ヨーロッパ、政治の両極化

12月8日の朝日新聞オピニオン欄「蒸発する欧州の中道」。詳しくは、原文をお読みください。

イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ氏の発言から。
・・・欧州の中道左派の政治理念は、既存の政府機関と協力しながら、富の再配分や福祉政策を重視して、より人道的な政策にしていく考え方に基づくものです。1990年代から20年、欧米で大きな成功を収めてきた中道左派勢力ですが、いまや蒸発しつつあります。

デジタル革命が起きていることが最大の理由です。産業革命よりも急速かつ地球規模で広がり、個人生活を含めてあらゆるものに本質的な変化が起きている。通貨の大半は電子マネーになった。製造業は海外移転によって急速に衰退した。ドイツ車の製造工場では自動化されたロボットが車を造っています。英国でいま製造業に従事しているのは全人口の8%、農業は1%に過ぎない。残る大半の人はサービス業に従事しています。

ツイッターなどSNSを通じて直接民主主義的な動きが広がったことも極めて注目すべき点です。トランプ米大統領がどれだけツイッターを使っているか。デジタル的な直接民主主義の広がりで、旧来型の民主主義の手続きが回避されるようになった。高齢者や貧困層が変化に取り残されて社会への帰属意識が失われ、国の行く末が見えなくなっている・・・。

・・・旧来の社会民主主義的な考えを持つ人たちが「不平等を減らそう」と言って、グローバル資本によって生み出された不平等に立ち向かおうとしても非常に難しい。国家にもはやそのような力は備わっていないからです。現代の政治が抱えているジレンマの多くがここにあります・・・

ベルリン自由大学研究員クリストフ・ニューエン氏の発言から。
・・・一方で、中道の政治システムは、左右の中道政党が経済の基本政策で一致しています。このため連立の有無にかかわらず、有権者には政策を選ぶ余地がほとんどありません。有権者にすればCDUに入れても、中道左派の社会民主党(SPD)に入れても、実施される政策はあまり変わらないことになる。「新たな中道」を掲げたSPDのシュレーダー政権(98~2005年)は、市場経済を擁護しながら、弱者も保護する政策を目指しました。経済は潤ったが、弱者たちは十分に保護されたとは感じなかった。こういう有権者をどう取り込むかは、CDU、SPD双方の課題となってきました・・・

・・・根本的な問題とは何か。これまで労働者ならSPD、比較的裕福で保守的な有権者はCDUに投票してきた。ところが産業構造の変化で、多くの人は自分が労働者階級だと感じなくなりました。同じ企業内でも高い給与を得る正社員と、不安定な派遣労働者がいるからです。人々は経済的な格差より、移民や同性婚の是非など社会的な価値観をより重視するようになってきた。富の再分配に賛成し、経済的にはリベラルな志向を持つ労働者が、移民受け入れや同性婚に賛成とは限りません。

「経済格差」問題を軸に対応してきた大政党は、「社会的価値観」という新たな対立軸に対応しきれていません。もし私が移民に反対なら、新興右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)に、開かれた社会を望むなら「緑の党」に入れるでしょう。有権者の関心に応じて政党が分裂すれば、自分の意見が反映されると、より多くの人が感じるかもしれません。でも、次の段階でその少数政党が連立政権をつくるには、政策の妥協が必要です。人々は再び不満を感じることになります・・・