15日の日経新聞経済教室「税と社会保障、一体改革の方向」は、森信茂樹教授の「効率と公平、両立へ」でした。詳しくは原文を読んでいただくとして、そこでは、諸国の税制改革を二つの潮流に位置づけておられます。一つは、ヒト・モノ・カネの国際化・自由化の下で、高齢化に伴う社会保障費用を賄うためには、税制の中身を効率的で成長志向なものにしていく必要があるというもの。その現れが、所得税法人税を下げ、消費税に置き換える動きです。もう一つは、税制の効率化に伴う所得再分配機能低下への対応としての、税と社会保障の一体的設計です。具体的には、低所得者に対する減税と、減税しきれない場合は還付(社会保障給付)するのです。
このような議論は、経済財政諮問会議(11月8日)でもなされています。課題として、次の三つを挙げています。1つは、グローバル化の中での生産性向上・成長力強化です。2つめは、世代間の公平です。3つめは、社会保障財源の確保です。
私は、税制改革の課題を、次のように考えています。
1 大きな条件変化として、まず、国際化、高齢化、成長力低下を挙げましょう。国際化によって、日本独自の税制は困難になります。代表例が、所得税(個人所得課税)と法人税(法人所得課税)です。「大企業や金持ちからたくさん税金を取れ」というのは応能原則ですが、あまりに高くすると、その人たちや企業はより低い税率の国に逃げてしまいます。よって、国際的な水準とかけ離れた課税はできません。
高齢化と成長力低下は、社会保障費の増大を招く一方で、それに見合った税金が確保できません。増税が必要なのです。
2 2つめに、日本独自の問題があります。
このHPで何度も繰り返していますが、日本は、国民に本格的増税を問うたことがないのです。これが、必要な増税を遅らせ、国債を積み上げています。一方で、年金や高齢者医療は充実し、現役世代・将来世代への重い負担になっています。世代間に大きな不公平が生じています。私はこれを「究極の幼児虐待」と呼んでいます。
3 大きな課題の3つめに、どのような社会を目指すのか、という課題があります。
例えば、配偶者控除です。サラリーマンは、奥さんがいると税金を安くしてもらえます。しかし、これは働いている奥さんには、不公平な税制です。これまでは、妻は家庭を守るという通念で、このような税制ができたのでしょう。しかし、今や社会の実態に合っていません。また、減税しきれない低所得者に還付するというのは、税制を使った社会保障です。
こうしてみると、税制とは政治そのものであることがよくわかります。財政学の教科書では、公平だとか、応能負担・応益負担などの原則が、語られています。それらはもちろん必要ですが、社会の変化に対して税制も、昔のままではあり得ないのです。社会の変化に対し、税制の改革は遅れていると思います。