カテゴリーアーカイブ:政治の役割

大嶽秀夫先生の政治学

2022年6月2日   岡本全勝

大嶽秀夫著『日本政治研究事始め 大嶽秀夫オーラル・ヒストリー』(2021年、ナカニシヤ出版)を読みました。「岡義達先生の政治学を分析する」で取り上げた、澤井勇海さんの論文で、「大嶽先生が岡先生の弟子であり、跡継ぎと目されながらそうならなかった」と書かれていたので、興味を持ちました。

大嶽秀夫先生の著作は、若い頃読んだことがあり、感銘を受けました。当時珍しかった現代の日本政治の実証分析を行うこと、そして切れ味鋭いことです。『現代日本の政治権力経済権力』(1979年)『アデナウアーと吉田茂』(1986年)『自由主義的改革の時代』(1994年)などです。政治学専門誌『レヴァイアサン』創設者の一人としても。

本書は、大嶽先生の学問の軌跡とともに、日本政治学の歩みと政治学界の内情を語ったものです。お弟子さんによる聞き書きで、かつよく整理されているので、読みやすいです。著名な学者である先生も、いろいろ悩むことがあったのですね。
大嶽先生と指導教官や先輩学者との関係は詳しく述べられているのですが、大嶽先生とお弟子さんとの関係は詳しく語られていないのが残念です。この本の性格上、それは無理ですね。

先生の業績の一つに、現代日本の政治を実証的に分析したことが挙げられます。私が大学生の頃までは、日本の政治学は現代日本政治分析よりも欧米の政治学の輸入か欧米の政治を扱い、日本を扱う場合は政治史が多かったのです。チャーチルは扱うが吉田茂は扱わない。それが変わった頃でした。日本の現代政治を扱う場合も、実証分析は少なかったと思います。
政治学もまた「配電盤」(司馬遼太郎さんの言葉。欧米の知識と技術を輸入し国内に普及させる役割)でした。

巨額の予備費の使い方と検証

2022年5月15日   岡本全勝

4月23日の日経新聞1面に「コロナ予備費12兆円、使途9割追えず 透明性課題」が大きく載っていました。
・・・政府が新型コロナウイルス対応へ用意した「コロナ予備費」と呼ばれる予算の使い方の不透明感がぬぐえない。国会に使い道を報告した12兆円余りを日本経済新聞が分析すると、最終的な用途を正確に特定できたのは6.5%の8千億円強にとどまった。9割以上は具体的にどう使われたか追いきれない。国会審議を経ず、巨費をずさんに扱う実態が見えてきた。
12兆円余りをおおまかに分類すると、医療・検疫体制確保向けの4兆円に次いで多いのが地方創生臨時交付金として地方に配られた3.8兆円だ。同交付金をめぐってはコロナ問題とこじつけて公用車や遊具を購入するなど、疑問視される事例もある。自治体が予備費を何に使ったかまで特定するのは難しい。
政府は4月下旬にまとめるガソリン高など物価高対策に、2022年度予算のコロナ予備費(5兆円)の一部を充てる構えだ。仮にコロナ問題と関係の薄いテーマにコロナ予備費が使われれば、予備費の本来の趣旨と反する恐れが強い・・・

また5月3日の1面には「予備費、3割で使い残し 緊急性見誤り3.7兆円拠出」が載っていました。
・・・政府が天災など不測の事態に対処するために用意した予備費を不適切に扱うケースが目立っている。2019~20年度決算を分析すると、緊急をうたって予備費を充てたにもかかわらず、最終的に使い残しが出た項目が8割に達した。こうした項目に総額の3割を超す3.7兆円が回っていた。必要性を見極めきれないまま予備費をつぎ込む姿が浮かび上がる・・・

緊急時には、きちんと使途を決めることはできず、すぐに支出できるように予備費を組むことは必要です。また、予算総額が膨れるという、見かけの効果もあります。それがどのように使われたか。予算より決算を検証することの方が重要です。他方で、使われずに余ることは、財政にとってはありがたいことでもあります。

非常事後の増税準備

2022年5月6日   岡本全勝

4月19日の日経新聞経済教室は、佐藤主光・一橋大学教授の「増税の時期・選択肢、検討急げ ポストコロナの財政」でした。

・・・コロナ禍のなか、大規模な財政支出が続いている。政府はワクチン確保や感染対策に加え、国民一律10万円や持続化給付金などの支給、雇用調整助成金の拡充などを補正予算や当初予算の予備費で対応してきた。
非常時には積極的な財政出動が求められる。とはいえ、国の財政悪化は著しい。2021年度末の国の債務残高は1千兆円を超えた。国・地方を合わせた一般政府の債務残高の国内総生産(GDP)比は250%超と国際的にも高水準にある。

諸外国でも財政規模は拡大している一方で、財源確保に向けた動きもある。英国は法人税率を引き上げる方針だ。米国でも10年間で総額1.75兆ドル(約220兆円)規模の歳出計画の財源として大企業の法人税率引き上げや所得税・キャピタルゲイン税の最高税率引き上げなどを検討する。
対照的に日本ではコロナ対策で膨らんだ赤字国債などの償還を巡る議論が封印されてきた。岸田文雄首相は「新しい資本主義」の一環として看護師・介護職員などエッセンシャルワーカーの賃金引き上げを含む分配政策を重視するが、ここでも財源論を欠いたままだ・・・

対照的なのが、東日本大震災からの復興経費です。当初10年間で32兆円の経費が見込まれました。これに対して、復興増税、歳出削減、日本郵政株式会社株式売却などで財源を確保しました。国民も増税に協力してくれたのです。

がん基本法、家族をも支える

2022年4月14日   岡本全勝

4月3日の読売新聞1面「地球を読む」、垣添忠生・日本対がん協会会長の「がん基本法15年 家族も支える医療 進展」から。

・・・今年は、「がん対策基本法」が施行されて15年という節目の年である。より良いがん治療を求める患者の声がようやく政治に届き、法成立に至った画期的な出来事だった。
07年4月に法律が施行され、国は、がん対策の青写真となる「がん対策推進基本計画」を策定する「協議会」を設立した。
基本法には、委員に「がん患者及びその家族又は遺族を代表する者」を選ぶと明記した。従来なら、メンバーはがん医療の専門家や有識者だけだったろう。同月中に初めての協議会が開催され、委員18人のうち、患者と家族、遺族の代表が計4人加わった。

協議会は第1期基本計画(07〜11年度)について議論し、事務局からは、すべてのがん患者のQOL(生活の質)向上を目標にするとの案が示された。
これに対し、がん患者家族や遺族代表の委員から、「がん患者も大変だが、家族も同等、あるいは患者以上に苦しむ。家族も加えてほしい」との意見が出た。当初案は全会一致で、がん患者・家族のQOLの向上へと修正された。
がん医療は、患者と家族を、医療スタッフらが支える態勢を目指すことになった。その意義は大きい・・・

「今」を闘う7人の外相

2022年4月5日   岡本全勝

4月3日の朝日新聞「日曜に想う」は、曽我豪・編集委員の「「今」を闘う7人の外相」でした。

・・・将軍たちはひとつ前の戦争を戦う、という。勝利を約束するはずの戦略は既に古びて、逆に時流を見誤る。日本の満州事変もドイツの2度の世界大戦も米国のベトナム戦争も、彼我の戦力差に基づく戦略への過信が国策を誤らせた。
ウクライナ侵攻において古い戦争を起こした「将軍」は、69歳のプーチン・ロシア大統領に他ならない。軍事力により版図拡大を図った国家戦略が、ネットにより国境を超えて連帯した国際社会の反抗を蹴散らせる時代ではなかった・・・
・・・他方、前ではない今の戦略を持ち得たのは例えば、G7(主要7カ国)の外相会合に集った政治家たちだったろう。
年齢を順に記せば、フランス74、日本61、米国59、英国46、カナダ43、ドイツ41、イタリア35。アラフォー世代が目立ち、女性も英加独で3人いる。2番目に年かさの林芳正外相は証言する。
「初対面でまずはSNSのフォロワー数を尋ね合う世代だ。ただ、ここで権威主義国家の横暴を許せば取り返しがつかない、民主主義国家の知恵を出すのは今だ、という共通のリアリズムがある」
確かに、バイデン米政権によるロシア軍の機密情報の積極開示にせよ、国際決済網からロシアの銀行を締め出す経済制裁にせよ、前例のない対抗措置はいずれも「今」を意識した知恵の産物だった・・・

・・・思えば、ほんの少し前まで民主主義はその「使い勝手の悪さ」ばかりが強調されたのではなかったか。
ともすれば、合意形成に時間と労力がかかり過ぎ、民意と隔絶すると政治不信が、民意に迎合すればポピュリズムが危ぶまれた。コロナ禍を巡っては権威主義国家の優位性が指摘され、中国はそれを大国への道のよりどころとする。
それもまた、ひとつ前の古い思い込みに出来るか。非軍事の連帯を紛争解決のモデルとする道は、民主主義の優位性を固め直す道でもある。平均年齢約51歳の7人の外相はその闘いの最中にいる・・・