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経済

精巧だけど安い日本の時計、ブランドで売るスイスの時計

朝日新聞別刷りGlobe9月15日号は、時計の特集でした。2012年、シチズンとセイコーの2社でムーブメント(時計の中身=機械部分)の販売個数は、5億個以上。世界の時計の生産数は推計10億個なので、2個に1個はセイコーやシチズンのムーブメントが入っています。普及用だと単価は100円しないとのことです。1個100円ですか。儲かりませんね。
日本のメーカー全体では、時計とムーブメントの出荷数は約6億個。うち完成品は6,700万個なので、ほとんどはムーブメントで出荷されています。
完成品の輸出個数は6,000万個で、金額は1,000億円。これに対し、スイスは、完成品の輸出個数は約3,000万個で、金額はなんと2兆1,000億円。日本の半分の個数で、20倍の金額を稼いでいます。単純平均すると、日本製は1個2千円で、スイス製は7万円です。私の計算は間違っていませんよね。
う~ん。ブランド恐るべし。日本メーカーはかつて1970~80年代に,クオーツ式腕時計を開発して、スイスの時計産業を壊滅状態まで追い込んだのですが。見事に復活していますね。日本は安くて精巧な機械で売っていては、部品メーカーで、いずれ新興国に追いつかれますね。

失われた20年、私たちは何を失ったか

日経新聞が、フォーブスの記事を転載しています。「語られ始めた『日本の失われた20年はウソ』という真実」(電子版、2013年8月29日配信)。その記事の中で紹介されている、Eamonn Finglton氏の「The Myth of Japan’s Failure」(The New York Times、January 6, 2012)。
この20年の間に、私たちは、何を失い、何を間違ったのでしょうか。先日も、「日本は異質か」(2013年8月16日)を書きました。整理し分析しなければならないことは、次のようなものでしょう。
・日本の問題と先進国の共通問題
・日本経済の問題として、バブル崩壊、不良債権の処理、デフレ経済
・日本の経済社会の構造的問題として、追いつき型経済・日本一人勝ち経済の終了
・グローバル化と国際金融危機の影響
・そして、新たな産業・経済への挑戦
・その間に、日本の政治と金融界・経済界は、何をして、何をしなかったのか

私は、日本の政治も金融界も経済界も、それなりにこの大きな課題に取り組んだと考えています。しかし、バブル崩壊、不良債権処理はこれまでに経験したことのない大きさであり、国際金融危機は日本一国で対応できるものではありませんでした。もちろん、もう少し早く上手に手を打てばよかった、という批判はあると思います。でも、10年前に日本を批判した各国が、同じような道を歩み、日本批判をしなくなりました。
たしかに、経済成長率も低下し、世界での工業製品のシェアもいくつも落としました。賃金も上がらず、非正規雇用も増えました。しかし、よく見ると依然として多くの日本人は豊かな生活を送り、健康で長生きです。町並みもきれいで、社会は安心安定しています。何がダメで何がよかったか、何が変わらなかったか。それを、分野別に分析すべきです。
問題の一つは、「失われた10年」「日本はダメになった」という流行語に、日本人が自虐的に浸ってしまったことです。現実の悪い面を直視することは、よいことです。しかし、それはその課題を克服するためであって、自らを貶めて満足していては、進歩はありません。さらに、「日本の全てが悪い」というレッテル張りは、努力した面やよかった点を評価せず、知的な分析をサボってしまいます。「流行語が作る時代の雰囲気」。(2013年1月9日)
そしてそれは、次の問題につながります。すなわち、課題の解決に向けての建設的な議論とそのための改革を、妨げるのです。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といった日本礼賛の裏返しが「失われた10年」であり、「一億火の玉だ」の裏返しが「一億総懺悔」になります。マスコミにあっても、「ヨイショ記事」か「何でも批判」のどちらかでは、冷静な分析に欠け、建設的な代案の提示がありません。

直接支援政策と環境整備政策

9月10日の日経新聞経済教室、奧野正寛・東大名誉教授の「政策『先送り』今こそ脱却を」から。
・・一つの経済では、時間とともに、ある産業が成長し、代わりに別の産業が衰退する。その過程で衰退産業から成長産業に、ヒト・モノ・カネなどの資源が移動することが、経済が全体として成長するために必要である。しかし、資源が企業間・産業間で移動するには摩擦がつきまとう・・
そのような産業構造の転換に伴う一時的な失業問題を解決しようとする政策が、産業調整政策である。伝統的に産業調整政策は「積極的産業調整政策」と「消極的産業調整政策」に分けられてきた。これらに「環境整備政策」を加えるのが適切かもしれない。
「積極的産業調整政策」とは、成長産業に資源を誘致するため補助金などの政策援助をするものである。他方、「消極的産業調整政策」とは、衰退産業での雇用や資源利用を援助し、失業の痛みを減らそうとする政策である。「環境整備政策」とは、どの産業が成長産業であるかが分からなくとも、職業訓練などの求職者援助政策によって、資源の産業間移動を促進しようとする政策である・・
消極的産業調整政策は短期的に失業を抑えるプラスの側面がある一方、長期的には、成長産業への資源の移動を抑制し一国経済の経済成長を妨げるという問題を抱えている。日本経済の新陳代謝が妨げられ、潜在成長率が低迷している背後には、日本経済の構造調整を「先送り」させるこれらの政策的・制度的措置があると考えられる・・

リーマン危機の大きさ

日経新聞「日曜に考える」は、先週9月1日から、「シリーズ検証、危機は去ったか、リーマン・ショック5年」が始まりました。世界経済を揺るがせたリーマン・ショック。まだ近過去のことなので、全体像を簡単に書いたものはないようです。
どのようにして起きたのか。それは記事をお読み頂くとして、出てくる数字の大きさに驚きます。破綻したリーマン・ブラザーズの負債総額は6,130億ドル(60兆円)。資本の32倍です。AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の経営危機の原因となったCDS(クレジット・デフォルト・スワップ。倒産保険)は、取引規模(想定元本)で58兆ドル(5,800兆円)でアメリカGDPの4倍です。
うまくいっているときはよいですが、いったん信用がなくなると、とんでもないことになります。

情報の爆発を生かす

8月30日日経新聞経済教室は、坂田一郎・東大教授の「IT戦略を問う。高度な人材育成の強化を」でした。
ビッグデータへの期待が高まっています。しかし、期待とは異なり、情報の量と種類の増加に比べて、経済社会で活用されているのは、ごく一部にとどまっています。その背景にある、3つの壁を指摘しておられます。
1つは、技術と人材の不足です。2つめは、情報を有効に生かすビジネスモデルの企画構想力の不足。3つめは、情報の利活用を進めるための社会システムの不足です。
膨大な情報を活用できるかどうか。分析をする側に、それを使ってどのようなビジネスに生かすか、どのような社会問題を解決するかを的確に認識していないと、価値はありません。
「情報科学者の関心は技術に偏りがちであり、市場や課題を深く知る人材との間に溝がある」と、先生は指摘しています。
詳しくは、原文をお読みください。