カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

与党から首相への提言の数々

古くなってすみません。このホームページに載せなければと、気になる新聞記事を切り抜いてあるのですが。少し載せるのをサボると、日にちが経つのは早いのです。

新聞には、首相の行動記録が載ります。6月4日の朝日新聞に前日3日の行動が載っていました。その抜粋です。

11時55分から同1時7分まで、同党の大野敬太郎科学技術・イノベーション戦略調査会長から決議文、平将明同調査会フュージョンエネルギープロジェクトチーム座長から提言書受け取り。同8分から同23分まで、甘利明同党経済安全保障推進本部長から提言書受け取り。同24分から同34分まで、同党の中小企業・小規模事業者政策調査会の伊藤達也会長、競争政策調査会の山際大志郎会長から提言書受け取り。同35分から同43分まで、伊藤同党中小企業・小規模事業者政策調査会長から提言書受け取り。同45分から同2時まで、片山さつき同党金融調査会長から提言書受け取り。同1分から同15分まで、松村祥史国家公安委員長。同20分から同30分まで、古屋圭司同党社会機能移転分散型国づくり推進本部長から提言書受け取り。同35分から同45分まで、平井卓也同党著名人にせ広告・なりすまし等問題対策ワーキングチーム座長から提言書受け取り。

翌4日にも、いくつか提言を受け取っています。
私も復興庁の時に、大島理森・自民党復興加速化本部長と井上義久・公明党復興加速化本部長が出してくださる与党提言に関与しましたが。こんなにたくさん提言をもらうと、どのように相互調整、総合調整するのでしょうか。今の日本政治に欠けているものの一つが、総合調整、政策の優先順位付けです。

首相指示の失敗事例?その1の2

首相指示の失敗事例?その1」の続きです。

朝日新聞によると、満額減税を受けられる人は約6300万人、納税額が少なく減税とともに調整給付を受ける人が約3200万人です。そもそも住民税や所得税を納めていない世帯が、約1740万世帯あります。「定額減税「穴埋め」自治体実務ずしり 減税しきれない人 3200万人に調整給付

一番の問題は、給与支払担当者の事務負担です。減税の計算をしなければなりません。給与計算は、ほとんどの事業所でコンピュータを使っています。一度きりの減税のために、計算ソフトを入れなければなりません。そして1度で減税せず、これから毎月に分けて減税します。それを、一人ずつ確認する作業が必要になるでしょう。
次に、減税しきれない(納税額が多くない人)と納税額がない人は、その結果をもらって、市町村役場が差額を給付します。
いかに事務負担をかけるかが、分かってもらえると思います。これらの作業をする人に聞けば、恨みの声がでるでしょう。

さらに記事では、次のようなことも指摘されています。
・・・自治体を苦しめているのが、対象者を絞り込み、給付額を算定する作業だ。さらに政府が給付のスピードを重視したことも、混乱に拍車をかける。今年の所得税額が確定するのを待たずに、穴埋め額を推計して給付するルールにしているからだ。夏以降に給付を始めるが、それでも足りなかった場合は、来年、納めた税額が確定した後に対象者を特定し、追加で給付することになる。
ある自治体の担当者は言う。「算定の前提になる数字が推計値なので、『うちの額は本当にこれで合っているのか』と問い合わせがあっても『わかりません』としか答えられない」・・・

岸田首相がこの減税を指示したとのことですが、自民党、財務省、総務省の関係者が、この事情を首相に説明できなかったのでしょうか。あるいは、説明しても聞いてもらえなかったのでしょうか。
私なら首相に、給付金の方が国民に実感してもらえること、事務作業が格段に軽くなることを説明します。そして、デジタル庁や総務省と相談して、マイナンバーに銀行口座を紐付けた人には直ちに払い込み、紐付けていない人には遅れて支払う仕組みにします。「早く4万円欲しかったら、マイナンバーに銀行口座を紐付けてください」と広報します。「首相に直言 秘書官の役割

森林環境税に思う

今年度から、森林環境税が創設されます。この税金は国税ですが、地方税(住民税)と一緒に市町村が徴収します。年額1000円です。「こんな税金が作られるとは知らなかった」という人も多いでしょう。

実は、この新税・増税にはからくりがあります。東日本大震災の費用を賄うため、所得税、法人税、住民税に上乗せをお願いしました。法人税部分は、景気対策のため早々と停止したのですが、住民税の上乗せ(県税が500円、市町村税が500円、合わせて1000円)が、2023年度で終わったのです。復興増税をお願いした立場として、お礼を申し上げます。

で、この増税部分を引き継ぐ形で、この森林環境税が導入された(振り替えられた)ようです。納税者の負担額は変わらないのです。例えば役場のホームページにわかりやすい表が載っています。
インターネットでは「ずるい」という書き込みもあるようです。

財政関係者としては、よく考えたと思います。しかし、使い道はほかに考えられなかったのでしょうか。例えば、子ども子育ての費用です。この国会で法律が通りましたが、増税せず、社会保険料から拠出します。森林対策も重要ですが、市町村長に聞けば、森林より子ども子育てに使いたいという人が多いでしょう。特に都市部では、対象とすべき森林が少なく、使い道に困っているという話もあるようです。

個別個別の政策を見ると正しいようでも、全体を合わせてみると変な場合があります。それを防ぐために、経済財政諮問会議がつくられたのですが。もし経済財政諮問会議で議論していたら、この財源はたぶん子ども子育てに使われたでしょう。

政党、密室での政策形成

5月18日の読売新聞解説欄に、若江雅子編集委員の「個人情報保護法 見直し デジタル政策作り「密室化」」が載っていました。少々込み入っているので、原文をお読みください。

・・・個人情報保護法の3年ごと見直しを巡り、IT業界のロビー活動が激しさを増している。これに呼応するように自民党デジタル社会推進本部や霞が関のデジタル庁も規制強化への警戒を強め、同党が近く政府に提出する「デジタル・ニッポン2024」の素案には個人情報保護委員会の執行と政策立案の権限を分離させる提案まで盛り込まれた。国民には見えにくい「密室」での政策形成について考えた・・・

・・・「経済界が望まない課徴金の話が、なぜ出てきたのか」
4月4日、東京・永田町の自民党本部。デジタル社会推進本部の会議で、個情委の幹部らは同席した経済団体の関係者の前で議員から問い詰められていた。
経済団体は数か月前から、個情法見直しに絡む不安を議員らに訴えてきたという・・・

・・・「どのくらいの規模感を想定しているのか。個情委の腹の中が知りたいのに、彼らは我々と対話をしない。これが一番不満だった」。業界側のあるロビイストはこう打ち明ける。「党のデジタル本部の方がよく聞いてくれる」
彼らの声を代弁するかのように、議員らは「民間と対話をしないのは良くない」と繰り返した。同席していたデジタル庁の幹部も、「前はもっと経済団体と議論を重ねた」「今の個情委は『保護』に振れすぎ」と同調したという。
ただ、今回の見直し作業では、個情委は昨年11月以降12回にわたり関係団体や有識者のヒアリングを行っており、経済団体は13団体が呼ばれ、このうち経団連や新経済連盟など4団体は2度も呼ばれている。消費者団体はたった1団体で一度きりだ。
それでも先のロビイストは「正式なヒアリングはこちらが意見を述べるだけ。非公式の場で腹を割って話し合いたいのに」と訴える。
だが、長年、情報通信分野の消費者問題に取り組んできた長田三紀・情報通信消費者ネットワーク代表はこう嘆く。「日本の目指すデジタル改革は『経済界のためのデジタル改革』なのか。せめてオープンな場でやってもらわないと消費者側の意見がどこからも出てこない」・・・

・・・憲法が専門の東大教授、宍戸常寿氏は「法律の執行機関がその執行を踏まえて法律を見直すのは当然で、個情法の立案と執行は個情委が所管すべきだ」と指摘する。その上で「内閣のデジタル政策全般の調整は、デジタル版の経済財政諮問会議のような会議体を作って公開の場で行ってはどうか」と提案する。意図するのは議論の可視化だ。
自民党のデジタル社会推進本部は、20年10月に特別委員会から昇格して本部になったばかりだが、企業や団体、有識者や官僚を頻繁に呼んで情報収集し、近年、急速に影響力を増している。ただ、そこは交わされた会話の記録さえ情報開示の対象にならない非公式な空間だ。国民の目の届かない「密室」にデジタル政策の形成の場が設けられることには危うさを感じる。
宍戸氏は「いまは与党と民間事業者と行政機関の間で、我々市民には見えない形で政策の調整がなされている。『非公式な影響力』が肥大化しすぎないよう、政策調整を公のプロセスの中に組み入れ、透明化をはかる必要がある」と話す・・・

なし崩し的政策変更

昨日の記事「人手不足」の続きになります。5月4日の朝日新聞「人手不足「感じる」7割 不安の最上位「医療・介護」80% 朝日新聞社世論調査」には、次のようなことも指摘されています。

・・・人手不足の業種を対象とした政府の外国人労働者の受け入れ拡大方針については、2018年11〜12月の郵送調査でも尋ね、賛否は44%対46%と拮抗していた。5年余りで大きく賛成へと傾き、特に18年調査で消極的だった高齢者の賛成が大幅に増え、60代では35%だった賛成が63%へと急増した・・・

5年間で、国民の意識はこんなにも変化するのです。ある程度の予測がつく近未来についても、人は現状を変えることに消極的で、現実が変化すると「気がつく」ようです。
国民だけでなく、日本政府もこのような意識の上に成り立っているようです。移民政策を正面から掲げず、なし崩し的に事実上の移民受け入れを進めています。「建前は変えず、現実の変化を容認する。そして現実の変化が一定程度を越えると、建前を変える」のです。建前を守るために、現実の変化を阻止しようとはしません。成り行きに任せると言ってもよいでしょうか。

5月17日の朝日新聞夕刊、久保田一道記者の「人手不足 外国人労働者、確保の鍵は共生」に、次のような話が載っています。
・・・労働力不足を背景として、国内の多くの産業に欠かせない存在となった外国人労働者。この春、今後の受け入れをめぐる議論が相次いで節目を迎えている。
一つが、2019年に導入された在留資格「特定技能」の労働者の受け入れ枠を広げる政府方針の決定だ。制度導入時に34万5150人と設定した5年間の受け入れ枠を大きく拡大し、今後5年で82万人とした・・・
制度導入に向けた議論では、与党内から「事実上の移民政策だ」と反発の声があがったが、政府が見直しの方針を説明した今年3月の自民党の会合で、正面から異を唱える議員はいなかった。ある自民議員は「地元の経営者の話を聞けば、外国人労働者の必要性は明らか」と実情を語った・・・

なし崩し的な移民受け入れは、就労目的以外で入国させ労働者として働かすことが多く、正面玄関からでないことから、「バックドア」「サイドドア」からの移民と呼ばれます。コンビニ、工場、水産業、旅館・・・いろんな職場で外国人労働者が働いています。今や彼らなしには、産業が成り立たないでしょう。
なし崩し的政策変更も一つの手法ではありますが、正面から移民を認めないことは、彼らを受け入れる各種の制度が不十分になります。教育、医療保険、地域社会への包摂などです。