カテゴリーアーカイブ:社会の見方

日本人がつくった社会通念・時間厳守

2026年2月6日   岡本全勝

「日本人がつくった社会通念・ゴミを捨てない」の続きです。

日本社会は時間に正確です。鉄道は数分遅れただけでお詫びの放送を繰り返し、学校や会社では少しでも遅れると叱られます。これも明治以降のことのようです。
幕末に、長崎海軍伝習所教官として海軍教育を行ったオランダ人のウィレム・カッテンディーケ(後に海軍大臣)は、著書「長崎海軍伝習所の日々」(原著1860年。1964年、平凡社東洋文庫)で、「日本人の性癖」について具体事例を挙げて「日本人の悠長さといったら呆れるくらいだ」と嘆いています。

江戸時代はお寺の鐘が時刻を伝えていて、それも日の出から日の入りまでを6等分する不定時法ですから、分単位どころか一時間の観念はなかったのでしょう。街や家には、時計はなかったのです。明治時代になって、鉄道が定時運行することに始まり、学校や会社での時刻厳守に従っているうちに、時間に正確な国民性ができあがりました。

日本人の時間意識の変化については、橋本毅彦・栗山茂久編著「遅刻の誕生:近代日本における時間意識の形成」(2001年、三元社)、織田一朗著「日本人はいつからせっかちになったか」 (1997年、PHP新書)があります。「かつて日本人は時間にルーズだった」も。

成沢光著「現代日本の社会秩序: 歴史的起源を求めて」(1997年、岩波書店)は、時間観念のほか、集団行動(整列、行列、号令)、空間(整理・整頓、清潔)、身体(健康、清潔、姿勢、動作)、人間関係(上下関係)などの日本的と言われる社会秩序が、明治維新後の近代化・西欧化の過程で、わずか30年ほどで形成されたと指摘しています。
西欧起源とともに、武家社会から引き継いだもの、禅宗寺院から引き継いだものもあると考察しています。

 

ブルーカラーの賃上げ

2026年2月6日   岡本全勝

1月11日の日経新聞に「ブルーカラー賃上げ格差」が載っていました。
・・・専門スキルを持つ現業職「ブルーワーカー」で賃上げの勢いに格差が出ている。2024年の所定内給与を20年と比較すると、タクシー運転手は4割増える一方で、板金従事者など減少する職種もあった。海外では能力次第で厚待遇を得られる現業職を見直す動きがあるが、スキル可視化が不十分な日本では盛り上がりに欠ける。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査で所定内給与を比較した。伸び率が顕著なのが「タクシー運転者」で40%増えた。とび職・鉄筋工・型枠工など「建設軀体工事従事者」は18%増え、事務職を含む全体平均(7%増)の伸びを上回った。一方で警備員(3%増)や板金従事者(1%減)は平均を下回った。
都内で働く30代のタクシー運転手は25年8月、不動産営業から転職した。タクシー運転手の知人が月収100万円近いと聞き、歩合制で高収入を得られることに魅力を感じた。勤務間インターバルの確保など労働時間規制が厳しく1カ月の半分程度しか勤務できないが、「すでに前職の倍近い収入を得ている」という。
タクシー運転手の環境は新型コロナウイルス禍を経て大きく変わった。コロナ収束後の外国人観光客の急増で需要が拡大して人手不足が加速。歩合制を取り入れるタクシー会社では努力次第で高収入を得られる。東京タクシーセンター(東京・江東)によると、都内法人ドライバーの平均年齢はコロナ前に比べて2歳若返った。

ブルーワーカーはスキルが認められれば高収入を得やすいとあって海外で見直し機運が高まっている。日本でも建設工事現場で働くとび職や鉄筋工、型枠工など一部の技能職で賃金が上がり始めたが、タクシー運転手などを除いて人材流出に歯止めがかからない。違いは入職後に持続的に高年収を得られる「夢」を描きにくいことだ。
その理由として、建設現場の現業職で構成する全国建設労働組合総連合(全建総連)の松葉晋平・技術対策部長は「能力の可視化が遅れていることが大きい」と見る。職人自身が自分の持つスキルの市場価値が分からず、適正賃金が見定められない。

海外の賃金制度に詳しい青山学院大大学院の須田敏子教授は「英国やマイスター制度のあるドイツは職業資格が細かく可視化され、賃金に自然とひも付く。日本は職業資格が未発達でスキルの可視化ができておらず、交渉力もうまれない」と指摘する・・・
・・・欧米では未経験者の育成体制も整っている。米国の技能者養成システム「アプレンティスシップ制度」に詳しい筑波大学の藤田晃之教授は「高卒以上の未経験者が長期間かけて、有給でスキルを身につけられるため入職しやすい」と解説する。
肝は複数会社を渡り歩く実地訓練で全米共通のスキルを身につけられることだ。「育成を担う企業には能力評価の透明性があり、その評価は他社でも通用する」(藤田氏)。不透明でその企業内でしか通用しない日本の能力評価とは全く異なる。
ブルーワーカーの賃金上昇率は米国の方が高い。米労働統計局によると、大工の年収中央値は24年に5万9310ドル(936万円)で20年比20%増。日本の所定内給与(12%増の月額30万1200円)の伸び率を上回る・・・

日本人がつくった社会通念・ゴミを捨てない

2026年2月4日   岡本全勝

夏目漱石の有名な小説「三四郎」は、三四郎が京都から名古屋に列車で向かう場面から始まります。周りの乗客を観察しながら、駅で買った弁当を食べます。そして次の文章に続きます。
「この時三四郎はからになった弁当の折を力いっぱいに窓からほうり出した。」
この小説が新聞に連載されたのは1909年(明治42年)、まだ100年少し前の話です。

私が子どもの頃は、食べ終わった駅弁の空箱は、列車の座席の下に捨てました。車内清掃が効率的にできるように、そのように指導したとの説もあります。

2025年5月2日の朝日新聞「写真館 since1904」「あふれるごみ ポイ捨て、今は昔」に次のように書かれています。
・・・日本はかつて「ごみの国」だった。
そう書きたくなるような写真の数々だ。海水浴場や動物園、観光地に向かう列車内はごみであふれ、東京の川はごみ捨て場と化した。今ではポイ捨てを禁止する条例が各地にでき、道端のごみにも目を光らせる。時代は変わり、清潔が正義になった。5月3日は「ごみの日」・・・
そして、1969年の神奈川県鎌倉市の材木座海岸、1952年文化の日の東京・上野動物園、1968年の国鉄房総東線急行列車車内、1950年の東京・銀座などの風景写真が載っています。いずれも、びっくりするくらいのゴミであふれています。

日本人が公共の場でゴミを捨てなくなったのは、まだ最近のことなのです。

統治への不信

2026年2月2日   岡本全勝

1月10日の朝日新聞オピニオン欄は、「共振する政治と民意」でした。
・・・いま、日本社会を様々な「不安」が覆っています。なぜ不安なのか、不安が何をもたらすのか。多様な角度から考えるシリーズを始めます。初回は「不安と政治」。不安が政治をどう動かし、政治にどう利用されているのかを、心理学や社会学の視点から探ります・・・

池田謙一・同志社大学教授の「統治に不信、いらだちは標的求め」から。
―日本政治を、人々の「統治の不安」という視点から読み解いていますね。
「『統治の不安』は、約60カ国を対象とした世界価値観調査から見えてきたものです。国が背負っている様々なリスク、具体的には戦争に巻き込まれる、テロが起きる、失業する、子どもが十分な教育を受けられない心配などについて聞くと、日本人は、客観的なデータに比べて不安の度合いがずっと高い。内戦の可能性まで心配しているという結果が出ています」
「この不安はどこから来るのか。政治学でいう『感情温度計』で、政党に対する『温かさ』を0度から100度までで答えてもらうと、日本ではどの政党の平均値も50度以下です。ポジティブな気持ちで選べる政党がない。さらに、『拒否政党』が多いのが特徴です。支持したくない政党はあるかと聞くと、与党から野党まで多くの政党が挙げられる。統治を担う政府や政党、公的機関が信頼できないという『統治の不安』が強くあり、政治に影響していると考えています」

―どう影響しているのでしょうか。
「典型的なのが、新型コロナ禍での社会心理です。15カ国のデータを比較すると、日本人のコロナへの恐怖感は目立って高く、政府の感染対策に対する評価がきわめて低かった。日本より桁違いに死亡率が高かったブラジルと同じくらい、政府への強い不満や不信感が見られました」
「政治不信は、『政治とカネ』のようなものが原因とよく言われますが、『統治の不安』はもっと漠然としたものです。ターゲットが定まっていないので、誰かが『敵は○○だ』とスケープゴートを作り出すと、我先に殺到する。最近では財務省解体デモや『外国人問題』が一例です」

―「統治の不安」に、社会としてどう対処すべきでしょうか。
「不安を利用しようとする政党や政治勢力のターゲット設定は、ほとんどの場合、明確な根拠がありません。メディアは、ファクトチェックなどでそこを指摘すべきです。ターゲットを作らせないのが重要です」
「また、政治に選択肢があって、自分の意思を託せる政党があれば、不安は軽減されるのではないかと考えています。今年から3年間にわたって、15カ国ほどで国際比較データをとって、この仮説を検証しようとしています」

―それで、「統治の不安」は解消されますか。
「究極的には、政治や政党、公的なものへの信頼を再建していくしかありません。1990年代の政治改革では二大政党制が目指されましたが、失敗だったと思う人が増えている。どんな制度なら政党政治への信頼が回復できるのかを考える時期かもしれません」
「政府が統治能力を示す必要もあります。日本は、政治の『成功体験』が長いことありません。国民全体がある程度認められるような成功体験があれば、政治や政党への信頼を高められるかもしれない。そうでないと、『統治の不安』が増幅して、政治がさらに不安定になるでしょう」

日本人、労働時間も生産性も低く

2026年2月1日   岡本全勝

1月6日の日経新聞「日本人は働いていないのか 時間は減少、生産性も低水準」から。

・・・厚生労働省の毎月勤労統計は1人あたりの所定内と所定外を合わせた「総実労働時間」を公表している。1990年時点では年平均2064時間、月平均172時間だったが、30年余りたった2024年時点だと年平均1643時間、月平均で136.9時間と当時から2割減っている。
背景にあるのはパート社員の増加だ。毎勤統計ではフルタイムで働く正社員より所定労働時間が短い人をパート社員としている。パートは実数も比率も右肩上がりで、比率は90年の12%が24年は30%台をつけている。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏の試算によれば、労働時間が減った最大の要因は正社員から時短のパート社員への置き換わりだ。残業時間の上限が法定化した19年以降は正社員、パートのいずれも労働時間の減り幅が大きくなっている。

海外に比べても日本の労働時間は短い。経済協力開発機構(OECD)によると、日本は90年から24年にかけて20%減ったのに対し、米国は同じ間に4%の減少にとどまる。24年で比べれば、米国の方が日本より1割ほど長い時間働いている。

働く時間が短くても効率良く高い生産性で働いていれば問題ない。だが効率の落ち込みも日本は深刻だ。日本生産性本部の「時間あたり労働生産性」をみると、米国の4位に対し、日本は年々順位を落とし28位と主要7カ国(G7)で最下位だ・・・