カテゴリーアーカイブ:社会の見方

若い女性の地方からの流出

2024年1月5日   岡本全勝

12月14日の日経新聞夕刊に「ジェンダー平等へ動く地方 若い女性の流出に危機感強く」が載っていました。
・・・若い女性の流出をどうすれば止められるのか―。地方がその解決の糸口としてジェンダーギャップ解消に乗り出している。伝統的な価値観が色濃く残り、女性に魅力的な仕事の少ないところもある。ただ現状に甘んじていては男女の人口比は崩れて未婚率が高まり、人口減は加速する。地元企業や地域住民を巻き込んだ試行錯誤が始まった・・・
詳しくは記事を読んでください。

地方から東京への人口移動が止まりません。大きな原因は、大学に進学したり就職したりした若者が戻ってこないことです。特に女性が戻ってこないのです。
10年近く前に地方の方と話していて、消防団員の減少が話題になりました。私が「この時代、男性だけでなく、女性にも声をかけないといけませんよ。どの程度、女性団員がいますか」と聞いたら、あきれられました。「岡本さん、若い女性は戻ってこないので、声をかけようにも地域には一人もいないのです」とのことでした。

男性に比べて女性の若手流失率が多い都道府県の数値が載っています。北陸、北海道、北関東などが、女性の流出が多いようです。
住みやすさ指標で高い順位の県で、なぜ女性の流出が多いか。この問題に詳しい天野馨南子さんに聞いたら、「そこに住むのがいやな人が出ていき、住みたい人が残っているので、住んでいる人を調査すると「住みたい人」が高くなる」という趣旨のことを教えてもらいました。納得。
この件については、また日を改めて議論しましょう。

フランス語の明晰性とその限界

2024年1月4日   岡本全勝

フランス語は明晰であると言われます。「明晰ならざるものフランス語にあらず」(Ce qui n'est pas clair n'est pas français.)は、18世紀の作家のことばです。何をもって明晰かどうかを判断するか、難しいですよね。それは神話だとも言われます。フランス語の単語の綴りと発音のずれ(発音しない文字がある)を見ただけで、明晰でないと思うのですが。

ただし、フランスは言語を明快にするために、努力をしています。国家機関のアカデミー・フランセーズが、フランス語の規範を定めているのです。アカデミー・フランセーズは、1635年にリシュリューが創設しました。中世の封建国家だったフランスを、近代統一国家・絶対王政の国に仕立て上げたのがリシュリューで、彼は統一国家言語を作ろうとしたのです。その反面、方言が抑圧されました。

もう一つ、色摩力夫さんが、著書『黄昏のスペイン帝国ーオリバーレスとリシュリュー』(1996年、中央公論社)で、スペインの哲学者オルテガの説を引用して、次のように指摘しています(337ページ)。
「フランス語は明快であり、明快なものはフランス語である」との格言が、自縄自縛に陥った。言葉と理念の明快を求めるのは美徳である。しかし、言語による「表現」の明快と、表現される「もの」の明快とは関係がない。「もの」には明快でなく難解なものも多い。難解なものをどのように表現するか。表現の明快を求めるあまり、難解なものまで明快であるかのように表現するのは虚偽である。フランス文化はこのような誤りに陥る危機にあるのではないか。

「積極財政で成長幻想、捨てよ」

2024年1月3日   岡本全勝

12月28日の日経新聞経済教室は、松元崇・元内閣府事務次官の「衰退途上国からの脱却 「積極財政で成長」幻想、捨てよ」でした。的を射た分析です。政治家や経済界の指導者たちに、早く気づいて欲しいです。原文をお読みください。

・・・「失われた30年」といわれて久しい。かつては米国すら抜くといわれた1人当たり国民所得は、今や韓国や台湾にも迫られている。筆者は、2022年の日本経済学会春季大会のパネル討論で、日本は「衰退途上国」になったと報告した。
衰退途上国とは発展途上国の反対だ。発展途上国は高い生産性の伸びを続けて為替レートが高くなり、インフレになっても所得がそれ以上に伸びるので所得が先進国に追いついていく。一方、衰退途上国は低い生産性の伸びを続けて為替レートが安くなり、インフレになっても所得がさほど伸びず先進国よりもはるかに低い所得になる。

なぜそうなったのか。バブル崩壊後には、日本経済低迷の要因について過剰債務とか、IT(情報技術)化の遅れといった様々な説明がなされたが、いずれも30年もの低成長を説明するようなものではなかった。
筆者は、答えは高度成長のイデオローグだったエコノミストの下村治が石油危機後に唱えた「ゼロ成長論」の中にあると考える。下村の考え方を整理しよう。
経済成長をもたらすのは人間の創造力であり、成長に必要なのは人間の創造力を発揮させるための条件整備だ。それは高度成長期には道路や港湾などのインフラ整備だったが、石油危機後には省エネなどのイノベーション(技術革新)をもたらすための条件整備になった。それに気付かずに積極財政で成長率を元に戻せるといった議論、国民総生産(GNP)ギャップ論に惑わされていると、日本はゼロ成長になってしまう・・・

・・・筆者は、下村がそうした議論に惑わされていてはゼロ成長になるとしていた議論、すなわち積極的な財政政策で経済を成長させられるという議論に世の中が惑わされているからだと考える。「豊かな長寿社会をつくる礎」となる財源は消費税に限らないが、消費税以外の税の出番もなくなっている。
実はケインズも、積極的な財政政策で経済を成長させられるという議論に困惑させられていた。ケインズは、積極的な財政政策は景気回復をもたらすが経済成長はもたらさないと明言していた。では何が経済成長をもたらすのかと聞かれた時の答えが「アニマルスピリット」だった。下村の「人間の創造力」と同じだ・・・

知らないことを知る

2024年1月2日   岡本全勝

知るは楽しみであり、力をつけることでもあります。知らないことを知るには、二つのものがあります。

一つは、これまで見たことがないものを見る、知らなかった事実を知ることです。初めての場所に行く、学校で習う、本を読んで学ぶなどなど、これはわかりやすいでしょう。
もう一つの知るは、すでに知っていることについて、別の見方を知ることです。専門家の解説や、違った意見を持つ人の話を聞くと、これまで自分が考えていたこととは違った見方があることを知ります。

新聞などは、ニュースで知らないことを伝えてくれますが、それら多くは1日後には忘れるようなことです。それより重要な機能は、後者の解説です。いろいろな出来事も、背景や隠された意図を説明されるとよくわかります。また、情報操作に操られそうな場合に、立ち止まることができます。
「なるほど、そう見るのか」と唸らせる解説記事が、ありがたいです。

経済学者の権威

2023年12月30日   岡本全勝

12月14日の日経新聞夕刊1面コラムは、根井雅弘・京都大学教授の「松の廊下」でした。

・・・「松の廊下」といっても、浅野内匠頭が吉良上野介を斬りつけた江戸城のことではない。京都大学法経本館をエレベーターで3階まで上がると、そこに昔「松の廊下」と呼ばれた空間が広がっている。帝国大学時代、この3階には威厳のある教授たちの研究室が並んでいたのだろう。
もちろん、当時この目で見たわけではないが、私の大学院時代も、なんとなくその雰囲気は残っていた。というのは、「松の廊下」には、経済学部教授の伊東光晴研究室(ケインズ研究の権威)、菱山泉研究室(スラッファ研究の権威)、平田清明研究室(マルクス研究の権威)が並んでいたからである。学界の権威者ばかりである。壮観というほかない・・・

う~ん。経済学の権威は経済の様々な分野、例えば金融、産業、労働、物価、マクロ経済、ミクロ経済などの権威だと思うのですが。ここにあげられている方々は、ヨーロッパの経済学者についての権威なのですね。日本の学問が、欧米の輸入だったことを象徴しているようです。