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連載「公共を創る」第199回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第199回「政府の役割の再定義ー国民の不安・不満と政治意識」が、発行されました。

公務員に人が集まらないこと、優秀な若者が官僚を目指さないことを議論しています。
この連載「公共を創る」の主題は、行政の課題が大きく変化していること。それに日本の官僚制が追いついていないと考えられること。これに対する実務経験者としての私なりの解決策を提唱していくことです。ところが、実態は私の想定をはるかに超えて変化しています。連載中に議論の前提としていた実態が変わり、政策や制度を変える議論では対応しきれなくなっているようなのです。

例えば地方自治制度です。戦後、憲法によって地方自治が制度化され、社会の変化に沿って、制度改正を重ねてきました。ところが、住民が減少して、地域社会が維持できない地域が出ています。自治体の存続自体が危ぶまれる地域も出てきました。そうなると、自治制度論どころではありません。
もう一つは、いま議論しているこの公務員制度、そしてその実態です。職員が集まらないようでは、仕事は処理できません。長期間続けてきた行政改革で、国も地方も職員を減らしてきました。その影響で、現場が疲弊しています。その上に、定数通りの職員数が集まらないと、さらに現場は人が足りなくなります。それが、現実に起きているのです。このようなことは、数年前までは、人事院も各省人事課も、地方自治体の人事課も予想しなかったのではないでしょうか。
公務員の定数を議論するのではなく、定数が埋まらないことがこれからの行政管理の問題になると予想されます。

今回で「官僚の役割」を終えて、「政治の役割」の議論に入ります。官僚との関係では、政治主導のあり方が大きな論点です。国民の不安・不満は、行政だけではなく、政治にも向けられています。

『Public Administration in Japan 』に分担執筆

Public Administration in Japan』(2024年、Springer Palgrave Macmillan)が出版されました。私は、「第19章 Crisis Management」を分担しました。この本は、インターネットで読むこともできます。

国際行政学会が、各国の行政を紹介する本を出版するとのことで、すでにドイツが出版されています。日本では、縣・早稲田大学教授、稲継・早稲田大学教授、城山・東大教授が編者になって作られました。

前書きに、次のように書かれています
“Public Administration in Japan” was first edited and published in English in 1983 by TSUJI Kiyoaki, one of the most important founders of the discipline of Public Administration in Japan. No further monographs or edited volumes have been publicised in English since. Over the past 40 years, Japanese public administration has undergone considerable reform and modernisation in the areas of organisation, human resources, finance, and information in order to adapt to the diverse dynamics and changes in domestic, international, and global society. Therefore, this book is an attempt to describe and analyse the current situation of public administration in Japan by looking at the central and local levels of governmentGovernments in terms of institutional framework, internal structures, and external relations.

Considering more dynamic aspects,… crisis management in general, and a special case of Fukushima should be included in our discussions.

2年前に、稲継先生から執筆の依頼を受けました。「第20章 東日本大震災なら、書けますが」とお答えしたのですが、「危機管理について書ける人が見当たらないので」とのことでした。本格的な英語の論文を書くのは、初めてです。内容や表現なども、稲継先生の指導をもらって書きました。

政治学や行政学では近年まで、危機管理は対象とされていませんでした。戦後の日本では、台風を除き大きな自然災害は少なく、国際的にも平和でした。1990年代に入って、大規模自然災害が多発し、東アジアの国際緊張が高まり、さらにはパンデミックが襲いました。それに応じて、政府の対応も強化してきました。
近年は、行政学研究者も実務者も、危機管理について書くことが増えましたが、全体を見渡したよい文献がありません。私は自然災害対応は知見があるのですが、安全保障などは専門ではないので、後輩や知人の力を借りて(最新の資料をもらい、意見をもらい)書き上げました。もちろん日本語です。これを知人や関係者に読んでもらい、意見や指摘をもらって加筆しました。改めて、御礼を言います。
危機管理全般についてバランスよく書くのは、難しいです。もっといろいろと書きたかったのですが、分量の制限があるので、断念。このような書物の性格上、仕方ないですよね。

それを業者に英語に翻訳してもらったのですが、(専門外の人なのか)できばえがよくなく、稲継先生が手を入れてくださいました。息子も英語ができるので、目を通してもらいました。さらに出版社が、英語を母語とする人に見てもらって、ようやく完成しました。
最初の日本語原稿が完成したのが2022年秋ですから、それから2年もかかっています。その間に実態が変わった部分は、途中で加筆しました。

こんな立派な本に書かせてもらって、光栄です。ほかの執筆者は大学教授です。私は日本行政学会会員ではあるのですが。
少々値段が高いですが、日本の行政が世界にどのように紹介されているか関心のある方は、買ってください。本棚に飾ると、格好良いですよ(笑い)。『Public Administration in Japan』の右上から直接買うこともできます。「アマゾンで購入」
その2」に続く。

連載「公共を創る」目次8

目次7」から続く。「目次1」「目次2」「目次3「目次4」目次5」「目次6」「全体の構成」「執筆の趣旨」『地方行政』「日誌のページへ

9月19日 199政府の役割の再定義ー国民の不安・不満と政治意識
10月3日 200政府の役割の再定義ー官僚機構と「政府・与党」
10月10日 201政府の役割の再定義ー「官僚主導政治」の実態
10月17日 202政府の役割の再定義ー官僚主導の限界と国民意識の転換
11月7日 203政府の役割の再定義ー政治主導は成果を出しているか
11月14日 204政府の役割の再定義ーうまくいっていない「政治主導」
11月28日 205政府の役割の再定義ー「官邸主導」の問題点
12月5日 206政府の役割の再定義ー内閣の政策立案と「官邸主導」
12月12日 207政府の役割の再定義ー政策の優先順位付けと利害調整
12月26日 208政府の役割の再定義ー最低賃金、国民の負担と政治主導
(2025年)
1月9日 209政府の役割の再定義ー財政健全化と国民の負担
1月16日 210政府の役割の再定義ー大規模な財政支出とその財源
1月23日 211政府の役割の再定義ー恒例化している大型補正予算
2月6日 212政府の役割の再定義ー
2月20日 213政府の役割の再定義ー
2月27日 214政府の役割の再定義ー
3月6日 215政府の役割の再定義ー
3月13日 216政府の役割の再定義ー
3月27日 217政府の役割の再定義ー

連載「公共を創る」第198回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第198回「政府の役割の再定義ー官僚という職業を選んでもらうために」が、発行されました。

若者が公務員を選ばず、国でも地方自治体でも公務員が不足していることを議論しています。
役所はこれまで、人事政策を重要視しておらず、人事政策の専門家がいなかったと評価しました(第170回)。もちろん人事課長以下の人事担当者はいました。しかし、彼らの仕事は人事異動表を作成することが主で、職員の処遇や働き方の改善には積極的に取り組んでいたとは言えません。

土木、保健などに従事する職員について企業との奪い合いが起こっており、処遇が理由で官庁より企業が選択されることが起こっているようです。特に業務の電子化に関する専門家は、民間企業でも国際的に奪い合いになっているほどで、公務員として提示できる給与では太刀打ちできないのです。
外部委託にする方法もありますが、その仕事に通じた職員がいないと、発注と完成検査ができず、相手の言いなりになってしまいます。清掃や印刷など労力が主な仕事は、外注に向いています。しかし、業務の電子化は、プログラムを書くことは外注できても、何をどのように電子化するかの判断は、組織の業務に精通してなければできません。

公務員を若者に選んでもらえる職業にしなければなりません。しかしその問題の前に、日本全体の労働力不足があるのです。

コメントライナー寄稿第19回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第19回「行政改革と縮み思考から卒業を」が9月10日に配信され、iJAMPにも転載されました。

歴代内閣は、行政改革に取り組んできました。中曽根行革では国鉄の分割民営化、橋本行革では中央省庁改革、小泉行革では郵政民営化や規制改革など。現内閣も「政改革推進本部」を設置しています。しかし、現在の行政改革は、何を目的として行われるのでしょうか。国民も「小さな政府」や「身を切る改革」といった言葉を支持します。その中身はなんでしょうか。

1990年代には、経済停滞からの脱却のために、企業は事業の縮小や従業員数と給与の削減を進めました。ところが、その目的を達したのに、引き続き縮小を続けたのです。それでは消費も拡大せず、経済も社会も発展しません。一方、政府も予算と職員の削減を続け、社会に生まれてきていた新しい課題に取り組むことができませんでした。

やがて「縮小の思考」は社会の通念となり、企業や役所が新事業へ挑戦することや、新しい政策を企画することをためらわせました。30年間も続くと、現在の企業や役所の幹部は、入社・入庁以来、挑戦や成長を経験したことがないのです。それが、経済停滞と社会の不安を長引かせたのです。
この間に、一人あたり国民所得は経済開発協力機構加盟38カ国中21位に落ち、アメリカの3分の1、ドイツの2分の1になってしまいました。

ようやく物価、給与、株価が上昇し始めました。成長のためには、政府も行政改革を卒業し、国民に向かって縮み思考から脱却することを宣言すべきです。