対立と止揚と

「正反合」、「止揚」という言葉をご存じでしょうか。ドイツの哲学者であるヘーゲルが弁証法の中で提唱した概念で、簡単に言うと「矛盾する要素を、発展的に統一すること」です。この言葉は大学時代に習いましたが、「そんなものか」程度にしか理解できませんでした。

今から振り返ると、官僚生活で何度もそれに該当する事態に出くわしたことがありました。当事者間で意見が対立し行き詰まった際に、全然違った観点から解決策を提示してくれる人がいたり、それを思いつくことがありました。裁判のように、どちらかが勝って、相手が負けるという解決ではありません。双方が、完全には納得しないとしても、それなりに納得する結論です。

簡単なのは、足して二で割るですが、これは止揚にはならないでしょう。
もう一つは、時間軸で解決することです。例えば、短期的にまずやることと、長期的に解決することに振り分けるのです。資金がないけれど行わなければならない事業がある場合、借金をしてまず事業を行い、その借金を時間をかけて返していくことが分かりやすいでしょうか。

5月3日の日経新聞経済教室で(古くてすみません。書き始めて途中で放棄してあったのです)、楠木建・一橋大学教授が「厄介ものを「白鳥」にする」の中で、経営者と従業員と株主の3者の関係を説明しておられます。短期的には、賃金を増やせば利益が圧迫されます。配当を増やせという株主に対して経営者は防御姿勢を固めます。株主は合理化のためのリストラを歓迎しますが、従業員にとっては迷惑な話です。3者の利害は相反します。
しかし、時間軸を長く取ればこの対立は解消します。経営者が長期的に稼ぐ力がある商売を作り上げると、雇用が生まれ賃金も増えます。従業員が力を合わせ能力を発揮すれば、ますます強くなります。結果として株価も上がり、株主も果実を手にできます。そこで楠木教授は、従業員が株を保有していると、短期的な対立は解消され、みんなが豊かになる関係になると説明されます。