カテゴリーアーカイブ:著作と講演

連載「公共を創る」第195回

2024年8月8日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第195回「政府の役割の再定義ー官僚への信頼を取り戻すには」が、発行されました。

前回、幹部官僚には、必要な能力とともに、「志」と「やりがい」が重要だと説明しました。私が国家公務員になった頃(1978年)には、まだ官僚はエリートだという意識が社会にも官僚にもありました。しかし、1990年代の過剰接待事件を機に、官僚への信頼は地に落ち、戻っていません。また、エリートという言葉は死語になったようです。

かつて、官僚の失敗を聞かれ、私は3つの次元に分けて説明しました(2018年5月23日付け毎日新聞「論点 国家公務員の不祥事」)。
・官僚たちの仕事の仕方の問題
・個人の立ち居振る舞い
・国民の期待に応えているか、です。

1番目の問題と2番目の問題は、あってはならないことですが、いつの世でもどの組織でも起きる問題です。
それに対し3番目の問題は、構造的に取り組まなければなりません。私が考えるに、それは明治以来1世紀半ぶりの大転換です。その問題意識で、この連載を書いています。

連載「公共を創る」第194回

2024年8月1日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第194回「政府の役割の再定義ー幹部官僚に必要な能力と企業幹部との違い」が、発行されました。今回は、幹部官僚の役割と育成を考えるために、民間企業の幹部養成と比べてみます。

企業幹部は社長と取締役会、幹部公務員は首相と大臣という、組織の最高責任者の下で任務を果たして評価を受けます。組織の「幹部」という点で、共通するのです。共通しているのは、組織の維持とその組織が社会での役割を果たすという目的の下、「政策の立案や商品の開発」と、そのための「組織・職員管理」を任務としていることです。
このうち、後者の組織・職員管理は官と民とで大きな違いはないでしょう。一方、前者の政策立案においては、組織の目的の相違から、異なる部分があると考えられます。幹部官僚は、対象とする業務が公平性や公益性を求められる公共業務であることから、「目指すべき価値」「受ける制約」「必要とされる能力」に違いがあるのです。

「目指すべき価値」は、国民全体の福祉向上を考えること。「受ける制約」は、法律に従い、公平性が求められることなど。「必要とされる能力」は、その政策分野の専門家であること、 政策立案に際して実現可能性と与える影響を考えること、政策実現に際しては、内閣内や与党内での手続きを考えることなどです。
幹部官僚に必要な能力に、もう一つ重要なものがあります。政治的文脈を読むことです。幹部官僚が政策を考える際には、白地で考えるわけではありません。案件が社会で生まれた新しい課題であったり、大臣から下りてきた案件であったとしても、これまでの政府の政策体系や、大臣や内閣の政策選好との整合性を考える必要があります。これが、企業幹部から幹部官僚に転職した際に、最も困難な能力かもしれません。

その上で、それらの底には、「志」と「やりがい」の違いがあるのではないかと思います。

PHP総研フォーラム「官邸の作り方」出演

2024年7月30日   岡本全勝

今日7月30日は、PHP総研フォーラム「官邸の作り方ー総裁選を前に政治主導の未来を考えるー」に出演しました。オンライン形式です。とはいえ、前に人がいないと話しにくいので、牧原先生の研究室にお邪魔して、先生と向かい合わせで、話しました。私の後ろの書棚は、牧原先生の蔵書です。

牧原先生たちがまとめられた「官邸の作り方― 政治主導時代の政権運営―」について、意見を述べるのが私の役割でした。
首相に選ばれた政治家が、どのように主要な幹部を任命し、官邸を運営するか。重要な課題ですが、これまでは実務でも研究でも、あまり扱われてきませんでした。政権の引き継ぎについてもです。大臣と党幹部の任命については報道でも大きく扱われ、その評価がされます。それと比べると、扱いが小さいのです。しかし「誰がやっても同じ」ではなく、初動を誤ると政権への支持が低下します。
もちろん官邸の作り方は、首相の考え方に依存する面が多く、私の経験はその一つでしかありません。とはいえ、首相が代わっても共通する面があります。

私は特に、首席秘書官の重要性、首相の日程作りの重要性を指摘しました。首相にとって最も希少な資源は、時間です。忙しい首相が、どの案件にどれだけ時間を割くか。もちろん本人が判断するのですが、すべてを一人でやることは不可能です。首相の意を体して、事前のさばきをする必要があります。比較不能な価値に順位をつけるのです。日々生まれる案件を処理するだけでなく、首相を国民や報道機関の前にどのように「見せるか」も考える必要があります。

では、どのようにして首席秘書官を育成するか。これが難しいのです。
首相秘書官の育成について、書いたことがあります。「首相秘書官の現実と課題」(時事総合研究所・コメントライナー、2023年3月24日)。
話に出した「麻生内閣の政策体系」は、国立国会図書館に保管されています。

連載「公共を創る」第193回

2024年7月18日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第193回「政府の役割の再定義ー日本全体の中長期的な課題と対策の検討を」が、発行されました。前回から、幹部官僚に自らの所管範囲を超えて、広く日本の在り方を考えさせる方策を議論しています。

官邸主導によって、省益や局益優先を排除しなければなりません。ただ、長い間「省」という単位で政治と社会が動いてきたこともあって、この思想と慣習は根強いものがあります。そして、官僚が省益を超えた発想を持とうとしたときに、逆にその担当分野に押し込めてしまう仕組みができています。いわゆる政官財の三角形です。各省と利害を一致させていた官僚以外の集団が、官僚の変化の足を引っ張る役割をしてしまうという構造です。これは、官僚機構側の問題というより、政党側の問題です。

次に、広く日本の在り方を考える組織についてです。各省や各局は、内閣の事務を分担管理するための仕組みです。「分担」や「所管」という観念から、離れることはありません。すると広く日本全体を考えるためには、それら分担管理の上に全体を考える組織と機能が必要になります。
内閣官房には、内政担当と外政担当の2人の内閣官房副長官補が置かれ、内閣の重要政策に関する企画立案や総合調整を行っています。職員は各府省から集められます。そのような場で、職員は所属府省の垣根を越えて課題を与えられ、検討し、その結果に応じて各省を指導します。この経験は、育ってきた府省を超えて、広く日本を考える良い機会になります。ただしこれは、あくまで内閣官房副長官補の下での事務的な調整部局であり、政治家や各省大臣を含めて方針を打ち出す組織ではありません。
内閣官房は、各府省の所管を超えて広く政府の課題を考えますが、その課題は首相から下りてくることが多く、「何が取り組まれていない課題」か「どのような課題を取り上げるべきか」という発案機能は備えていないようです。

会社にあっては、社長の下に企画部門があります。それは、人事・組織管理部門や予算・会計部門と共に戦略を担う重要組織です。組織を動かす基本的要素は、情報、人、資金です。県庁や市役所でも同じで、首長の下に企画、人事、予算があります。ところが中央政府では、予算は大蔵省・財務省があり、組織管理は総務省行政管理局がありましたが、人事についてはかつてはほぼ各省に委ねられていて、近年ようやく内閣人事局がつくられました。しかし企画にあっては、全体を見る部門とそこで働くべき人材は、いまだないのです。

若手新聞記者への講義

2024年7月16日   岡本全勝

今年も、新聞社で若手記者への講師を務めました。今年は7月10日、11日、16日の3回に分けて話しました。内容は昨年と同じで、取材される側からの経験です。「2023年」「2023年その2

駆け出しの記者たちは、まずは全国の支局で取材中です。多くは警察署から始まり、市町村、県庁へと経験を積んで、本社に帰ってきます。取材先では十分に相手してもらえず、苦労しているようです。
そうでしょうね。公務員にとって、記者は「やっかいな相手」と思われている場合が多いです。よいことは宣伝してほしいのですが、取材を受けるとなると身構えます。
公務員の多くは、記者対応を教えてもらっていません。記者への講義とともに、公務員にも講義が必要です。まずは、「明るい公務員講座 管理職上級編」(仮称)に書かなければなりません。

記者の本分は、当局の発表を書き取って原稿にするのではなく、その背景を理解し、問題点などを質問して、解説することだと言いました。そして、講義の冒頭に「この講義の最後に質問の時間を取るので、そこであんたたちの能力を試す」と宣言しました。毎回、鋭い質問が出ました。