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行政-官僚論

北村亘先生「2019年官僚意識調査基礎集計」

北村 亘,・阪大教授たちが行っておられる、官僚意識調査の基礎集計がまとまりました。「2019年官僚意識調査基礎集計」『阪大法学 69(6) 』。インターネットで読むことができます。
今後、この数値を基に、分析が加えられます。既に北村先生は、NHKの取材に対し、活用しておられます「霞ヶ関のリアル 心身病む官僚たち

6ページに、結果が出ています。基礎的な問をいくつか紹介します。
1ここ2,3年で急激に業務料が増えているはかという問には、肯定する割合が74%です。
2業務量の増大に組織として対応できているかという問には、否定する割合が82%です。
6業務の高度化・複雑化に組織として対応できているかという問には、否定する割合が84%です。
客観的事実がどうかは別として、官僚たちは近年の変化を深刻に受け止めています。

この背景には、日本の公務員の人数の少なさがあります。3ページに載っている、世界各国の公務員の「業務量」比較をご覧ください。かつては、このことも日本の官僚の評価を高めたのですが。そして、行政が対応すべき社会の課題が変化したこと、あわせて政治主導への切り替えにまだ戸惑っていることが上げられます。

この調査は、このホームページでも紹介し、参加をお願いしました。参加くださった官僚たちに、お礼を言います。
そこでも書きましたが、各国では政府が行っています。次回は、内閣人事局が実施することを期待しています。もっとも、雇用主の調査と、外部の研究者の調査は、視点が異なるところもあります。その調整は必要です。この項続く

公務員の転職希望増加

3月15日の日経新聞が「転職希望の公務員が急増 外資やITへ流れる20代」を載せていました。
・・・公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある・・・

・・・公務員の年代別登録者数では、20代が同33%増の7244人と急増した。民間企業の中でも意思決定が速い外資系コンサルタントやITベンチャーに転職する例が多いという。
19年に中央官庁からITベンチャーに転職した30代女性は「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」と語る。有能な若手ほど現状の業務に疑問を感じている可能性が高い・・・

・・・「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」――。19年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。20~30代の職員の約半数が業務にやりがいを感じている半面、6割が「心身の健康に悪影響」、4割が「やめたいと思うことがある」と回答した。
総務省の働き方改革チームが18年にまとめたアンケートでも「モチベーション高く仕事ができている」との回答(「どちらかと言えばそう思う」を含む)が部長級以上で90%を超えたが、係長級では54%にとどまった。
慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。若手を中心に国会対応で長時間拘束されることや、電話対応などの雑務に時間を割かれることが長時間労働の原因となっている・・・

とても危機的、悲しい話です。後輩たちに、魅力ある職場を引き継げなかった私たちにも、責任があります。

心を病む官僚たち

NHKウエッブニュース「心身病む官僚たち」を紹介します。残念ながら、昔も今も、心の病を発する公務員が、ある程度います。近年は、かつてより増えているようです。
拙著『明るい公務員講座』でも、私の経験を元に、それを防ぐ方法を書きました。一人で悩まずに、誰かに相談すること。周囲の人が、早く気づいて相談に乗ることです。

北村亘・大阪大学教授が、次のように指摘しておられます。
「この2~3年での仕事の変化を尋ねたところ、『業務量が増えている』『複雑化、高度化している』という回答が全体の7割に上りました。確かに補正予算を組む回数も増えているし、社会課題も複雑化しています。また、大規模な災害も多くなっているのに、職員は減っているという事実があります。状況は厳しくなっていますね」
「さらに調査で注目すべきは、『社会のために犠牲を払う覚悟がある』と答える人が7割以上に上る一方で、『官僚の威信は低下している』という回答は全体の9割に上る点です。公共への奉仕に燃える職員は必死なのに報われず、社会的にも評価が低いと感じる官僚が多いのではないでしょうか」

この指摘には、私も納得します。調査結果によるグラフもついています。ご覧ください。

働き方改革、霞ヶ関の非常識

日経新聞は、1月28日から31日まで「働き方改革 霞ヶ関の非常識 識者に聞く」を連載しました。

28日の、元厚労省・千正康裕氏の発言から。
――現場の余裕がなくなっている理由は。
「一つは政策立案の速度が速まっていることだ。昔は2年後の国会提出を見越して法案の制度設計をすることができた。今は何か問題が起きたらすぐ法改正などが求められる。児童虐待の件数はここ10年間で増え続けており、児童虐待防止法は4年間で3回も改正された。常に法改正などの案件を抱え、現場も、現場を育成する立場の管理職も余裕がなくなっている」
「人材配置の問題もある。深夜の国会待機が当たり前の働き方では、子育て中の女性らを国会対応が忙しい部局に配置することが難しい。その結果、休まず働けて能力もある一部の職員に次から次へと仕事が集中する状況が続く。今の霞が関ではこうした中核人材が徐々に疲弊し、壊れ始めている。私も企画官になってから休職を経験したが、まさか自分がうつになるとは周りも自分も全く思わなかった」
「第一線で働いていた職員が精神疾患や家庭環境の悪化で厚生労働省を去り、若手も将来のキャリアを描けなくなっている」

29日の、弁護士・菅谷貴子氏の発言から。
――パワハラに耐えて昇進してきた幹部が重要ポストを占めており、組織が変わりにくい側面もあるのでは。
「50代前後の管理職世代は『お気の毒世代』だと思う。かつては仕事一筋の『モーレツ官僚』であることを求められ、管理職になったとたんにワーク・ライフ・バランスを重視する若手の育成や雑用に時間を割かれる。構造的に疲弊しているのは民間企業でも同じだ」
「生ぬるい指導では仕事にならないと思っている人は今も一定数いるだろう。パワハラが横行する職場でたたき上げられ、『あの時代があってこそ地位もスキルも得た』と思い込んでしまう。時代の流れにあわせ、人の育て方を学ぶことも重要なスキルだと伝えたい」

企業と役所の思考の違い、その2

千に三つ、役所と企業の違い」(9月8日)の続きです。このような企業と行政との思考の違いを、広げてみましょう(これもまた、下書きをしたまま、放置してありました)。

一つは公平な取扱いです。
企業の場合は、買ってくれる層を対象とします。買わない人は、相手にしません。しかし、役所の場合は公平原則で、対象となる人は全員平等に扱います。もっとも、企業であっても「公共的サービス」は、平等に扱うことが求められます。

時間についての、意識の差も出ます。
企業は、他の企業に先駆けて新しい商品やサービスを売ろうとするので、なるべく早く作るのが良いことです。完璧を期す必要はなく、やってみてダメだったらやめればよいのです。これに対し、役所の場合は税金で行うので、新しいサービスを作る際に検討することが多くなり、時間と手間がかかります。

もっとも、役所のすべての事業や仕事の進め方を、このような基本的条件の違いで説明することは問題でしょう。
「お役所仕事」という批判です。そこには、遅い、融通が利かないという指摘が含まれています。企業との違いを前提としつつも、そのような批判に説明できるように、しなければなりません。

あなたがやっている仕事について、それが正しいかどうか。その「試験」は、簡単です。あなたが、住民の立場に立ってみることです。
あなたBが申請者であって、市役所の担当者であるあなたAに向かって、「それはおかしいだろう」と言うようでは、あなたAの仕事ぶりは失格です。「公平原則」や「慎重な検討が必要なのです」は、言い逃れでしかありません。