カテゴリーアーカイブ:政治の役割

民主化を成し遂げた経験がない日本

2021年11月1日   岡本全勝

10月22日の朝日新聞オピニオン欄「女性政治家への視線」、申琪榮(シンキヨン)・お茶の水女子大学教授の「韓・台は民主化が後押し」から。

・・・男性優位の儒教文化の影響が強いとされる日本、韓国、台湾を比べてみると、国政における女性議員の割合は台湾が約4割、韓国が約2割なのに対して、日本の衆議院(解散前)は10・1%。今回の衆院選の女性候補の割合も17・7%にとどまります。韓国で朴槿恵(パククネ)大統領、台湾でも蔡英文(ツァイインウェン)総統、という女性トップが誕生しています。なぜこうした違いが生じているのでしょうか。
韓国と台湾は、女性に候補者や議席の一定の割合を当てる「クオータ制」を導入しています。日本では「候補者男女均等法」が3年前に成立しましたが、候補者数の男女均等は「政党の努力義務」で、拘束力がありません。私は、こうした背景には民主化の歴史の違いがあると考えます。
韓国も台湾も、1980年代に独裁体制から民主化を成し遂げ、新しい政治勢力が登場し、旧勢力との対立の構図が生まれました。このため、選挙のたびに各党が女性候補を立てて、「清新さ」を競うことになっていきました・・・

・・・日本の場合、自らの手で民主化を成し遂げたわけではありません。デモで政治を変えたという成功体験がないからでしょうか、男性も女性も日常の場で政治を論じることがなさすぎます・・・

後段の指摘は、その通りだと思います。

総選挙で問われること

2021年10月21日   岡本全勝

10月15日の日経新聞経済教室「衆院選、何を問うべきか」、野中尚人・学習院大学教授の「国民に選択肢・対立軸示せ」から。

・・・慌ただしい自民党総裁選と岸田文雄内閣の成立を受け、息つく暇もなく衆院選に突入することになった。
むろん、2017年の前回衆院選から4年が過ぎ、すべての政党と政治家、そして国民にとって予定されたことではある。しかし、こうした極端な慌ただしさを余儀なくした自民党の対応には疑問も大きい。いつまで「55年体制」時代の党内向けのルールを使い続けるつもりなのだろうか。
この慌ただしさは衆院選にも深刻な影響を及ぼす。総裁選の候補がどんな政策を推進しようとするのかしっかり確認できないまま、そうした不透明さが衆院選にも持ち込まれるからだ・・・
・・・日本の衆院選は、先進国ではほぼ最短の選挙だ。例えば英仏独での直近の総選挙では、事実上の公示から投票までの期間は30日を超える。選挙の仕組みが異なるとはいえ、日本の12日とは大きな差がある。しかも英仏独ではほとんど解散がなく、任期満了日のはるか前から対応が進む。第2次安倍政権以来の「不意打ち」解散も今回もひたすら最短を狙ってきたようだ。野党に対するけん制の面が大きいが、本質は国民に対する向き合い方の問題である。
国民に十分な判断材料を示し、これまでの政権運営と政策展開についてしっかり説明することが、総選挙に臨む政権与党にとって最も重要な責務だ。だが今回もこうした基本中の基本を無視し、有権者の選択権という民主主義の根幹をむしばむ行為を続けている・・・

・・・総選挙にあたって、われわれは何を考えるべきだろうか。自民党については、次の2つの課題に対して本当に取り組む意思があるのかどうかが問われる。
一つは官邸主導のオーバーホール(総点検)である。首相と官房長官には十分な権限が与えられている。問題はそれを適切に使いこなせるか否かであり、つまりはトップリーダーの能力と人格が問われる。能力は当然として、強い権限を持った権力者には特別な倫理観と政治哲学も不可欠だ。岸田首相はその条件を満たしているのだろうか。
この10年ほど、官僚には極端な忖度を強制し、メディアへの圧力ととられる行為が政権中枢からたびたびあったともいわれる。岸田首相とその周辺がこうした問題意識を十分に自覚しているのか否か、よく見極める必要がある。

もう一つのポイントは、政策の実行能力の問題である。55年体制時代の自民党政権は、官僚との緊密な協力体制を築くことにより政策の確実な実施を担保してきた。確かに政策のスピードや刷新力という点では問題があったが、一定の実行能力を示してきた。だがこの10年間の実績はどうだろうか。次から次へと人目を引きそうなスローガンが打ち出されたが、最後まで取り組んで約束を果たしたといえるものは何だろうか。
少子化対策や地方創生、規制改革など、主だった政策はほぼ掛け声倒れに終わってきた。アベノミクスも一時的な浮揚効果は大きかったが、構造改革問題にはほとんど手がつけられなかった。菅政権では実行にウエートを置こうとしたようだが、うまく運ばなかった。
岸田政権はこれを克服して、「つらい」政策の実施までやれるのだろうか。それとも歴代自民党政権の十八番ともいえる財政資金のバラマキに終始するのだろうか・・・

コロナ対策に見る指導者像

2021年10月19日   岡本全勝

10月14日の朝日新聞デジタル「尾身氏が描くリーダー像とは…合理性と意思と言葉、あと「もう一つ」」から。

――菅義偉前首相のコロナ対策をどう評価しますか。
「前首相、政権も含めて全身全霊で頑張られたと思います。真摯に誠実に取り組まれた。敬意を表したいと思います。そのうえで、私の立場からみて不十分だったと感じたのは、分科会の提言をとりいれないと判断した場合の国民への説明です。分科会と政府の考えにときに違いが出るのは当たり前です。ただ、目標は同じなのか。別の目標があるのか。目標は同じだけど方法が違うのか。もっと説明があればよかったと思います」

――どんな時にそう感じましたか。
「観光支援策Go To トラベルの一時停止を求めたときや今年6月、東京五輪について無観客開催が望ましいと求めたときのことはよく覚えています。五輪に関連するリスクをどう認識し、いかに軽減するかなどを納得できるよう市民に知らせてほしいと政府などに求めましたが、十分ではなかったと思います」

――科学と政治の関係は長く議論されてきました。限界を感じますか?
「限界は感じました。ただしコロナで始まったことではなく、2009年の新型インフルエンザの時もその前も。各国みな、衝突したり仲良くしたり。専門家と政府の距離感に苦労しているのです。専門家の意見とは何なのか。政府がどう判断して採用したのか、しなかったのか。政府と専門家のありかたについて、何らかのルールづくりが必要でしょう」

――リーダーシップの重要性をよく口にされます。コロナ禍のいま、リーダーに何を求めますか。
「危機におけるリーダーは、非常に複雑で困難な問題に直面するわけです。多くの人々が不安や不満を感じている。でも答えがいくら難しくても、大きな方向性は絶対に示さないと。戦略と言ってもいい。合理性や根拠をまず求めます。2番目に、それを実行する意思が必要になります。3番目は、この人についていきたいという感覚。共感を得られる発言でしょうか」

――司令塔が見えにくい問題もありました。
「地域医療は、地方分権のもとで都道府県が一義的に責任を持ち、国が直接言えるようなシステムになっていません。しかし今回のような有事には、全体に関係することについては、国による大きな意思決定が必要になってきます。地方と国の役割分担、責任、どちらが最終決定するかについてもあいまいだった部分がある。結果、にらみ合いのようなことが起きてしまった」

――平時と有事の切り替えがうまくいかなかったと。
「平時と同じやり方のままでは意思決定が遅れ、アクションも遅れる。有事には国がリーダーシップをとらないと動きが遅いし、統一的な整合性のある施策にならない。有事向けの仕組みや法的な体系、ルール作りが必要です。指揮命令系統と役割分担を明確にしないと。保健所や検査、医療体制の問題も早くから認識はされてきた。だが、誰が責任をもって指揮、実行していくのか、はっきりしていなかった。そしてもう一つ。自治体と国の間に、情報共有が進まなかったことも大きな反省点です」

政府と医療界の責任、病床を確保する

2021年10月15日   岡本全勝

10月8日の日経新聞「しがらみ排し医療再建 コロナとの共生へ耐久力を」から。

・・・医は仁術ではなく算術だった。日本に新型コロナウイルスが上陸してからの医療界の動きを振り返ると、残念ながらこんな言葉が思い浮かぶ。
多くの医療機関でコロナへの対応よりも経営が優先された。政府が病床確保、オンライン診療の導入といった対策を実施しようとするたびに、経営上の損得という算術が大きな壁になった。
ワクチン接種など医療機関の算術を満たす報酬を政府が示した場合、対策は大きく進んだ。そうでない政策は空回りした。病床確保を前提に補助金をもらいながら、実際にはコロナ患者を受け入れずに収益を上げるという、仁術を全く感じられない病院も表れた・・・
・・・既得権の第一は医療機関の経営の自由だ。民間経営を理由に行政の指揮権が及ばない病院が8割もある・・・

欧米各国に比べ桁が少ない感染者数、欧米並みの病床と医者の数。なのに日本では、病床が足らない医療危機が叫ばれました。そして、指摘されながら、改善されたとは見えません。政府と医師会は、どのように説明するのでしょうか。

メルケル首相評伝

2021年10月4日   岡本全勝

マリオン・ ヴァン・ランテルゲム著『アンゲラ・メルケル: 東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで』(2021年、東京書籍)を読みました。フランス人ジャーナリストによる、メルケル首相の評伝です。フランス人から見たメルケル首相、その生い立ちから、政治家としての経歴をたどります。

当時の東ドイツは、社会主義という名の下の独裁国家、市民が秘密警察の手下となり、お互いに密告し合う社会です。しかも、危険視される宗教の牧師の娘として成長します。それが、彼女のよく考えてからものを言う性格をつくります。
頭のよい科学者だった女性が、東ドイツ崩壊に遭遇し、政党で働くことを選びます。そこからは、あれよあれよという間に、出世街道を駆け上り、野党党首、そして首相へ、さらに4期16年という長期政権を維持します。国民支持率は、50%を切ったことがないそうです。

冷戦終結、ドイツ統一という「時」もありました。東ドイツ出身で女性を求めていたコール首相の目にかなったという「地」もありました。しかし、それだけでは首相にはなれません。西ドイツの男社会であるCDU(ドイツキリスト教民主同盟)の中で、権力をつかんでいくのですから。この本では、育ての親のコール首相を葬ることをしたことを、説明しています。コール党首時代のCDUに醜聞が出たときに、新聞に意見を公表することによってです。

翻訳も良く、わかりやすい内容です。ただし、分量が少ないこともあり、彼女の政治の手法や政策の評価については、あまり書かれていません。ドイツ(西ドイツ)の首相は比較的在任期間が長いのですが、16年間も維持するにはそれだけの理由が必要です。これは、別の本を読まなければならないのでしょう。
私が若いときに読んだ世界のリーダーは、チャーチル、ルーズベルト、ドゴール、ケネディたちでした。その次は、ジスカールデスタン、シュミットでしょうか。近年だと、サッチャー、ゴルバチョフ、ブレア、そしてメルケルでしょう。