カテゴリーアーカイブ:社会の見方

『古代豪族 大神氏』

2023年3月14日   岡本全勝

鈴木正信著『古代豪族 大神氏 ─ヤマト王権と三輪山祭祀』(2023年、ちくま新書)を読みました。

「大神」と書いて「おおみわ」と読みます。大和盆地の南西、桜井市に三輪山があります。その麓に、三輪山をご神体とする大神神社があります。桜井市は明日香村の隣です。大神神社には、子どもの頃に初詣にも行きました。それはそれは大変な人出でした。
「大神と書いて、なぜおおみわと読むのか」、不思議に思っていました。
三輪山の周辺には、箸墓をはじめたくさんの古墳があり、また初期の大和朝廷の宮殿が置かれました。でも、天皇家の崇拝する神社は大神神社でなく、はるか東にある伊勢神宮です。

大神氏という、三輪山をまつる豪族がいたのですね。物部、大伴、葛城、蘇我などの豪族の名はよく出てきますが、大神は知りませんでした。というか、出てきたのでしょうが忘れていました。
限られた古文書、それも後世に人の手が加わっています。それと出土した遺物から、歴史を組み立てる。一種の推理小説です。しかも小説と違い、「これですっきりした」とはなりません。

日本の中間層

2023年3月10日   岡本全勝

日本の経済発展によって生み出され、そして経済発展を支え、社会の安定をもたらした中間層。かつては「一億層中流」という言葉もありました。それが、この30年の間に崩れました。簡単にいうと、非正規労働者の増加によって、中間層が二分化されたのです。
それは、さまざまな問題を経済、社会、政治に引き起こしています。でも、中間層の重要性は、経済学の標準的な教科書には載っていないようです。

3月9日から日経新聞「やさしい経済学」で、田中聡一郎・駒沢大学准教授の「衰退する日本の中間層」が始まっています。第1回「分厚い中間層が重要な理由

時間を気にせず働く「昭和の男」社会

2023年3月9日   岡本全勝

3月1日の朝日新聞生活欄「「昭和98年」の女性登用2」、「「偉くなったら変えれば」我慢強いられ」から。

・・・4年前、2人の保育園児を抱えながら、地方の営業所でリーダーに抜擢された。数十人以上の後輩たちをまとめるポジションで、同期のなかでも早いほうだった。夫と相談し、家事や育児、互いの仕事のスケジュールをとことん調整することにした。
一分一秒が惜しくて、パズルのようにタスクを組み合わせ、仕事にあてられる時間を捻出した。
そこまでして仕事に打ち込んだのに、だんだん、会社にストレスを感じることが増えてきた。

理由の一つが、非効率的な「根回し」を求められることだった。新たな取り組みを始めたいと思っても、社内の各部署との調整に多大な労力を強いられる。「順番的に飛ばせないから」と、結果は同じなのに、何人もの人に同じ報告をしなければならないことも多かった。
「この面倒な作業がなければ、もっと仕事が進むのに」。上司には、現場の裁量をもっと増やせないか、確認フローの簡素化はできないか、いろいろと提案した。でも、そこで返ってくるのは、決まってこんな言葉だった。
「おまえが偉くなったときに、変えればいいんだよ」
「今」の話をしているのに、我慢を強いられる。相談していたはずが、いつの間にか「俺も若いときはさぁ……」と上司の武勇伝にすり替わることもたびたびだった。

そしてあるとき、気づいた。上司を始め、ほとんどの男性社員の妻は、専業主婦だ。「誰かが家のことをしてくれる」という前提での働き方が、違和感なく受け入れられていて、がくぜんとした。
この人たちは、終業時間直前に設定された会議に焦ることも、会社を飛び出したあとに「お迎え、間に合うかな」とひやひやすることも、ないはずだ。帰宅して寝かしつけるまでの怒濤の流れに、体力の限界を感じたことだってないだろう。そう思うと、なんだか力が抜けた。
自分の時間を「仕事」に使えることに、何の疑問も持っていないような人たちと闘うなんて、世界が違いすぎて無理だ、と感じた。

家庭を優先することを選んだ社員に、「あいつは、出世をあきらめた」とからかうような発言も聞いた。なぜ仕事も、家庭も、大事にしてはいけないのだろう。「私が、家族との時間を犠牲にしてまで過ごす場所は、ここじゃない」。管理職試験に合格してからすぐ、辞表を提出した・・・

中間層が壊れた日本

2023年3月8日   岡本全勝

2月26日の読売新聞言論欄、駒村康平・慶応大教授の「逆風の世代 自己責任でない」から。

・・・日本の大きな問題の一つは、働き盛りの、子育て世代の中間層が壊れてしまっていることです。
厚生労働省の調査をみると、2002年には30代後半の男性の40%が月給30万円台でしたが、19年は33%に減りました。一方で20万円台は31%から40%へ増え、20万円未満の人も合わせ、ほぼ半数が月給30万円に届いていません。分布をグラフにすると、「真ん中」部分がつぶれ、「真ん中より下」が増えていることがわかります。

バブル崩壊や国際的な価格競争の中で、非正規雇用の増加と賃金抑制の流れが続き、中間層が壊れていきました。今の日本は、働き盛りで、結婚するタイミングの若者たちに「向かい風」が集中しています。それを放置し続けたことが未婚率の上昇、出生率の低下につながっているのだと思います。
中間層を再生させ、将来の展望を持てるようにすることが、少子化対策になるはずです。
統計的に、男性の未婚率は年収300万円未満で高くなっています。特に若い世代の賃金を引き上げなければなりません。労働者の賃金アップの交渉力を高める仕組み作りが重要だと思います・・・

・・・コロナ禍で、従来のセーフティーネット(安全網)に見直しの必要があることを強く感じました。「最後のセーフティーネット」と言われる生活保護は、限定的な役割しか果たせなかったからです。
経済がストップし、雇用保険を受けられる期間で再就職が決まらなかった人や、非正規で仕事がなくなった人が困りました。ただ、生活保護を受けられる収入の状況でも、申請しない世帯が多かった。

家族との関係は切れました、就労に困難な状況があります、などと「自分がいかに困っているか」を証明して初めて受け取ることができる生活保護の申請には、心理的なハードルがあるからです。
最大200万円借りられる「特例貸付」が設けられ、335万件、総額1・4兆円の利用がありました。ただ、生活保護を受けられる状況なのに申請せず、特例貸付を利用した場合、住民税が非課税でなければ返済は免除されません。今後、返済義務が生じますが、その余裕がない人も多いはずです。

生活保護より手前の段階で、別のセーフティーネットがもっと充実している、というのが望ましい形だと思います。生活困窮者を対象に家賃を支援する「住居確保給付金」の制度がありますが、もっと対象を広げる手もあります。
セーフティーネットを使いやすくすることで、再び中間層に戻ろうとトライする意欲を引き出す。そういう仕組み作りが必要です・・・

「哲学はこんなふうに」

2023年3月7日   岡本全勝

アンドレ・コント=スポンヴィル著『哲学はこんなふうに』(2022年、河出文庫)を読みました。
哲学とは何か。若いときから関心はあったのですが、簡単に書いたものはありません。本屋に並んでいるのは、西欧哲学史や、哲学者・思想家の歴史です(その点では、政治思想、経済学、社会学も西欧の学者の歴史を並べて紹介するだけで、学問として成り立っていました)。

それに対し、この本は、次のような12の項目について解説したものです。
道徳、政治、愛、死、認識、自由、神、無神論、芸術、時間、人間、叡智。

なるほど、西洋の哲学は、このような項目を論じるのですね。神と無神論が入っているのは、キリスト教の影響でしょう。
私は、哲学は人生の意味、よく生きるとは何かを考えることだと思っています。その点からは、これらの項目は納得するとともに、やや物足りない点もあります。

哲学は「高尚なもの」とか「近づきにくいもの」という印象があるものの、よくわかりません。学者には、簡単なことを難しく書く人たちもいます。難しいことを簡単に説明することが重要なのに。自分の言葉にするのが、難しいのでしょうね。
でも、学問も一つの商売と考えれば、その考え・著作が売れないと成り立ちません。消費者(読者)を獲得するためには、わかりやすくする必要があると思うのですが。象牙の塔にこもって内輪だけで理解し、世間には「難しいぞ」という印象を売ったのでしょうか。
この本は文章もわかりやすく、翻訳も読みやすく、理解しやすかったです。