ナショナリズムと国際主義は相反するとされるが、国際的な課題に取り組むことで政府の能力が向上して国内問題を解決できることもある。第二に、新興国と先進国が貿易や新たな国際協定などで連帯を強めることも必要だ。そして、気候変動や核拡散など、(多くの国が)脆弱性を抱える課題に対応していかねばならない・・・

アイケンベリー教授の主張は、かつてこのページでも紹介しました。「勢力均衡や覇権主義でない国際秩序」「その2

浅野亮・同志社大学教授の言葉から
・・・中国が米国をしのぐ力を持った時、ウェストファリア体制(国家主権の尊重を基調とする伝統的国際秩序観)や既存の価値を尊重するのか、自国の狭い利益を追求するのかはわからない。いずれの場合も、中国の力が衰え、一帯一路で拡大した勢力範囲や社会整備基盤システムを維持できなくなった場合、何が起きるか、どのような崩壊プロセスがあり得るのかを考えないといけない・・・