5月21日の朝日新聞オピニオン欄「「中道政治」の時代」、中島岳志・東京科学大学教授の「リスクと価値、新たな対立軸に」から。
――国民民主党など、「中道」とされる政党が支持されています。
「僕は中道という概念を積極的には使いません。中道は『右と左』という概念の中にありますが、もう右か左かの図式が成立しない時代で、中道の意味が非常にあいまいになっている」
「安倍晋三政権で、政治がかなり右に傾斜したといわれますが、当時でも自民党のコアな支持層は2割から3割しかいなかった。イデオロギーで支持している人は1割以下でしょう。一方、左派を支持している人はもっと少ない。右・左のイデオロギーから距離のある人が、中道支持に見えるのだろうと思います」
――なぜ「右と左」の図式が成り立たなくなったのでしょうか。
「この変化は、冷戦終結後、左派が崩壊していったことで起きたのでしょう。日本だけではなく、欧州でも『右派対左派』という二分法の枠組みが機能しなくなり、近年では『極中道』の政党が伸びている」
「政治の課題が変化し、右・左といった1本の対立軸で並べることができなくなっています。政策の立ち位置が違う政党を『中道』とくくってしまうのは、むしろ有害だと思います」
――どんな基準で政党を選べばいいのでしょうか。
「僕は、複数の対立軸が必要だと思っています。政治の大きな仕事のひとつはお金の配分です。配分の問題をめぐっては、リスクの個人化と社会化という対立軸があります」
「リスクの個人化とは、基本的には自己責任で、自分でリスクを取る。行政サービスは小さくするという考え方です。社会化は、いろいろなリスクを国民全体で負担する。当然、行政サービスは大きくなります。リスクへの姿勢で、政党の立ち位置を判断できます」
「もうひとつは、価値の問題をめぐる対立軸、リベラルとパターナル(父権的)の対立です。リベラルは個人の自由を尊重するのに対し、パターナルは力を持った人間が価値の問題にも介入していく。従来の『リベラルか保守か』や『右か左か』という図式より、こちらのほうが対立が明確になります」