カテゴリーアーカイブ:社会の見方

転職しない日本の労働者

2022年9月17日   岡本全勝

9月7日の日経新聞「労働移動先進国の半分 生産性向上を妨げ」から。

厚生労働省は6日、転職や再就職などをテーマとした2022年の労働経済の分析(労働経済白書)を公表した。日本の労働移動の活発さは経済協力開発機構(OECD)平均の半分にとどまっていると分析した。生産性向上や賃金上昇に向け、働く会社や仕事内容を柔軟に変えることができる環境が大事だと訴えた。

国際的にみても、日本の労働移動は鈍い。新たに失業した人と再就職した人の合計が生産年齢人口に占める割合は日本が01年から19年の平均で0.7%と、OECD平均1.5%の半分程度だ。「失業プールへの流入出率」と呼ばれるこの指標は、労働移動の活発さを推し量る目安のひとつで、日本は低い水準が続いている。
日本は失業者が少ないため、同指標は低めに出やすい。雇用が安定しているというメリットがあるが、デメリットもある。白書は、この労働移動の活発さと技術進歩などを示す全要素生産性(TFP)の伸びを各国比較したところ「弱い正の相関がある」と分析した。労働移動が活発だと「企業から企業への技術移転や会社組織の活性化につながり、生産性向上にも資する可能性がある」と指摘した。

日本は勤続年数が10年以上の雇用者が45.9%と30%前後の米英などに比べ多く、同じ会社で長く働く。白書によると、特に役職のある男性が転職などに慎重だった。係長級の男性は37.7%が転職を希望するが、実際に転職活動をしている人は13.1%。2年以内に転職した人が11.3%にとどまった。課長級も、希望者35.0%に対し活動者が12.2%、2年内の転職者が13.3%だ。
終身雇用を前提とした人事制度では、中途採用者の社内でのキャリアパスが明確でないケースも多い。転職に踏み切っても新しい職場で能力が生かせなかったり、賃金が減ったりするリスクもある。
労働移動を促す手段の一つが学び直しだが、取り組みは広がっていない。職業能力を自発的に開発する自己啓発をしている人は男性正社員で20年度に43.7%と12年度の50.7%から減少した。女性正社員も41.1%から36.7%に減った。取り組めない理由は男女とも「仕事が忙しい」が多く、また「家事・育児が忙しい」と回答する女性も目立った。「費用がかかりすぎる」といった理由を挙げる人も男女ともにみられた。白書は「企業が費用面の支援や就業時間の配慮をしている場合、自己啓発をしている社員の割合が高い」として企業による支援の重要性を指摘した。

デジタルスクリーン症候群

2022年9月15日   岡本全勝

9月6日の読売新聞、米国の精神科医ビクトリア・ダンクリー氏への取材「パソコン、スマホ 見過ぎ弊害 デジタルスクリーン症候群 変調や集中力低下」から。

パソコンやスマホを見る時間(スクリーンタイム)が長過ぎると心身に様々な変調が現れる。これを「デジタルスクリーン症候群」と名付けた米国の精神科医、ビクトリア・ダンクリー氏(52)に、学校のICT化や教科書のデジタル化の影響を聞いた。

——子供がパソコンやスマホといったデジタルスクリーンを見過ぎるとどうなるのか。
「神経が過度に刺激され、常に興奮し疲れた状態になり、いらいらしたり、注意力散漫になったりする。受動的なテレビ視聴よりもゲームなど双方向の時により顕著だ。脳科学的には、言語や感情をつかさどる前頭葉への血流が減り、生理学的にはストレスホルモンが増えるためと考えられる」
「解決方法はスクリーン断ちで画面からの刺激を除去することに尽きる」

「米国では、ICT化が進んだ学校でも小学校高学年になるまでデジタル端末を持たせない学校もある。IT企業などが集まるシリコンバレーでは、住民がICTの弊害をよく知っており、多くの親が我が子をICT化の進んだハイテクな学校ではなく『ローテク』な学校に通わせている」

——教科書のデジタル化はどうみるか。
「米国ではうまくいかず紙の教科書に戻した学校が多い。通信環境のトラブルや機器の故障への対応などで費用が高くなっている。内容も更新されず、多くが古いままで、必要な訂正も行われていない」
「紙の方がスクリーンより速く読め、理解が深まり定着も良いなど、紙の良さを示す研究はたくさんある。仮に学習効果が同じでも、スクリーンを見過ぎると子供に睡眠不足や過覚醒など様々な問題を引き起こす」

——子供たちは早いうちからICTに慣れるべきでは。
「パソコンは使いやすいように設計されており、障害のある子供も読み書きよりもはるかに簡単に習得できる。高校や大学に進学してから学べば十分に間に合う」
「親はスクリーンが脳に与える影響について正しい知識を持つと同時に、小さい頃からICTに触れなくても、我が子が人生で取り残されることはないと信じることだ」

「東京暮らしは身分が上」意識2

2022年9月14日   岡本全勝

「東京暮らしは身分が上」意識」の続きです。
富山県庁に勤務していたときのことです。ある職員が「岡本部長は、東京住まいで良いですね」と言いました(その時は単身赴任中)。私が「どこがや?」と聞くと、「銀座とか、六本木とか、ディズニーランドとか」と言います。
私は「私が東京に住んでいるときに、銀座や六本木にしょっちゅいくと思うか?ディズニーランドだって、かつて子どもを連れて行ったけど、その後は行ったことがない。それより、あんたは毎年子どもとディズニーランドに行ってるじゃないか」と反論しました。

職員は苦笑しながら、「ええ、本当はそうなんですよ。東京は住むところじゃないです。富山の方が暮らしやすいし。ディズニーランドは、年に一度、泊まりがけで行けば良いですから」とのことでした。

若い女性たちが一度は東京に出てみたいと思うことは、理解できます。でも、その後の暮らしを考えたら、上に書いたような発想になってくれれば良いのですが。

リスクを取らない報道機関

2022年9月14日   岡本全勝

9月5日の朝日新聞夕刊、藤田直央編集委員の「リスク取らぬ大手メディア、フランス人研究者の見立て」から。

フランス人のセザール・カステルビさん(36)。パリ・シテ大学准教授で日本メディアを研究し、フィールドワークで東京に滞在中です。高校生の頃から日本文化に関心を持ち、2010年代には東京大学に留学しながら築地の弊社でアルバイトもしていました。
最近の日本メディアの報道ぶりについて尋ねると、安倍氏が撃たれた7月8日、東京都心での「観察」から話が始まりました。
渋谷のカフェにいて事件にツイッターで気づき、新聞やテレビが街の声を取材するぞ、とすぐ地下鉄で定番の新橋へ。駅前SL広場で待っていると新聞の号外が配られ、取材も始まりました。
あるテレビ局の記者に近づき質問に耳を傾けると、「びっくりしましたか」と「今後が不安になりませんか」のふたつ。公人への暴力がこの事件で問われていると考え、取材で確認しているとカステルビさんは思ったそうです。
ところが事件の反響は旧統一教会批判、そして大手メディア批判へ。カステルビさんは驚きませんでした。「海外にある日本の伝統的な大手メディアに対する典型的な批判だったからです」。それは「リスクを取るのが苦手で当局の情報に頼りがち」と「横並びになりがち」のふたつです。

「読者にとっては多様な報道が大事なのに、日本の大手メディアは互いを気にしすぎでは。もしこんな事件がフランスで起きたら、大手紙でもリベラシオンやフィガロは踏み込み、ルモンドは慎重という違いが出ると思います」
もうひとつは、「ネットメディアと役割分担ができればいいが、大手メディアは旧統一教会批判に当初慎重だったのに、一気に積極的になったようです。ゼロか百かのバランスの悪さも典型的な批判対象です」ということです。

それでもフランスとの違いを感じるのは、「世間」という存在だそうです。「社会と個人の間にある地域や会社、学校などでの人のつながりは、もちろんフランスにもあります。でも日本の『世間』には異なる人を追い出すような厳しさがある。大手メディアはとりわけ事件報道でその『世間』の意識に影響を与えてきました」
いまやSNSの方が影響力があるのではと聞くと、「そう思います。しかも日本の『世間』のあいまいさと、SNSでの匿名性の高さはつながりが深い」。14年に総務省がまとめた調査結果では、ツイッターの利用は匿名でという回答が日本では75%。フランス(45%)、米国(36%)、韓国(32%)を大きく上回っています。
そんな日本で大手メディアの生きる道は。カステルビさんは「説教と思われたくないのですが」と前置きし、こう語りました。
「人口減で市場が縮む日本で、新聞社は経営が大変でリスクを取りにくいでしょう。でも萎縮すれば何も伝わらず、読者はネットへどんどん流れます。SNSの時代に伝統的な大手への批判は必ず来ます。批判を恐れず、何を誰に伝えるかを意識してリスクを取る。批判されてもやるという誇りを持ち、存在感を示すことです」

対立と止揚と

2022年9月13日   岡本全勝

「正反合」、「止揚」という言葉をご存じでしょうか。ドイツの哲学者であるヘーゲルが弁証法の中で提唱した概念で、簡単に言うと「矛盾する要素を、発展的に統一すること」です。この言葉は大学時代に習いましたが、「そんなものか」程度にしか理解できませんでした。

今から振り返ると、官僚生活で何度もそれに該当する事態に出くわしたことがありました。当事者間で意見が対立し行き詰まった際に、全然違った観点から解決策を提示してくれる人がいたり、それを思いつくことがありました。裁判のように、どちらかが勝って、相手が負けるという解決ではありません。双方が、完全には納得しないとしても、それなりに納得する結論です。

簡単なのは、足して二で割るですが、これは止揚にはならないでしょう。
もう一つは、時間軸で解決することです。例えば、短期的にまずやることと、長期的に解決することに振り分けるのです。資金がないけれど行わなければならない事業がある場合、借金をしてまず事業を行い、その借金を時間をかけて返していくことが分かりやすいでしょうか。

5月3日の日経新聞経済教室で(古くてすみません。書き始めて途中で放棄してあったのです)、楠木建・一橋大学教授が「厄介ものを「白鳥」にする」の中で、経営者と従業員と株主の3者の関係を説明しておられます。短期的には、賃金を増やせば利益が圧迫されます。配当を増やせという株主に対して経営者は防御姿勢を固めます。株主は合理化のためのリストラを歓迎しますが、従業員にとっては迷惑な話です。3者の利害は相反します。
しかし、時間軸を長く取ればこの対立は解消します。経営者が長期的に稼ぐ力がある商売を作り上げると、雇用が生まれ賃金も増えます。従業員が力を合わせ能力を発揮すれば、ますます強くなります。結果として株価も上がり、株主も果実を手にできます。そこで楠木教授は、従業員が株を保有していると、短期的な対立は解消され、みんなが豊かになる関係になると説明されます。