カテゴリーアーカイブ:社会の見方

『縛られる日本人』2

2023年5月1日   岡本全勝

縛られる日本人」の続きです。本の6ページと21ページに、次のような日本人の発言が紹介されています。
「日本は、人間ファーストではなく、労働ファーストです」

これは正鵠を得ています。
貧しい時代は働かないと食べていけないので、多くの日本人は、百姓として朝から晩まで働きました。会社勤めになっても、その勤勉さを持ち込みました。勤勉は、日本人の美徳です。

これがおかしくなったのは、バブル期から平成時代です。「24時間戦えますか」と栄養ドリンクの宣伝が流行ったのは1989年でした(もっとも同時期に「5時から男」も流行っていました)。経済成長期の象徴である「サザエさん」では、波平さんもマスオさんも家で晩ご飯を食べています(時々、駅前で飲んでいますが)。

長時間労働は、霞が関の官僚の代名詞でした。それはまた、一部のエリートの「自己満足」でもありました(私もそうでした。が、年がら年中長時間残業をしていたのではありません。そうでない時期もある「季節労働者」でした)。「エリートなんだから仕方ない」と、本人も家族も社会もそう考えていたのです。
ところが、その長時間労働が、従業員一般に広まったのです。従業員は、勤勉さを会社に対して主張させられたのです。美徳どころか、家庭や私生活を犠牲にするという、変なことがまかり通るようになったのです。これは「男社会」でしかできないことであり、家族を泣かせていたのです。経営者たちが、それを変だと思わなかったことに、問題があります。
もちろん、これは都会の会社などに当てはまる事象であって、地方で家庭と仕事を両立させている人もたくさんいます。

私は官民を問わずエリートは存在し、その人たちは時に長時間労働が避けられないと考えています。しかし、それを従業員一般に求めることは間違いです。またエリートが残業するのは、意味がある目的のために行うべきで、無駄な仕事で残業するのはやめましょう。

『縛られる日本人』

2023年4月30日   岡本全勝

メアリー・C・ブリントン著『縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか』(2022年、中公新書)を紹介します。著者は、ライシャワー日本研究所の教授です。
宣伝には、次のようにあります。
「人口が急減する日本。なぜ出生率も幸福度も低いのか。日本、アメリカ、スウェーデンの子育て世代へのインタビュー調査と、国際比較データをあわせて分析することで、「規範」に縛られる日本の若い男女の姿が見えてきた。日本人は家族を大切にしているのか、男性はなぜ育児休業をとらないのか、職場にどんな問題があるのか、アメリカやスウェーデンに学べることは――。」

日本人が過去の規範に縛られて、幸福度が低くなり、子どもの数も減ってきていると主張します。
「私が思うに、日本が直面している問題の根底には、二〇世紀後半の行動経済成長期に確立された制度や社会規範の多くが人々のニーズに適合しなくなったという事情がある。「普通」の家族、「普通」の働き方、「普通」の男女の役割とはどのようなものかという点に関して、既存のモデルに従うことができない、もしくは従いたくない人たちは、日々の生活でさまざまな苦労を強いられる。そのような人が増えているのに、そうした人たちのニーズが満たされていないのである。」(7ページ)

「日本の出生率が一向に上がらず、結婚する人の割合が低く、多くの日本人が職業生活と家庭生活で満足感を味わえずに漠然とした不安をいだいている状況は、男女の役割に関する硬直的な社会規範が原因だと、私は考えている。仕事の構造や文化を通じて強化されてきた社会規範が原因で、日本の若い世代は、充実した職業生活と家庭生活を築くうえで手足を縛られており、男性も女性も社会と経済に存分に貢献できずにいる。」(8ページ)

現在の日本社会の不安や問題の基礎には、経済成長期にできた通念が私たちの暮らしの変化に追いついていないことを、拙稿「公共を創る」で説明しています。この本は、題名に(過去の規範に)縛られる日本人と掲げていて、私の主張と共通しています。連載第101回ほか。日本の変化については第39回から第70回

ところで、アメリカ人による日本人論では、エズラ・ボーゲル著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)が有名です。それから約40年。日本への賞賛は同情に転換(転落)したようです。

日本経済はどこで間違ったか

2023年4月28日   岡本全勝

川北英隆・京都大学名誉教授のブログ、4月19日の「日本経済はどこで間違ったか」から。

・・・日本経済の地位低下がますます明瞭である。国内総生産(GDP)でドイツに追い抜かれるとの観測が現実化しつつある。いずれインドにも抜かれるらしい。当然、アメリカと中国の背中は遥かに遠くなった。トップ集団から脱落するマラソン選手を見ているようだ。
何回書いたように、日本がトップ集団に位置することを切望している僕としては悲しい。それを他人事のように語る政策担当者や企業経営者が情けない。自己責任で対処するしかないようだ・・・

・・・1980年代後半のバブルの時代から金融システム危機を経て、日本経済の長い凋落が始まった。バブル崩壊の後、10年で立ち直るはずの日本経済だったのに、30年経った今も立ち直れていない。
その根本的原因は勇気を持って叫び、行動した者が少なかったことにある。目先の保身と事なかれに徹した者が多すぎた。
バブルの頃、日本に人口減少時代が到来するのは明らかな予測だった。その時代に向けて本気で対応した企業はごく少数だった。生産力人口の減少(1995年がピーク)とバブル崩壊の重りが不運だったと言えばそれまでだが、生産力人口減少の経済的な意味を本気で考える企業や政策担当者が皆無に近かったのが本質だろう。
むしろ企業は1990年代中盤まで続いた円高に恐れ慄き、海外進出を怠った。バブル崩壊に縮こまり、グローバルな競争に打ち勝つための設備投資を遅らせた。後者に関して、バブルと崩壊の主因が不動産投資や財テクと称された株式投資にあったのに、精算設備の積極的な増強と刷新まで同類とみなしたのである。羹に懲りて膾を吹いたわけだ・・・

・・・このサラリーマン的対応は近年、ますます大手を振っている。多くの対応が責任逃れ的になり、過去を踏襲し、誰も新たな決断しようとしない。これが2008年のリーマンショック以降の日本において、とくに目立つ特徴ではなかろうか。だから経済マラソンで先頭集団から置き去りにされ、後続に抜かれようとしている・・・

生成人工知能

2023年4月25日   岡本全勝

生成人工知能や対話型人工知能が、報道を賑わしています。
いくつかの要素を入れると、それに沿って文章を書いたり、応答してくれるとのこと。それが、かなりの水準に達したのです。学校での作文の宿題や試験に、本人に代わって答えを書いてくれます。大学でも、論文を代筆してくれます。

その開発を止めたり、規制してはどうかといった議論も、出ています。でも、開発は止まらないでしょう。人間は便利なものは、使いたくなります。
「電卓を禁止しろ」とは言わないでしょう。ただし、数学の試験には持ち込みが禁止されます。便利になることと、試験や宿題に利用しないこととは、別問題です。
代筆なら、人工知能に頼らなくても、大学入試で学外の人に作ってもらい、携帯電話で送ってもらう事件が出ています。作文や論文の代筆は、しばしばあるようです。

作文にしろ答案にしろ、「いくつかの要素を入れて文章を作れ」という条件なら、いずれコンピュータが書いてくれるようになるでしょう。学生が教科書を学んで、それらの知識から文章を作るのと同じ作業ですから。外国語の翻訳も同じです。よく似た構文を選び、訳語の中から適切なものを選べばよいのです。この点では、かなり進んでいるようです。

役所でもよく作られる上司の挨拶文、「本日ここに××が開催されるに当たり、一言お祝いの言葉を述べます・・・」などは、人工知能に任せるのがよいですね。あれほど、聞いていて、あほらしい文章はありません。
結婚披露宴の祝辞も同じです。そして、機械がつくってくれる祝辞は似たり寄ったりになって、面白くないでしょうね。話者の体験談や、新郎新婦との関係といった、機械が知らない話を入れることが、受ける話のコツですから。

「おっさんビジネス用語」

2023年4月24日   岡本全勝

4月11日の朝日新聞夕刊に「「おっさんビジネス用語」わかる? 鉛筆なめなめ・ポンチ絵・ツーカー」という記事が載っていました。

・・・「ポンチ絵」「ツーカー」「ダマでやる」「ざっくばらん」――。ビジネスの場面で中高年の男性を中心に使われる独特なフレーズを、「おっさんビジネス用語」として紹介したツイッターが話題になった。たくさんの若者が社会人生活のスタートを切る春。あなたはこの言葉がわかりますか?(笹山大志)

「ポテンヒットには気をつけて」。保険会社に勤める30代の男性はある日、会議で上司から声を掛けられて混乱した。
ポテンヒットと言えば、野球で野手の間にボールが落ちるラッキーなヒットのこと。「気をつけてってどういうこと?」。後に、部署や社員の間でお見合いになって仕事をスルーしてしまうことだと知った。
こんなこともあった。「鉛筆なめなめでいいよ」。契約額が確定せず、審査に出す書類に金額を入れられないでいた時、上司にそう声を掛けられた。ネットで調べ、帳尻を合わせて数字を入れるといった意味だと理解した。
こうした体験をもとに、男性は昨年7月、「おっさんビジネス用語ビンゴ」をツイッターに投稿した。「なるはや」「よしなに」「がっちゃんこ」「ガラガラポン」といった24個の言葉を並べて示すと、「いいね」は4・7万、リツイートも2・1万に上った・・・

昭和の官僚である私には、これらは、なじみのある言葉です。というより、このように指摘されるまで、「おっさん言葉」とは思っていませんでした。
三省堂国語辞典から消えたことば辞典』(2023年、三省堂)も、面白そうです。