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行政-官僚論

時代遅れ

今日(20日)の朝日新聞夕刊東京版は、財務省の仮眠室「ホテルオークラ」が書かれていました。家に帰る時間を惜しんで、職員が仮眠するための部屋です。かつては、「エリート公務員記事」の定番でした。
よかったですね、残業がそれだけで価値だった時代は。「昔、貧乏な日本では、官僚も徹夜して・・」と、プロジェクトXの世界でしょうか。
しかし、残業時間を誇る時代は過ぎたと思います。それによって「どれだけ良い成果」が出たかを評価すべきでしょう。成果(アウトカム)を測定せず、残業時間(インプット)を自慢する。官僚のもっとも悪いことの一つです。
久しぶりにこんな記事がでて、びっくりしました。新聞はこんな記事を、いつまで書くんですかね。
私も、家に帰らず職場で仕事した、あるいは泊まり込んだことについては、人後に落ちないと思っています。1週間自治省ビルを出ず、2週間家に帰らず・・の記録を持っています。でも、今にして思えば・・・。

解釈学から想像力へ

官僚の役割、それは、この社会をよりよいものとすることです。「この国のかたち」をつくること。それは、変わりありません。しかし、社会の変化に応じて、目標と手法は変化します。20世紀に期待された官僚像を、私たちの先輩たちは立派に果たしました。そして、21世紀に期待される官僚像は、大きく変化しています。そこに必要なのは、翻訳や解釈学ではなく、想像力と創造力です。日本社会の求めに応えるためには、私が、そしてあなた達が、「この国のかたち」を社会に問い続ける必要があるのです。

「この国のかたち」を創る

昨年まで私は、自治財政局交付税課長をしていました。今話題の「三位一体改革」「地方交付税改革」の担当です。これまで50年間、地方交付税制度はよく機能し、日本の地域社会の発展に貢献してきました。北海道から沖縄まで、大都会から山村離島まで、教育・福祉・衛生といった行政サービスや、道路・上下水道といった社会資本を整備できたのは、地方交付税があったからです。しかし、成功し定着したが故に、交付税制度を改革することは大変です。
関係者に説明するだけでなく、活字として私見を世に問い、マスコミの取材に応え…と。理解を得る努力をしました。講演会は年間40回。平成14年からは、東京大学大学院の客員教授も務めています。日本地方財政学会総会で、神野直彦東大教授、齊藤愼阪大教授、金子勝慶大教授といった学者の前で基調報告もしました。全国紙の1面に実名が載るという「おまけ」もありました。

官僚の仕事の変化

日本は、明治維新以来、近代国家をめざして、いろんな制度や社会資本を整備してきました。また、第2次大戦後は、経済発展をナショナルゴールとしてがんばってきました。その際に官僚に求められたことは、欧米先進諸国から制度を輸入し、日本中に行き渡らせることでした。そして、日本の官僚はそれに成功し、日本社会も豊かになりました。
すると、官僚の仕事も変わったのです。これまでの仕事のやり方は、簡単に言うと、外国から「輸入」すること、先輩が作ってくれた制度を「拡張」することでした。しかし、それらを達成しあるいはメドをつけると、官僚に期待されることは、社会に生まれてくる新しい問題を拾い上げること、また社会を変えていくために制度を創造することに変わったのです。
先に述べた総務省の法案は、いずれも先進諸国から「輸入」できるものではありません。また、これまでのようなハードウエアでなく、新しいソフトウエアです。21世紀の日本の官僚には、20世紀の官僚とは違ったことが求められるのです。詳しくは、拙著「新地方自治入門―行政の現在と未来」(時事通信社)をご覧ください。

総務省の仕事と私の仕事

政府は、法律によって仕事をします。大臣官房総務課長は、その法律案を取りまとめ、国会に提出するのが仕事です。第159回国会に総務省が提出する予定の法案は、14本もあります。その中には、三位一体改革の実施(地方交付税法などの改正)、市町村合併の促進(地方自治法などの改正)、国家公務員定数の削減(総定員法の改正)、サイバー犯罪対策(電波法などの改正)などが含まれています。
ここには、中央と地方の政府間関係の変更から、国民生活にかかわる犯罪の防止まで、いろいろなものがあります。そしてそれらは、サイバー犯罪といった、これまで考えられなかった新しい事態への対応であり、国と地方政府のあり方の変更といった、50年ぶりの国家構造改革です。
今、挙げた事例は、みなさんにはわかりにくいかもしれません。道路や建物と違って、目に見えないからです。これらは、「社会のソフトウエア」であり、総務省の仕事は、「見えない社会インフラ」の整備、国家と行政の制度設計なのです。