カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

法令でなく要請で規制することの弊害

5月26日の時事通信社コメントライナーに、武部隆・時事通信総合メディア局専任局長が、「マスク着用「マナー」は変わるのか」を書いておられます。
日本はコロナ禍において、マスク着用を法令ではなく、要請ですませました。罰則付きの規則でなく、マナーとしたのです。ところが、それは弊害を生んでいます。
武部さんのお子さんは、感覚過敏と自閉症で、マスクを着用できません。すると、外出できないのです。理髪店は当初はマスクなしでの調髪を認めてくれていたのですが、途中から「マスクなしの来店お断り」となりました。どうやら他の客から文句が出たようです。

武部さんは、法令による禁止の例として、障害者が利用する自動車の駐車例外を挙げています。申請すれば、駐車禁止の場所でも駐車できる章票が交付されます。これを出しておけば、県が指定した場所に限り駐車禁止の罰則は適用されません。
法令で規制しないことは一見やさしそうに見えますが、このような事情のある人にとっては冷たい方法です。

コロナ対策特別会計案

5月27日の日経新聞に「宙に浮く「コロナ特別会計」構想 増税論想起を警戒」が載っていました。
・・・新型コロナウイルス対策で膨らんだ債務処理の議論が進まない。特別会計で管理する構想も浮かんだが、夏の参院選を前に増税論を想起させかねないとして慎重な意見が根強く、先送りされている。米欧は債務を区分したり、復興基金を創設したりしてコロナ後の財政正常化も見据える。物価高などで歳出圧力が強まる中、透明性を高める取り組みが問われている・・・

・・・関係者が指摘するのは11年の東日本大震災の際との差だ。当時、政府は増税を含む「復興の基本方針」を地震発生からわずか4ヶ月半後に公表した。
約30兆円の復興資金は後から特会で区分した。復興対策をまかなうために発行した国債(復興債)の将来の償還財源を確保するため、13年から25年間、所得税を2.1%上乗せし、国民全体で広く薄く負担することなども決めた・・・
・・・それでも議論すら封じてきた日本を尻目に、米欧はコロナ対策の債務処理や財源を明確にし、具体策を練っている。米国は法人税や富裕層課税の強化を検討。フランスとドイツはコロナ関連の債務を区分し、20年以内に償還すると決定済みだ。
欧州連合(EU)も100兆円規模の復興基金の財源として、国境炭素税やプラスチック税の制度設計を進める。英国は23年4月から法人税を19%から25%に引き上げると決めた。スナク財務相は「次の危機に対応できるよう財政基盤を強化する」と訴える・・・

違いの一つは、当時は野党自民党が、政府と与党民主党に財源見通しを立てるように迫ったことです。野党自民党の主張は、至極まっとうだったのです。参考「非常事後の増税準備

社会目標の再設定

連載「公共を創る」で、日本社会の不安とその解消方策について考えを書き続けています。ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれ、世界から高い評価をもらった経済成長期から一転して、失われた10年は30年になりました。その間の経済力の低下は甚だしく、給料は上がらず、非正規労働者が増加し、社会に元気はありません。

ところが、野球、サッカー、テニス、ゴルフを始めスポーツ選手の国際的活躍は素晴らしく、芸術分野や科学研究分野でも個人の活躍には目を見張るものがあります。
「日本は元気がない」と言われますが、そうではないのです。うまくいっている分野とそうでない分野があります。これらスポーツ、芸術、科学技術分野の成功も、個人が根性で頑張っている結果ではなく、組織として育成し、世界で挑戦しているからです。

ここから導かれる教訓は、次の通り。
1 停滞している日本ですが、活躍している人や組織もあること。
2 他方で経済産業や政治の分野で、うまくいっていない。批判はされているが、それが転換に活かされていない。日本全体を見て、社会目標の再設定に失敗している。
3 かつての経済成長のように、国民みんなに共通する目標はあり得ず、多様な生き方になるのでしょう。しかし、それは「各自が自由に行動せよ」という放任ではないでしょう。
4 すると、国民が多様な目標に挑戦できるように、活力があり安心できる社会をつくることが、国家と国民の目標になります。

大嶽秀夫先生の政治学

大嶽秀夫著『日本政治研究事始め 大嶽秀夫オーラル・ヒストリー』(2021年、ナカニシヤ出版)を読みました。「岡義達先生の政治学を分析する」で取り上げた、澤井勇海さんの論文で、「大嶽先生が岡先生の弟子であり、跡継ぎと目されながらそうならなかった」と書かれていたので、興味を持ちました。

大嶽秀夫先生の著作は、若い頃読んだことがあり、感銘を受けました。当時珍しかった現代の日本政治の実証分析を行うこと、そして切れ味鋭いことです。『現代日本の政治権力経済権力』(1979年)『アデナウアーと吉田茂』(1986年)『自由主義的改革の時代』(1994年)などです。政治学専門誌『レヴァイアサン』創設者の一人としても。

本書は、大嶽先生の学問の軌跡とともに、日本政治学の歩みと政治学界の内情を語ったものです。お弟子さんによる聞き書きで、かつよく整理されているので、読みやすいです。著名な学者である先生も、いろいろ悩むことがあったのですね。
大嶽先生と指導教官や先輩学者との関係は詳しく述べられているのですが、大嶽先生とお弟子さんとの関係は詳しく語られていないのが残念です。この本の性格上、それは無理ですね。

先生の業績の一つに、現代日本の政治を実証的に分析したことが挙げられます。私が大学生の頃までは、日本の政治学は現代日本政治分析よりも欧米の政治学の輸入か欧米の政治を扱い、日本を扱う場合は政治史が多かったのです。チャーチルは扱うが吉田茂は扱わない。それが変わった頃でした。日本の現代政治を扱う場合も、実証分析は少なかったと思います。
政治学もまた「配電盤」(司馬遼太郎さんの言葉。欧米の知識と技術を輸入し国内に普及させる役割)でした。

巨額の予備費の使い方と検証

4月23日の日経新聞1面に「コロナ予備費12兆円、使途9割追えず 透明性課題」が大きく載っていました。
・・・政府が新型コロナウイルス対応へ用意した「コロナ予備費」と呼ばれる予算の使い方の不透明感がぬぐえない。国会に使い道を報告した12兆円余りを日本経済新聞が分析すると、最終的な用途を正確に特定できたのは6.5%の8千億円強にとどまった。9割以上は具体的にどう使われたか追いきれない。国会審議を経ず、巨費をずさんに扱う実態が見えてきた。
12兆円余りをおおまかに分類すると、医療・検疫体制確保向けの4兆円に次いで多いのが地方創生臨時交付金として地方に配られた3.8兆円だ。同交付金をめぐってはコロナ問題とこじつけて公用車や遊具を購入するなど、疑問視される事例もある。自治体が予備費を何に使ったかまで特定するのは難しい。
政府は4月下旬にまとめるガソリン高など物価高対策に、2022年度予算のコロナ予備費(5兆円)の一部を充てる構えだ。仮にコロナ問題と関係の薄いテーマにコロナ予備費が使われれば、予備費の本来の趣旨と反する恐れが強い・・・

また5月3日の1面には「予備費、3割で使い残し 緊急性見誤り3.7兆円拠出」が載っていました。
・・・政府が天災など不測の事態に対処するために用意した予備費を不適切に扱うケースが目立っている。2019~20年度決算を分析すると、緊急をうたって予備費を充てたにもかかわらず、最終的に使い残しが出た項目が8割に達した。こうした項目に総額の3割を超す3.7兆円が回っていた。必要性を見極めきれないまま予備費をつぎ込む姿が浮かび上がる・・・

緊急時には、きちんと使途を決めることはできず、すぐに支出できるように予備費を組むことは必要です。また、予算総額が膨れるという、見かけの効果もあります。それがどのように使われたか。予算より決算を検証することの方が重要です。他方で、使われずに余ることは、財政にとってはありがたいことでもあります。