カテゴリー別アーカイブ: 社会の見方

SNS年齢制限

11月12日の日経新聞に「SNS利用 16歳未満禁止 豪、法案提出へ」が載っていました。

・・・各国でSNSの使用に年齢制限を設ける動きが広がっている。オーストラリアは近く国家として初めて16歳未満のSNS利用を禁止する法案を提出する。英国や米国の一部州でも議論されている。暴力的な動画などの有害なコンテンツやいじめから未成年者を保護する狙いがある。

「SNSが豪州の若者に悪影響を及ぼしている状況を終わりにする」。豪州のアルバニージー首相は8日開いた記者会見でそう意気込んだ。同日、各州の州首相と連絡会議を開き、全土での16歳未満のSNS禁止に合意した。
月内の議会に法案を提出し、上下両院での早期可決を目指す。可決から1年間の猶予期間を経て施行される。実現すれば、国レベルでSNSに年齢制限を設ける初の事例となる。
対象となるサービスは動画投稿アプリのTikTokやX(旧ツイッター)、フェイスブックなど広範囲に及ぶ。担当閣僚はYouTubeも対象になる可能性があると指摘した。豪規制当局の「eセーフティー委員会」により「低リスク」と見なされたサービスは禁止対象から外れる。

16歳未満の使用を防ぐ措置を講じる義務はIT(情報技術)企業に課せられる。保護者や子供はルールを破っても罰せられることはない。
世論は改革を支持している。英調査会社ユーガブが8月に約1500人の豪州人を対象に行った調査によると、61%が「17歳未満に対するSNSを禁止すべきだ」と答えた。79%は規制当局がSNSのコンテンツ削除を命じる権限を持つべきだと回答した。
規制強化に動くのは豪州だけではない。米国では南部フロリダ州知事が3月、同州で14歳未満のSNS利用を禁止する法案に署名した。14〜15歳の利用も保護者の許可が必要になる。2025年1月に発効する見通しだ・・・

渡部佳延著『知の歴史』

渡部佳延著『知の歴史:哲学と科学で読む138億年』(2023年、現代書館)を本屋で見つけて、読みました。西洋哲学史の概説書です。文字以前の時代も扱われていますが、主に古代ギリシャから現代までの哲学者を取り上げています。

これだけのものを一人の方が書かれたとは、驚きです。ある哲学者を詳しく紹介することはたぶん時間があればできるのでしょうが、これまでの西洋哲学を作ってきた著名な学者を網羅し、簡潔に紹介することはかなりの読書量と分析力、労力が必要だったでしょう。著者は学者ではなく、「講談社選書メチエ」や「講談社学術文庫」の編集長をなさった方です。

西洋哲学史の入門書として、良い本だと思います。私が次に読みたいのは、「史」ではなく、「哲学概観」です。
古代西洋哲学から自然科学が分離独立して、壮大な自然科学大系を作りました。数学、物理、化学、天文学、地学、生物学、医学・・・と。もちろんこれらも「史」はあるのですが、現代人は「史」を学ばなくても、それぞれの分野の概要、現在たどり着いた知識の全貌を知ることができます。

社会科学にあっても、経済学、法学、社会学などは「史」を知らなくても、現時点での知識の概要を知ることができます。ところが、哲学の概要書はほとんどが「史」であって、現時点での到達点をわかりやすく示してくれないのです。
門外漢には、哲学の「知図」が欲しいのです。それがないと、一般人は哲学について会話が成り立ちません。

103万円は幻の壁?

11月12日の朝日新聞「103万円は幻の壁? 年収の壁、専門家の見方は」から。
・・・国民民主党が訴える「103万円の壁」対策に注目が集まっている。税金がかかる「最低限の年収」のラインを引き上げることで減税し、働く人たちの手取りを増やすというものだ。政府・与党も検討に入ったが、実は「103万円は壁ではない」との指摘もある。既婚女性の「年収の壁」について分析した東京大学の近藤絢子教授(労働経済学)に聞いた。
―103万円にはどんな意味がありますか。
「パートやアルバイトで働く人たちにとって、年収103万円を超えると、所得税の課税が始まります。ただ、税負担が増えるといっても大きくはありません。年収が104万円になったとしたら、増えた分の1万円に税率5%をかけた年500円が納税額です」

―手取りは減る?
「主婦のパートタイマーの手取りは世帯でみても減りません。にもかかわらず、2021年までの住民税のデータを分析したところ、年収が103万円に収まるよう働く時間を調整している既婚女性が多いのです」

―なぜですか。
「データを見ると(社会保険の加入が必要になる)130万円で調整している人もいます。ただ、その手前の103万円の方が圧倒的に多い。それは、ある種の誤解かもしれません。パートで働く妻の年収が103万円以内だと、夫が税の優遇措置である配偶者控除(38万円)を受けられます。103万円を超すと税制上の扶養を外れますが、年収150万円までは配偶者特別控除という名前で同じ額(38万円)の控除が受けられる。150万円を超えると夫の優遇額が少しずつ減り、201万円を超えると優遇がなくなります。それがあまり理解されていないのかもしれません」

―配偶者として受けられる税の優遇でみれば、「150万円の壁」になったと。
「そうです。103万円はいわば『意識の壁』で、『幻の壁』ともいえるかもしれません」

自衛隊発足70年

11月13日の関西学院大学シンポジウム「霞ヶ関は今」、黒江哲郎・元防衛次官の講演で、印象に残ったことがあります。私の受け止めであって、黒江次官の発言を正確に引用しているわけではありません。

1 自衛隊が1954年に発足して、今年で70年です。黒江次官の説明では、その半分35年の折り返しは、1989年です。この年はベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が事実上終わった年です。これは、私にとって大いにびっくりでした。それから35年も経っているということです。
私が自治大臣秘書官の時に、竹内行夫総理秘書官(後の外務次官、最高裁判事)から「全勝君は、戦後の日本を二つに分けるとしたら、いつと思うか」と質問されて、「そりゃ、1973年の石油危機でしょう。ここで日本の高度成長が終わったのですから」と答えました。竹内先輩は「そうか、僕にとっては60年安保だよ」と言って、その趣旨を説明してくださいました。この話は、連載「公共を創る」第184回に書きました。
自衛隊70年は戦後79年とは異なりますが、戦後の日本の歩みを考える際の一つの物差しとなります。

2 もう一つは、黒江次官が防衛庁に入った頃は、所管法令が3つだけだったそうです。防衛庁設置法、自衛隊法、給与法です。組織法しかなかったのです。
これは、自衛隊の置かれた状況を反映しています。一言で言うと、自衛隊は「動かない組織」「動けない組織」だったのです。外交安全保障で何か事件が起きても、防衛庁・自衛隊の出番はありませんでした。
ソ連が崩壊し、東西冷戦が終わりました。世界に平和が訪れたら良かったのですが、重しがなくなった世界は、各地で紛争が勃発するようになりました。さらに軍隊ではないテロが頻発するようになりました。日本も「一国平和主義」を続けることができなくなり、世界の平和維持に責任を担わなければならなくなりました。

防衛庁・自衛隊に出番が回ってきたのです。この劇的な変化は、黒江次官の著書『防衛事務次官冷や汗日記』に赤裸々に書かれています。そして、防衛庁は防衛省になり、所管法令(作用法)が激増します。「防衛省所管法令」特に有事法制です。
日本の経済や政治行政にとっては「失われた30年」と総括されますが、安全保障については、「転換の30年」でした。このことは、拙稿「Crisis Management」(『Public Administration in Japan』所収)でも書きました。

幸福度の底は48.3歳

11月2日の日経新聞に「「幸福度の底」は48.3歳 日本も」が載っていました。いろいろな要因が分析されています。ここでは、その一部を紹介します。

・・・「48.3歳」が近年注目されている。世界各国で年齢と幸福度の関係を調べた研究で、48歳前後が幸福の底になることが分かった。日本では就職氷河期世代に当たるが、幸福度はやはり低いのだろうか。

米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が145カ国のデータから幸福度と年齢の関係を分析したところ、幸福度はU字型の曲線で推移し谷底の平均年齢は48.3歳だった。
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2024」からも、40〜64歳のミドル層の生活満足度の低さが明らかだ。20年は40〜64歳と39歳以下の差は0.03だったが、24年には0.32に広がった。ミドル男性は「家計と資産」「子育てのしやすさ」の満足度が23年から低下した。

子育てが大変なのだろうか。「残酷すぎる幸せとお金の経済学」を書いた拓殖大学教授の佐藤一磨さんによれば、13歳以上の子がいると既婚女性の生活満足度は低くなる。子宝とはいえ、子どもも数が多いと負に作用する。お金がかかることや夫婦関係の不満が背景にある。
20年国勢調査では当時40代だった夫婦の8割が子持ちだ。人口動態調査を遡って父母の平均第1子出産年齢を調べると、現在48歳の女性は2005年前後に29歳で、男性は07年前後に31歳で、第1子が産まれていた。子どもはいま17〜19歳で、母親の幸福度が下がる年代と重なる。
この分析では父親のデータはないが、一般に男性の方が幸福度は低く出る。中でも35〜49歳の子持ち男性の幸福度は2000〜10年代に低下したという。「共働き増加で家事・育児負担が男性にものしかかるようになった。男性が大黒柱という考えもまだあり板挟みになっている」と佐藤さんは分析する。
一方で、配偶者の有無別で見ると最も幸福度が低いのは独身男性だ。20年の国勢調査によれば現在48歳の男性の未婚率は調査時点で27%。10歳上の21%から増加していることも見逃せない・・・

・・・苦労を重ねてきた世代に希望はないのだろうか。
幸福学を研究する慶応義塾大学教授の前野隆司さんによれば、勉強のように自分を成長させる活動は幸福度を上げる。意外なことに、学ぶ人の幸福度は旅行や芸術鑑賞に熱中する人と同じくらい高いという。前野さんはさらに高齢期に向けた幸福の条件として、複数の人間的なつながりを持っていることも挙げた。
内閣府の20年度の国際比較調査では、日本の単身高齢者は調査した4カ国中「人との会話がほとんどない」が最多の25%だった。生きがいを「あまり感じていない」「まったく感じていない」も計29%で最も多く、孤独・孤立対策が政策課題にもなっている・・・