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経済停滞30年の原因私見2

経済停滞30年の原因私見1」の続きです。
金利を下げて、企業の投資を促しましたが、雇用、設備、債務の3つの過剰を処理した後も、企業はそれに反応しませんでした。それは、企業経営者が挑戦を避けたからです。
「選択と集中」「リストラ」という言葉が流行り、企業はもっぱら縮み思考に入りました。国内で販売と営業をしている限りでは、それでも規模は維持できました。
大企業もリスクを避け、守りの経営になったのではないでしょうか。戦後の成長期とは異なり、名門大学出身のスマートな社員が、社内で出世します。「優秀な若者は有名大学に行き、大企業に就職することがよい職業人生だ」という通念が社会に広がりました。
挑戦しようとする社員がいても、安全を重視する幹部が「もう少し慎重に検討しよう」と言って、先送りします。これは役所では定番の風習ですが、大企業にもあるようです。先送りは、結局はしないことです。

ところが、挑戦を先送りしているうちに、アジア各国は追い上げてきて、さらには追い抜いてしまいました。新しい産業への転換が遅れ、世界での競争にも負けた、ということでしょう。
この状態で金利を下げても、消費も投資も拡大しません。日銀に経済成長、産業転換を求めても、無理でしょう。政府と産業界がするべきことは、ほかにあったのではないでしょうか。

「安全志向」「先送りの思考」「縮みの思考」「諦めの思考」が、長きにわたり、企業、役所を含め日本社会を覆いました。これを脱却することが、長期不況からの脱出の鍵だと思います。経済学の分析手法である需要と供給ではなく、企業経営者、政治家と官僚、そして国民の意識が日本の発展を阻害しているのです。
30年間経済成長がなかった日本に対し、ドイツは2倍に、アメリカは3倍になりました。「1991年から30年間の経済成長外国比較」。ちなみに1.02の30乗は1.8、1.03の30乗は2.4です。
経済停滞30年の原因私見3」に続く。「日本企業と韓国企業の勢いの違い」「「仕方ない」が生む日本の低迷

経済停滞30年の原因私見1

1991年にバブル経済が崩壊し、不況になりました。政府は何度も景気刺激策を打って、公共事業などを追加しました。しかし、経済は好転しませんでした。安倍第二次政権になってインフレ目標を導入し、「異次元の」と形容される金融政策をとりました。しかし、成功したとは言えません。黒田日銀総裁は、異次元緩和の導入時に2年で2%の物価上昇を目指すと表明しましたが、任期中の10年間では実現しませんでした。

私は、金利操作による「インフレターゲット」は景気が過熱した際に下げるときには有効でしょうが、景気拡大には効果がなかったと思います。
2000年代初めに、麻生太郎総務大臣から「金利を下げても、企業が投資をしない。そんなときに何をしたらよいか、日銀総裁をはじめ経済学者に聞いたが、想定していないので答えがない」と聞きました。金利を下げ、政府の需要を拡大しても、企業が投資を拡大しないと効果はありません。ケインズ経済学の限界です。

1990年代後半に日本企業は、雇用、設備、債務の3つの過剰に悩み、これらの削減に動きました(1999年版「経済白書」)。企業はコストカットに全力を挙げ、給料も上げず、投資にも消極的になりました。これは理解できます。ところが、それらの処理を終えた2000年代、2010年代にも、企業は設備投資を手控え、利益を内部留保に蓄えました。
ここまでは経済学の説明です。では、企業はなぜ投資を拡大しなかったか。ここからは、経営学、社会学の説明です。「その2」に続く。

大企業は中小企業をいじめるな

8月18日の日経新聞、小林健・日本商工会議所会頭の「中小を為替ヘッジに使うな」から。

―中小企業への手厚い支援は、生産性が低い「ゾンビ企業」を延命させるとの批判もある。

「それはファクトをみる必要がある。日銀や財務省の統計を分析した中小企業白書によると、製造業の2019〜21年度の実質労働生産性は大企業が年率で2.4%プラス、中小企業が2.3%のプラスだ。両者の生産性の差はほぼない」
「ところが『価格転嫁力』の上昇率をみると、大企業が0.9%プラスなのに対し、中小は2.3%のマイナスだ。この2つを足した結果、企業の収益力を示す1人あたりの名目付加価値額の上昇率は中小の場合、ゼロになってしまう。つまり大企業が十分な価格転嫁を認めないために、中小が高めた生産性が吸い取られている構図だ」
「だから大企業は中小が負担する原材料価格などの上昇を、必要なコストと考えて価格交渉に応じてほしい。『もうけから還元する』という考え方は変えるべきだ。同じサプライチェーン(供給網)にある場合、大企業は中小が作る物の原価がわかり適正利益も見えるはずだ。企業数で99.7%を占める中小企業が良くなれば日本の経済も良くなるのだから、これは大企業の社会的責任だ」

根本涼、竹内宏介記者の解説
「もうけから下請けにいくらか出すという『おぼしめし』スタイルの価格交渉ではなく、コストととらえて中小企業に払う部品代を上げてほしい」。小林氏が熱弁したのは自身が身を置いてきた大企業の意識変革だった。
利益が出たら還元するという強者の論理ではなく、中小企業が最初から収益をあげられる共存共栄の姿勢を求める。供給網の一角をなす中小企業の価格転嫁が進まなければ賃上げも滞り、デフレからの完全脱却の好機を逃すとみる。
商工会議所の生みの親の渋沢栄一は、社会貢献などの公益を図りながら事業の私益を追う重要性を説いた。小林氏の「価格転嫁は大企業の社会的責任」との言葉に通じる。
もちろん中小企業にもDXなどの努力が不可欠なのは言うまでもない。稼ぐ力を高めるための最適解を探る双方の努力があってはじめて、経済停滞を克服できる。

巨大インターネット企業独占への戦い

8月7日の日経新聞に「グーグル検索、違法な独占 米司法省の訴え認める」が載っていました。
・・・米裁判所は5日、米グーグルの検索サービスが独占に当たると認める判決を出した。バイデン米政権は巨大テクノロジー企業の行き過ぎた市場支配力の是正に動いてきた。裁判所が規制当局の主張を認めたことで、米アップルなどに対価を支払ってスマホに検索機能を標準搭載する商習慣の見直しを迫られる。
「グーグルは独占企業であり、独占を維持するために行動してきた」。米首都ワシントンの連邦地方裁判所は5日、原告の米司法省などの主張を認めた・・・
・・・特に問題となったのはグーグルがアップルなどのスマートフォンメーカーに対価を支払う代わりに、グーグルの検索を標準にしてもらうという契約だ。裁判資料によると費用は21年で260億ドル(約3兆8000億円)にのぼる。
巨額の資金を駆使した手法が他社の参入を阻み、独占を生んでいるという司法省などの主張を連邦地裁が認めた・・・

・・・米国では独禁当局の訴訟が業界構造の変化を促してきた歴史がある。1970年代には司法省が通信大手AT&Tを訴え、その後の会社分割と料金競争につながった・・・バイデン政権ではテック企業の肥大化による問題の是正に動き、司法省がグーグルとアップルを、米連邦取引委員会法(FTC)がアマゾン・ドット・コムとメタをそれぞれ提訴。いわば分担するかたちで5社すべての巨大テックに対峙してきた。
欧州連合(EU)も巨大テック企業の活動を制限するデジタル市場法(DMA)の本格運用を開始し、アップルの違反を指摘した、消費者保護を強化するデジタルサービス法(DSA)と一般データ保護規則(GDPR)という3法で巨大ITの傍聴に対応している。
日本の公正取引委員会も同様だ。23年10月には米グーグルの検索サービスについて独占禁止法違反の疑いで審査を始めた・・・

奨学金返済を肩代わりする企業

8月1日の日経新聞に、「奨学金肩代わり 2000社突破」が載っていました。
・・・若手社員向けに大学などの奨学金を肩代わりする奨学金返還制度を活用する企業が急増している。5月末までに2000社を超え、前年同月比で2倍以上に膨れ上がった。企業は数年にわたって若手人材に支援を続けられることから、若年層の人手不足解消と人材の定着を狙っている。

企業の「奨学金返還支援(代理返還)制度」は2021年4月から日本学生支援機構(JASSO)が実施している。新制度は企業が直接機構に送金できるようになり、返還額は社会保険料や所得税の対象ではなくなった。返還額は法人税の控除の適用を受けられる場合があり、企業側もメリットになる・・・

・・・JASSOによると大学学部生の2人に1人が奨学金を受け取っている。労働者福祉中央協議会の調査ではのJASSOの奨学金返還者の平均借入総額は310万円で返済期間は平均14.5年だった・・・