カテゴリー別アーカイブ: 政と官

行政-政と官

政治主導の現場・官僚の報告

御厨貴編『「政治主導」の教訓-政権交代は何をもたらしたか』(2012年、勁草書房)を贈ってもらいました。著者に、東大に教えに行っていた頃の塾頭たちが、名前を連ねています。また、中堅官僚たちも、現場での体験を踏まえて書いています。皆さん、御厨先生の門下生だとのことです。
帯には、「民主党政権の中間決算」と唱われています。
第2部では、政権交代後に、民主党が掲げた政治主導がどのように達成され、達成されていないかを、分析しています。そこでは、官僚との関係、与党との関係、官邸と各省との関係の3つの観点があります。
政権交代から2年半。まだ変化しつつあるところですが、省庁内部での経験を基に、分析しています。この間の記録にもなっています。現役官僚が、政と官の関係を論じることは、多くないと思います。政と官の関係に関心をお持ちの方は、ご一読をお勧めします。
なお、細かいことですが、p162の図とp179に、国家戦略室長は「室席」とあるのは「空席」の誤植でしょう。

行政の責任

3日の朝日新聞は、林野庁の「緑のオーナー制度」で、1999~2006年度に満期を迎えた契約者の9割以上が事実上、元本割れしていること。今後30年間に満期を迎える延べ約76,000の個人・団体の大半も元本割れが予想される事態になっていることを伝えていました。この制度は、国有林育成に出資し、伐採の収益金を受け取る仕組みだそうです。(8月4日)
(国会同意人事・国会と内閣)
政府や関係機関の人事について、内閣だけで任命できず、国会の同意が必要な場合があります。日銀総裁、NHK経営委員、会計検査官、各種の審議会委員です。参議院で与党が過半数を占めたことで、内閣の案がそのまま通るかどうか、不安定になりました。これまでは、与党が賛成すれば、原案通り決まったのです。新聞が、連日取り上げています。例えば、1日の日経新聞夕刊「永田町インサイド」など。
これについては、次のようなことが言えます。
三権分立といいながら、結構、国会が内閣を縛るのです。
そして、これまでも、そのような定めだったのですが、これまで顕在化しなかったのです。ここに、国会と内閣の関係、与党と野党の関係が明らかになります。与党が両院で多数の場合は、国会と内閣の緊張関係は保てないのです。それが、議院内閣制です。
また、このような「不安定な仕組み」が、好ましいのか。予算案のように、衆議院の優越を定めてはどうかが、議論になります。憲法は、予算や法律について、衆議院の優越を定めています。しかし、国会同意人事に関する法律は、そのような規定になっていないのです。この定めは、憲法を「越えた」規定だと見ることもできます。
また、民主党が「与党による事前審査」をやめるように主張しています。ここは、議論を分ける必要があります。内閣は与党が構成しますから、与党内部で原案を検討することは、禁止できないでしょう。一方、内閣の意向を受けて、官僚が事前根回しに行くことは、与党内審査とは別のことだと思います。これまでは、後者によって、与党内事前審査が行われていたのではないでしょうか。それは、禁止しても、問題ないと思います。

政策の評価

14日の朝日新聞「時々刻々」は、アメリカのブッシュ政権が議会に提出した、イラク情勢に関する中間報告を、取り上げていました。そこでは、政権の戦略とともに、イラク政府が果たすべき努力目標が18項目示され、達成状況が採点されています。及第点を与えられたのは、半分以下です。
先日、このHPで「検証・行政の評価」を書き、政策の評価にも言及しました。ちょうど良い例なので、紹介します。
この報告は、議会が政権に義務付けたものだそうです。「努力目標項目は、議会が設定した。よって、判断基準の一部に過ぎない」と、国防総省高官が語ったとも書かれています。政権側が評価するのですから、客観的でないとの批判も出るでしょう。しかし、それが次の政策への判断材料になります。
政策の評価、そして議会の役割を、考えさせる教材です。日本では、多くの審議会や懇談会がつくられ、政策の議論がされます。しかし、それは新しい政策を検討することが、多いのです。実績を評価する第三者機関としての働きは、ほとんどありません。官僚の隠れ蓑といわれるゆえんです。
また、評価するためには、評価する項目と物差しが必要です。「おおむね問題ない」では、次への参考になりません。

検証・行政の評価

11日の読売新聞1面には、2つの検証が載っていました。一つは、愛知県警によるもので、5月に起きた長久手町の籠城・発砲事件での初動捜査と救出作戦の問題点の検証です。もう一つは、総務省の年金記録問題検証委員会によるもので、社会保険庁の年金記録漏れ問題の原因解明と責任追及を行うものです。
行政の失敗や問題をなくすために、このような検証は必要なものです。問題が起きた場合、責任者がお詫びして、処分を受けるということは必要です。しかしそれは「責任を取る」ということで、原因究明・再発防止にはつながりません。空・鉄道事故調査委員会は、行政についてではありませんが、検証・原因究明を任務としています。今後、広く行政に関して、検証が行われるべきだと思います。
かつては、「官僚の無謬性神話」などもありました。私は、誰がこんな「神話」をつくったのか、不思議でなりません。「官僚は間違いを認めない人種である」ということが、間違って伝えられたのでしょうか。
行政執行の失敗の検証だけでなく、政策の検証も必要だと思います。課題は、誰がテーマを決め、誰が検証するかです。身内による検証も重要なのですが、客観性を担保するためには第三者による検証が必要です。
もう一つ、議会という最高の監視・評価機関があるのですが。

政策の統合

21日の日経新聞経済教室は連載「環境力」、加藤三郎さんの「方向の確立は立法の場で」でした。
・・日本では、欧州のような規制と経済手法を組み合わせて急所をつく対策は、見あたらない。その最大の原因は、相変わらず関係省庁が縦割り行政で、業界団体などの利害の調整に審議会・調査会などの従来のシステムに寄りかかり、大胆な対策を打ち出せない点にある・・
しかし、日本ではこの方法しかないのかというと、そんなことはない。その好例が、60-70年代に産業公害が社会問題化した折、国を挙げて取り組んだ象徴である「公害国会」である。
60年代に入ると開始された日本の高度経済成長は、一方で極めて深刻な産業公害を日本の各地にもたらした。まず地方自治体が条例などで対応しだしたが、国の対応は後手に回った感がある。
・・政府は公害対策本部を設置。公害対策閣僚会議を開催して対応に努めたが、官僚主導の限界はもはや明らかであった。そうした折りに注目が集まったのが、70年11月末から暮れまで開かれた臨時国会である。「公害国会」と称されたその場では、わずか1か月足らずで、一気に14本の公害立法を整備。それらの法律いずれもが、その後の公害対策に大きな役割を果たしたのである・・
70年代といえば、まだ官僚の力も強く、各省に設けられた審議会の権威も今とは比べものにならないほど高かった。制度設計の大枠もそうした行政の場で作られることが大半だったが、公害国会の例は、官僚機構や審議会だけでは遅々として進まない国の方向や枠組みを定めるという機能を果たしたといえよう・・