カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

過去の分析と未来の創造と:官僚の限界

東京大学出版会のPR誌「UP」6月号に、原島博教授が「理系の人間から見ると、文系の先生は過去の分析が主で、過去から現在を見て、現在で止まっているように見える。未来のことはあまり語らない。一方、工学は、現在の部分は産業界がやっているで、工学部はいつも5年先、10年先の未来を考えていないと成り立たない」といった趣旨のことを話しておられます。
この文章を読んだときに、私は「これだ」と叫んでしまいました。社会科学系の学者さん(の多く)も、社会を分析をしておられるのに、なぜ現実に対し有用でないか。理由はこれだったんです。

官僚の多くにも、これが当てはまります。法律の解釈や、事象の解説は天下一品ですが、じゃあどうするのか、どう改革するのかになると、とたんに沈黙するのです。できあがった法律の解釈学に甘んじ、改革に対してはいろいろ理屈をこねては抵抗する。これでは、国民の支持は得られませんよね。「政治主導」「小泉改革」の「引き立て役」ですか。
「国庫補助金改革の中味」を官僚が決められず、地方団体に選んでもらう。そしてそれに対し、「地方団体の意見がまとまらないなら、改革は進めない」「お手並み拝見」などと、評論家みたいなことを言っている。これでは、官僚の存在理由はないです。

公務員制度改革

15日の朝日新聞で、辻陽明編集委員が「どうする縦割り行政」「公務員改革、経済界が仕切り直し提言」を解説しておられました。
公務員改革が、頓挫しています。「政府の改革が内容、手続きの両面で不評なのは、検討が変則的な形で始まったことが影響している」「事実上改革は棚上げされた。公務員制度改革の議論は、立て直しのめども立っていない」。
これに対し、経済界から、いくつも改革案が出ています。出井伸之経団連行革推進委員長と、西尾勝教授の意見が載っていました。
(問題は数より仕組み)
「骨太の方針2005」で、公務員総人件費削減が課題になっています。もちろん、財政再建のためにも、効率的な政府を実現するためにも、人件費削減は重要です。しかし、私は、量(単価と数)の問題より、質(仕組み)の問題の方が、大きな課題だと思っています(行革は、数を減らすことから、システムの改革に移っています。「省庁改革の現場から」p161)。
①部門間の「配転」がない
人数の問題も、単に一律に削減しても、良い結果は出ないでしょう。問題は、必要なところに増やしていない、不要となったところにたくさんいることです。社会の変化と仕事の見直しに、定数の見直しが追いついていないのです。
この問題は、地方自治体では、部門間配転でどんどん対応しています。霞が関ができていないのです(「新地方自治入門」p68,p290に少し書きました)。
②官僚のアウトカムの問題
公務員がよい成果を出していたら、数を減らそうとか単価を下げようという意見は、出てこないでしょう。国民の期待に応えていないから、官僚批判が続くのです。官僚は毎晩毎晩、遅くまで仕事をしています。しかしそれが、必ずしも国民の期待に応えていないのです。公共事業を続けることでは、国民は評価してくれません。
部分部分に特化し、業界の利益を優先し、全体像を作れない。事業間の優先順位の見直しができない。これが官僚制の、一番の欠点です(p290。提言・国家官僚養成行政の構造的課題)。
③改革の仕組みがない
官僚は、自らはこの見直しに、取り組めていません。そして、霞が関には、官僚制を考えるセクションがありません。専門家もいません(これが、今回の政府案とん挫の理由の一つです)。個々の官僚も、官僚組織全体でも、自己改革能力を欠いているのです。

官僚制

19日の日本経済新聞が「再編5年目・診断霞が関」で農水省を取り上げていました。「農水省消費・安全局消費・安全政策課長に着任した山田友紀子は、ちょっとしたカルチャーショックを受けた。山田は、国連食糧農業機関の専門官などを務めた食品安全の研究者。国際的には食品安全行政は専門家が担うのが当然なのに、日本にはほとんどいないことが分かったのだ」
「専門性」も、現在の官僚制の問題点です。専門家というと技官(技術系公務員)を思い浮かべますが、それだけではありません。福祉の専門家、教育の専門家、金融の専門家が必要でしょう。しかし現在ではそれらの多くは、法学部か経済学部を卒業した人が、職場で鍛えられて「専門家」になります。もちろん、最先端・高度な技術は外部の専門家を活用することで、官僚はそれを理解できる知識があればいいとも言えます。
しかし、多くの分野で法学官僚が中心を占めていることは、疑問です。

公務員改革

1日のこのページで、「指定管理者制度の公募は公務員の市場化テストである。職員が職場を失うことがある」と書きました。それに関連して、最近の公務員制度をめぐる話題から、いくつかを紹介します。
4月25日の朝日新聞他は、「鳥取県が2年連続で勤務成績が低かった職員のうち5人に自主退職を勧め、3人が退職した」と伝えていました。民間の人からは、「今までは何だったの」と疑問や質問が出るでしょう。かつて、授業を任せられない教員がたくさんいることが、ニュースになったことがあります。
24日の毎日新聞「発言席」では、松井孝治参議院議員が「官僚にも市場化テストを」を主張しておられました。19日には日本経済団体連合会が「さらなる行政改革の推進に向けて-国家公務員制度改革を中心に-」を発表しました。
渕上俊則(前)総務省人事・恩給局参事官が「公務員制度改革の動向を読む」を月刊『地方財務』(ぎょうせい)に連載中です。
多くの人が公務員改革を主張されます。しかし、議論がいっこうに進まないのは、関係者の間に共通理解がないからだと思います。それは、
①まず制度の現状が、十分明らかにされていないこと。制度と運用を解説した本ってないんです。公務員法の解説はありますが、私の言っているのは公務員制度の解説です。1種・2種・3種の職員が、職種別に何人採用され、どのように昇進し、どのように退職しているのか。配置転換や交流はどうなっているのかなどなど。
②百家争鳴だけど、それぞれ断片的で全体像を述べたものがないこと。
③公務員制度と運用の専門家がいないこと。これは霞が関にも学者にもいません。各省の人事課は、人事異動をしているだけです。給与の専門家はいますが。人事院は運用を行っていません。
④よって、議論が集約されないこと。
私も官僚論に関心を持ち、発言もしています。いつか、まとめたいのですが。制度と運用の現状(全体像)を書いた、良い資料がなくて困っています。(5月6日)
日本経済新聞「経済教室」は17日から「公務員改革」を連載しています。ただし、公務員制度の改革全体像ではなく、個別の問題についてです。

伝道師活動余話

かつてこのHPで、私の「副業」=地方財政の伝道師活動に関して、鎌田浩毅京大教授の文章を紹介しました。先生から、メールをいただきました。
鎌田先生は、「科学の伝道師」と名乗っておられるのです。先生の活動は、一般の方や小学生まで、出版物もたくさんです。私の活動とは、比較になりません。私の活動は、「同業者」「関係業界」相手が多いですから。
「自分の講演を録画して、講演術を自らを磨かれた」ことも、尊敬します。私も試みたことがあるのですが(といっても、自分では見たくないのに、撮ってくださる方も多いので)、とても見られたものではありません(反省)。