カテゴリーアーカイブ:社会の見方

古語解説「灰皿」

2023年5月24日   岡本全勝

かつて、どの職場にもあった道具。たばこを吸う際に灰を捨てたり、吸いかけのたばこを置くための道具。灰を溜めるために、縁が盛り上がり皿状になっていた。またその縁に、火のついたたばこを置く溝があった。

幹部の部屋や個人宅の応接室の卓には、大きなガラス製のものが置いてあり、未使用のたばこ入れや、立派なライターがそろいで置いてあった。
会議室などでは、簡易なアルミ製の円盤状のものが置いてあった。これは時には、議論が激高すると投げつけれれ、宙を舞うことがあった。軽くて円盤状なので、よく飛んだ。この行為を「灰皿を投げる」と呼ぶ。
灰や吸い殻がたまった灰皿を洗うのは、若手職員か女性職員が朝に出勤して行う仕事とされた。

近年は、公共の場では喫煙が禁止され、灰皿も置かれなくなった。若手職員に聞いたら、「私が採用されたときには、灰皿はありませんでした。流し場の棚の上に置いてあるアレですか?」と答えが返ってきた。
古語解説「気配り

先生と生徒との対話

2023年5月23日   岡本全勝

5月9日の日経新聞教育欄、三田村裕・東京都八王子市立上柚木中学校長の「教員と生徒の対話時間創設」から。

東京都八王子市立上柚木中学校は全8学級、生徒数260人ほどの小さい中学校である。本校は2022年度から週1回「ユニバタイム(UT)」という時間を設けた。この名称はユニバーサルタイムの略で、様々な生徒を分け隔てなく支援で包む時間にしたいとの思いを込めた。
その基本は教員が生徒と一対一で向き合うことにある。複数の生徒と教員1人でもいい。勉強、部活動、進路、友人関係など生徒が話したいことを話したい教員と対話する。補習を受けたければそれもありだ。

UTは水曜日の5時間目に2コマ(1コマ20分)設定。教員は1コマずつ違う生徒と話すことが基本だが、40分間通しで対話することもある。生徒が話したい教員や相談内容を記入した申込書を担任に提出すると、当該の教員から時間や場所を指定した「招待状」が担任経由で届く。
UTの時間を確保するため、毎週水曜日は4時間授業にした。午後0時半過ぎに4時間目が終わるとUTのない大多数の生徒は給食後下校し、午後3時まで自宅学習に取り組む。
しかし、最初は生徒から申し込みがないことが予想された。生徒全員に教員と一対一で話すことのよさを実感させる必要もあると考えた。そこで22年度は生徒全員に1回、UTを体験させるようにした。多い教員は38人から申し込みがあり私も十数人と対話した。

1970〜80年代のように中学校が荒れた時代と異なり、今は素直で穏やかな生徒が多い。大人が理想とする子どもの姿を知っていて、それが彼らの行動基準にもなっている。
これは悪いことではないが、自らエネルギーを発動し自ら考え行動する点が弱い。だがこうした力こそ、これからの時代に求められるものである。
そこで本校は22年度、校訓を「自主自律」から「自己決定 自己実現」に変えた。我々の理念である「一人ひとりを大事に」を実行しながら自己実現を図れるようにする。UTはそれを具体化するのに貴重な一歩であると考えている。

見なくなったストライキ

2023年5月19日   岡本全勝

5月9日の朝日新聞オピニオン欄、後藤洋平・編集委員の「パリのストと日本のメーデーで考えた 「便利さよりも大事なこと」」から。

・・・8年前に放送と兼務ながらファッション担当になり、コレクション取材のため、継続的にパリを訪れるようになった。流行ブランドのファッションショー取材といえば最先端の服を誰よりも早く間近で見ることができ、世界中からセレブたちも駆けつける。華やかな現場だと思っていたが、実際は過酷だ。朝早くから夜遅くまで、10近いブランドのショー会場を連日ハシゴする・・・

・・・しかし、落とし穴もある。たびたび行われるストライキだ。今年1月中旬から下旬に開かれたパリ・メンズコレクション期間中の同19日も、年金の受給年齢引き上げに反対する労働者たちが大規模なストを打ち、ほとんどの公共交通機関がストップした。
私はルイ・ヴィトンやヨウジヤマモトなど8ブランドのショーと一つの展示会取材、1件のデザイナーインタビューを予定していた。広場ではマクロン大統領を批判するデモが開かれ、封鎖された主要道路もあった。中心地を避けるルートの主催者バスと徒歩で乗り切ると、携帯アプリが記録した1日の歩数は2万3931。夜はもちろん即気絶した。
「こんな観光地で、世界中から人々が集まる時期に、なんでやねん……」
担当してから数回目のスト遭遇までは、そう思っていた。しかし、2018年に始まった「黄色いベスト運動」を含めて何度かストを経験し、パリに住む知人たちが「不便だけど、これは仕方ない。もっと大事なことがあるから」と理解を示していることも知って、考えが変わった。「労働者が団結して主張し、行動しているのは、うらやましい」と・・・

・・・いま47歳の私が幼かった頃、ストライキで電車の運行が止まることがたまにはあった。しかし、海外ではこの8年間で何度か直面しているのに、私は日本では数十年経験がない。厚生労働省に聞くと、21年の労働争議(経営側と労働組合などとの間で生じた紛争)の総数は297件で、うち実際にストなどの行為を伴ったものは55件だったという。
総数が最も多かったのは1974年の1万462件で、この年は紛争行為を伴った件数が9581件だったというから、ものすごい激減ぶりだ。
もちろん、労働環境が向上したという見方もあるだろう。だが、日本の会社員の平均年収は何年もの間、ほぼ横ばい状態だ。それでも争議件数は近年も減少傾向にあり、統計で最も新しい一昨年は19年に次いで過去2番目に少なかったという・・・

宇奈月温泉引湯管事件

2023年5月18日   岡本全勝

5月9日の朝日新聞夕刊に、「民法の「聖地」、お守りでPR 富山・宇奈月温泉、「権利ノ濫用除」」が載っていました。

・・・権利を振りかざしてあなたを害する人物や出来事をよけ、良い縁を結ぶ。そんなお守りが、トロッコ電車で有名な黒部峡谷(富山県黒部市)にある宇奈月温泉で生まれた。その名も「権利ノ濫用除(らんようよけ)お守り」。モチーフになったのは、法律を学んだ多くの人が知る歴史的事件だ。
今年100周年を迎えた宇奈月温泉は1923年に開湯し、黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。しかし、木管がかすめる約2坪の土地について、利用の承諾を得ていなかったという。
このことを知った人物が土地を購入し、温泉を運営する黒部鉄道(現在の富山地方鉄道)に対し、木管を撤去するか、隣接する土地を含めて高額で買い取るよう要求。
黒部鉄道が断ると、木管の撤去と立ち入り禁止を求める訴えを起こした。最高裁の前身である大審院は35年、双方の利益を比べ、土地所有者が権利を行使する目的を踏まえて「権利の濫用」として訴えを退けた。

宇奈月ダム湖の湖畔には、事件の舞台であることを示す石碑があり、今も法学生や専門家が訪れる「聖地」だ。だが、黒部・宇奈月温泉観光局の石田智章さん(39)は「学術的価値が認められているものの、一般には知られていなかった」と話す。事件を題材にした町おこしの話が出ても具体化しなかったという・・・

民法の授業で必ず出てくる引湯管事件です。私も習ったのですが、富山勤務時代に現地は何度も通りながら、現場には行きませんでした。

『人類とイノベーション』

2023年5月15日   岡本全勝

マット・リドレー著『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』(2021年、NewsPicksパブリッシング)を読みました。読みやすく、面白くて勉強になります。お勧めです。

エネルギー(蒸気機関、電球、シェールガス)、公衆衛生(予防接種、水道殺菌、ペニシリン、マラリア抑制の蚊帳)、輸送(機関車、内燃機関、飛行機)、食料(ジャガイモ、アンモニア、小麦)、ローテク(インド数字、ゼロ、下水、ブリキ波板、コンテナ、キャリーバッグ)、通信、コンピュータなどが取り上げられています。その幅広さも、この本の特徴です。あわせて、偽物や失敗例も。ここも面白いです(失礼)。

それらの技術がどのように発展してきたかを解説し、技術発展の要素を分析しています。
技術革新を生むのは、自由な社会での失敗の積み重ねであること。一人の発明家が生み出すのではなく、何人もの人の改良によって進むことが説明されています。
特許が進歩を阻害すること、政府は失敗することも指摘されています。