カテゴリー別アーカイブ: 政と官

行政-政と官

自民党部会で責められる官僚たち

4月6日の朝日新聞夕刊「取材考記」、野平悠一・記者の「「物言う」自民部会 対ロシア、安倍外交検証を」から。

・・・ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから1カ月余り。外務省担当として連日、外交部会を中心とする会合を取材してきた。
始まるのは大抵の場合、午前8時。外務省や防衛省など、部会に呼ばれた関係省庁の役人が長机にぎっしりと並ぶのが恒例の光景となっている。官僚が最新の情勢をまとめた詳細な資料をもとに報告し、そこから議員の質問や意見などを受ける。

「弱腰外交だ」「日本政府の対応が遅すぎる」
ウクライナ情勢をめぐって議員から飛び出す意見は手厳しい。与党にもかかわらず、ここまで政府を厳しく糾弾する部会は他に見たことがない・・・ただ、厳しい言葉の矛先はほとんど外務省官僚だが、批判の中身は他でもない、これまで自民党の安倍政権が行ってきたロシア外交そのものだ・・・党部会では、安倍政権のレガシー(遺産)とされたはずの日ロによる共同経済活動や、「8項目の経済協力プラン」について、「日本が損得で動くと見られるとロシアに足元を見られる」と中止を求める声もあがる。安倍政権でつくった「ロシア経済分野協力担当大臣」のポストの廃止論もくすぶっている。

であるならば、当時の安倍政権によるロシア外交が正しかったのか、検証から始めるべきではないか。日本外交が大きな転換点を迎えるなか、総括抜きに今後の外交方針は示せない。安倍外交を後押ししてきた与党の責任は重い。「物言う外交部会」に期待したい・・・

政と官の役割分担

11月26日の日経新聞1面連載「ニッポンの統治 危機にすくむ5」は「本末転倒の政治主導 無気力と無責任の連鎖」でした。
・・・日本の政治主導に綻びが目立つ。細かな政策に固執し、国を揺るがす危機への判断は先送りする。
菅義偉内閣だった7月、政府が緊急事態宣言下で酒を出さないよう金融機関から飲食店への「働きかけ」を求める通知を出したのが典型例だ。
銀行が飲食店に圧力をかけるのは独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」にあたりかねない。それを知りつつ発出した理由を担当の官僚に聞いた。
答えは「やらないと閣僚に怒られるから」。内容を和らげる提案はしたが、当時の西村康稔経済財政・再生相に「弱すぎる」と一蹴され、抵抗を諦めた。
通知は世論の反発で撤回された。この官僚は「政治不信を招き酒を出す店が増えてしまった」と通知を止めなかったのを悔やむ・・・

・・・戦後の経済成長を支えた官僚は1990年代、業界との癒着や不祥事で批判を受けた。その官僚のお膳立てに乗るだけの政治家のふがいなさも責められた。
冷戦終結やバブル崩壊後の変化に対応すべく官僚の情報を基に政治家が判断を下す政治主導の流れが生まれた。それ自体は間違った選択ではなかったはずだ。
ところが四半世紀たち、省庁幹部の人事を内閣人事局が握っても、閣僚は国会答弁を官僚に頼りがちだ。地元会合の挨拶文をつくらせる議員さえいる。こんな政治主導の下で発言権が弱まった官僚はやる気を失い、無責任がまん延する。
国のかじ取りを任されたはずの政治が思考を止め、将来ビジョンを描くはずの官僚は気概を失った。政治も官僚も動かない本末転倒な状況に日本はある・・・
・・・政治家が役人の知恵をくみ取り、責任は引き受ける土壌は失われて久しい。官とのあるべき役割分担を踏まえて政治主導を立て直さなければ、次の危機でも同じことが繰り返される・・・

長期政権、物言えぬ霞が関

10月23日の朝日新聞「2021衆院選 長期政権振り返る 下」は「物言えぬ霞が関、疲弊」でした。

・・・菅義偉首相(当時)と野党4党の党首が党首討論で新型コロナウイルス対策を議論した6月9日。人事院が国会と内閣に2020年度の年次報告書を提出した。その中には公務員の異変を示すデータが盛り込まれている。
「精神及び行動の障害による長期病休者は4186人(全職員の1・51%)」
19年度にメンタルヘルスの不調で1カ月以上休んでいる国家公務員の状況だ。6年間で0・25ポイント上昇し、全産業平均(0・4%、厚生労働省の労働安全衛生調査)の約4倍だ。
内閣人事局などによると、19年度の20代の中央省庁総合職の自己都合退職者も6年前の4倍となっている。

元厚労官僚で、霞が関の官僚の働き方を描いた「ブラック霞が関」の著者・千正康裕氏は、これらの指標に着目する。
千正氏が最近の例として挙げたのが、「アベノマスク」と言われた布マスクの全戸配布だ。官邸から号令がかかったが、担当の厚労省に当初増員はなく、現場は混乱していたと指摘する。
「選挙がある政治家は短期的な支持率を上げる必要があって政策を打ち出し、実務は二の次になりがち。政治に対して弱くなった幹部官僚も指示を受け入れるしかなく、青天井の長時間労働で何とかするしかない。結果として現場がパンクしてしまう」・・・

・・・「政治に対して弱くなった幹部官僚」の要因の一つとして是非が議論されているのが、14年に設置された内閣人事局による幹部人事の一元管理だ。
安倍政権の官房長官としてその中心にいた菅氏は、意向に従わない官僚を「反対するのであれば異動してもらう」と公言。霞が関ににらみをきかせてきた。
安倍政権で進んだ「強い官邸」は、平成の政治改革の完成形だった。だが、人事権の強大化は、官僚たちの萎縮を生み、政策の目詰まりや、政権の不祥事が起きたときに事実をゆがめた国会答弁につながったと指摘された。

政治学が専門の牧原出東大教授は、安倍政権以降の政官関係について、「現場から『無理です』と言われても、官邸は『できるはずだ』と指示を出す。さらには不祥事を糊塗するために官邸の権力を使っていると疑念をもたれた。そうなると役所の方も物を言わなくなる。安倍政権の最後は、官邸が動かないと何も動かなくなってきた」と指摘する。
牧原氏は「官僚が持つ現場や専門の知識を生かしながら、政治がその責任を取るのが本来の姿。新型コロナ対策で見られたように、無理筋な指示を出して現場を混乱させ、その責任を官僚などに転嫁していたのは大きな問題だ」と語る・・・

福田康夫元首相「政官関係の再構築を」

8月28日の朝日新聞夕刊「いま聞く」、福田康夫・元首相の発言「コロナ対応、行政の混乱なぜ 官僚の知恵なくして危機管理なし、政官関係の再構築を」から。

「コロナを『国家の危機管理』ととらえた有事の体制になっていないのではないでしょうか。首相官邸と官僚機構との連係プレーが十分に機能していない」。福田さんは心配そうに語った。
「ワクチン接種は厚生労働省、総務省、経済産業省、防衛省・自衛隊と複数にまたがる。官房長官から(法案や人事などの閣議案件を事前に調整する)事務次官会議で『調整してくれ』と指示すれば、各省の事務次官が必死になって調整するはずなのに」
次官会議は本来、組織を末端まで知り尽くす次官同士が機能的に組織を動かすために意思疎通をはかる「かなり重要な場」と強調する。

政府の新型コロナ対応では、司令塔がだれなのかもわかりにくい。
危機管理全般を担う加藤勝信官房長官とは別に、コロナ対策は西村康稔経済再生相と田村憲久厚労相が、ワクチンの調整は河野太郎行政改革相がそれぞれ務める。船頭多くして船山に登る――そんな状況にあるように見える。
「司令塔はシンプルであるほうが迅速にことが運ぶ。危機管理は、各省庁が瞬時に動けるように指揮命令系統と責任の所在を明確にすることが要諦です」「現場の総司令官は事務次官です。その司令官が安心して一生懸命に動くという気持ちを失ってしまったのではないでしょうか」

2014年に安倍政権下で発足した内閣人事局は、600人を超える各府省幹部の人事を一元管理するとともに、省益より国益を重視する職員を登用することが目的だった。だが、運用の過程で官邸による官僚人事への介入を決定的に強めた結果、霞が関に「忖度」の風潮が広まったと指摘される。
内閣人事局については、福田さんも17年の共同通信社のインタビューで「各省庁の中堅以上の幹部はみな、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている」「官邸の言うことを聞こうと、忖度以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ」と指摘していた。

改めて聞くと、「各省の事務次官が組織を円満かつ迅速に動かすにはこの体制でいくのが一番いいと判断して、人事案を持ってくる。問題がある人事は事務次官の責任で排除している。そういう自律機能はあるんです」。
「事務次官の権威を保つのに重要なのは人事権です。その人事権をごぼう抜きするような内閣人事局の運用であってはならない」
先の国会では、官僚による虚偽答弁や公文書改ざん問題が論戦の主要テーマになった。
「官僚がうそをついたら話にならない。政治主導の人事をしているうちに、官僚の良心もまひしちゃったとしたら、それこそ大問題だ。それを政治が放置し、世論もメディアも徹底追及していないのはおかしいですよ」

政策をどこで誰が決めるか

9月28日の朝日新聞オピニオン欄に、「最低賃金、政治主導の限界 今なお低水準、地域間格差も深刻」が載っていました。記事の内容は、最低賃金の金額についてですが、ここでは、その決定過程について取り上げます。

・・・最賃は企業が最低でも支払わなければいけない賃金(時給)で、罰則規定もある。毎年審議され、都道府県ごとに決まる。まず、中央最低賃金審議会が都道府県をA~Dの4ランクに分けて目安を示す。これを参考にした地方最低賃金審議会の答申を受けて各労働局長が決める。いずれの審議会も、学者などの公益委員▽労働組合が選んだ労働側委員▽企業経営者などの経営側委員の三者で構成される。
中央の審議会では毎年、労使の意見の隔たりが埋まらず、最終的には公益委員の見解が答申になる。そこに政権の意向が大きく影響してきた。
新型コロナを受け、経営側から最賃の凍結を求める声が上がり、政権も理解を示した。審議では引き上げを求める労働側が押し切られた。地方では40県が1~3円の引き上げを決めたが、東京、大阪など7都道府県は引き上げを見送った。東京の審議会では採決の際に労働側が抗議の退席をした。新しい最賃は10月から順次発効する・・・

私は、このような審議会で利害対立を調整する方法はおかしいと考えています。かつて、「審議会政治の終わり?」に、次のように書いたことがあります。
・・・社会に利害対立がある場合、その両者と公益委員を入れた3者協議の場が作られます。国や自治体でもそのような3者審議会は、この賃金などの他にも例があります。かつては、公共料金、米価などが花形でニュースになりました。
政府の審議会は、シナリオを官僚が書くので、「官僚の隠れ蓑」と批判されました。ところが、この3者協議の形の審議会は、官僚の隠れ蓑ではなく、「政治家の隠れ蓑」と見る見方もあります。すなわち、社会の利害対立を調整するのは、本来は国会なり政治の仕事です。しかし、その調整を、省庁におかれた審議会に委ねるのです。そして、両者が意見を述べ、中立の立場の公益委員と官僚が、落としどころを探るのです。
政治が解決せず、丸投げされた官僚機構が編み出した「知恵のある解決の場、方法」だったのです。国会の場で大騒ぎにせず、審議会の場で静かに片を付ける。日本流の一つの解決方法でした。しかし、「官僚主導でなく政治主導で」という理念を実現するなら、このような審議会は不要になります・・・

参考「審議会の弊害1」「審議会の弊害2