カテゴリーアーカイブ:社会の見方

無関心と消極性

2024年10月6日   岡本全勝

私は、現在の日本社会の大きな問題は、無関心と消極性ではないかと考えています。
連載「公共を創る」(第30回)では、私たちが社会で暮らしていく際に必要な、「装置や環境」「財産」を、社会的共通資本として整理しました。自然資本(自然環境)、施設資本(いわゆる社会資本、インフラ)、制度資本(各種サービス)、関係資本(ソーシャル・キャピタル)、文化資本(気風や助け合い精神、民主主義を支える精神など)です。そのうちの関係資本と文化資本が弱くなっているのです。

まず、他者への無関心についてです。
イギリス旅行中に、地下鉄に乗ったときのことです。座席は埋まっていたのですが、私たち夫婦が乗り込むと、勤め人と思われる若い男性と若い女性が、すぐに立ち上がって席を譲ってくれました。「そんな年寄りではないんだけどな」と思いつつ、「ありがとう」と言って座りました。
帰ってきて、羽田空港第3ターミナル駅から京浜急行に乗りました。前駅の羽田空港第1第2ターミナル駅から乗ってきた客で混んでいました。旅行鞄を引きながら私たちが乗り込むと、大きな旅行鞄を前にして座っていたアジアからきたと思われる若い観光客2人が、すぐに席を譲ってくれました。これまた「ありがとう」と言って、座りました。
品川駅で、山手線に乗り換えました。誰も、席を譲ってくれませんでした。

先日、小学校5年生の孫娘が、足にケガをしました。松葉杖をついて、母親と一緒に登下校しています。ある朝、通勤時に一緒になったのですが、丸ノ内線では誰も孫に席を譲ってくれません。
座っている人たちは、居眠りをしているか、スマホを操作しているか、ゲームをしています。まったく周囲に、関心がありません。目を上げた際に、松葉杖の子どもがいることを見ている人もいるのでしょうが、無関心です。日本人は親切だとか、おもてなしと言いますが、とてもそうとは思えません。

安心安全な日本社会をつくったのは、他者への思いやりであり、共助の精神です。この関係資本が弱くなると、安心安全な社会は壊れます。続く

共働き世帯が専業主婦の3倍に

2024年10月6日   岡本全勝

9月18日の日経新聞に「共働き世帯1200万超、専業主婦の3倍に 制度追いつかず」が載っていました。この30年間に、暮らしの形は大きく変わっています。それが、連載「公共を創る」の主題でもあります。

夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。保育所の増設や育児休業の拡充など環境整備が進み、仕事と家庭を両立しやすくなってきたことが背景にある。ただ、社会保障や税の制度には専業主婦を前提にしたものがなお多く、時代に合わせた改革が急務となる。
男女雇用機会均等法が成立した1985年時点で専業主婦は936万世帯で、共働きの718万世帯を上回っていた。90年代に逆転し、2023年までに専業主婦世帯は6割減り、共働きは7割増えた。

23年の15〜64歳の女性の就業率は73.3%に達し、この10年で10.9ポイント伸びた。男性の就業率は84.3%で伸びは3.5ポイントにとどまる。
働く女性が増えた背景には、男女雇用機会均等法が施行され、男女ともに長く仕事を続けるという価値観が一般的に広がったことが挙げられる。同時に保育所の整備やテレワークの普及といった仕事と家庭を両立しやすい環境づくりも進展した。「人手不足のなかで、企業が女性の採用・つなぎとめを進めている」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)といった側面もある。

働きの女性の働き方では、週34時間以下の短時間労働が5割超を占める。25歳以上の妻で見ると、どの年代でも短時間が多い。年収は100万円台が最多で、100万円未満がその次に多い。
短時間労働が多い理由の一つに、「昭和型」の社会保障や税の仕組みがいまだに残っていることがある。
例えば、配偶者年金があげられる。会社員らの配偶者は年収106万円未満といった要件を満たせば、年金の保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる。第3号被保険者制度と呼ばれる。
第3号被保険者の保険料はフルタイムの共働き夫婦や独身者を含めた厚生年金の加入者全体で負担している。専業主婦(主夫)を優遇する仕組みとも言え、「働き控え」を招くと指摘されている。

会社員の健康保険に関しても、保険料を納める会社員が養っている配偶者らを扶養家族として保障している。専業主婦(主夫)を扶養している場合は1人分の保険料で2人とも健康保険を使えるようになっている。
配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は減少傾向にある。23年は事業所の49.1%で、18年と比べて6.1ポイント下がった。
税制にも配偶者控除があり、給与収入が一定額以下であれば、税の軽減を受けられる。「働き過ぎない方が得だ」といった考えが残る要因とも言える。共働きが主流となり、各業界で人手不足が深刻さを増すなか、制度の見直しは欠かせない。
夫婦が働きながら育児に取り組むためには、企業の長時間労働の是正や学童保育の受け皿の拡大なども急がれる。官民をあげた取り組みが不可欠となる。

雇用格差対策や職場改革に取り組む労働組合

2024年10月4日   岡本全勝

9月19日の日経新聞に「UAゼンセン、労組で一人勝ち 「非正規」代弁し存在感」が載っていました。

・・・流通・サービス業などの労働組合でつくるUAゼンセンの拡大が続いている。18日に公表した組合員数は約190万人と約10年で3割増えた。非正規の働き手の組織化が進んだほか働き方改善などにも取り組んだことが奏功した。正社員の賃上げに活動の軸を据え続ける主要な産業別労働組合(産別)の退潮が続くなか、存在感は高まる一方だ・・・

・・・UAゼンセンは12年、繊維産業などの労組でつくるUIゼンセン同盟と、小売業などの労組でつくるサービス・流通連合が統合して発足した。2位の自動車総連の約80万人を引き離し、国内最大の産別だ。
日本の労組の組合員数は1994年の1269万人をピークに減少に転じ、2023年には993万人にまで減った。過去10年間、約40の主要産別の7割で組合員が減り、電機連合や情報労連など、1割以上減らした組織も少なくない。そのなかで、UAゼンセンは発足以来、組合員数を約50万人増やし一人勝ちしている状態だ。

躍進の理由の一つが、パートやアルバイトなど非正規の働き手の取り込みに成功してきたことにある。日本の労組は伝統的に終身雇用の正社員が中心だ。国内全組合員に占める非正規の比率は14%(23年)にとどまり、「正社員クラブ」とやゆされることもある。UAゼンセンは非正規組合員の比率は6割超、過去1年に加入した組合員では9割を占める。
ここ20年余り、生産年齢人口の減少が加速するなか、多くの企業が女性やシニアなど短時間労働の働き手を増やした。とりわけ「非正規の基幹化」が進んだのがUAゼンセンの中核を占める小売業や飲食業だ。「職場の正社員比率が低下するなか、『数の力』を強化するため、短時間労働者の組合員化が不可欠になった」(松浦会長)
このため発足当初から「雇用形態間格差の是正」を掲げ、加盟労組に非正規を組合員化する労働協約の改定を促した。UAゼンセンの都道府県支部ごとに目標を設け、地方企業での労組結成も後押しした。昨秋以降もヨークベニマルなどで数千人規模の非正規が組合員となり、串カツ田中などでは新たな労組が誕生した。
23年秋以降、約1万7千人の非正規を組合員に加えたスギ薬局ユニオンでは、原則、正社員に限定していた積み立て有給休暇制度などの対象を非正規に拡大。小沢政道中央執行委員長は「短時間従業員の不満を把握し解消することで離職防止にもつながる」と強調する。

UAゼンセンのもう一つの特徴は賃金交渉以外の活動の広さだ。伝統的に日本の労組の最大の役割は春の賃上げ交渉にあったが、2000年代にはデフレの長期化などで主要企業の労組はベア要求を凍結。13年に政府が企業に賃上げを要請した「官製春闘」でベアは復活したが、要求水準は依然として低く、「労組不要論」すらささやかれた。
UAゼンセンはこの間、職場のジェンダー平等や育児・介護の両立支援など総合的な労働条件の改善に交渉の範囲を広げ、19年には他産別に先立ち、デジタル化などに対応したリスキリング(学び直し)も労使交渉のテーマに掲げた。
今年は小売業などの現場で深刻化する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策にも力を入れ、顧客の迷惑行為に直面した従業員向けの相談窓口の整備や専門研修の実施を経営側に求める。賃金だけでなく働き手の多様な悩みに対応することが、労組の存在価値を高め、さらなる組合員の獲得につながる好循環が生まれている・・・

街頭犯罪は20年で8割減

2024年10月2日   岡本全勝

9月13日の日経新聞「交番「24時間体制」転換 街守り150年、人員配置見直し」から。

・・・警察庁は原則24時間体制だった交番・駐在所の運用を見直す方針を決めた。交番は3交代制、駐在所は住み込みが中心だったが夜間は無人となる日勤制を認める。犯罪の舞台が街頭からインターネットへと移行するなか、効率的な人材配置が必要と判断した。治安を守る要として長年機能してきた地域警察活動の転換点になる。
警察庁は交番や駐在所について定める「地域警察運営規則」を13日に改正する。各交番・駐在所の具体的な見直し策は都道府県警が検討する。
改正規則は交番・駐在所について、必要がある場合にはいずれも日勤制の地域警察官により運用できるとした。地域の状況や人出に応じて、ワゴン車による移動式交番や警察官が一定期間常駐する臨時交番を開設できるとする規定も盛り込んだ。
交番は1874年に警察官が交代で立つ「交番所」が東京にできたのが始まりで、1880年代に24時間体制になったとされる。パトロールや落とし物の受理といった業務に加え、事件が起きれば現場に急行し初動捜査も担う。2024年4月時点で全国に交番は6215カ所、駐在所は5923カ所ある・・・

・・・見直しの背景には犯罪情勢の変化がある。23年の刑法犯認知件数は約70万件で、戦後最多だった02年(約285万件)と比べ7割超減った。なかでも地域警察官が警戒するひったくりや車上狙いといった街頭犯罪は02年から8割減の約24万件に抑え込んだ。
一方、近年は特殊詐欺やSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺、サイバー犯罪といったインターネットや電話を通じた犯罪が増えている。各警察では摘発に向けこうした犯罪に対応する部門の陣容を強化している・・・

アジアでの人材争奪戦

2024年10月1日   岡本全勝

9月12日の日経新聞「サムスン、「ベトナムのMIT」から年400人 厚待遇で」から。

・・・東南アジア諸国連合(ASEAN)で人材争奪戦が激しさを増す。高い成長率に加え、米中対立を背景に供給網の再構築先として東南アジアにグローバル企業が注目。事業拡大を目指して厚待遇で攻勢をかけている。リクルーティングやリテンション(つなぎ留め)の最前線を追った。

ベトナムの首都ハノイ市北西部に、大規模なマンション開発が進むエリアがある。韓国資本が流れ込み、建設現場を囲うフェンスには同国企業の名前が目立つ。
サムスン電子は2022年、この一角に研究開発(R&D)センターを開いた。世界12カ国の拠点と連携し、人工知能(AI)やロボティクスの研究者ら約2500人が働く。目立つのは、デニムやTシャツ姿の若者たち。全国から集った俊英たちの会話には、ベトナム各地の方言が飛び交っていた。
「服装は自由で、いつ働いて、いつ休んでもいい。だから入社したんだ」。トゥンさん(仮名)は同国最高峰のハノイ国家大学で情報工学を学び、R&Dセンターに入った。月収1400万ドン(約8万円)は高給ではないが、手厚いもてなしで研究に集中させてくれる職場が気に入っている。
「グローバル企業だけに、世界の先端技術に触れる機会が多い。専門分野の実務経験を積めて、キャリアパスも明確だ」。理系大学の最難関で「ベトナムのMIT(マサチューセッツ工科大学)」と言えるハノイ工科大学機械工学部のブー・トアン・タン教授はサムスンをこう評価する。
サムスンは同大から年300〜400人の卒業生を採用するという。青田買いにも熱心だ。ある大学では修士課程を対象に半導体の専門知識や韓国語を教え、卒業後はサムスンの即戦力に組み込む優遇策も始めた・・・

・・・東南アジアでは管理職に就くと給料が跳ね上がる傾向がある。人事コンサルティング大手のマーサージャパン(東京・港)によれば、部長職の年収(23年10月時点)は日本の場合が約1920万円。各国で定義は異なるが、ベトナム(約2450万円)などに比べても見劣りする。
「海外では管理職を任せられる優秀な人材の流動性が大きい」と同社の伊藤実和子プリンシパルは語る。優れた社員が集まらなければ日系企業の競争力や現地での存在感が低下しかねない・・・

各国の部長職の年収が、図で示されています。アメリカが30万ドル超、シンガポールが29万ドル程度、中国が22万ドル程度、タイ・ベトナムが17万ドル程度。日本は14万ドル程度です。