反射的回答、実績を問わない内閣支持率調査

講談社のPR誌『本』11月号に、薬師寺克行・東洋大学教授が、「世論調査政治の落とし穴」を書いておられます。
1946年8月5日付の朝日新聞の世論調査の記事と、2012年6月6日付の世論調査記事との比較です。1946年(昭和21年)の場合は、「吉田内閣を支持しますか」と「もし近く総選挙があるとすえばどの政党を支持しますか」という、内閣支持率調査と政党支持率調査です。全国で20万枚の調査票を配り約13万票を回収しています。
論点はここからです。
吉田内閣の発足は5月22日、世論調査は7月以降に実施され、記事になったのは8月5日です。内閣発足から世論調査実施までに、1か月以上をかけています(準備などに時間を要したのかもしれません)。回答者(有権者)は、吉田内閣の働きぶりを見て、答えているでしょう。
一方、2012年(今年)の場合は、6月4日に内閣改造が行われました。午後1時半ごろに記者会見があり、皇居での認証式は17時、初閣議は20時40分です。朝日新聞による「全国緊急世論調査(電話)」は、6月4日と5日に行われ、記事は6日の朝刊に載っています。調査は、4日午後から5日夕方までに行われたと推測されます。
すなわち、回答者は新内閣の仕事ぶりも見ないで、回答を迫られています。薬師寺さんは、次のように書いておられます。
・・内閣改造の瞬間から実施される今日の調査は、回答者の何を引き出すことができるだろうか。新閣僚らはまだ何も発信していない。さらに多少は回答者が考える余裕や持ちやすい面接調査ではなく、即答を求められる調査である。大半の回答者は、突然かかってきた電話に驚き、十分な判断材料のないまま直近に得た情報や目にした映像などに頼って、反射的に「支持する」「しない」を回答しているのだろう・・
薬師寺さんは、元朝日新聞政治部エディター(政治部長)です。この批判には、重みがあります。