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経済

給料、悪平等からの脱却

11月5日の日経新聞「迫真 IT人材争奪戦 年収3000万円の衝撃」から。

・・・メーカーから小売りまで様々な企業によるIT人材の奪い合いが、終身雇用や報酬制度まで変えつつある。
「会社は本気で変わろうとしている」。そんな思いを胸に川上雄也(33)は英NTTの関連会社でクラウド開発に打ち込む。NTTコミュニケーションズの技術者だったが、管理職になり現場を離れる将来に幻滅し、3月に退職しようとした。
しかし最先端の現場にいながら厚待遇も権限も得られる人事制度ができると慰留された。今は給与も3割増しの1千万円超だ。高度技術者だと認められれば、年収は最高で3千万円になる。
新卒を大量採用して手厚く育てるNTTグループは、IT人材の供給源だ。NTT社長の澤田純(64)は「研究開発人材は35歳までに3割がGAFAなどに引き抜かれる」と打ち明ける。経済産業省によると米国ではIT人材の平均年収のピークは30代で1200万円超だが、日本では30代は520万円程度だ。

「データが3千万円まで引き上げるらしいぞ」。18年末、NTTデータの新たな人事制度を報じるニュースが流れると、ソニー本社は揺れた。最も大きな危機感を抱いたのは人事部門だった。
新卒に月40万円を払うという中国・華為技術(ファーウェイ)の発表があったばかり。シニアゼネラルマネジャーの宇野木志郎(47)は「まさに『NTTデータショック』。電機各社の賃金に対するモードが変わった」と振り返る。
宇野木は横並びだった初任給を見直し、すぐさま能力主義に変えた。19年度から優れた人工知能(AI)技術を持つ新卒社員には年130万円上乗せし、同期の平均の2割増の730万円となる。「言い方は悪いが、これまでが悪平等だった」と宇野木は吐露する・・・

・・・ただ、急速な変更は社内でのあつれきも生む。
19年3月までの1年間で、NECグループから約3000人が早期退職などに応じて去った。ある50代男性社員は「大量リストラをして若手には優遇か」と憤る・・・

新卒一括採用、年功序列、終身雇用という「日本型雇用慣行」は、崩れつつあります。世界で戦うためには、必要なことです。
もちろん、仕事の成果以上に給料をもらっていた人には、つらい時代になります。しかし、そのような不合理はもはや維持できません。成果を上げているのに、若いが故に給料が低い人から見ると、「ようやく是正されるか」と喜ばしいことでしょう。

クレジットカードが使えない

サイゼリヤ」ってご存じですか。イタリア料理のファミリーレストランです。全国に千店以上があるようです。

先日、利用しました。お手軽で、高校生も使っているようでした。
問題は、食事を終えて支払いをするときです。なんと、クレジットカードも電子マネーも使えません。
いまどき、全国展開しているこれだけのレストランで、現金が必要とは。驚きました。

最近は、スイカがあれば、ほとんどの支払いができます。よかった、その日は現金を持っていて。若い人には、笑われますかね。
現金を持っていなかったら、どうするのでしょう。皿洗いをして、労働で返すのかな。

消費増税は経済成長停滞とは別

10月20日の読売新聞1面[地球を読む]、吉川洋・立正大学長の「消費税上げ 経済停滞の犯人にあらず」から。

・・・消費税と景気の関係については、問題をきちんと整理する必要がある。
まず、税率が上がる前に買っておこうという「駆け込み需要」と、その後の落ち込みである「反動減」がある。今回は駆け込み需要が比較的小さかったといわれるが、9月末に駅で定期券を買う人の行列ができているのを見た人もいるだろう。しかし、消費のタイミングを増税前に移動させるだけだから、1年を通してみれば総額は変わらず、大きな問題ではない。

消費税率引き上げの影響は、駆け込み需要と反動減にとどまらない。これはまさに増税である以上、家計が自由に使える所得は増税分だけ減少し、結果として消費が減る。
ただし、これは消費の「水準」を落とすだけで、消費の「成長」とは関係ない。もし増税後、落ちた消費が長らく回復しないようなことがあるとしたら、それは消費税に原因があるのではなく、他に理由があると考えなければならない。
消費税(付加価値税)によって景気が長期間低迷し、成長が阻害されるというなら、税率がおおむね20%ほどである欧州連合(EU)諸国の経済は、はるか昔に壊滅しているはずである。しかし、EU諸国は、多くの悩みを抱えながらも、世界を代表する「先進国」であり続けている。

1997年4月、橋本内閣により消費税率は3%から5%に引き上げられた。その後、日本経済は99年にかけて深刻な不況に陥った。主因は大型の金融機関が次々に破綻した金融危機だったが、今でもその時の記憶が一部の人々の間では「消費税のトラウマ」として残っている。2014年4月に安倍政権の下で税率が5%から8%に上がった後も、消費が長く低迷したことから、またもや消費税が犯人とされ、それが今回の過剰ともいえる「対策」を生み出した。だが、消費の伸び悩みは、主に賃金が十分に上がらないことや社会保障の将来不安によって生み出されたものだ。

実際、長期的にみると、消費税率が上がっても実質ベースの消費が増えたことが分かる。税率が3%だった96年度の258兆円から、8%だった昨年度は300兆円と、16%増加した。この間に国内総生産(GDP)は2割近く増えている。長期的に国全体の消費を増大させるのは、経済成長なのである・・・

消費税アレルギー

10月9日の朝日新聞、原真人編集委員の「価格を科学する 消費税コミコミの新発想」から。
・・・企業も合理的な行動をとった。マクドナルドや牛丼のすき家、松屋は店内飲食と持ち帰りの税込み価格をそろえた。レジで会計のたびに税率を振りわけるのでは手間がかかりすぎる。だから本体価格を変えることで、税込み価格を一本化した。
ここからくみ取れること。それは消費税も「価格」の一要素にすぎないということだ。日本ではあまりにも消費税アレルギーが強すぎて、増税の影響を過大に見る傾向がある。ここは発想の転換が必要だろう・・・

・・・たとえば消費税廃止にともなう代替財源の一つとして、山本氏は法人税の大増税をあげた。だが実は消費税だって事業者がまとめて税務署に納める一種の法人税だ。仮に消費税廃止で生じる財源の穴をすべて法人税増税で埋めたとしても、理屈の上では全事業者が納める税総額は変わらない。
事業者が払うあらゆる税は最終的に何らかの形で消費者に転嫁される。消費者だけが得をする、ということにはならない。
いま、消費の現場では消費税率アップさえ多くの価格変動要因の一つにすぎなくしてしまう画期的な価格革命が起きている。
「ダイナミックプライシング」。人工知能を活用し、需要にあわせてアルゴリズムで弾力的に価格を変えていく手法だ・・・

・・・興味深いのは、ダイナミックプライシングが導入されているチケット販売は、消費増税に影響されにくいことだ。いま最適な最終価格をまず決めるから、販売したあとに消費税額を逆算する。だから消費税率の変更をあまり意識しなくてすむらしい。
いわば「消費税後決め方式」。これが広く普及すれば「消費増税は景気に影響する」などと決めつけられなくなるだろう。消費者物価指数ひとつでインフレだデフレだと一喜一憂しなくなるかもしれない・・・

全文をお読みください。

松元崇著『日本経済 低成長からの脱却』

松元崇著『日本経済 低成長からの脱却 縮み続けた平成を超えて』(2019年、NTT出版)が、勉強になりました。お勧めです。詳しくは本書を読んでいただくとして、私なりの理解を書いておきます。

バブル崩壊後、平成時代の30年間に、日本の産業は地位を落とし、経済は停滞しました。驚異的な経済成長を続けた日本は、いまや先進国の中で低い成長率を続けています。著者は、経済の「景気」と「成長」は別物であり、日本経済の停滞は景気問題ではなく、成長問題だと指摘します。三つの過剰を解消しても、金利を下げても、日本の生産性は向上していません。そして、日本の産業と経済の低下の原因を、2つ挙げます。

1つは、世界の生産構造の変化です。
グローバル化とIT化によって、世界中どこでも(ある程度の水準の労働者と社会インフラがあれば。岡本の補足です)、何でも生産できるようになりました。日本企業も、日本国内だけでなく、海外でも投資をするようになりました。というか、日本国内に投資せず、海外に投資しているのです。日本企業が日本に投資しないことが、経済の停滞の原因だと指摘します。
日本は、企業に選ばれない国になりました。それは、次に挙げる日本の労働慣行が、新しい投資に足かせになるからです。

もう1つは、日本の雇用慣行です。
日本の強みだった終身雇用制度が、生産性向上の足を引っ張っているのです。日本の政策は、解雇をさせない、企業もなるべく倒産させないと言うものです。すると、企業は生産性の低い事業を続け、新しい分野に投資しません。生産性が低いままでは、世界で戦えません。企業が元気になり、労働者がより高い賃金を得るためには、企業も労働者も新しい分野への転換が必要です。ところが、失業させないことと終身雇用制度が、それをさせません。

対比として、スウェーデンが上げられています。かつて高福祉高負担の代表だった国です。公的支出は7割を超えていました。その後下がり、現在は5割です。ドイツやフランスより低くなっています。そして経済成長を続けています。
日本との違いは、労働者の保護のしかたです。スウェーデンでは、不振な企業は倒産に任せ、失業した労働者を再訓練して再就職させます。日本では、生産性の低い(世界で戦えない)企業が生き残り、スウェーデンでは企業の新陳代謝が進みます。

日本社会の意識と慣行が、かつては日本を世界一に押し上げ、現在はそれによって停滞している。この指摘に、我が意を得たりです。現在執筆している連載「公共を創る」で、世界最高の豊かで安心な社会をつくった日本人の意識と社会慣行が、現在の社会の不安に答えていないことを書いています。同じ構図が、経済に出ているのです。平成時代は、その曲がり角でした。そして、国民の意識も行政も、その転換に遅れています。

著者は、大蔵省出身、内閣府で経済財政担当統括官(私の上司でした)や事務次官を務めました。その際に考えられたことが、本書の基礎になっているようです。

参考
日経新聞5月25日、小関広洋・帝京平成大学教授の書評
財務省広報誌「ファイナンス」2019年8月号、荒巻健二さんの書評