カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

産業政策の復活

10月22日の朝日新聞「資本主義NEXT 復権する国家1」は「経済を武器に、迫られる経産省」でした。

・・・通産省は戦後、補助金を投じて新産業を育成する産業政策に取り組んできた。「超LSI研究」プロジェクトを通じて半導体産業を育て、「サンシャイン計画」では先駆的な太陽光発電の実用化に道を開いた。
日本の半導体の世界シェアは5割を超えた。「メイド・イン・ジャパン」の輸出攻勢に音を上げた米国は、通産省の産業政策を「官民癒着」と非難。通産省は「ノートリアスMITI」(悪名高き通産省)の異名をとる・・・
・・・特定産業を重視する「ターゲティング派」(介入派)と、規制緩和で自由な市場をつくる「フレームワーク派」(市場派)。通産省には、二つの政策思想の潮流がある。高度成長期の通産官僚を取り上げた城山三郎の小説「官僚たちの夏」でも、両派のせめぎ合いが描かれた。主人公の風越信吾が理想としたのは、官が重要産業に介入して指導し、国の繁栄につなげることだった。

だが、野原たちの世代が入省後に携わってきたのは、それとは逆の、市場機能を重視した政策だった。「日米関係からそうせざるを得ない面もあったが、私自身も規制改革や構造改革が日本に必要と思っていた」
英サッチャー政権は80年代、官営事業の民営化に乗りだし、同様の政策が米国や豪州にも広がった。日本でも、開明的な官僚ほど、そうした思想に共感した。
「民間経済の領域を広げれば、経済はより成長する」と野原も考えた。旧国鉄や郵政など官営事業が民間経済の活力を奪っていると映った。2000年代、小泉純一郎政権が経済学者の竹中平蔵を要職に起用して進めた構造改革路線には、そうした経産官僚の一群が裏方としてかかわった・・・

・・・竹中路線とは距離を置いた与謝野馨が08年に経済財政担当相に就くと、野原はその補佐室に勤務した。まもなくリーマン・ショックが直撃。すると、政府の民間介入を批判してきたはずの米政府がゼネラル・モーターズ(GM)の救済に乗り出した。「市場が暴走して失敗した。すべて市場任せというのはナイーブな考えだったのだろう」
経産相などを歴任した自民党の甘利明は10年、中国のレアアースの対日禁輸に身構えた。「一つの国に過度に依存すると危うい。従来の安全保障議論とは異なり、経済物品が『武器化』する時代になった」。以来、党内で経済安保を主導する論客となる。半導体戦略推進議連の会長も務め、同省に強い影響力を有する。

野原は15年、後に事務次官となる嶋田隆から「これ読んだかい、キミはどう思う?」とある文書を示された。中国の国家戦略「中国製造2025」だった。半導体自給率を70%に高めるなど、重点産業の強化策を網羅的に盛り込んだ。習近平指導部はやがて、巨大市場を武器に投資や技術を呼び込む「重力場を形成する」と宣言する。
その挑発的な内容は、経産官僚の警戒心を呼び覚ました。自由に競争できる環境を整えても「想定ほど民間経済は成長しなかった」(元商情局長)。グーグルのような企業は生まれず、米国との彼我の差は歴然。市場重視だった官僚ほど、当てが外れた思いでいた。
日本の半導体生産シェアは10%にまで後退した。その一方、TSMCは先端ロジック系半導体の90%を生産する。「台湾有事」が現実になれば、半導体の調達が滞って日本は大打撃を受けかねない。日本の産業界に必要な半導体を手に入れるには、自国内で製造することが欠かせない。そんな経済安保の論理が省内で幅をきかせていく。
米トランプ政権の発足で米中対立は激化し、後継のバイデン政権も半導体産業の対中輸出規制を強めた。いまや万事、安全保障が勝る。「自由貿易は死んだ」。TSMC創業者のモリス・チャンはそう口にした。「フラットだった世界が米中対立を受けて変わってしまった」と野原は言う。
「重要産業を支援するとともに技術流出を予防する」と担当課長。年内にも炭素繊維など10品目の技術管理を強める新制度を始める。秋が深まっても、経産省では「官僚たちの夏」が続いている・・・

文化財買い上げ予算額が3割に削減

10月8日の日経新聞に「日本の美術品どう守る? 「財産」流出で国も買い上げ」が載っていました。

・・・芸術の秋、各地のミュージアムで貴重な文化財を目にする機会もあるだろう。現在、国宝に指定された美術工芸品は912件、重要文化財(重文)は1万910件。「国民の財産」を守るため所有者にはさまざまな義務が課せられる一方、海外流出や所在不明の危険にもさらされている。
「受け継ぐ人がいない」「経営が悪化した」。国宝・重文等の買い上げ事業を担当する文化庁文化財第一課に近年こうした相談が舞い込む。文化財を所有する個人や法人が高齢化や財政難で管理・保有できなくなっているためだ・・・

詳しくは記事を読んでいただくとして。記事と図に、文化庁の国宝や重要文化財買い上げ予算額が載っています。
2000年に34億円だったものが、2024年には10億円になっています。1割削減とかでなく、7割減です。こんなものも、予算を大幅に削減していたのですね。日本(政府)は、財布も心も貧乏になっています。

人気指導者時代の終わり

10月2日の日経新聞オピニオン欄、ジャナン・ガネシュ氏の「「人気指導者」の終わり 危機知らぬ市民、要求厳しく」は、興味深い指摘でした。
西側先進諸国において、かつては時代を代表する政治指導者がいたのに、昨今は人気のある指導者はまれで、在任期間も短くなっています。

・・・では、筆者が推測する原因は何か。何十年も続く平和と豊かさが、期待値を高める予期せぬ結果をもたらしたということだ。戦争の鮮明な記憶がある人は、西側諸国に今暮らしている人たちのごく一部だ。国が抑制できなかった金融危機を覚えている人は事実上誰もいない。
最後に世の終わりに近づいた新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、2年ほどで過去のものになった。
全面的な大惨事をこのように巧みに阻止できたことは本来、政治家に対する信頼を高めるはずだ。だが、人々は高い水準の秩序と進歩に慣れてしまい要求をさらに強める結果になった。

西側諸国の大部分では、もはや人気の高い政府などというものは存在しないのかもしれない。それでも「もっと懸命に働き、もっと良い統治を」というテクノクラート(専門知識を持った官僚)的な決まり文句は消えない。この世界観の伝道師は、市民の怒りに対する答えとして「有効性」を挙げるブレア元英首相だ。
ブレア氏は筆者が取材したなかで最も政策に精通した指導者だ。国が人工知能(AI)やその他の技術を習得すれば成果が高まるという同氏の見方は正しい。それ自体、国のためにやる価値があるだろう。
ただ、そうすれば有権者が元気になるという考えは精査する必要がある。選挙で何度も勝利を収めたあらゆる指導者と同様、大衆心理の不合理な面を多少なりとも知っているに違いない同氏にしては、これは奇妙なほど合理的な想定だ。

ブレア氏、オーストラリアのハワード元首相、米国のレーガン元大統領、フランスのミッテラン元大統領。一つの時代を象徴する人気の政治家、あるいは威厳ある政治家とさえ呼べるような大物はかつてはよくいた。
ドイツのメルケル前首相が最後だったのかもしれない。そのような政治家がいなくなったのは、これほど大きく異なる国々で政府の上げる成果が同時に悪化し、それに従って有権者が政治家を罰しているからではないはずだ(後から振り返ると、メルケル氏がどれほどうまく統治したのかも疑問だ)。
西側全体に共通する点が一つあるとすれば、それは政治の需要側だ。こうした国の有権者は皆(第2次世界大戦が終結した)1945年以来ずっと、平和で経済発展が悲惨ではない時代に人としての生涯を送ってきた。その輝かしい偉業がもたらした究極の結果として、我々市民を喜ばせるのが難しくなった・・・

衆議院選挙投票

先日、衆議院選挙の期日前投票に行きました。
東京の小選挙区は5つ増え、杉並区は2つに分割されました。私の住んでいるところは8区のままなのですが、近所の道路で線が引かれ、その先は27区になりました。地下鉄の駅の前では、8区の候補者と、27区の候補者が演説をしていて、紛らわしいです。

期日前投票の投票所に行くと案内人がいて、「8区ですか、27区ですか」と聞いてくれます。同じ建物に、2つの投票所があるのです。これは、案内人がいないと、混乱するなあと思いました。
投票を終えて出てくると、NHKの出口調査員がいました。協力しようとすると、「27区をやっているので、8区の方は残念ですが対象外です」とのこと。

景気対策でなく経済成長を促進する対策を

10月4日の日経新聞経済教室、植田健一・東京大学教授の「日本経済再生の針路、価格・企業活動に介入するな」から。

・・・世間では日本経済再生のために、あれもこれもとかまびすしい。だが多くは必要ない。むしろ障害となる。
とりわけ景気浮揚のための財政・金融政策は、世間で考えられているような効果はない。経済学の研究をまとめれば、景気が悪化した時に下支えするという実績は多少ある。だがあくまでその効果は、経済学的に定義される景気の悪化に関してだ。そうした景気の悪化は、世間で考えられているほど起きていない・・・
・・・安倍政権時には、戦後2番目に長い好景気、すなわちトレンドの周りでの上昇局面があった。それでも世間では景気の良さを実感しないという声が多く、それに応えて政府・日銀は長きにわたり財政赤字を続け、金融政策を緩和したままにしてきた。これは間違いと言わざるを得ない。本来、好景気時の財政・金融政策による景気対策は、不景気時とは逆に、財政黒字を出し、金利を上げるものだ。
ただし金融政策については本務は景気対策よりも物価安定だ。景気にかかわらず、2%程度のインフレ目標の達成まで緩和することは理にかなう。だが好景気時の財政赤字はおかしい。

もっとも、世間の人々の景気に対する不満は、経済学の定義する景気ではなく平均の経済成長を実感してのことだろう。実際、日本の高度成長期やバブル期、中国の2000年代以降の経済成長と比べて、安倍政権時の長い好景気でも平均の経済成長は低かった。
だが発展途上国が先進国にキャッチアップする過程では通常、先進国よりも経済成長が高くなることが経済成長の研究で判明している。その意味で、高度成長期の日本や近年の中国と、先進国になった後の過去30年ほどの日本の比較は本来すべきことではない。

そして経済政策は経済学的な知見、つまり理論と実証研究に裏付けられたものでないと、効果が不明で副作用の危険すら伴う。好景気時には景気浮揚策よりも景気抑制策が必要なのだ。
ただし、本当に必要なのは景気循環における景気対策でなく、中長期的な構造的な経済成長を促進する対策だ。財政・金融による景気対策はそれには役立たないことが判明している。効果があるのはより民間活力を引き出す構造改革だ。構造的問題の所在を確認し、市場経済がうまくいくように改善していくほかない・・・