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行政-官僚論

黒江・元防衛次官の回顧談3

黒江・元防衛次官の回顧談2」の続きです。「失敗だらけの役人人生(追補4)」(7月13日)は、「911米国同時多発テロとその後の対応」です。
当時の衝撃を読んでください。
今回、紹介したいのは、その本論のほかに、官邸連絡室についてです。3ページ目から出てきます。

小泉内閣になって、総理秘書官を出していない5つの省から、課長級の職員が秘書官を補佐する役割で常駐することになりました。
総理秘書官の実態も語られること、書かれることが少ないですが、この官邸連絡室の実態も語られることは少ないです。もちろん、秘書官たちは黒子に徹することを義務づけられていますが、どのような実態にあるのかはもう少し書かれても良いと思います。
官邸内や内閣官房についても研究書が少ないのですが、これもその一つです。

代替案を考える、考えない

7月13日の朝日新聞オピニオン欄「プランBが見えない」から

兪炳匡さん(神奈川県立保健福祉大学教授)の発言「失敗想定せず閉鎖的ゆえ」
・・・日本の官僚や政治家には、そもそも政策が失敗しうるという前提がないから「プランB」がないのです。法案を作る、法律を実施する、事後評価するという三つの段階は、民主国家ではそれぞれ別の組織が行います。しかし、官僚は単独でこの「3役」を事実上、担っています。このシステムでは、失敗が存在しえないのです。科学的なエビデンスによって失敗を発見・修正する需要も生まれません。

これに対して欧米社会では「人間のすることだから必ず失敗を起こす」と考えます。失敗、とりわけ最悪の事態を予想して、それを予防・回避するようなシステムの策定に知性の大部分を使います。
常に失敗を想定し、プランBを起動できるようにしておくことが重要ですが、日本ではそれを無駄とみなす傾向があります。プランBの策定を却下するという知的怠慢を正当化する理由も、不透明なものが多い。戦前なら「天皇が却下したから」、戦後なら「米国が却下したから」が典型です。無批判にそれを信じる国民にも問題があります・・・

ヤマザキマリさん(漫画家・随筆家)の発言「私たちはイワシの群れか」
・・・東京五輪をパンデミック(世界的大流行)の中でもやらなければならない具体的な理由を知りたいし、説明の内容次第では「仕方がないか」と納得がいくかもしれない。ただただ「うまくやりますから」では、バカにされているような気がするだけです。
疫病が蔓延している最中に人間が一斉に集まるなんて、古代の人ですら誰もしていませんよ。イワシの群れみたいに一斉に一緒に動いて、そのうち何匹かは食われてしまうけど、それでも大半が生き残るからいいでしょう、という感覚なのでしょうか。
為政者が簡単に統括できるのは、人があまり深く物事を考えない社会です。様々な意見を生み出す知性や教養は邪魔になります。長いものには巻かれてしまう社会的傾向には抗えないにせよ、その状態を離れた位置から俯瞰できるようになるべきではないか。世間体に従わなければいけない状況でも、違和感は持つべきです。それが日本人がこれから進むべき次の段階ではないかと感じています。
「場合によっては五輪ができない場合もある」と最初から頭の片隅で思っているべきなんです。災害が起きた時もプランBやプランCを持つ人の方が冷静です・・・

・・・イタリア人は人の話も聞かず、列をつくれば横入りするような人たちが少なくありませんが、最初のロックダウン(都市封鎖)の時は、なぜか一斉に規律を守りました。いざという時にどうすべきか、自分で考える訓練ができていた結果だと思います。
理想の形は、オーケストラのようなイメージです。それぞれの楽器でソリストとして素晴らしい音楽を演奏することもできるけれど、そんな彼らの特性をよく理解した指揮者にあたれば、統括した時に素晴らしい交響楽になる。
それこそがアリやイワシとはまた違う、人間という精神性を持った生き物にふさわしい群衆社会のあり方なのではないかと。難しそうですが、お互いの異質性を認めつつも共存できるのが理想的な人間社会ではないかと思います・・・

官僚の役割、構想をつくる

NHKウエッブサイトに、「自由で開かれたインド太平洋誕生秘話」(6月30日掲載)が、載っています。
自由で開かれたインド太平洋」は、中国の台頭を意識して、インド洋と太平洋を繋ぎ、アフリカとアジアを繋ぐことで国際社会の安定と繁栄の実現を目指す構想です。日本が提唱し、アメリカなども賛同しています。この構想を外務官僚が考え、総理が採用し、アメリカに働きかけた経緯が、記事で紹介されています。

日本の将来のために、広い視野で進むべき方向と、そのための対策を考える。そのためには、現状の分析と、今後の動きを予測する必要があります。予測だけでなく、目標に向かって何をすべきかを考えなければなりません。理想論だけでは実現しません。
構想を練ることは、重要な仕事であり、力量が試される仕事です。そして、その案を関係者に理解してもらい、採用してもらう必要があります。それは、やりがいのある仕事です。先日このホームページで紹介した、黒江・元防衛次官の防衛計画の見直しも同じです。
目の前の課題を片付けること、課題を見つけて対策を考えることとともに、構想を考えることは、官僚の重要な仕事です。

この記事では、その発案者である市川恵一・外務省北米局長(当時は総合政策局総務課長)が、取材に応じています。「現役の官僚が実名で取材に応じ、記事になるのは珍しいのではないか」と、この記事を教えてくれた人は付言していました。

黒江・元防衛次官の回顧談2

かつて紹介した「黒江・元防衛次官の回顧談」。市ヶ谷論壇で、その続きが始まりました。6月22日は「冷戦終結がもたらしたもの (上 )自衛隊の海外派遣」でした。

・・・8年目の役人と言えば防衛庁では若手の部員で、その頃までには役所の仕事の基本的な考え方を一通り身につけることとなります。
しかし、当時の私は「陸 自師団の特科 (砲兵)部 隊に配属されている榴弾砲は何 門か。それは何故か」とか「自衛隊は憲法上何が出来ないのか」あるいは「陸自部隊の駐屯地と分屯地の違いは何か」とかについてはスラスラ答えることが出来ましたが、戦略的な課題 については全く考えたことがありませんでした。

これはもちろん私 自身のセンスの問題ではありましたが、防衛庁の実務がなべて内向きだつたことも一因だつたように感じます。運用課 に勤務していた頃、出向先の外務省から帰つて来た先輩が「外務省は有事官庁だからなあ。それに比べて防衛庁は・・・」とばやくのを聞いたことがありました。外務省は、常に変化を続 ける国際情勢 にリアルタイムで対応 しなければなりません。また、経済官庁も日々動いている経済を相手に仕事をしています。

これに対し当時の防衛庁の仕事は、予算の獲得や 自衛 隊の行動などに対するネガティブチェック、あるいは国会で問題 とならないような無難な答弁作りなどが中心で、ダイナミズムに欠けるところがありました。このため、陰では政策や戦略に弱い「自衛 隊管理庁」などと椰楡されていました。
冷戦構造が維持されていて 自衛隊の対応が求められるような場面がほとんどなかつた時期 にはそうした仕事ぶりでも良かったのですが、ベルリンの壁が崩れた後はそれでは済まなくなつて行きました・・・

2021年5月27日日本記者クラブ資料、2

2021年5月27日に日本記者クラブで使った骨子を、載せておきます。その2です。「その1

Ⅱ 対策案
制度改正でなく、運用の問題
1 官僚は政策の専門家に
課題と政策案を提示し、大臣の方針に従って具体化するのが官僚の役割
(1)政策課題の整理
成熟社会日本の課題は何か
事務次官と局長は、今後(3年から5年)取り組むべき課題群と進むべき方向を提示する。それを基に、大臣、必要なら与党と議論。

(2)制度所管思想から、課題所管思想への転換
現行制度を守ることや「それは制度にありません」ではなく、社会の課題を拾い上げ、対策を考えることを任務へ
公共サービス提供(制度整備)と産業振興から、社会の課題解決へ。 生産者や提供者側支援から、生活者支援への転換を。格差、孤立、つまずいた人、自立できない人、定住外国人・・・
前衛の役割から、前衛と後衛の役割に。優等生を育てるとともに、困っている人の支援を。多様な意見の吸い上げ。
「生活者省」を作ってはどうか。

(3)専門家の採用と育成
これまで「何でもこなせる官僚」を育てた。政策の専門性を持った官僚は少ない。
より専門性を持った官僚に。人事や部局の縦割りは必要
短期間での人事異動の是正
法学系だけでなく各政策分野からの採用
(ITや会計の専門家は、民間から採用も可能)

2 幹部官僚の育成
(1)幹部と「一般職」の区別
国民はどのような官僚像を求めているのか。エリートか労働者か。
処遇とやりがい。長時間労働、魅力の無い職場。応募者の減少
企業幹部と比べ低い幹部官僚の処遇。民間からの採用ができない。
①「一般職」は、民間労働者と同じ待遇に
働き方改革の時代に、無定量の労働を求めるのは時代錯誤
②幹部官僚は、そのための育成が必要
専門政策分野を持ちつつ、広い視野と改革思考を育成する
官邸・国会などとの関係の訓練。内閣官房・内閣府での勤務経験
③内閣官僚の育成
官邸や内閣官房で、総理を支える官僚群の育成

(2)全体最適を考える幹部官僚を
発展途上時代は、部分最適(各部門を伸ばすこと)が全体最適に
成熟時代には、部分最適は全体最適にならない
大幅赤字予算、膨大な借金
政策の優先順位付けと、負担の配分が必要

(3)やってる感でなく、後世の評価を考える幹部官僚を
毎日忙しいが、それが国民のためになっているか。
現時点での国民の評価と、10年後の国民の評価
「あの時やっておくべきだった」とならないように、常に「10年後の説明」を念頭に、取り組むべき課題を整理

3 政と官の役割分担明確化
(1)大臣との役割分担
①あるべき姿
大臣=政策の優先付けと方向性の指示、決定、官僚機構の監督
官僚=政策課題の提示、大臣の指示に沿って立案、具体化と報告
双方の意思疎通と、大臣による決定と官僚による具体化
②官僚にやりがいを持たせる
「意見を聞いてもらえる」「任せてもらえる」「改革が実現する」「社会に役立つ」

(2)政策の大小の分別
①総理が取り組む政策、大臣が取り組む政策、官僚が取り組む政策の分別をして欲しい。
・経済財政諮問会議や安全保障会議で議論する案件
・総理が大臣に指示する案件
・大臣が官僚に指示する案件
②総理と大臣には、政策体系と優先順位を示して欲しい。
個別課題の前に、全体としてどちらを向いて仕事を進めるのか。「マニフェスト」の復活も

(3)諸外国、地方自治体も参考に
自治体の多くでは、「政と官」は問題にならず。

Ⅲ 論議の場が必要
これまで、本格的にこのような議論をしてこなかった。
単発の批判ではなく、改革に向けた議論の蓄積を
制度論でなく、運用論

1 国家行政や官僚のあり方について、議論の場がない
学会や政策共同体がない。地方行政との違い。
官僚が発言する場がない。
多くの各省各局の所管行政について、専門誌がある。しかし、国家行政全般については、見当たらない。

2 議論の蓄積を
官邸、内閣官房、各省について、概説書や解説書がない
制度解説はあっても、運用についての、事実や議論の蓄積がない
改革議論をする際にも、官僚育成をする際にも、その基礎がない

3 基礎資料の調査
先進各国は、政府が国家公務員全体の意識調査を行い、人事制度の検討をしている。また、集計データを公開している。
日本では、村松岐夫・京大教授がかつて実施されたが、中断。北村亘・阪大教授が再開。

(参考)
麻生総理の主な政策体系「私の目指す日本」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8731269/www.kantei.go.jp/jp/seisaku/aso/index.html
東日本大震災被災者支援本部の記録。政と官との役割分担例
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11125722/www.cao.go.jp/shien/index.html
北村亘教授「2019年官僚意識調査基礎集計」
https://researchmap.jp/read0210227/misc/25069932

(拙稿。行政と官僚のあり方に関して)
『省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか』(2001年、ぎょうせい)
『新地方自治入門-行政の現在と未来』(2003年10月、時事通信社)
連載「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年9月号から2008年10月号まで、未完
「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)
『東日本大震災 復興が日本を変える-行政・企業・NPOの未来のかたち』(2016年、ぎょうせい)
連載「公共を創る-新たな行政の役割」『地方行政』(時事通信社)に、2019年4月から連載中