JR東日本のIC乗車券「スイカ」が、10年を迎えるそうです。最初は鉄道の定期券でしたが、その後、電子マネーの機能が付きました。現在では3,700万枚が発行されています。ということは、日本人の3割が持っていることになります。関東圏に人口の3割が住んでいることを考えれば、そうなのかとも思いますが。
便利なものですね。かつての接触式カードの定期券は、定期券入れからいちいち取り出して、改札機に通す必要がありました。いまは、定期券入れで触れるだけです。駅の売店でペットボトルや新聞を買う時も、小銭はいりません。町のコンビニでも、使えるところが増えています。もちろん、別の電子マネーである、エディなどもあります。最近は、小銭入れを出すことも減りました。1円玉の発行枚数も、減っているそうです。
数年前、コンビニやスーパーのレジを素早くするために、10円以下は計算しなくて良いようにしようと、勉強したことがあります。外国では、おつりの代わりに、キャンディをくれるところもあるとのことです。電子マネーやクレジットカードの普及で、コンビニのレジも早くなりました。
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世界金融・経済危機とG20の試み
藤井彰夫著『G20 先進国・新興国のパワーゲーム』(2011年、日本経済新聞出版社)が、勉強になりました。
2008年、リーマン・ショック後の世界金融・経済危機に対処するため、G20首脳会議が開かれるようになりました。この本は、G20を軸に、先進国と新興国の、経済と金融秩序を巡るせめぎ合い、イニシアティブの争奪を描いたものです。世界経済や金融についてのニュース、さらに各国の首脳会談のニュースは、断片的にマスコミで伝えられますが、それがどのような流れの中にあるのか。このように、近過去の出来事を、構図の中で解説してくれる本は、役に立ちます。
世界政府がなく、国際連合も十分に機能しない。しかし経済や金融は国境を越えて動き、危機は国家単位では押さえられない。これが現状です。それに対し、どのような仕組み、機構を作って対処するか。G20は条約や決まりもない、任意の集まりです。運用次第で、機能し、また機能しません。これが、歴史と政治のダイナミクスなのでしょう。そしてその役割は、あとで歴史となって理解されるのでしょうね。
リーマン・ショックによる世界金融・経済危機は、2008年9月麻生政権が発足して直ちに直面した、大きな課題でした。まずは、それに忙殺されました。日本が、資金繰りに困る各国を支援するため、IMFに1,000億ドルを融資することを、各国に先駆けて表明しました。各国からは大きな評価を得たのですが、国内ではその意味が理解されませんでした。官邸での総理記者会見でも、官邸詰めの記者さんは政治部が多く、質問も出ませんでした。
国連総会やその場を利用した各国首脳との会談、ASEMやAPEC、G20、日中韓首脳会議と、立て続けに国際会議や首脳会談がありました。世界第2位(当時)の経済大国日本への期待の大きさを、肌で感じました。日本が景気刺激のために超大型の財政出動をするので、各国にも付き合ってもらうべく説得すること、大恐慌の轍を踏まないように保護主義を取らないことの説得など。これが世界の経済危機を救う仕事だと、実感しました。
総理秘書官室の担当は、財務省出身、国際金融のプロである浅川秘書官(副財務官)でした。ニューヨーク、北京、リマ、ワシントン、ロンドンと、総理のお供をして、政府専用機で往復しました。ほとんど寝ることもできず。
2008年の世界金融・経済危機は、欧米の金融機関・金融市場が震源地でしたが、今回2011年の世界金融・経済危機は、南欧の国家財政が震源地です。このような危機を克服し、世界の統治の技術、国際機構は進化するのでしょう。
ユーロ危機、政治の挑戦と経済の失敗
ギリシャに端を発した欧州の債務危機が、大きな問題になりました。なぜ、こんなことになったのか、いろいろな解説がされています。私は、経済と金融という側面とともに、政治による新しい仕組みへの挑戦と混乱という観点に関心があります。10月28日の日経新聞「つまずいた大欧州」、下田敏経済金融部次長の解説「ユーロ、債務危機の試練。統合優先、粉飾見ぬふり」が、要点を整理してありました。
ギリシャがユーロに参加する前に、関係者は強い懸念を表明していました。ギリシャは財政規律や物価抑制の基準を満たすことができず、実際に参加は2年遅れました。その際も、基準を達成したけれど、数値が粉飾ではないかと、疑われていたのだそうです。その後、ギリシャ政府が「自白」しました。
それでもなぜ、参加を認めたのか。今回の債務問題の震源地であるギリシャ、スペイン、ポルトガルは、長く軍事独裁政権が続きました。1970年代に独裁政権が崩壊しましたが、放っておくと政治体制が揺らぐ恐れがありました。欧州統合で、これらの国に政治的安定をもたらそうとしたのです。
その後しばらくは、EUの中欧と東欧への拡大で、経済が拡大し、問題が顕在化しませんでした。ここに来て、露見したようです。
通貨と金融政策は統合したけれど、財政政策は各国に残るという、現在のユーロ制度に、問題はあります。しかし、完璧を期そうとすると時間がかかります。少々のリスクを抱えつつも、大きな目的に向かって改革に挑戦する。それが、進歩を生むのでしょう。
「こんな危険もある」「こんな恐れもある」といっていたら、改革は進みません。もちろん、被害の大きな改革は進める必要はなく、リスクには備えをしながら改革を進めるべきでしょう。しかし、石橋を叩いてばかりでは、前進はありません。メリットとデメリット、それも現在だけでなく将来を見通して進めることが必要です。
事業にとっての適正な企業規模
16日の朝日新聞経済欄、安井孝之編集委員の「波聞風問」は、「ものづくり―はやぶさからエアバスへ」でした。群馬県富岡市にある、重工大手のIHI(かつての石川島播磨重工業)の子会社「IHIエアロスペース」が、小惑星探査機「はやぶさ」を作り、エアバスの部品を作っている話です。
この会社の源流をさかのぼると、戦前は軍用機を作っていた中島飛行機で、戦後に解体され、その後、日産自動車の宇宙事業部門に引き継がれました。日産が経営不振になり、カルロス・ゴーン社長が事業の選択と集中を進め、航空宇宙事業は売りに出され、IHIが2000年に買い取りました。私が興味を持ったのは、次のようなくだりです。
・・担当部長は「航空宇宙事業は、自動車とは時間軸も規模も違う」と言う。今回のエアバス新型機への納入で、今後30年間で1兆5千億円の売上げを見込む。年間500億円の売上高は、IHIの航空宇宙事業の売上高3千億円にとっては大きな柱だが、日産の売上高の1%にも満たない。
それぞれの技術、商品には、それを育む適正な企業規模があるのだろう。大きな組織が、すべての先端技術を育てられるわけではない・・
なるほど、大企業の1%にいるよりも、それより小さな会社で存在感がある方が、うまく行くでしょうね。「企業は大きくなればよい、いろんな事業を抱えるのがよい」とは、言えないのですね。
日本企業の海外展開
9月11日の日経新聞が、「内需産業も大航海時代。M&A活用、円高追い風」を解説していました。内需型の産業とされていた食品や日用品メーカーが、海外展開を加速している、という記事です。海外輸出を増やしているということではなく、現地企業を買収しているという話です。
薬品、食品、お酒、おむつ、化粧品などです。考えてみれば、日本国内の市場が飽和した段階で、海外に市場を求めることは、当然のことでした。電器製品や自動車など、輸出や海外生産に力を入れた産業もありました。
現地で販路を拡大するには、現地企業を買収し、ノウハウと販売店網を手に入れることが効率的です。日本の中で安住し、そのような戦略をとらなかったということでしょう。
海外展開に関して次のことも、紹介しておきましょう。7月19日の日経新聞は、日本企業が海外子会社の利益を、国内に環流させていることを伝えていました。2010年度では、利益の95%を親会社への配当という形で、国内に戻しています。この比率は、2008年度までは約5割でした。
リーマンショックの後、経済対策として、海外子会社から受け取った配当の95%を非課税とする税制改革をしました。それまでは、法人税率を適用していました。そこで企業は、高い税率を避けて、海外で得た利益は海外で再投資していたのです。
この改正によって、海外で得た利益が、日本に戻ってくるようになりました。その時点での税収は減りますが、国内に戻ったお金は、投資に回されるか株主に配当され国内の消費などに回ります。日本が豊かになり、景気が良くなります。税金は、その後に納めてもらえばよいのです。このような、税制の経済効果、政策税制もあるのです。