ジェームズ・メイヨール著『世界政治-進歩と限界』(2009年、勁草書房)を、先日読み終えました。著者は、イギリス・ケンブリッジ大学教授で国際政治学者です。国際関係論では、アメリカが圧倒的な地位を占めていますが、それに対し、英国学派の代表的学者だそうです。
彼は、変化より継続を重視し、国際社会は冷戦の終結などによって修正はされてはいるが、根本的な変化は起こっていないことを主張します。そして、国際社会の民主化は、主張され試みられた割には、進んでいないことも。革命主義や理想主義より、現実主義(リアリスト)です。
ソリダリスト的要求(連帯主義的要求。主権国家を超えて、世界全体が立憲主義的に統一されるべき)に対して、伝統的なプルラリスト(多元主義的)価値観を支持します。主権国家の存在を、重視するのです。もちろん、手放しではなく、道徳的であるべきという条件をつけてです。近年行われた、他国への人道的介入を踏まえての議論です。
確かに、世界秩序が統一され、国際規範が「押しつけられる」ようになると、もし間違いや弊害が生じた場合に、抵抗するすべがありません。金融、経済、情報などが国際化し、どんどん主権国家を侵食しています。私は、日本では戦国時代の群雄割拠が統一されたように、また西欧でも領邦国家が次第に統一されたように、国際社会も徐々に統一されるのだと考えていました。もちろん、その道筋は簡単ではありませんが。
しかし、経済などの統一の動きと、世界秩序や国際規範の統一とは、分けて考えなければならないということでしょう。世界の安全と繁栄のために、そして全世界の人たちの幸せのために、より立憲的に国際社会を統一する努力を重ねるべきですが、その設計には慎重な配慮が必要です。
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行政-政治の役割
ドイツの政治
(ドイツの政治)
日経新聞連載「ドイツの未来図」9月30日の記事から。
・・9月14日、連邦議会(下院)でショイブレ財務相は、信念のように繰り返した。「ドイツは正しい道筋を歩んでいる」
2011年予算案などに航空会社や電力会社への増税策を盛り込んだ。政権公約の所得減税も凍結。ドイツ産業界の猛反発や、欧州域外での「景気に響く」との懸念は意に介さない。
5月、荒れた市場への対抗措置も強硬策だった。国債の空売り規制の強化へ、法案概要を銀行協会など約50カ所に電子メールで一斉送信。金融市場で反対論が巻き起こっても「池の水を抜くのに、何で池に住むカエルの意見を聞かなくちゃならんのだ」と黙殺した・・いつも目先より将来に目を向け、国家の「持続可能性」を意識していると自認する。
・・「社会的市場経済は世界のモデルケース」とメルケル首相が力を込めるほど、自らの経済制度に自信を持つ。経済学者オイケンの提唱に基づいて、1950年代にエアハルト経済相が確立した思想は、市場原理を尊重しつつ、政府が「経済秩序」の枠組みづくりを担うと位置づけた。それを東西統一後も、主要政党は尊重。「市場の暴走」への政府介入を当然視する・・
ドイツ東西統一と新しい分断
9月29日の日経新聞は、「ドイツの未来図-東西統一から20年」を連載していました。ベルリンの壁が崩壊したのが1989年、東西ドイツの統一が1990年でした。あれよあれよという間の出来事でした。東西冷戦は半永久的に続くと考えていた私にとっては、本当に驚きでした。世界の多くの人にとって、そうだったのではないでしょうか。
私が読んだ本では、高橋進著『歴史としてのドイツ統一』(1999年、岩波書店)が、勉強になりました。その中で、高橋先生は次のように書いておられます。・・戦後のドイツ外交を研究してきた者として、ドイツの統一は、私が生きている間はありえないというのが、染みついた公理であり、1989年11月9日のベルリンの壁の開放をみても、統一はまだ遠いという思いを拭い去ることはできなかった・・
東ドイツの格差をどう埋めるのか、大きな問題だったのですが、記事では、東西格差是正はもはや大きな政治課題ではないと、書いています。大変な努力をして、ここまでに至ったのでしょう。メルケル首相が、東ドイツ出身でしたよね(去年、総理のお供をして、ベルリンの首相府に行きました。モダンで大きな建物でした。首相のスタッフの官僚たちと、拙い英語で話をしたことを、思い出します)。
それに代わって、移民をドイツ社会にどう溶け込ませるかが、課題になっています。詳しくは記事をお読み下さい。これは、フランスでも大きな問題になっています。
日本は、島国でもあり、移民を極端に制限しているので、これほど大きな問題にはなっていません。しかし、定住外国人は地域の大きな課題になっています。また、日本が国際化するに従い、西欧の後を追うことになるのでしょう。
ペイオフ発動・金融行政の進化
9月10日に、日本振興銀行が経営破綻し、ペイオフ(上限つき預金保護による処理)が行われました。ペイオフが発動されたのは、わが国では初めてのことなので、大きく報道されています。日経新聞経済教室、15日の翁百合さん、16日の佐藤隆文教授(前金融庁長官)が、わかりやすいです。
私の関心は、市場(金融)に対して政府(行政)はどうかかわるかということと、金融危機という社会のリスクにどう備えるかということです。
普通の会社が倒産しても、それは関係者の負担で処理されます。手続や優先順位は、一般的な破産法制で決まっていて、それに沿って処理されます。しかし、銀行の場合は、これまで倒産させず、ほかの銀行に合併させて救済したり、国費を投入して保護したり、一時国有化して救うなどの処理をしました。預金も全額保護したのです。
これには、大きく二つの要因があったと思います。一つは、銀行の倒産が、次々とほかの金融機関に波及し、金融システムが機能不全になる恐れがあること。システミック・リスクです。金融はお金のネットワークなので、このようなことが起きます。もう一つは、国民の間に「銀行は倒産しない」という信仰があり、預金が戻ってこないとは考えていなかったこと、そして通常の会社と違い、取引先(預金者)が一般人で範囲が広いことです。社会不安を引き起こす可能性があるのです。
今回、初めてペイオフによる破綻ができたのは、それをするだけの条件が整った、整えたからです。この点は、佐藤論文に詳しく書かれています。
佐藤教授は、事前予防と事後処理の整合性を、指摘しておられます。金融行政は、かつてのきつい規制行政から、規制緩和が行われました。そして市場の競争に委ねるようにしたのですが、破綻した場合の処理が、一般企業と違って問題になるのです。
預金者保護・金融システム維持のために、セーフティネット(安全網)を強くすると、ずさんな経営者が出てくる可能性があります。高い利息で預金者を集め、うまくいかないと倒産させるのです。このような銀行や預金者が保護されるようでは、まっとうな競争は生まれません。そして、その費用負担は国民に押しつけられるのです。他方、安全網がないと、金融システムの危機が発生する可能性があります。
それをにらみながら、うまく制度を組み立て運用する。この20年間の銀行破綻と金融行政の経験から、日本が学んだことです。
民主主義の進歩
朝日新聞9月17日1面「危機の政党」曽我豪編集委員の「選挙偏重から抜け出せ」に、次のような記述があります。今回の民主党代表選挙結果についてです。
・・国民が期待する答えは、そこではない。選挙制度改革、官邸機能強化、脱官僚。政治再生の方策は多々繰り出されたが、今や権力をつくり出す政党の仕組みと作法のチェンジが必要な時代に移った・・
そうですね。1990年代前半に日本の政治のエネルギーの多くをつぎ込んだ選挙制度改革は、16年前に実現しました。そしてその後、「2大政党+その他の党」体制を生み、ついに1年前に、実質的には半世紀ぶりの政権交代を生みました。
官邸機能強化は、橋本行革、省庁再編、小泉政権で、いくつかの制度化と運用の成果を生みました。もっとも、官邸機能強化は、その時々の総理大臣と官邸の運用によるところが大きいです。それはまた、各省や党がどのような抵抗をするかにもよります。そして、脱官僚・・。
この1年で、政権交代だけでは、国民の期待する政策が立案され実行されるわけではない、ということが見えました。次の課題として、政党内での政策の集約と、大臣及び総理候補者の育成が、課題として浮かび上がりました。
民主主義とは、このようにして、一歩一歩進んでいくものなのでしょう。