カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

安い日本の賃金

5月9日の日経新聞に「円安にもほどがある1 年収300万円じゃ働けない」が載っていました。

・・・1ドル=160円まで進んだ円安が話題になっている。円安は輸出に強い大手企業の業績を引き上げ、賃上げに一役買った面があるものの、食料やエネルギーの多くを輸入に頼る日本にとっては物価上昇が心配される。足元は「過度な円安」ともいわれ、マイナス面が色濃くなりつつある。

「年収300万円台で暮らせるの?」。採用支援会社の「ASIA to JAPAN」(東京・台東)の三瓶雅人社長は4月、中国・上海で現地の大学生から真顔で聞かれた。ある日本企業の1年目の年収や東京都内での生活費を説明するうちに学生の顔は曇った。
10年ほど前は日本企業の年収を紹介するたびに、中国人学生が「おー」と歓声を上げた。いまは反応がない。三瓶社長は「最近の円安でとどめを刺された。中国沿岸部、台湾、韓国の優秀な学生はとれない」と語る・・・

妻の働き方で、世帯手取り2億円差

4月23日の朝日新聞くらし欄に「妻の働き方で「世帯手取り2億円差」 「出産後退職」と「仕事継続」、都試算」が載っていました。

・・・妻が出産で退職した場合と働き続けた場合を比べると、世帯の手取り収入は生涯で2億円近い差が出る――。そんな試算を東京都の有識者会議がまとめた。パートで働く人の「年収の壁」論議では、社会保険料の支払いで手取りが減る側面が注目されたが、保険料を払うことで増える年金を含めた「生涯の手取り」を見える化する取り組みだ。

試算のきっかけは、都が有識者を招いて昨年3月にスタートさせた「東京くらし方会議」(座長・権丈善一慶応大教授)。働き方改革のコンサルティングを手がける「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長、税制に詳しい東京財団政策研究所の森信茂樹・研究主幹や、労働組合や企業出身の委員が議論を重ねてきた。
この会議では働き方や生き方に関する社会保障制度も主要な論点で、関心の高い「年収の壁」を取り上げた際、「目先の保険料負担で手取りが減るのは分かりやすいが、将来の手取りがどう変わるのかが見えにくいので可視化したらどうか」という提案を受けて、事務局の都産業労働局が試算した。

試算では、22歳で就職したカップルを想定。35歳で年収(額面)が600万円になり、64歳まで働き続ける夫のライフコースは固定したうえで、31歳まで夫と同じ年収で働き、出産した妻が、夫と同様に就業を継続した場合から、退職して就業しなかった場合まで、四つの異なる就業パターンごとに、世帯全体の賃金と年金の手取り額を89歳まで累計した。その結果、示されたのは次のような内容だった。
(1)妻が出産後も同じ職場で働き続ける「継続就労型」では、社会保険料と税引き後の給与と年金をあわせた総手取り額が約5・1億円(うち年金1億円)
(2)出産で退職、子が10歳の時に再就職して年収300万円、フルタイムで64歳まで働く「再就職型」だと約3・8億円(年金9千万円)
(3)出産で退職、子が10歳の時から年収100万円のパート(会社員や公務員に扶養される年金の「第3号被保険者」)で働く「パート再就職型」では約3・5億円(年金7千万円)
(4)出産で退職、再就職しなかった「出産退職型」だと約3・2億円(年金7千万円)
出産をはさんでフルタイムで働き続けた(1)の「継続就労型」と、退職後には働かない(4)「出産退職型」では1・9億円の差がついた。
また、再就職時に、年収は半減するが自ら厚生年金に加入した(2)「再就職型」と、自らは保険料を払わない第3号被保険者にとどまった(3)「パート再就職型」では3千万円の差があった。
妻が専業主婦やパートの場合に夫が受け取れるメリットも算出。配偶者手当(都内中小企業の平均で月1万914円)や配偶者控除分(年7万1千円)を合計しても生涯で約670万円だった。
試算について検討した会議では、「年収の壁手前で就業調整することの目先の利益はすごく大きく見えても、生涯にわたって見るともっと多くのお金を放棄していることが分かる。若い人にはぜひ伝えたいメッセージだ」(小室委員)といった声が上がった・・・
都の資料「東京でのくらし方、働き方について~私たちの思い~」。「報告書」もわかりやすいです。

政府は投資ファンドを作るより、税制や規制緩和を通じ起業しやすい環境作りに徹するべき

3月28日の日経新聞オピニオン欄、梶原誠・コメンテーターの「株高に潜む「父権主義」の罠」が載っていました。

・・・日経平均株価が1989年末の高値を超え、日本経済を苦しめた「34年の呪縛」は解けた。だが100年前からの呪縛はまだ続く。「父権主義」の罠だ。
父権主義は「パターナリズム」ともいい、権力者が保護を目的に弱者に干渉する。市場目線で言い換えると、政や官が企業の活動に介入する。企業の関心は顧客より「お上頼み」になり、独自の思考もなくなる。イノベーションを追う株式市場はこの風潮を嫌う・・・
・・・34年間を振り返ろう。まず比較対象として伸びた銘柄を見る。時価総額を飛躍的に増やしたのは独創性を発揮した企業だ・・・沈んだ銘柄はどうか。目立つのは、父権主義が色濃く残る規制業種だ。東証業種別株価指数の下落率を見ると、電気・ガスと証券・商品先物がそれぞれ70%前後、銀行は80%に及ぶ。横並び経営が目立つこれらの業種が株式市場で幅を利かせると、投資家の目利き力は生かしがいがなく衰える。
残念ながら「下落組」の存在感は大きい。34年前と時価総額を比較できる1189社中、増やした会社は3分の1の397社に過ぎず、減らした会社は2倍の792社だ。両銘柄群を株価指数化してみよう。父権主義に染まる多くの会社の株安を、独創的な一握りの企業が株価を4倍近くに高めて埋め合わせた実態がちらつく・・・

・・・日本も父権主義を葬るチャンスを迎えた。日銀は今月、人為的に金利を抑え、株価を底上げしてきた異次元緩和を終えた。
一方で、逆行する動きも静かに進む。レコフデータによると、コロナ禍が始まった20年から23年までの官製ファンドの投資額は2兆円弱と、19年までの4年間の3倍を超えた。既得権を守るためだろう。いったん始まった「大きな政府化」に歯止めが利きにくいことは、世界の歴史が示している。

参考になる会話がある。昨年死去したドイツの大物政治家、ウォルフガング・ショイブレ氏は2009年からの財務相時代、米投資会社KKRの共同創設者、ヘンリー・クラビス氏に意見を聞いた。「政府がベンチャー企業に投資するファンドを作りたい」
クラビス氏は反対した。「政府は税制や規制緩和を通じ、起業しやすい環境作りに徹するべきだ。良い会社があれば民間マネーが見つける。約束してもいい」
日本への問いが浮き上がる。政府は縁の下の力持ちに徹するか。成長する企業は生まれるか。投資家はそんな企業を探し出す目利き力を持つか――。世界は今後、これらの視点で日本経済を見つめるだろう。急ピッチで進んだ株高を維持する条件でもある・・・

人的投資抑制がデフレを助長

2月29日の日経新聞「物価を考える、好循環の胎動」は、柳良平・元エーザイCFO「人的投資抑制、デフレを助長」でした。

――日本企業は人件費をどう捉えてきたか。
「これまで企業価値の物差しは有形資産で、道具として財務会計を使ってきた。人件費は費用で利益にマイナスに働くものという考え方が当たり前だった」
「かつて企業価値の大半を占めていた有形資産なら財務会計で説明できたが、近年は人材価値や知的財産など無形資産が過半以上を占めるようになった。従来の方法では企業価値の半分も測定できなくなった」

――人的資本の効果を測る「柳モデル」を作った。
「製薬会社エーザイの最高財務責任者(CFO)時代に『人件費を使いすぎ』と投資家から批判があった。人件費は企業の将来価値を高めるものだと、証明したかった。人件費を投資した5年後に企業価値を計る指標のPBR(株価純資産倍率)が約13%増える正の相関があった」
「人件費は費用ではなく将来の企業価値を生む投資であると、ESG(環境・社会・企業統治)を重視する長期投資家を中心に考え方が変わってきた」

――人的投資の認識の高まりはどう影響するか。
「企業はバブル崩壊後に賃金を費用とみて抑制することでしのいできた。その結果として、デフレや企業価値の長期低迷につながった。企業経営者は今後は確信をもって人材投資を積極的にできるようになる」

――今後の課題は何か。
「人的資本の開示が前期の有価証券報告書から義務付けられた。他社と同じ『横並び主義』、当局の要求に最低限応える『形式主義』に陥るリスクはある。なぜ企業価値に資するのか、説明責任が今まで以上に問われていく」

1991年から30年間の経済成長外国比較

経済成長外国比較2024」の続きです。1991年のバブル経済崩壊後、日本の「失われた30年」を表す図です。今回新しく作ってもらいました。

1991年を100として、アメリカ、ドイツ、日本の一人あたり名目GDPの伸びを示したものです。30年間でアメリカは3倍に、ドイツは2倍になりました。日本は、横ばいです。イギリス、フランス、イタリアなどもアメリカやドイツと同じような成長をしています。日本だけが、停滞したのです。これは自国通貨表示なので、円安は関係ありません。
5年や10年ではありません。30年間の間、経済界や政治家、官僚たちは何をしていたのですかね。反省。政府はこの間に、何度も景気対策を打ちました。しかし必要だったのは景気刺激ではなく、産業構造転換と賃上げだったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年の記事では日米の経済発展、日本がアメリカに追いつき、その後引き離された数字を「経済力の日米比推移」で示しました。今回はこの表に置き換えました。
今回の3つの図表とも、小黒桂君の助けを借りました。いつもありがとうございます。