日経新聞夕刊「人間発見」、7月7日は天野慎介・全国がん患者団体連合会理事長の「がん患者の声を届ける」でした。
・・・全国がん患者団体連合会(全がん連)の理事長、天野慎介さん(51)は2024年末から多忙を極めた。患者が支払う医療費の上限額を引き上げる高額療養費制度の見直し案を凍結させるためだ。患者の悲痛な声を国会議員などに届け続け、政府予算案は現行憲法下では初となる迷走の末に修正された。石破茂首相は「私の判断が間違いだった」として陳謝した・・・
・・・厚生労働省が社会保障審議会の医療保険部会に上限額引き上げを議題に上げたのは、年の瀬が迫る24年11月21日。毎週、部会を開いて12月12日までの1カ月足らず、たった4回の議論で、早ければ翌年夏から上限額を引き上げることで部会の了承を得ました。
厚労省が議論を急がせたのは、年明けに開会する通常国会に提出する25年度の政府予算案に医療費削減の柱として盛り込むためです。実際、12月25日に厚生労働相と財務相の閣僚折衝で、翌年8月から高額療養費の上限を順次引き上げることで合意しました。
「上限を引き上げると患者の自己負担が増える。政府予算案では、上限引き上げで国の支出(国費)が約1100億円減ると見込んだ。報道では、自己負担の限度額を年収に応じて高くして2.7〜15%上げ、平均的な年収となる約650万〜約770万円の世帯では限度額が最終的に月額約13万8千円となり、5万円余りも増えるとされた。」
具体的な引き上げ額は厚労省の部会では示されていませんでした。私たち全がん連では実際の影響が判明してから要望書を出すつもりでした。水面下で引き上げ額が決まっていく中、やむなく12月24日に政府に対して緊急の要望書を提出しました。
要望書では「高額療養費制度は治療を受けるうえでまさに命綱」などと訴えました。上限引き上げによって「生活が成り立たなくなる、あるいは治療の継続を断念しなければならなくなる患者とその家族が生じる可能性」を指摘し、引き上げの軽減と影響の緩和策の検討を求めました。
要望書は報道機関や記者にも送ったのですが、一部しか報道されませんでした。記者から「政府予算案が決まれば年明けの通常国会で修正されることはほぼない。もう決まっていることで、要望書の提出は遅すぎる」などという指摘も受けました。
「1月開会の通常国会では冒頭、石破首相が施政方針演説でも高額療養費制度の見直しに言及した。事実上、既定路線になったとみられる中、患者の悲痛な思いを訴えた。」
従来の常識から言えば、政府予算案を修正させることはほぼ無理です。しかし24年10月の衆院選挙で自民党と公明党の与党は過半数割れしていました。「もしかしたら扉を開くことはできるかもしれない」というかすかな望みにかけるしかありませんでした。
要望書に対して、与野党の国会議員もほぼ無反応でした。「政府の方針に逆らうのか」という批判もありました。それでも患者とその家族を守らなければなりません。
まず25年1月17日から3日間で緊急アンケートを実施し、患者の声を集めました。同24日からの通常国会で質問してくれる国会議員も出ました。やっと扉が開き出しましたが、3月の政府予算案修正まで長い道のりでした・・・