カテゴリーアーカイブ:政治の役割

民主主義対専制主義

2022年1月13日   岡本全勝

1月6日の日経新聞オピニオン欄、ハビエル・ソラナ・スペインESADE世界経済・地政学センター長の「民主主義国、対立超え協調を」から。

・・・民主主義はまだ生きているが、明らかに弱体化する兆しをみせている。米人権団体フリーダムハウスによる各国の自由度を測る指数は2020年、15年連続で低下した。
バイデン米大統領は21年12月、オンライン形式による「民主主義サミット」を開いた。権威主義の台頭に対抗するため、約110カ国・地域を招き、世界的な民主主義の強化を目指した。国々が集まり、地球規模の具体的な問題に取り組むのは悪いことではないだろう。だが、国際関係の構図を、単なる民主主義国家と専制主義国家の衝突と定義すべきではない。
重要なのは、こうした集まりを問題解決につなげることだ・・

・・・民主主義と専制主義の分断は、地球規模の問題を管理する基盤となる国際機関に及ぶ可能性もある。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しい。先進国と途上国の対立などが深刻になっているからだ。既に存在する対立に、民主主義国と非民主主義国の分断という要素が加われば、解決はさらに難しくなる。ほかの国際機関では世界保健機関(WHO)も、新型コロナウイルスの危機に立ち向かうには資金不足だった。

民主主義国は、非民主主義国とのイデオロギーの違いを強調するのではなく、自らと世界に対する責任を認識すべきだろう。最初の課題は、国内の経済格差の縮小だ。第2次大戦後、民主主義国は主に福祉国家を建設し、経済成長と社会的結束を保証することで存在意義を示した。だが社会的な一体感は最近の数十年で大きく後退し、特に08年の世界金融危機や20年からの新型コロナ危機などで弱くなったようにみえる。
社会・経済の格差は、民主主義への脅威だ。他人と隔たりのある生活をすることで、集団的な政治参加は難しくなってしまう。多くの国で民主主義が後退しているのは、経済の低迷を政治システムが反転させられるという信頼感を失った、市民の不満が一因になっている。

民主主義国の第2の課題は、「グローバル・サウス」と呼ばれる発展途上国の一層の開発に求められる社会・経済的な整備を、明確に主導することだ。途上国での民主主義的な価値観への支持を維持することにもつながる。例えば途上国の新型コロナのワクチン接種を迅速化することは、民主主義の力を示すのに有効だ・・・

・・・民主主義を強化する必要があるのは明らかだが、最も急を要する国際的な課題を解決するための他国との協力が妨げられるべきではない。価値観の異なる国々との協力が、民主主義に求められていることだ・・・

討論にならない国会の仕組み

2021年12月25日   岡本全勝

12月21日の朝日新聞オピニオン欄、山本龍彦・慶応大学教授の「「政治オペラ」の構造、切り込んで」から。
・・・先の衆院選以降、野党のあり方に関する議論が熱い。読者からも、「野党は批判ばかり」論に賛同する声、批判ばかり論を批判する声など、多くの意見が寄せられている・・・

・・・私が専門とする憲法学の観点から見ると、野党のあり方、野党と政府との関係性は、国会の統治構造によって強く規定されている。もちろん議員個人の性格にもよるが、審議手続きなど、現在の国会の統治構造上、野党は批判や対決に傾斜せざるをえない事情があるのだ。
例えば、国会運営に長く関わった元衆院事務局議事部長の白井誠氏は大日本帝国憲法下から形成されてきた、(1)内閣が提出した法案を野党が質疑で追及する「質疑応答型」の審議形式(2)与党事前審査制(法案提出前に与党が法案内容を審査し、承認を与える制度)(3)厳格な党議拘束、という「三位一体の統治構造」が党派を超えた議員間の自由な討論を妨げてきたという。審議は、構造上必然的に、与党多数派の承認を既に得ている法案の、「政府の都合による野党向けの説明会」となるから、野党議員は結論を承知のうえで「批判ぶり」を国民に向けアピールするほかない。また、会期中に議決に至らなかった議案は次の会期に継続しないという「会期不継続の原則」もある。この原則により、与党は会期中の法案成立を急ぎ、野党は会期切れの廃案を狙うという、およそ熟議からはかけ離れた政治が常態化する。

こう見ると、実質的で協働的な議員間の「討論」ではなく、硬直的で党派分断的な、さらに言えばショー化した政府・野党間の「対決」が行われるのは、国会が帝国議会だった時代から議事堂の内部で構築されてきた強固な統治構造のためでもあるわけだ。とすれば、仮に立憲民主党が「政策提案型」を取り込もうとしても、「構造」自体を変革しない限り、結局は「対決型」、それも劇場的対立型へと逆戻りする。
衆参各院と政府による内輪の取り決めや先例などから成る、こうした統治構造は、もちろん日本国憲法には書かれてはいない。しかしそれらは、わが国の議会制民主主義のあり方を根底において拘束してきた実質的な「憲法」といえる。しかしわが国の新聞は、このインフォーマルな「憲法」を明るみに出そうとせず、岩盤化した舞台の上で延々と繰り広げる「政治的オペラ(人間劇)」ばかりを報じてきたのではないだろうか・・・

外交文書の公開

2021年12月25日   岡本全勝

12月22日に外交文書が公開され、各紙が取り上げています。朝日新聞読売新聞日経新聞。今回対象となるのは、湾岸危機といった、1990年前後の外交案件です。

あれからもう30年が経つのですね。湾岸戦争での日本の対応が、国際社会から「笑いものになった」ことに、私は大きな衝撃を受けました。「湾岸戦争での日本の失敗
世界でも最も多くの原油をその地域に依存している日本が、イラク軍から油田を取り返す戦争に、「日本は危険なことはしないので、お金を出します」と答えたことです。巨額の戦費を負担しながら、クウェートが出した感謝の新聞広告に日本の名前はありませんでした。

私は当時の講演などで、いかに日本の常識が世界の常識とずれているかを示すために、次のような例え話をしました。
・・・あるところに、水が乏しい村がありました。村に、一つだけ共同井戸がありました。ところが、外からならず者がやってきて、その井戸を自分のものにして使わせてくれなくなりました。村人は集まって、井戸を取り戻すために、悪者をやっつけに行こうと決めました。
一番多く水を使っている大地主の岡本さんにも、「お宅の息子も一緒に行ってください」と声をかけました。ところが、岡本は「わが家には、危ないところには息子を出さないという家訓があるので、息子は参加させない」と返事しました。村人は「でも、あの井戸から一番たくさん水を汲んでいるのは、岡本さんですよ」と言うと、岡本は「では、お金はたくさん出しますよ」とお金を出しました。
みんなで危険を顧みず悪者と戦い、追い出しました。終わった後で、お祝いの席がありました。岡本の息子も近くまで来たのですが、村人は「これは、参加したものだけの打ち上げですから、あんたは呼ばれてないよ」と言いましたとさ・・・

佐々江賢一郎・元外務次官の発言(読売新聞)
・・・湾岸危機当時、外務省北米局で日米関係の実務に携わった。率直に言えば、日本外交は失敗だった。戦争をする米国が同盟国の日本に期待するのは当たり前だが、日本は「米国が日本に何を求めるか、それにどう応えるか」と考え、受け身だった。90億ドルの支援でも大蔵(現・財務)、外務両省の連携が取れず打ち出すタイミングも悪かった。
ただ、この経験は2001年の米同時テロ後に生かされた。小泉首相は「出来ることをやる」と、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を提案した。そこからテロ対策特別措置法や15年の安全保障法制の制定へと続くプロセスは、自衛隊の力を積極的に使うことに意味があるという方向に日本の意識が変わる過程だ・・・

新型コロナ、若者の政治関心

2021年12月16日   岡本全勝

12月9日の朝日新聞オピニオン欄、ブレイディみかこさんの「「コロナ世代」若者の政治観 頼るのは自分という境地」から。

・・・興味深いのは、複数の若者が、政治に関心を持つようになった、と言っていたことだ。ロンドンに住む17歳の少女は、大学で政治を学ぶことに決めたという。「どんな若い世代にも、政府は自分たちをサポートしなかったなどと感じてほしくないからです」と政治を志す理由を話している。

実は、これを裏付けするような光景を地元でも見たばかりだ。息子が来年9月からカレッジ(日本でいう高校)に通うので、今秋は地域のいくつかの学校を見学しに行った。昨年はロックダウン中だったので、今年は2年ぶりに中学高学年がカレッジを見に行くことを許された。なぜかどこでも政治の教室が盛況だったのが印象的だった。英国のカレッジでは生徒たちが自分で科目を選択するので、見学では各教科の教室に行って教員や現在の学生たちに話を聞く。どこのカレッジに行っても、科学や歴史、経済などに比べ、政治の教室は多くの見学者を集めていたのである。

「政治とは、一言でいえば権力に関することです。誰が権力を持っているか、どう権力を使っているか、どのように分散されているか」
見学者の中学生たちの前で、そう熱弁をふるっていた教員にたずねてみた。
「毎年、こんなに政治は人気があるんですか?」
彼女はきっぱりと答えた。
「こんなのは初めてです。例年は人も来なくて静かなのですが」
「どうしてなんでしょうね」
「コロナ禍だと思います。2年前まではこんなことはありませんでしたから。休校や入試方法の変更など、これほど10代の子どもたちが政治に未来を左右された時期はありません。だから政治について考えるようになったのでしょう」・・・
原文をお読みください。

政権交代のために、中道左派の役割

2021年12月10日   岡本全勝

11月30日の朝日新聞オピニオン欄「立憲民主、立て直せるか」、田中拓道・一橋大学教授の「雇用と財政、体系的政策を」から。

・・・1990年代以降、日本を含む先進国はグローバル化や情報技術の発達により、産業構造が大きく変化しました。長期間安定して働ける職場が減った半面、非正規雇用は増えました。男性が「働き主」で女性が子育てや介護を担うという家族のありようも大きく変わりました。
雇用と家族の変化にいち早く対応したのが、欧州の政党でした。中道右派は市場の活力を重視しながらも、教育や福祉を通じて人々を労働市場に誘導する形で、新自由主義政策を修正しました。中道左派は、労働組合の党内への影響力を弱め、中産階級を支持層に取り込み、子育てや就労支援などを充実させ、生き残りを図りました。
その頃、日本では選挙制度改革が一番の関心事でした。96年の衆議院選挙から小選挙区比例代表並立制が導入され、政治のエネルギーはもっぱら政党の離合集散に費やされてきたのです。

史上最長となった安倍晋三政権は、「1億総活躍」や「人づくり革命」など巧みなキャッチフレーズを打ち出しました。しかし、子育てや就労支援、公教育への支出は、いまだに先進国では最低水準です。雇用を増やしたとはいえ、多くは非正規職にとどまっています。雇用と家族の変化にきめ細かく対応したのではなく、格差は固定化されたままです。
多様化する人々の働き方に合わせてきめ細かい支援をしなければ、格差は拡大し続けます。少子高齢化を止めるためにも、高齢世代向けから現役世代向けへと社会保障の転換を図る必要があります。
ところが、日本の中道左派は政治勢力として弱いままで、雇用、社会保障、財政を含む体系的な政策を打ち出せていません。立憲民主党の衆院選の公約は、消費税率の時限的な引き下げでした。分配のメニューを並べるだけでなく、財源の裏付けを明らかにしなければ、政権担当能力は示せないでしょう・・・

この点では、研究者やマスコミの役割も問われています。