カテゴリーアーカイブ:社会の見方

政府による産業支援、新しい展開

2026年3月4日   岡本全勝

2月18日の日経新聞「資本騒乱・誰のための市場か3」「半導体、巨費投じる国家事業に 民間や海外とのリスク分担が成否握る」から。

・・・ラピダスは半導体専門家の有志が22年8月に設立した。日本の半導体再興という国策の中核を担い、既に2兆円に迫る国費が投じられた。経産省主導で民間資金を集め、30社以上から1600億円超の出資を見込む。3メガバンクは最大2兆円を融資する意向を示す。

「過去の失敗を繰り返さない」。経産省で商務情報政策局長を務める野原諭は、25年12月に都内での半導体の国際展示会に登壇して力説した。野原は半導体政策を4年以上指揮する。局長級のポストは1〜2年の交代が通例のなか、異例の人事が敷かれている。
日本の半導体産業は1980年代後半に世界シェア50%を誇った。90年代以降縮んで今は1割を切る。
国費の投入は失敗を重ねてきた。国内電機各社の半導体部門が統合したエルピーダメモリは日本政府が支援に二の足を踏む中で2012年に経営破綻に追い込まれた。同じ時期、台湾や韓国、中国は大規模な補助金や税優遇で半導体企業を育てシェアを広げた。ジャパンディスプレイや三菱スペースジェット(旧MRJ)も同様だ。

経産省は21年に半導体衰退の要因を分析して、ビジネスモデル転換の遅れや日の丸自前主義など5つを挙げた。全体として「政府として半導体が戦略物資であるという認識が甘く、支援が足りていなかった」(幹部)と振り返る。
分析を踏まえ、同年に半導体政策を転換した。場当たり的対応から転じ「国家事業として主体的に進めることが必要」と位置づける・・・

福井ひとし氏の公文書徘徊10

2026年3月3日   岡本全勝

アジア時報』2月号に、福井ひとし氏の連載「一片の冰心、玉壺にありや?―公文書界隈を徘徊する」第10回「雪のむら消え(上)―文官たちの「二・二六」」が載りました。
1936(昭和11)年2月26日早朝に、陸軍青年将校らが、兵を率いて、首相官邸などを襲いました。今から90年前です。でも、私の生まれる20年ほど前のことだったのですね。大昔のことと、思っていました。

今回の記事は、襲われた内閣側にいた官僚たちの動向を、公文書から追っています。
内閣官房総務課長は、首相官邸敷地内の官舎で、事件を知ります。しかし身動きが取れないので、電話で要路と連絡を取ります。岡田啓介首相は生きていたのですが、それを公表すると、反乱部隊に再度襲撃される恐れがあります。首相が不在では閣議が開けないので、代理を指名する必要があります。首相が生きているのに、もう一人の首相を立てなければなりません。法形式はどのようにするのか。
警察幹部も大変です。陸軍の反乱に対し、警視庁は何をするべきか。陸軍との役割分担が、問題になります。警視庁建物は反乱軍に包囲されているので、幹部は近くの警察署に集まって、対応を協議します。
ほかの省庁は、どのようにしたか。当事者は命がけですが、今から読むとなかなか興味深いです。それにしても、よくまあ、こんな題材を思いつきますね。

私は大学3年生の時に、岡義達先生の政治学ゼミを取り、『西園寺公と政局』(全9巻)を読んでレポートを書きました。半年かけた、当時としては力作です。本棚に、本とレポートが残っています。その頃は、戦前の政治をかなり勉強して、政治家の名前なども覚えたのですが、今はすっかり忘れています。

川北英隆先生の海外山歩き

2026年3月2日   岡本全勝

このホームページでも時々紹介している、川北英隆先生のブログ。しばらく更新が途絶えていたら、アフリカに行っておられたのですね。
タンザニアだそうです。先生の体験記なので、テレビ番組とは違った楽しみがあります。

近年では、チベット(2025年)、パタゴニア(2024年)も。私は絶対行かないであろう場所や山です。

寛容でルール重視の若者たち、自民党支持

2026年3月2日   岡本全勝

2月17日の朝日新聞「寛容でルール重視の若者たち リベラル自認層の票、自民に流れた一因か 社会学者・仁平典宏東大教授に聞く」から。

―朝日新聞と大阪大の三浦麻子教授によるネット調査では、リベラルを自認する10~30代の投票先は自民党が34%で最多となり、最大野党・中道改革連合は1割足らずとの結果でした

若者の間でリベラルな意識は定着しています。首都圏の中学校に通う生徒約2千人を対象に民主主義やルールへの意識調査をしていますが顕著です。調査に際し、「民主主義志向」や「寛容性」をリベラルな価値観、「権威主義」や「国家主義」「排外主義」を保守的な価値観の構成要素としましたが、例えば「ルールはみんなの話し合いで決めたほうがいい」という「民主主義志向」に(1)まああてはまる(2)とてもあてはまる、と回答した生徒は2018年の91・2%から25年には96%と高水準で推移しています。「考え方が違う人も受け入れることができる」という「寛容性」には、(1)(2)合計で85・8%(18年)から91・6%(25年)に増えました。

―意識の高さの背景に何がありますか

暗記より意欲を重視した1990年代の「新しい学力観」や17年の「主体的・対話的で深い学び」、さらに不登校児を守る教育機会確保法に至るまで、個や対話を尊重する改革が進みました。「お花畑」と揶揄された戦後教育学の理念が、ある程度実装されたわけです。子どもへの体罰やハラスメントも許容されない方向に変わっていますよね。

―ならば、高市政権以降、右傾化したとされる自民党が支持される理由は?

「ルール厳格性」の高まりが関係しています。調査では「ルールを守らない人は厳しく罰するべきだ」との問いに、(1)(2)合わせた割合が、59%(18年)から79・3%(25年)に急増しました。さらに、自分の考えよりも先生や先輩の指示に従うべきだという「権威主義」、国を愛することは大切だと思うという「国家主義」を肯定する傾向も22年ごろから強まっています。

―なぜこんなことが起きるのでしょうか

民主的なルールづくりを重視することは「ルールを守れないやつは許せない」と考えることと矛盾しません。色々な考え方があってもいいけれどルールは守れよという厳格さは、集団全体の方向に従う権威主義や国家主義的な価値観を強めている可能性があります。
さらに、状況は変化しています。以前の調査では、民主主義志向や寛容性が高いタイプの子は、それに準じる層も含めて排外主義の傾向は低かった。しかし昨年の調査では「日本に住む外国人が増えると社会にとって良いことが多い」という質問への否定的な回答が増えたのです。民主主義志向や寛容性が浸透しても、排外主義が高まる十分な歯止めにはならない可能性が見えてきました。

科学研究での英語の壁

2026年2月28日   岡本全勝

2月15日の日経新聞に「科学研究を阻む英語の壁 母国語以外、論文却下が2倍超」が載っていました。
・・・英語はビジネスを中心に世界で広く使われているが、苦手だと感じる人も少なくない。実は科学研究でも英語が大きな壁だ。複数の調査を通じて英語が母語ではない研究者の論文は学術誌に掲載を却下される頻度が2倍以上高く、作成にかかる時間も最大で5割長いと分かった。科学の発展を阻む恐れもある言葉の障壁にどう向き合うべきか。

研究者の母語が英語でないと、論文の出版数が最大で7割も減る――。オーストラリアのクイーンズランド大学が2025年に発表した内容は、国や地域を問わない科学研究の公平さに疑問を投げかけた。論文を科学誌「プロス・バイオロジー」に掲載した。
日本を含む8カ国で約900人の研究者を調べた。そのうちのバングラデシュやネパールなど英語圏以外の発展途上国の女性が書いた査読付きの英語論文は1人あたり平均で約7本で、同24本程度の英国の男性に比べて7割も少なかった。それぞれが研究者になって約20年後の時点で比べた。

なぜこんな不均衡が生じるのか。研究をまとめたクイーンズランド大の天野達也准教授は「非英語圏の科学者は英語の論文を書くのに不利なことが理由の一つだ」と解説する。
英語は科学の「共通語」だ。世界で科学分野の出版物は98%が英語で書かれているともいわれる。また天野准教授が生物学の700以上の学術誌を調べたところ、英語以外で書いた論文を発表できるのは21年末時点で46誌(6%)だけだった。非英語圏の研究者も英語で論文を書かないと業績をあげにくい・・・

・・・天野准教授は23年、英語圏以外の研究者は英語の論文を却下される頻度が2.5倍程度も高いという研究を発表した。英国やスペインなど8カ国で初めて英語の論文を発表するなどした若手同士を比べた。論文が受理された場合も英語の表記などを直す頻度は12.5倍に達した。
英語の論文を読み書きするのにも苦労がいる。この研究によると、日本やスペインなどの研究者は英語圏の人々に比べて最大で5〜9割程度余分に時間がかかった。台湾出身で英語を使う苦労をインターネットで発信している米グーグルのアンドリュー・チャン氏は「英語の意味を正確に理解し、円滑に表現するのは大変だ」と話す。
いくつかの研究が示す英語の壁は科学の進歩を阻む恐れもある。天野准教授は非英語圏の研究者が十分に活躍すれば「人材が多様になり、新たな発見や気候変動などの解決策の提案につながる」と話す。言葉の障壁が高いままだと研究者が能力を発揮できずに、科学の発見や知見が生まれにくくなるかもしれない。

壁を取り払うためにはどうすればいいのか。人工知能(AI)は英語の論文を読み解いたり、母語を英訳したりするのに役立つ。天野准教授の論文の共著者である米スタンフォード大学のバレリア・ラミレス・カスタネダ氏は「AIの登場で英語論文を書く手間などを大幅に省けた」と話す。同氏は南米コロンビア出身で母語がスペイン語だ。
英国の生態学会はAIを使って英語の論文を無償で校閲するサービスを提供している。こうした取り組みが広がれば、英語圏以外の研究者が活躍する場が増えそうだ・・・