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経済

林宏昭先生の新著

林宏昭先生(関西大学経済学部長)が、『税と格差社会-いま日本に必要な改革とは』(2011年、日本経済新聞出版社)を出版されました。
抽象的な税の理論書ではなく、現在の日本社会が抱える問題に即して、税金のあり方を述べておられます。少子高齢化、格差、地域間格差、社会保障、さらには災害復旧負担のあり方までです。大学生だけでなく、広く一般の方向けに書かれています。ご一読をお勧めします。
先生は、「学部長になって忙しい」と、おっしゃっていたのですが。どうして、どうして・・。

自信をつけたアジア各国

速い速度で変化する社会や経済を追いかけるために、なるべくそれらの本を読むようにしているのですが、時間が取れなくて、買ったまま積ん読も多いです。そしてそれらの本は、1~2年も経てば、時代遅れになるものも多いです(反省)。最近は新幹線での出張が増えたので、少し時間が取れます。もっとも、疲れて寝ていることも多いですがね(これまた反省)。
NHKスペシャル取材班『NHKスペシャル 灼熱アジア』(2011年、講談社)は、私の問題関心に合う本でした。2010年の8月と11月に放送された番組を、本にしたものです。タイの経済発展と買収される日本企業、中東でのエネルギーをめぐる闘い、インドネシア市場の争奪戦、中国の環境市場を巡る日韓の闘いを取り上げています。
1997年の通貨危機、2008年のリーマンショックで大きな打撃を受けながら、復活できない先進国をよそ目に、大きな成長を続けるアジア。そのアジアの勃興に対し、減速する日本企業がテーマです。
そこにあるのは、後発国の追い上げを見ながら、なお自信を持っていた先進国日本は、過去のものになったということです。日本に追いついただけでなく、ある部分では追い抜いた韓国と中国、彼らの自信。まだ一人当たりGDPは少ないながらも、先進国へのコンプレックスを払拭し自信をつけたアジア各国の姿です。

日本だけがなぜ、欧米にキャッチアップできたか。かつて日本人は、日本の優秀さや後発国のメリットを指摘しました。しかしそれは、一面しか見ていませんでした。私は、一人当たりGDPの各国の軌跡を示すグラフで説明する際に、「日本がキャッチアップに成功したのは、日本の優秀性によるが、日本だけがこのメリットを享受したのは、アジア各国が経済発展に目覚めなかったからだ」と解説しています。韓国は北朝鮮との対峙、中国は共産党の政治優先、インドシナ半島はベトナム戦争など、政治を優先し経済開発を後回しにしたのです。彼らが政治的安定を得て、経済開発に舵を切った時、日本の一人勝ちは終わりました。
手前味噌に言うと、日本が「政治より経済が重要だ。独自路線は必要ない、欧米にまずは追いつけばよい」というお手本を見せたのです。
幸いなことに、その時点では日本は世界のトップグループに仲間入りしていました。
私は、ヨーロッパは歴史的背景とともに、同程度の豊かさなので共同体ができるが、アジアはいつのことになるやらと、考えていました。しかし、いずれ近い将来に、アジア各国が同じような豊かさになるでしょう。その時に、日本は何で優位性を保つか。また、対等協力の関係ができたことを、どう活かすかが、次の課題です。

続、強い現場・弱い本部

先日、藤本隆宏先生の「強い現場・弱い本部」を紹介しました(2011年5月19日の記事)。新聞切り抜きを整理していたら、3月29日の日経新聞経済教室に、先生が今回の大震災に関して、「現場重視を復興の起点に」を書いておられるのに気づきました。それにしても、長く放置してあったものです。ようやく、整理する時間ができました(反省)。重複する部分は省略するとして、いくつかを引用します。
・・こうした日本の組織は「緩慢に来る危機」には概して弱い。目標が定まらず、互いに見合って責任が曖昧になる。幕末の幕府、戦前・戦中の軍部ほか(丸山真男説)、バブル崩壊後の政府・金融界、等々。しかし「復興」局面には強い。目標が定まれば、互いの配慮と幅広い分業が協働効果をもたらすからだ・・
・・今は被災地の現場の復旧に関心が集中するが、より長期的には、日本に「良いものづくり現場」を残していくことが、経済社会の復活にとり必須だ。「広義のものづくり」はサービス業や農業も含むが、特に貿易財において「良い現場」を残すことが「強い日本の復興」の起点となる・・国内に良い現場を残すことは、もはや国家の経済安全保障上の重要事項である・・

日本がくしゃみをすると

4月30日の日経新聞「世界景気、回復は続くか」に、次のような記述がありました。
・・みずほ証券リサーチ&コンサルティングの試算によれば、日本の名目経済成長率が1.5ポイント低下した場合、東南アジア諸国連合(ASEAN)の成長率を0.43ポイント押し下げる・・
かつて日本の経済がアメリカに依存していた頃、「アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪を引く」といった表現がありました。確かに、日本経済の規模が大きくなり、海外との交易が多くなると、日本経済が世界経済に及ぼす影響も大きいのですね。
今回の大震災で、日本の部品メーカーが生産を中断することで、日本国内だけでなくアジアやアメリカの会社や工場が、部品が調達できず、減産に追い込まれた例も多かったとのことです。

世代間の負担と受益の差

地震のような瞬間的衝撃的なリスクの他に、緩慢なリスクがあります。日々のリスクの高まりは少しずつで目立たないのですが、長期間でその結果を見ると、大変な「被害」が生じるものです。
3月14日の日経新聞経済教室は、島澤諭准教授の「人口減少と世代間格差。主要国で最悪、改革が急務」でした。既に指摘されていることですが、世代別の数字を表にしてみると、改めて、とんでもないことをしていることがわかります。
政府への負担と政府からの受益の差を見ると、70歳の人は1,500万円の受益超過、50歳の人は700万円の負担超過、20歳の若者は2,700万円の負担超過です。少子高齢化、経済成長の鈍化で、高齢者は年金負担が少なくても、たくさんの年金をもらえます。
若者は、少ない人数で高齢者の年金を負担します。日々の暮らしやニュースでは見えにくいので、若者はこの事実に「衝撃」を受けていません。