カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

国民が期待していない経済対策

12月9日に、NHKが世論調査結果を公表しました。興味深いのは、経済対策への期待です。
・・・政府が11月にまとめた新たな経済対策には、電気・ガス料金の補助の再開や住民税の非課税世帯への給付金支給などが盛り込まれています。
対策の効果への期待を尋ねたところ、「大いに期待している」が9%、「ある程度期待している」が35%、「あまり期待していない」が37%、「まったく期待していない」が16%でした・・・

期待しているが44%、期待していないが53%です。
国民は、景気が上昇しつつあるときに経済対策は不要だと考えているのでしょうか。これでは不足だと思っているのでしょうか、何をやっても無駄だと思っているのでしょうか。財源がないのに経済対策を打つことへの反対でしょうか。
もう一つ知りたいのは、政府も野党も国民も、その財源をどのように考えているかです。

最低賃金、政治の役割2

最低賃金、政治の役割」の続きです。
これらの解説記事では、審議会への知事の関与への疑問や、各界代表型の審議会が不要になるのではないかとの心配が書かれています。しかし、最低賃金の決定を審議会に委ねていることに問題があるのです。

石破茂首相は今年10月の臨時国会で「2020年代に全国平均1500円という目標に向かって努力を続ける」という考えを打ち出しました。衆議院選挙では、与野党ともに賃上げを公約に掲げました。自民党の公約では、金額や達成時期は明記されませんでしたが、「最低賃金の引き上げの加速を図る」としています。
公明党は5年以内に全国平均1500円の達成を目指す、立憲民主党や共産党などが最低賃金1500円以上を掲げたほか、国民民主党は「全国どこでも時給1150円以上」を早期に実現するとしました(10月13日付け読売新聞「9党公約比較 最低賃金上げ 与野党一致」)。

各党がこのような主張をして、政策の競争が行われるのは望ましいことです。もう一歩進んで、現在のように決定を審議会に委ね、政治の意思を間接的に伝える方法がいいのかも、議論して欲しいと思います。
そのことで、賃金の引き上げを困難と感じている中小企業への対策も、政治が責任を持って行うことになります。今のままでは、中小企業には経営努力を押し付けているだけであり、場合によっては時給が上がるだけで、雇用時間や人数が減り、働く人たちの手取りは増えない可能性さえあります。そうなったとしても、それは最低賃金審議会の問題ではないからです。

最低賃金、政治の役割

このホームページでもしばしば取り上げている、最低賃金の決定方式についてです。「コメントライナー寄稿第6回」「最低賃金千円に思う

今年の夏に、徳島県知事が徳島地方最低賃金審議会に出席し、「千円を超える形で決まるように強く望んでいる」と発言し、8月8日に徳島労働局を訪れ「1050円」を要請しました。結果は980円と、知事の要請には届きませんでしたが、中央審議会が決めた目安の50円を大幅に上回る84円の引き上げでした。
知事は取材に対し「学者が中心の公益(委員)と労使(の代表委員)だけで決めるのはおかしい。選挙で選ばれた自治体トップが参加し、地方の将来に責任を持つ。それが民主主義だ」と話しています(10月25日付け朝日新聞「最低賃金に政治が介入「労使で決める」建前、崩した徳島ショック」)。

首相が関与したこともあります。2016年の中央最低賃金審議会の小委員会は、前年とその前の年は徹夜協議だったのに対し、この年は早々としかも24円の引き上げを決めたのです。次のように解説されています(2016年7月29日付け日経新聞「真相深層」「「官製」最低賃金 首相の念願。異例のスピード決着、過去最大24円上げ」)。
・・・ある委員は「安倍晋三首相の発言が後押ししたのは間違いない」と振り返る。13日の経済財政諮問会議で首相は「今年度は3%の引き上げに向けて最大限努力するように」と時期と上げ幅を具体的に挙げて、関係閣僚に指示していたからだ・・・労使で決める賃金に政府は原則として介入できない。しかし、法律で義務づける最低賃金であれば政府にも介入の余地がある。内閣府中堅幹部は「労使が協議する厚生労働省の審議会で政府が3%引き上げたいとは言えない。代わりに諮問会議で首相が発言する場を作った」と明かす・・・
・・・首相の「鶴の一声」による今回の最低賃金の決め方は学者、経団連、連合の代表ら公労使による中央最低賃金審議会の不要論につながる可能性をはらむ・・・
この項続く

官民ファンドの肥大

11月19日の朝日新聞「膨張予算」は、「「官民折半」最初だけ ファンド肥大化、進める官」でした。政治主導と官僚の「共犯」の構図が見えます。

・・・民間主導で運営されるはずの官民ファンドの多くが、国の「丸抱え」になっていた――。その背景には、民間企業が新たな出資を引き受けないなか、いたずらにファンドの規模拡大を進める官の肥大化体質があった。

2022年10月に設立された「脱炭素化支援機構」は、企業の脱炭素ビジネスを支援するため、資本金204億円を国と82の企業が半分ずつ出し合った。だが、「官民折半」は最初だけだった。
23年度に85億円の増資をした際、国が78・5億円を引き受けたのに対し、企業からは6・5億円しか集めなかった。その結果、24年3月末には、早くも国の出資比率が62・5%に上昇した。
設立時だけ「官民」を偽装するかのようにし、直後に国の出資比率を急上昇させる構図は、相次いでいる。
農林水産省が所管する「農林漁業成長産業化支援機構」は、官民の折半出資で13年1月に設立されたが、3月末には国の比率が94・3%になった。関係者によると、「設立時に企業から出資を集めるのに苦労した」という。その経緯から、「追加出資を依頼することはとてもできなかった」と内情を明かす。

朝日新聞の調べでは、財政投融資で運営する全8ファンドの国の出資比率の平均は、昨年度末時点で8割を超す。「官民」が名ばかりになっている現状からは、企業の意向を置き去りにしたまま国策を進める、いびつな構図が浮かび上がる。
財投を所管する財務省理財局は、赤字ファンドの経営再建を求めている。一方、やり玉にあげられた担当省庁の幹部は、「もともとファンドは、財務省から持ちかけられて設置したものだ」と愚痴をこぼす。
この幹部によると、理財局に資金を要求すると、「もっと大きな金額を出せますよ」と要求を増額するよう促されたこともあったという。

財政規律を守るのが仕事の財務省が、なぜファンドの肥大化を推し進め、「国の丸抱え」を追認してきたのか。背景には、財務省を取り巻く政治と経済の環境がある。
ファンドの多くは、積極財政が持論だった安倍晋三政権下の13~15年に設立された。財務省で予算を担当する主計局は、予算の膨張で、財政が悪化することを恐れていた。
そこで目を付けたのが財投だった。各省庁や議員から求められた企業支援を、財投を原資にしたファンドで行えば、その分予算の膨張を抑えることができるからだ。理財局も、小泉純一郎政権下の財投改革や超低金利政策で、財投の存在意義が失われつつあることに危機感を抱いていた。
ある財務省幹部は、「財務省と各省庁は、規律無きファンドの拡大の共犯だ」と話す・・・

御厨貴先生「少数与党時代の新秩序」

11月12日の朝日新聞オピニオン欄、御厨貴先生の「少数与党時代の新秩序」から。

――下野した2009年以来となる自公過半数割れを受けて、少数与党の石破内閣がスタートします。歴史的にどのような意味を持つのでしょうか。
「15年ぶりといった時間軸では捉えられないことが起きようとしているのではないでしょうか。私には1955年の自由党と日本民主党の『保守合同』によって自民党が結党した時以来となる、日本政治の大きな変化の時を迎えていると思われてなりません。『石破政権は短命で終わる』とか『国民民主党は与野党のはざまで埋没するだろう』といった冷笑的な見方ではなく、久しぶりに日本の政治が創造的に変わるチャンスが訪れたととらえるべきです」

――自民党が力を持つ「55年体制」が揺るがされていると。
「政治家も官僚も学者もジャーナリストも、55年体制があまりに長く続いたので、それを所与の前提として考えがちですが、永遠に変わらない条件ではないのです。これから始まるのは新しい政治の手法、秩序、体制の創造過程だと思って見つめるべきです」
「実は、自民党は結党以来、このような少数与党政権を経験したことはないんです。2度下野をしましたが、それ以外の時期は衆院で多数を維持して政権を運営しました。ですから事前に与党で大事なことを決め、野党との関係は国会対策による日程調整で対処するということが70年近く続いてきました。内閣不信任案がいつ可決してもおかしくない、という緊張感のある国会の状況は誰も経験していません」

――これまでにも自民党は他党と連立を組んで難局を乗り切ったことがありました。過去とは何が違うのですか。
「全く違うと思いますよ。・・・
今回は何が違うのか。これまでは緊急時の連立相手になってきたのは、河野洋平氏や小沢氏など、かつて自民党に所属していたリーダーが率いた政党でした。ですから『表と裏』の使い分け、腹芸といった自民党経験者の仲間うちならではのコミュニケーションが可能な相手だったのです。あえて加えれば、政権を奪還するために組んだ94年から98年の社会党(のちの社民党)と新党さきがけとの連立でも、さきがけという自民党を離党した武村正義氏や田中秀征氏といった政治家が結成した政党の存在が重要でした」
「ところがいま協力を求めている国民民主党は玉木雄一郎代表をはじめ、国政で自民党に所属したことのない政治家の集団。これまでのパートナーとはまったく違う存在です。自民党と常設の協議機関すら設置しない。すべてを公開でやろうということでしょう。立憲民主党などの野党とも同じように協議をするという方針です。これまでの連立の経験や与野党の国対政治の発想は通用しません。これは自民党にとって恐怖だと思います」

――石破首相のことをかつて「伝道師だ」と評していました。
「細川護熙元首相のようなさっそうとした、スマートな人物ではありません。とても疲れて見える日本のおじさんです。でも30年以上混迷を続け、国際的にも埋没と地盤沈下が止まらないこの国そのもののような人物なのです。当面、この人物が日本の指導者として、米大統領に返り咲くトランプ氏をはじめ世界の指導者と会うのを見守ることになります」