カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

サッチャー首相の評価、敵は身内に

イギリスのサッチャー元首相が、4月8日に亡くなりました。衰退したイギリスを立て直したことについての評価は高く、他方、反対者も多いことが取り上げられています。しかし、多くのそして強い反対を押し切って改革を行ったことは、皆が認めるところです。
4月17日の日経新聞経済教室、中西輝政京都大学名誉教授の「サッチャリズムの歴史的評価、党派超え改革路線ひく」から。
・・サッチャー改革の敵は、たしかに野党や労働組合あるいは低所得層の庶民であったかもしれない。しかしその最大の敵は終始、与党・保守党、それも内閣の中にいた「保守穏健派(ウエット)」と称される有力政治家たちであった。市場メカニズムに依拠した経済改革の先陣を切る役割は保守政党によってしか果たし得ないが、その成否は常にこの党内の「ウエット」の抵抗をどう乗り越えるか、という一点にかかっている。
2005年の10月、サッチャーの80歳の誕生パーティーにはエリザベス女王夫妻やトニー・ブレア首相も列席したが、その席上、サッチャー内閣で代表的な「ウエット」の1人でありながら蔵相としてサッチャー改革を支え続けたジェフリー・ハウは、次のように語っている。「サッチャー改革の真の勝利は、(保守党内の抵抗を排して)1つの政党だけでなく2つの政党を変革したことだ。その結果今日、労働党が政権の座に復帰しても、サッチャリズムの大半はもやは不動の政策として受け入れられている」・・

生活を向上させるが格差をも生む資本主義を、どう補うか

フォーリン・アフェアーズ・リポート』(2013年4月号)ジェリー・ミューラー教授の「資本主義の危機と社会保障―どこに均衡を見いだすか」から。
・・アメリカを含む先進資本主義国家における最近の政治論争は、経済格差の拡大、そして格差是正のために政府はどの程度経済に介入すべきなのかという、2つのテーマを軸に展開している・・
この数世紀にわたる資本主義の拡散は、人類社会に大きな進展をもたらし、かつては考えられなかったレベルへと人々の生活を引き上げ、人類のポテンシャルを非常に高いレベルで開花させてきた。だが、資本主義の本質的なダイナミズムは、恩恵をもたらすだけでなく、不安も生み出す。このため、資本主義の進展は常に人々の抵抗を伴ってきた。資本主義社会の政治と制度の歴史は、この不安を和らげるクッションを作り出す歴史だったと言ってもよい・・
資本主義は人的なポテンシャルを開花させる機会を大きく広げた。が誰もが、こうした機会や進歩を十分に生かせたわけではない。歴史的にみても、女性、マイノリティ、貧困層にとって、資本主義が提供する機会の平等から恩恵を引き出すのを阻むフォーマル、インフォーマルな障害が存在した。
だが、時とともに、先進資本主義社会では、こうした障害が次第に少なくなるか、取り除かれ、現状における格差は、機会の不平等よりも、むしろ、機会を生かす能力、人的資本の違いに派生していると考えるべきだ。そして、この能力の格差は、生まれもつ人的ポテンシャルの違い、そして人的ポテンシャルを開花させるのを育む家族やコミュニティの違いに根ざしている・・
資本主義が今後も多くの人々に支持され、好ましいと見なされるには、例えば、次のことが必要になる。社会・経済的なはしごのトップ近いにいる人だけでなく、下や中間あたりにいる人々、そして勝者だけでなく敗者を含めて不安を和らげ、市場の失敗の衝撃を弱め、機会の平等を維持できるよなセーフティーネットを維持し、再活性化する必要がある・・
本文は、次のような内容からなっています。詳しくは、原文をお読みください。英語の原文は、こちら
格差と不安、市場の誕生と欲望の拡大、家庭と資本主義の相互作用、創造的破壊と福祉国家の誕生、脱工業化社会の衝撃、格差を助長する社会変化、近代金融のインパクト、家庭と人的資本と機会の平等、民族・宗教・人種によるパフォーマンスの違い、なぜ教育が万能薬にはなり得ないか、解決策はあるのか。

世界のルール作りの舞台

朝日新聞3月17日経済面「波聞風問」原真人編集委員の「TPP交渉参加、G7ラウンドの幕が開く」から。
・・安倍政権が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決めた。日本のコメや自動車といった個別の利害得失はともかく、世界貿易にとって意味ある出来事だ。なにしろ、20年ぶりとなる新しい世界の通商ルールを作る舞台の幕開けとなるのだから・・
一昨年末、新しい世界の通商ルールをめざしていた世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドが10年間のマラソン交渉の末に失敗した。150に及ぶ国々の利害調整もたいへんだったが、失敗の最大の理由は、米国がまとめようとした合意案を中国やインドがのまなかったことだった。
おかげで、WTOの立法機能は完全に機能不全におちいり、もはやWTOの新ラウンドは永久に立ち直れない、とさえ語られている・・
そこで米国は、中国ぬきのG7ラウンドで世界ルールを決める道を選んだ。それが世界標準となれば中国も無視できず、いずれその輪に加わらざるをえない。米国はおそらく、そんな大きな戦略を描いているのではないか・・

2008年のリーマンショックのあと、世界が協調して、大恐慌になることを防ぎました。1929年の轍を踏まないようにです。そして、自由貿易体制を堅持しさらに拡大すること、他方、リーマンショックの原因となった金融について国際規制をかけることが、当時の合意事項でした。その際には、G8だけでなくG20が舞台でした。麻生総理のお供をして、国際会議に行き、世界の経済とそのルール作り、さらには国際政治が動く現場を見ました(例えば2008年11月のG20、10月30日の経済対策(国内・国際)、合わせて当時の施策体系)。
熱いうちに打たないと、状況はどんどん変化し、提唱は実現しないうちに尻すぼみになります。次に、どのようにアイデアを提唱し、実現していくか。先進国が作ったルールに従うだけでなく、日本もルール作りに関与しなければなりません。それは、日本が繁栄するという観点からであり、世界が繁栄するという観点からです。

憲法は見なおすものか、不磨の大典か

読売新聞は政治面で「憲法考」を連載しています。2月28日は「改正、世界では当たり前」です。このHPでもかつて紹介しましたが、日本国憲法は1946年の公布以来、半世紀余り一度も改正されていない、世界でも珍しい憲法です。
記事によると、戦後の憲法改正回数は、次の通りです。ドイツ58回、フランス27回、アメリカ6回、カナダ18回、イタリア15回、韓国9回です。この13年間でも、ドイツ11回、フランス10回、イタリア6回、スイス23回です。
もちろん、改正された内容や各国の事情を考慮しなければ、単純な数字の比較は意味がありません。基本的人権の保障などは、改正されないものでしょう。
しかし、憲法は「不磨の大典」(侵すべからず)という考えは、自らの統治構造や基本的人権を自らの力で見直すという民主主義とは相容れません。これまで、民主的と名乗る勢力が「憲法を守れ」と叫んだのは、ラベルの張り間違えか、民主主義のはき違えでしょう。
ところで、私が習った頃の大学の憲法の授業や教科書は、現憲法の解釈が主で、このような考え方もあるとか、このような改正も考えられるといった、未来への思考がありませんでした。
かつてこのHPで、ある教授の「理系の人間から見ると、文系の先生は過去の分析が主で、過去から現在を見て、現在で止まっているように見える。未来のことはあまり語らない。一方、工学は、現在の部分は産業界がやっているで、工学部はいつも5年先、10年先の未来を考えていないと成り立たない」という発言を紹介しました(2005年6月24日の記事

先進民主国家体制の危機、3

・・・欧米民主諸国の危険は、それが死滅することではなく、硬直化していくことだ。予算圧力、政治的膠着、そして人口動態が作り出す圧力という、気の萎えるほどの大きな課題が指し示す未来は、崩壊ではなく、むしろ低成長と停滞が続くことだ。
泥縄式に危機をやり過ごせば、相対的な豊かさはかろうじて維持できるかもしれない。だが、ゆっくりと着実に先進国は世界の周辺へと追いやられていくことになるだろう・・
「改革する力を持たない先進国の産業民主主義のモデルがかつて存在した」。世界経済を支配していた時代を経て、先進国が成長率がわずか0.8%という時代を今後20年にわたって経験すれば、そうした解釈が出てくるだろう・・
アメリカ人、ヨーロッパ人が力を結集できなければ、彼らの未来がどのようなものになるかを知るのは簡単だ。日本に目を向ければ、容易に想像がつく・・・

最後の文章は、厳しい指摘です。外国人による日本評をありがたく承る必要はありませんが、オピニオンリーダーがこのように見ていること、そして影響力の大きい雑誌に載っていることを認識する必要はあります。
ところで、日本でもてはやされる「外国人による日本論」は、高く評価して自尊心をくすぐるものと、低い評価で日本はダメだという2種類に分類できます。そして、いずれもが、日本人(読者)が自ら考えていることと同じ論調のものをありがたがる=利用するのだと、考えています。すなわち、高い評価の場合はそれで自己満足し、低い評価の場合は「そうだよな」と言いつつ、内心では「いや日本は良い国なんだ」と自負しています。いずれにしろ、その「忠告」を受け入れ改革するつもりはありません。一種の「消費財」です。