加藤忠一さんから、御著書『高度経済成長を支えた昭和30年代の工業高校卒業生』(2014年、ブイツーソリューション)をいただきました。著者の加藤さんは、昭和35年に福井工業高校を卒業されました。大学を経て、富士製鉄(後の新日鉄。現在の新日鉄住金)に勤められ、鉄鋼研究所長などを歴任された技術者です。
ある日、加藤さんから、「岡本のホームページの記述を引用したいので、許可を得たい」という趣旨の電子メールが届きました。引用か所は、「戦後日本の経済成長、GDPの軌跡と諸外国比較」の図です。本の第1章1の書き出しで、高度経済成長を説明する際に、私のこの図を使ってくださったのです。光栄なことなので、喜んで使っていただきました。
全く存じ上げない方です。「ところで、どのようにして、私のホームページの記述を見つけられましたか?」とうかがうと、「インターネットで探した」とのことでした。
ご本は大部なもので、かつユニークです。第1部では、高度経済成長期に、工業高校教育が果たした役割、そして卒業生がどこに就職しどのような貢献をしたかの分析です。第2部は、78人の方が寄稿された「自分史」です。第3部は、大卒の人から見た工業高校卒業生の評価です。単なる回顧録ではありません。
昭和30年代の工業高校卒業生は、総数120万人と推計されるそうです。この方々の活躍なくしては、戦後の工業化、そして高度経済成長はなかったのでしょう。産業史、社会史論です。まさにその時代を生きた方々でなくては、書くことのできなかった研究書でしょう。
全国の工業高校や県立図書館寄贈されたとのことです。600ページを超える大部の本なのに、2,160円で買うことができます。ご関心ある方は、どうぞお買い求めください。
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統計数字の錯覚、都道府県別有効求人倍率
日経新聞4月21日の「地方の雇用、本当は元気。求人倍率、働く場所で集計すると都市部は減少」が、興味深かったです。都道府県ごとの有効求人倍率ですが、その算定方法を探ると、公表数値と違う結果が出てくるのです。
・・厚生労働省が公表するのは、本社所在地ごとの有効求人倍率。東京都に本社があるスーパーが青森県内の店の求人を出すと、原則として東京都の求人として計算するため都市部が上昇しやすい。これを就業地別に青森県の求人として数え直すと、地域雇用の実態がみえやすくなる。
2013年の実績を本社地別でみると東京都が1.33倍で首位。就業地別で計算すると1.00倍と大きく下がり、15位にまで転落する・・
そうだったのですか。これでは、都道府県別の数字をそのまま鵜呑みにするわけにはいきません。
松尾洋平記者、良い記事を書いていますねえ。彼は、2010年10月4日にもこのホームページに登場しています。
社会の変化と地位の変化。百貨店と銀行
4月13日の日経新聞「シリーズ検証 流通革命50年の興亡」は、「老舗百貨店、まさかの統合」でした。三越と伊勢丹、松阪屋と大丸、阪急百貨店と阪神百貨店。伝統ある百貨店が、2007年前後に、相次いでライバルと合併しました。当時このニュースを聞いて驚きました。
記事には、1960年以降の、百貨店とスーパーマーケットとコンビニエンスストアの売上高が、折れ線グラフで出ています(もっとも、昔はスーパーもコンビニもなかったので、それらの数値は途中からです)。
日本の経済成長や業界の発展を反映して、それぞれ初めのうちは右肩上がりですが、1981年にスーパーが百貨店を抜き、1990年頃から百貨店が右肩下がりになります。そして、2007年にコンビニが百貨店を追い抜きます。
J・フロント(松坂屋+大丸)の奥田努相談役が、1970年代のアメリカの事情を語っておられます。アメリカでは、1970年に200社あった百貨店が、1990年には150社になり、2006年には20社を切ったとのことです。
百貨店の合併も驚きましたが、1990年代の都市銀行の合併の方が激しかったです。若い人は、知らないでしょうね。私の大学の同級生がたくさん金融機関に就職しましたが、数年前の同窓会で、同じ名前の銀行や証券会社にいたのは一人もいませんでした。
私は、先進国へ追いつく過程で、次の3つが大きな機能を果たした(地位が高かった)。しかし、追いついたこと、そして日本社会が成熟したことで、そのままでは意義が薄れたと、指摘したことがあります。まあ、話を極端にしているので、そう思って読んでください。
1つは、官僚です。日本が進むべき方向を示します。それは富国強兵、産業振興、インフラとナショナルミニマムのサービス整備でした。
効率よく機能したことで、日本の官僚制は高い評価を得ていました。しかし、目的を達成したことで、そのままの「業態」では、意義が薄れます。
2つめは、銀行です。産業振興やインフラ整備の際に、資金を供給します。これも、間接金融が主要な時代は大きな役割を果たしますが、直接金融の時代になると、存在意義が薄れます。
3つめは、百貨店です。官僚が方向を示し銀行が資金で後押しした「成果」である経済成長を、消費の面から象徴するのが百貨店です。豊かになった庶民が、あこがれの品を買いに行きます。しかし、これも日本が先進国に追いつくことで、あこがれの品はほとんど手に入るようになり、百貨店のありがたみが薄れます。かつては、百貨店のイギリスフェア、フランスフェアが賑わい、大食堂がハレの場でした。サザエさんや、ちび丸子の世界です。
銀行と百貨店にあっては、バブル景気による「見せかけの栄華」と、そのあとの「転落」が、合併などの結果につながりました。
数字で見える都市の活力
3月31日の日経新聞特集「グローバルデータマップ」に、世界各都市の空港について、国際線の利用状況比較が載っていました。国際線が飛んでいる先の都市の数、国際旅客者数、総発着回数です。その都市のビジネスや観光の活発さがわかる指標です。
ロンドンは、351都市と結ばれ、年間1億2千万人が利用し、発着回数は110万回です。パリが、255都市、7,100万人、75万回。ニューヨークが、132都市、3,600万人、118万回(ロンドンと発着回数は変わらないのに、なぜか利用者は3分の1以下です)。
それに対し、東京は88都市、3,300万人、56万回です。香港が、138都市、5,300万人、34万回。ソウルが、143都市、3,800万人、37万回。シンガポールが、134都市、4,700万人、31万回です。
もちろん、地理的条件などの要素もあって(ヨーロッパは近くに外国が多い)、それだけで単純に「都市の活発さ」にはなりませんが。東京がアジアのより小さな都市に負けているのは、気になります。
人の動きが、都市の活力や豊かさの指標とは言い切れませんが、重要な指標の一つであることは、間違いありません。国内で言えば、新幹線の通っているところが、経済的豊かさとほぼ重なります。もっとも、新幹線ができたから経済が活性化したという、ニワトリと卵の議論はあります。
しかし、地元の大金持ちが1人や2人いて大散財するのと、域外から観光客やビジネスマンが来て、一晩に2~3万円(宿泊費と飲食費。このほかにお土産)を使ってくれるとしたら、100万人来ることの効果ははるかに大きいです。
そして、もう一つ。域外からの人が来ることは、都市に変化をもたらします。地域が活力を持ち続けるには、カネを生み出すこと、カネを呼び込むことといった経済力と、発展を続けるという革新性、更新力が必要です。
賃上げ、政府の役割、2
昨日の続きです。
・・むしろ政府は、賃金決定に関して間接的な介入しかできない民間部門よりも、規制などを通じてより経営に影響を及ぼすことのできる医療や介護、保育所などの非営利部門の賃金上昇を促す方策を考えるべきであろう。日本産業生産性データベースによれば、非営利部門全体の付加価値シェアは4%(政府部門を含めると20%)になる。
医療などの非営利分野は年率6%で労働投入が増加し、成長産業と認識されている。しかしここでの賃金は年率1.5%で下落を続けている。これは規制によって経営の自由度が制約されている中で、付加価値が労働投入量ほどは増えないため、労働供給増から賃金が低下するという、ゆがんだ形の市場メカニズムが働いているのである。もし政府が本気で国民全体の賃金上昇を考えているのであれば、規制改革を通じて非営利部門の賃金上昇を政策的課題とすべきであろう。
人々の所得を持続的に上昇させていくためには、短期的な民間企業への呼びかけだけでは不十分である。法人税減税や規制改革、労働市場改革を通じて生産性を向上させ、賃金上昇につなげていきやすい経済環境を作り出すことこそが、政府本来の役割である・・
詳しくは、原文をお読みください。