カテゴリーアーカイブ:社会の見方

首相を詰問するイギリス報道機関

2022年12月19日   岡本全勝

12月7日の朝日新聞夕刊、金成隆一・ヨーロッパ総局記者の「首相を詰問 英メディアにみた、記者の役割」から。

英国で7月以降、3カ月ほどの間に2人の首相が相次いで辞任を表明した。ロンドンを拠点とする記者としてこの政治の混乱を取材したが、英メディアの記者らが首相にぶつける質問は厳しかった。

「まるでロビンフッドの正反対ですね」。トラス首相(当時)本人に向かってこう批判したのは、公共放送BBCの中部ノッティンガム放送局の司会者だ。
各地方局の司会者らが順に首相に質問するラジオ番組の中で、政権の減税案について「富裕層を利する」とデータも示しつつ指摘。富裕層から富を盗み、貧者に分けたとされる伝説的な義賊と比較し、あなたは「正反対だ」と断罪した。
財源の裏付けに乏しいまま政権が減税案を発表した直後から、通貨ポンドが急落するなど市場が混乱。そのさなかでの番組で、他の地方局からも「恥ずかしいと感じているか」「あなたのせいで困窮は悪化している」といった厳しい言葉が相次いだ。

きちんとした答えが返ってこなければ、再質問で問い詰める。市場の混乱について国民への説明がしばらくなかったことから、質問者は「どこにいたんですか?」と聞いた。首相が答えずに自らの実績を強調し始めると、「それは(市場を混乱させた減税案の)前の話です」と遮り、再び「どこにいたんですか」と質問した。

北欧の従業員の学び直し

2022年12月18日   岡本全勝

日経新聞が12月5日から「成長の未来図・第3部 北欧の現場から」を連載していました。第1回は「北欧起業圏「自らを再生する街」 救うのは企業でなく人」、第2回は「「古いままが最も怖い」 デンマークの元祖リスキリング」でした。

北欧諸国は、規模も大きくなく、自然環境にも恵まれた方ではありません。しかし、だからこそ、さまざまな挑戦を行ってきました。福祉は有名ですが、経済においてもです。
この二つの記事にあるように、会社が倒産する危機になっても、政府は救いません。生き残ることができない企業に見切りをつけ、新しい企業や事業に従業員が移ることを支援します。そして、国民もそれを受け入れています。
第2回目の記事には、失業対策として、また失業してなくても、学び直しに取り組む姿が描かれています。
4時に仕事を終わらせて、勉強会に参加している人への質問です。・・・ポールセンさんに職歴を聞くと「47歳だけどまだ2社目」という。少し恥ずかしげに答えたのは「よい仕事を得るためなら何度でも転職するのがごく自然」だからだ・・・

そして、国民の幸福度も高いのです。

トルコの若者、経済成長知らず不満

2022年12月17日   岡本全勝

12月7日の日経新聞に「トルコ与党、若者の支持離れに苦慮 経済成長知らず、不満募る」という記事が載っていました。

・・・11月に政権樹立から丸20年を迎えたトルコの与党、公正発展党(AKP)が有権者の支持離れに苦慮している。80%を超える高インフレに加え、過去のめざましい経済成長を知らない若者の不満が強く、2023年半ばに予定される選挙ではエルドアン大統領の再選も予断を許さない・・・
・・・イスタンブール経済研究所の11月調査によると、トルコの将来に「不安」を抱く人は年齢別で18~24歳の若年層が最も多く、58%に上った。反対に「希望」(18%)や「誇り」(9%)を持つのもこの若年層が最も少なかった・・・

・・・AKP政権下でトルコの1人当たり国内総生産(GDP)は3000ドル(約40万円)台から13年までに1万2000ドル台と約10年で3倍超に増えた。全国に空港や大学ができ、医療へのアクセスも大幅に改善するなど国民は成長を実感した。だが近年は1人当たりGDPは1万ドルを割り込む。
AKP政権でいったんは前進したようにみえた民主主義も近年は後退が著しい。英国の調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が公表する民主主義指数でトルコは13年ごろから年々、スコアを低下させている。

しかし、人々に不自由を感じさせるだけの欧米的な自由主義を浸透させたのも現政権の功績といえる。AKP政権以前のトルコでは世俗主義の守護者を自任する軍が強い力を持ち、人口の大半を占める敬虔なイスラム教徒が抑圧されていた。イスラム主義を掲げるAKPも裁判で違憲とされた・・・

意味の世界に生きる人間

2022年12月15日   岡本全勝

ピーター・バーガー著『聖なる天蓋 神聖世界の社会学』(2018年、ちくま学芸文庫)を読んでいます。
宗教の持つ機能を知りたくて、これまでにいくつか本を読んだのですが、私の関心に合う本は見当たりません。この本が、私の疑問に答えてくれそうなのです。
文章は平易なのですが、内容が高度に抽象的でもあり、なかなか先に進みません。このような深い意味のある本を、布団の中で読むことが間違いです。昨日読んだところは何が書いてあったかと振り返る必要があり、少しずつしか進まないのです。
とはいえ、一気に読み通せる内容ではありません。で、途中で考えたことを、書き留めておきます。

宗教は世界の成り立ち(ときには宇宙や死後の世界も含めて)を説明してくれます。それが、社会に秩序をもたらし、個人に居場所と生きる意味を与えてくれます。

p105 「神義論が第一義的にもたらすものは、幸福ではなく、意味なのである」
キリスト教にしろユダヤ教にしろ仏教にしろ、生きていく際の苦しみ(生命、病気、貧困、差別、家族との軋轢)などを緩めてはくれません(貧しい信者に「もっと喜捨をせよ」とか、聖戦と称して命を差し出すことを命じることすらあります)。しかし信者は、教えを信じることで生きる意味(場合によっては、生命を差し出す意味)や安心を得るのです。
宗教が与えてくれる意味の世界は、利害得失の物差しとは違う基準ですから、異教徒には理解できないものです。

ではなぜ、生きる意味を求めるのか。
一つには、「なぜ私はこの世に生まれてきたのか」「私の生きる意味は何か」「なぜ人は死んでいくのか」「死んだら私はどうなるのか」という「意味の世界」に人は生きているからです。自然科学は、どのようにして人が生まれ死ぬかを説明してくれますが、その意味は説明してくれません。
もう一つは、苦しいことや困った事態に出会ったときに、人はその緩和を求めます。しかしそれが実現しない場合に、その説明やよりどころを求めます。それぞれに理由はあるのですが、納得できないこともあります。その場合に、それを宗教は説明してくれるのです。それは時に本人の力不足であったり他人の方が条件がよかったりするのですが、それを認めたくない場合は、前世からの報いであったり、世界の秩序が理由となります。
苦しみや困った場合でなくとも、御利益を期待して神に祈る場合もありますが。

ツイッター買収の意味

2022年12月14日   岡本全勝

12月3日の朝日新聞オピニオン欄「ツイッター買収、その意味」、東浩紀さんの「無料モデル、公共性に限界」から。

今回のイーロン・マスク氏によるツイッター改革騒動は、私企業が運営するSNSに公共的な役割を持たせることの限界を示したものでしょう。ある意味で、SNSへの過剰な期待に冷や水を浴びせるものだと思っています。
ツイッターは本来、今どこにいて、誰と会っているかを共有するメディアとして生まれたものです。公共的な議論や合意形成に向くプラットフォームではありません。

マスク氏は思想やイデオロギーより、経営者として動いているのでしょう。前提にあるのはツイッター社の赤字です。ツイッターは私企業であって、赤字が続いている以上、マスク氏がドラスティックに変えようとするのは、ある意味でしかたがない。
今回の騒動は、本質的には、無料の広告モデルで公共性を作ろうとすることの限界が表れたのだと思います。広告収入を考えると、ヘイトだろうがカルトだろうが、閲覧数が多ければ力を持ってしまう。リベラルな理念で質の高いものを提供しますと言っても、お金は生み出されない。

ネットの言論が公共性を持つには、「有料」を導入するしかないというのが僕の持論です。本を売り、雑誌を売るように、記事や動画を売る。顧客の側にも「買う」という習慣を身につけさせる。僕は「シラス」という有料配信サービスをやっていますが、公共的な議論は有料の場でしかできないと考えたからです。
もともと公共的なメディアは雑誌も新聞も有料です。課金することと公共的であるということは両立できます。そこで重要になるのがサービスの規模です。100万人、1千万人になると、そもそも議論が成り立たない。一方で、あまりに少なすぎては公共性は持てない。1万人から10万人ぐらいが、公共的な議論に適した規模でしょう。適度にメンバーが多様で、反応も活発だけれど、炎上は起きにくい。1万から10万の規模で公共的な議論ができるコミュニティーが、いくつもある状態が健全な社会だと思います。