カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

声を上げない社風

11月30日の朝日新聞経済面、堀篭俊材・編集委員の「形ばかりのガバナンス改革 社外取締役、機能せず「お飾り」 相次ぐ企業不祥事」から。
・・・みずほフィナンシャルグループ(FG)が繰り返したシステム障害をめぐり、金融庁は26日、経営責任を明確にするように業務改善命令を出した。みずほFG以外にも、三菱電機、東芝と最近不祥事が発覚した大手企業は、いずれも見た目は先進的なガバナンス(企業統治)体制だが、その中身が伴っていなかったことを露呈した。形だけのガバナンス改革はもう限界なのではないか・・・

・・・今回のシステム障害は事後処理のまずさを考えると「人災」といえる。その原因について、6月に出た第三者委員会の報告書は「危機対応や顧客目線の弱さ」などをあげ、それが改善されない背景に「失点を恐れ自発的な行動をとらない企業風土があった」と指摘している。みずほは2002年と11年にも大規模なシステム障害を起こしているが、顧客よりも身内の論理や自分の立場を優先する体質は改まらなかった。

声をあげようとしない企業風土は、各地の製作所や工場で検査不正が発覚した三菱電機でも同じだ。
「『言ったもん負け』の文化がある」。鉄道向け空調機器などで30年以上も不正が続いた長崎製作所では調査委員会の報告書に従業員が証言した。社内で改善を提案すると、言い出した者が取りまとめ役になるために公の場では沈黙することが当たり前だったという。
東芝の場合は「お上頼み」の体質が明らかになり、取締役会の独立性そのものが問われた。株主総会の運営をめぐり経営陣が株主に圧力をかけた問題で、経済産業省の関与が指摘された。調査委の報告書は「行政に過度に依存せず自戒して行動することが極めて重要だ」としている・・・
この項続く。

産業支援のジレンマ

11月14日の日経新聞に「中小支援拡充、もろ刃の剣 倒産少なく、革新には足かせ 専門人材の育成課題に」が載っていました。

・・・中小企業の経営が正念場を迎えている。倒産件数は50年ぶりの低水準で推移するが、長引く新型コロナウイルス禍で稼ぐ力が衰えている。政府が19日にまとめる経済対策にも3兆円程度の給付金が盛り込まれる見通し。手厚い支援策はイノベーション(革新)を阻害する副作用もあるだけに、コロナ後を見据えて中小支援のあり方も軌道修正する時期に来ている。
「給付金はないよりはありがたいが、経営を浮上させる効果は期待できない」。富士国際旅行社(横浜市)の太田正一社長は話す・・・

コロナの影響で大幅な減収となった事業者に、政府は給付金を配って支援をしています。これによって、企業の倒産、失業者の増加を抑制しています。企業倒産件数は、1972年以来最小です。
ところが、このような支援は、競争に生き残ることができない企業を存続させる、革新や新陳代謝を阻害する場合もあります。すると、平時に戻った際に、これらの企業は生き残ることができません。難しいところです。

追加就労希望就業者

11月11日の日経新聞「漂う雇用 下」は「若者苦境「もっと働きたい」」に、追加就労希望就業者という言葉が載っていました。
追加就労希望就業者とは、もっと長時間働きたいという人たちです。日本の直近の失業者は3%ですが、追加就労希望者も同程度います。
コロナ対策による緊急事態宣言で、飲食・サービス業が休業し、従業員が働くことができなかったからです。アメリカでは、追加就労希望者は広義の失業率に含まれるそうです。

記事には、職種間の求人倍率の差も出ています。一般事務職は低く、建築・土木技術者は5倍を超え、医療や福祉も高いです。資格や経験を必要とする専門職、さらに言うと体を動かす現場の仕事で、人手不足が目立ちます。
失業者がいる一方で、人手不足の業種があるのです。事務室内での事務職を憧れる人が多いのでしょうか、専門職の処遇が悪いのでしょうか、専門職を育てない教育が悪いのでしょうか。

高齢化先進国日本の経験を輸出

10月31日の朝日新聞に「老いる中国、挑む日本式介護 保険や人材の壁、進出に苦戦も」という記事が載っていました。

・・・高齢化が急速に進む中国で65歳以上の人口が1・9億人となり、日本の総人口を超えた。介護需要はますます高まる見通しだが、課題は未整備の介護保険と人材不足。一足先に日本でノウハウを蓄積した日系企業も進出するが、苦戦している・・・

詳しくは、原文を読んでいただくとして。アジア各国に先駆けて経済発展し、高齢化した日本の経験は、他国の見本となります。産業として輸出することも考えられます。

地方の物産を世界に売り込む

奥山雅之ほか著『グローカルビジネスのすすめ 地域の宝を世界80億人に届ける』(2021年、紫洲書院)を紹介します。概要は、アマゾンでの紹介、特に読者の書評(レビュー)をお読みいただくとして。

「海外に産品を売る」と聞くと、大企業が行っている商売と思いがちです。この本は、地方の物産、農産物や中小企業の製品を海外に売り込むことを書いた本です。
諸外国では地方の物産を海外に輸出しているのに、日本では国内市場が大きかったので、やってこなかったと指摘されています。
そうですね。明治時代からの戦前、そして戦後は、日本の産品を海外に輸出して儲けようという意識が国全体にあったようです。国内市場が大きくなかったからです。経済成長に成功する過程で、大企業や商社が輸出する構造が確立しました。他方で、地方の農産物や中小企業は国内市場で満足したようです。
「和僑会」、華僑の日本人版を作ろうという提言には、なるほどと思います。
インターネットや物流が発展して、海外から物を買うことも簡単になりました。ならば、日本各地の小さな企業も、海外に売り込むことは容易です。

近年の日本経済の停滞は、かつて以上に経済の国際化が進んでいるのに、日本がそれに乗り遅れていることが、一因です。経済成長に成功し、満足してしまったのです。日本人の留学生が減少していることも、「内向き」になったことを表しています。日本は、大学院教育と医学教育を、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語など国際的な主要言語でなく、自国語でできる数少ない国です。それは喜ばしいことですが、外国に「他流試合」に行かない内弁慶をつくっているようです。
文化や政治の分野でも、国際社会で存在感を示せていません。日本の行政と官僚も、その一つでしょう。