「著作と講演」カテゴリーアーカイブ

コメントライナー寄稿第22回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第22回「選挙投開票にも「働き方改革」を」が4月10日に配信され、15日にはiJAMPにも転載されました。
今年も夏に、参議院議員選挙が予定されています。現行制度では、投票時間は午後8時までと公職選挙法で定められています。これを午後5時までに繰り上げてはどうかと提案しました。

かつて投票時間は午後6時までだったのですが、投票率向上のため、1997年に午後8時までに延長されました。しかし、2003年に期日前投票制度が導入され、投票に行く自由度は広がりました。昨年の衆議院選挙では、投票者数のうち約4割が期日前投票でした。
現行制度でも、投票時間の繰り上げは、各選挙管理委員会の判断で可能です。昨年の衆議院選挙では、全投票所のうち繰り上げを行った投票所数は約4割にも上っています。投票日はたいてい日曜日です。わざわざ日曜の夜に投票に行かずとも、昼か期日前投票に行けばよいのです。

「個々の市町村の判断で投票時間を繰り上げればよい」との意見もあるでしょうが、難しいのが開票作業の繰り上げです。他の市町村で続いている投票に影響を与える恐れがあるので、法定の午後8時以前の開票作業の前倒しはしにくいのです。法改正をして、投票時間を一律に午後5時までとすると、夕方6時に開票作業を開始できます。

全国の投票所には約30万人、開票作業には約20万人が参加しているとのことです。これだけもの人を、日曜日夜に長く残業させることはやめましょう。働き方改革は、ここでも必要です。

連載「公共を創る」第219回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第219回「政府の役割の再定義ー政治主導を阻む全会一致の慣習」が、発行されました。

各府省が作った法案を国会に提出できないという不思議なことが起きます。異論があれば、国会で議論すればよいのですが、提出ができないのです。その原因は、前回まで説明した与党事前審査と共に、与党各機関での意思決定の際の全会一致という慣例です。

政治とは、意見の異なる者たちの間で、一定の結論を見いだす過程です。その際に、権威主義や独裁主義の体制では特定の者が結論を決めて押し付けるのに対し、民主主義では構成員が決定権を持つので、まずは議論を尽くして全員が納得するように努めます。しかし、議論しても一致しない場合は、永遠に先送りはできません。そこで、最後は多数決で決めるのが通常です。
民主主義は、それと融和性のある多数決原理と一揃いになることで、初めて実際に運用できる政治形態になるとも言えるのです。国会が、まさにそういう仕組みです。
与党内に異論があると、政府の法案が提出できない、国会審議には入れないことは、日本の政治にとって不幸なことであるだけでなく、行政の運営や、ひいては国民の生活にも悪影響を及ぼしているのではないでしょうか。

次に、官僚の抵抗です。自民党総裁である首相が、与党を従わせることができない、それによって改革を進めることができないことを説明してきました。自民党のような巨大な組織にも、構成員は平等であるというホラクラシーの原理が働くのです。これに対し、官僚は首相の部下ですから、ヒエラルキー原理の下、命令によって従わせることができるはずです。しかし、現実はそうは進みません。第216回で説明した三位一体の改革では、小泉純一郎首相が各省に「廃止し一般財源化すべき国庫補助金を提出するように」と指示したのに、各省は従わなかったのです。

ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが「職業としての政治」の中で「政治とは、情熱と判断力を駆使し、硬い板に力を込めてじわじわっと穴をくり貫いていく作業である」と述べたのは有名です。
意見の違いがある場合に、それを集約することが政治の役割です。全員が賛成している状況では、政治家は必要ありません。反対がある場合に、どのようにして正しいと考える政策を実現するか。そこに、政治家の力量が試されます。
日本は成熟社会になりました。かつてのような右肩上がりの財源の分配はできなくなり、他方で「豊かになる」という共通目標がなくなり国民の意見が多様になっています。国際社会では秩序が壊れ、安全への不安が高まっています。このような状況の中で、反対意見がある限り判断を先送りするという対応では、政治は機能せず、国民の支持も回復しないでしょう。

自民党・防災体制抜本的強化本部へ出席

今日、4月9日は自民党・防災体制抜本的強化本部に呼ばれて、話をしてきました。
防災庁をつくるに当たって考慮すべき点です。東日本大震災での被災者生活支援本部事務局と復興庁を立ち上げ、拡充・改組した経験を話しました。出席者は熱心に聞いてくださって、質問もたくさん出ました。

私が、強調したのは、次のようなことです。
1 哲学の変更=「国土の復旧」から「暮らしの再建」へ
施設の復旧だけでなく、被災者の生活の目線で。インフラ・住宅の再建だけでは、まちの暮らしは再建できない。産業・なりわいの再生とコミュニティの再建が必要。
人口減少下での、まちの暮らしの再建を考える必要がある。

2 防災庁の設計案=東日本大震災での経験を踏まえると、次のような部局構成にしてはどうか。
(1)内閣府防災部局の充実
(2)復興支援部局の創設=災害復興を支援する組織がない(復興庁では主たる業務)
(3)内閣府原子力防災担当、原子力被災者支援チーム=これらを単独で置くのではなく、防災庁に含める。
(4)復興庁の福島復興部門(将来)=復興庁の見直しの際に、防災庁への移管を検討する。

3 防災庁は窓口の一本化と司令塔機能を
・実働部隊はそれぞれに任せる
・すべてについて生え抜き養成は非効率、各省庁や非営利組織の専門を生かす
・自治体との連携と支援の強化
・大臣や幹部は最低2年以上在席を

自民党のホームページの記事

連載「公共を創る」第218回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第218回「政府の役割の再定義ー政策の大転換に必要な党内の支持確保」が、発行されました。

首相や各省が考えた政策が、与党の抵抗によって進まない場合があることを説明しています。その原因は、内閣の政策決定過程が政府に一元化されず、与党にも政策決定の仕組みがあり、与党事前審査を通る必要があるからです。
それを打破しようと挑戦したのが、小泉純一郎首相でした。「自民党をぶっ壊す」と唱えて総裁選に勝ち、それまでの自民党の政策を変える改革を進め、その際には党内の反対も押し切りました。経済財政諮問会議での議論と決定は、与党との調整なしに進められることが多かったのです。その頂点が、郵政民営化です。

このような政府・与党二元制や与党事前審査制度は、日本独特のようです。国会での審議を空洞化するような仕組みですから、議会制民主主義の思想からは理解しにくいでしょう。
この問題を解消するため、旧民主党は、政府・与党の一元化を目指しました。選挙や国会対策を指揮する幹事長と、政策責任者の政調会長を入閣させ、「政府・与党一元化」を目指しました。もっとも、すべてが実行されたわけではなく、また実行しても直ちに所期の効果を発揮したわけではありません。

各府省が作った法案を国会に提出できないことが起きる原因は、与党事前審査とともに、与党各機関での決定に全員の賛成を要するという「全会一致」という慣例です。

連載「公共を創る」第217回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第217回「政府の役割の再定義ー政治主導を阻む与党事前審査制度」が、発行されました。

政策を大転換するには、課題、解決方法、手順などについて関係者や国民の理解を得ることが必要です。その手法の一つとして、審議会や経済諮問会議などの合議体を使ってその議論の進捗や内容を公開していくことを説明しています。

大きな改革は、審議会での議論から始まり、その答申を受けての法律案作成、国会での審議、可決された後の施行と、実現までには時間がかかります。
地方分権改革は、国会での決議が1993年、地方分権推進委員会の発足が1995年、地方分権一括法の成立が1999年、その多くが施行されたのは2000年です。
1年程度の予算年度では実現しません。長期の内閣を通じて、あるいは複数内閣が交代しながら、改革が進められていきます。

政策の大転換に必要な手続き、その2は抵抗勢力を説得することです。
これまで政策転換が進まなかった理由に、官僚主導と与党の抵抗が挙げられます。まず、与党(議員)が首相(党総裁)の意向に従わず、改革が進まないとはどういうことか、から説明します。
政府(各府省)が法律案を準備しても、与党の反対で提出できないことが起きます。このようなことが起きるのは、内閣の政策決定過程が政府に一元化されず、与党にも政策決定の仕組みがあって、それを経てようやく内閣の決定となるからです。政府と与党が並立している二元制です。さらに「与党事前審査」が慣例として制度化され、与党内で党議拘束がかけられるからです。