カテゴリー別アーカイブ: 地方行政

地方行財政-地方行政

『領域を超えない民主主義』

砂原庸介著『領域を超えない民主主義 地方政治における競争と民意』(2022年11月、東京大学出版会)を紹介します。

「領域を超えない」という表題はやや難しいですが、著者による説明は「なぜ日本では大規模に合併をやったりしてるのに、自治体間の連携はなかなか進まないんだろう」という問いについての考察で、その理由を政治制度に求めています。
確かに指摘されるとおりで、合併のほかは一部事務組合が機能していますが、市町村間・都道府県間の協働・連携はさほど行われていません。災害時の応援くらいでしょうか。観光や企業誘致などはその性格上、競争の動きが目立つことは仕方ないとしても。

第1章で問題適されているように、人や企業が集積している都市圏と、市町村の区域とは合致していません。住民は市境・県境を超えて毎日通勤し、買い物に出かけていて、自治体の範囲を意識していないでしょう。奈良府民や千葉都民という言葉が、このズレを象徴しています。

これまでの地方自治論では、国と自治体との関係が主に議論されてきました。第一次分権改革を成し遂げたので、こんどは、自治体の能力発揮と、自治体間の関係が問題になります。
国と自治体との関係は「権限の配分」なので、法律の規定になじむのですが、自治体間の連携は法律の規定には、なじまないのでしょう。どのような課題に、どのような形で答えていくかが、これからの課題になるでしょう。

第2章で議論されているように、大都市(東京や政令指定都市)における、市と都府県との関係も問題です。二重行政をどのように少なくするか。大都市が独り立ちすると、例えば大阪府庁が大阪市を管轄しなくなり、象徴的には府庁舎が大阪市(と堺市)の外に移転することになります。

分権と市町村合併の次の課題として、小規模自治体の能力向上、大都市の自治の問題、県と市町村との関係などが挙げられますが、この本の問題提起も重要です。

国が自治体に策定を求める行政計画

8月9日の日経新聞に「計画策定に自治体悲鳴 分権改革会議、見直し議論へ」が載っていました。
・・・国が法令で自治体に策定を求める行政計画が増え、自治体から悲鳴が上がっている。全国知事会は「自治体の自由を縛る新たな形の関与だ」と指摘し、政府の「地方分権改革有識者会議」で見直しに向けた議論が本格的に始まった。国と地方を巡る分権改革の新しい課題だ。「計画漬け」にメスは入るだろうか・・・

内閣府によると、法律に計画策定が明記された条項数は2020年末で505もあるそうです。2010年時点では345だったので、この10年間に1.5倍になっています。
うち、義務づけが202、努力義務が87、できる規定が217です。できる規定は、つくるかどうかの判断を自治体に委ねているので問題なさそうですが、多くは計画を財政支援の条件にしていることと、自治体名が公表されるので、競わせることになります。

記事には、献血推進計画が取り上げられています。確かに、都道府県ができることには限りがあり、計画を作っても効果は疑問です。

安倍元首相の狙撃事件。県警警備の検証は

安倍元首相の狙撃事件で、県警の警備が十分ではなかったのではないかと、国家公安委員長が現場を視察し、警察庁で検証が始まっています。元首相が殺害されたので、国での検証は必要でしょう。

ところで、県警察は県公安委員会の下にあり、県の組織です。県議会にも出席します。奈良県や県議会、県公安委員会の対応も問われます。「奈良県の組織」「7月13日、県公安委員会臨時会議

アメリカでの小学校での銃の乱射事件では、警察の対応を州議会が検証しています。警察の指揮官のリーダーシップ欠如だと指摘しています。

情報通信技術による救急搬送の効率化

6月15日の朝日新聞に、「救急の時短・効率化、ICTでめざす 容体をタブレット入力→各病院に受け入れ一括要請」が載っていました。

・・・高齢化の急速な進行に伴い、搬送患者が増える救急医療現場で新たな情報通信技術(ICT)の導入を進める取り組みが本格化している。救急隊が患者を搬送する間、タブレット端末で病院と容体などの情報を共有し、病院到着後に迅速に治療を始められるようにする。急病の判別に活用するAI(人工知能)や、高速大容量回線を利用した検査画像の遠隔配信技術の開発も進み始めている。

119番通報で現場に到着した救急車の隊員が、患者の脈拍や血中の酸素濃度などの情報を手元のタブレット端末に音声入力していく。患者の情報やけがをした患部の写真をもとに、受け入れ可能と判断された救急病院がタブレット上に表示され、搬送先の医療機関が短時間で決まった。
千葉市消防局が2020年7月、本格的な運用を始めたのが、ICT(情報通信技術)を活用した新たな救急医療支援システムだ。
開発した「スマート119」(千葉市)が目指したのは、救急患者の搬送先がなかなか決まらない「たらい回し」の解決だ。119番通報による救急車の要請や指令の内容、患者の心肺情報、救急病院の受け入れ体制を、救急隊と医療機関、消防指令センターが端末を通じて共有。救急隊は患者の受け入れを各病院に一括要請できる。

従来、指令センターを通じた出動要請や、救急隊から各病院への受け入れ要請は、電話や無線を使った「アナログ・リレー方式」だった。搬送先が決まるまで救急隊が1件ずつ電話で呼吸や心拍などの情報を伝えて受け入れを求めていた。「電話では伝言ゲームのようになって全部の情報が病院に伝わらず、情報が制限されていた」と同社の最高経営責任者で千葉大大学院の中田孝明教授(救急集中治療医学)は話す。
病院にとっては患者の到着前により正確な情報を把握でき、事前に治療の準備を始めることで医療の質の向上にもつながる。山梨県東山梨消防本部で行ったシミュレーションでは、電話連絡に比べて搬送先が決まるまでにかかる時間が4分7秒短縮できたという・・・

NPOとの協働、地方の観光振興

4月9日の日経新聞「データで読む地域再生」は「観光資源、NPOと磨く 企業参入少ない自治体で」でした。

・・・地方の観光振興の支え手としてNPO法人の存在が重要になっている。人口あたりの観光NPOの数で全国最多の鹿児島県は旅行消費額の伸び率が全国平均の3倍だ。民間企業が採算面で参入しづらい地域で、独自の観光資源を磨きあげようとするNPOの知恵と熱意は、新型コロナウイルス禍で注目を集める「マイクロツーリズム(近場の旅行)」時代に生きてくる・・・

過疎地域で、自治体が非営利団体と連携しています。民間企業がない、あるいは参入してくれない地域では、非営利団体は力強い味方です。
私もかつてはそう思っていたのですが、非営利団体・NPOと聞くと、ボランティア活動から連想して無償で活動する団体と思ってしまいます。それは間違いで、「もうけを会員で配らない」という意味です。すなわち、企業と同じように料金を取り、もうけを出してよいのです。違いは、そのもうけを会員に配らず、次の事業に充てることです。こうしてみると、非営利団体と企業とは、活動においてほとんど同じです。

1995年に起きた阪神・淡路大震災が、ボランティア元年と呼ばれました。2011年に起きた東日本大震災では、個人ボランティアだけでなく、法人格を持った非営利団体が大活躍しました。政府もそれらと積極的に連携して、被災者支援や町の復興に取り組んでもらいました。彼らには熱意や技術があるのですが、資金と信用力がありません。そこを、政府が補ったのです。
かつては「市民団体」は行政の敵とは言わないまでも、別世界の人でした。多くの人がそう考えていたのではないでしょうか。
東日本大震災での行政と非営利団体との協働は、その後の手本になったと考えています。この記事にある観光だけでなく、すでに孤立防止、引きこもり対策、子供の貧困対策などで、非営利団体の力を借りています。