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経済

追加就労希望就業者

11月11日の日経新聞「漂う雇用 下」は「若者苦境「もっと働きたい」」に、追加就労希望就業者という言葉が載っていました。
追加就労希望就業者とは、もっと長時間働きたいという人たちです。日本の直近の失業者は3%ですが、追加就労希望者も同程度います。
コロナ対策による緊急事態宣言で、飲食・サービス業が休業し、従業員が働くことができなかったからです。アメリカでは、追加就労希望者は広義の失業率に含まれるそうです。

記事には、職種間の求人倍率の差も出ています。一般事務職は低く、建築・土木技術者は5倍を超え、医療や福祉も高いです。資格や経験を必要とする専門職、さらに言うと体を動かす現場の仕事で、人手不足が目立ちます。
失業者がいる一方で、人手不足の業種があるのです。事務室内での事務職を憧れる人が多いのでしょうか、専門職の処遇が悪いのでしょうか、専門職を育てない教育が悪いのでしょうか。

高齢化先進国日本の経験を輸出

10月31日の朝日新聞に「老いる中国、挑む日本式介護 保険や人材の壁、進出に苦戦も」という記事が載っていました。

・・・高齢化が急速に進む中国で65歳以上の人口が1・9億人となり、日本の総人口を超えた。介護需要はますます高まる見通しだが、課題は未整備の介護保険と人材不足。一足先に日本でノウハウを蓄積した日系企業も進出するが、苦戦している・・・

詳しくは、原文を読んでいただくとして。アジア各国に先駆けて経済発展し、高齢化した日本の経験は、他国の見本となります。産業として輸出することも考えられます。

地方の物産を世界に売り込む

奥山雅之ほか著『グローカルビジネスのすすめ 地域の宝を世界80億人に届ける』(2021年、紫洲書院)を紹介します。概要は、アマゾンでの紹介、特に読者の書評(レビュー)をお読みいただくとして。

「海外に産品を売る」と聞くと、大企業が行っている商売と思いがちです。この本は、地方の物産、農産物や中小企業の製品を海外に売り込むことを書いた本です。
諸外国では地方の物産を海外に輸出しているのに、日本では国内市場が大きかったので、やってこなかったと指摘されています。
そうですね。明治時代からの戦前、そして戦後は、日本の産品を海外に輸出して儲けようという意識が国全体にあったようです。国内市場が大きくなかったからです。経済成長に成功する過程で、大企業や商社が輸出する構造が確立しました。他方で、地方の農産物や中小企業は国内市場で満足したようです。
「和僑会」、華僑の日本人版を作ろうという提言には、なるほどと思います。
インターネットや物流が発展して、海外から物を買うことも簡単になりました。ならば、日本各地の小さな企業も、海外に売り込むことは容易です。

近年の日本経済の停滞は、かつて以上に経済の国際化が進んでいるのに、日本がそれに乗り遅れていることが、一因です。経済成長に成功し、満足してしまったのです。日本人の留学生が減少していることも、「内向き」になったことを表しています。日本は、大学院教育と医学教育を、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語など国際的な主要言語でなく、自国語でできる数少ない国です。それは喜ばしいことですが、外国に「他流試合」に行かない内弁慶をつくっているようです。
文化や政治の分野でも、国際社会で存在感を示せていません。日本の行政と官僚も、その一つでしょう。

個人で賃上げを求めない日本の社員

経済停滞の30年」の続きです。10月20日の朝日新聞13面の「置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金」には、次のような指摘もあります。

・・・そもそも、春闘による団体交渉と関係ない労働者は、ちゃんと賃上げ交渉ができているのだろうか。
リクルートワークス研究所の調査では、入社後に個人で賃上げを求めたことがある人は日本では3割だが、米国では7割だった。「日本には忍耐を美徳とする企業風土がある。個人が賃上げを主張すると『空気を読まない強欲なやつ』とみられがち」と話すのは、連合総研の中村天江主幹研究員。だが、労組が弱体化し、個人の賃金交渉が根付かない現状では、労働者は賃金の決定に関与できず、受け身の姿勢から抜け出せない。「働き方が多様になるなか、個人のボイス(声)を届ける環境づくりが重要だ」と訴える・・・

日本人の忍耐という美徳、企業に処遇を委ねる「会社人間」、転職しにくい労働慣行が、負の機能を果たしています。

経済停滞の30年

各紙が、日本経済がこの30年間、成長していないことを取り上げています。

10月16日の日経新聞1面「データが問う衆院選の争点」「日本の年収、30年横ばい 新政権は分配へまず成長を
・・・OECDがまとめた年間賃金データを各国別に比べると、日本は30年間ほぼ横ばいだ。購買力平価ベース(20年米ドル換算)の実質系列で30年前と比べると、日本は4%増の3.9万ドル(440万円)どまりだったのに対し、米国は48%増の6.9万ドル、OECD平均が33%増の4.9万ドルと大きく伸びた・・・

10月20日の朝日新聞1面「日本経済の現在値」「30年増えぬ賃金、日本22位 上昇率は4.4% 米47%、英44%
・・・日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の「失われた30年」とも呼ばれる低迷が続いている。
国際通貨基金(IMF)の統計で、国の経済規模を示す名目国内総生産(GDP)をみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位と大きい。しかし、1990年の値と比べると、この30年間で米国は3・5倍、中国は37倍になったのに、日本は1・5倍にとどまる。世界4位のドイツも2・3倍で、日本の遅れが際立つ。国民1人当たりのGDPも、日本はコロナ禍前の19年で主要7カ国(G7)中6番目という低水準だ。
賃金も上がっていない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は、加盟35カ国中22位で3万8514ドル(1ドル=110円で424万円)。この30年で日本は4・4%増とほぼ横ばいだが、米国47・7%増、英国44・2%増などと差は大きい。賃金の額も、隣国の韓国に15年に抜かれた・・・

同じく13面の「置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金
・・・まず、日本の現状を確認してみた。経済協力開発機構(OECD)の2020年の調査(物価水準を考慮した「購買力平価」ベース)によると、1ドル=110円とした場合の日本の平均賃金は424万円。35カ国中22位で、1位の米国(763万円)と339万円も差がある。1990年と比べると、日本が18万円しか増えていない間に、米国は247万円も増えていた。この間、韓国は1・9倍に急上昇。日本は15年に抜かれ、いまは38万円差だ・・・
・・・日本生産性本部によると、19年の1人あたりの労働生産性は37カ国中26位。70年以降では最も低い順位で、主要7カ国(G7)では93年以降、最下位が続く。自動車産業など、日本経済の稼ぎ頭だった製造業でさえ、直近の18年は16位。95年、00年は1位だったのに、他の国に次々に抜かれていった。
中小企業庁による21年版中小企業白書には衝撃的なグラフが載っていた。従業員1人あたりの労働生産性が03年度以降、ほぼ横ばいで上昇がみられないのだ。企業の数で99%以上、従業員で7割を占める中小企業が伸びないのは、日本の成長力にとっては痛い・・・
記事についているグラフを見ると、日本の負け方が鮮明です。

同じく10月20日の読売新聞経済面「過去30年 賃金上昇実感できず
・・・ただ、欧米各国に比べると、日本の賃上げは力強さに欠ける。経済協力開発機構(OECD)がまとめた平均賃金のデータによると、各国の物価水準を勘案して調整した「購買力平価」ベースでは、20年の日本は3・9万ドル(約440万円)。30年前に比べると、わずか4%増に過ぎない。
この間に米国の賃金は48%、英国も44%増えた。30年前に日本よりも低かった韓国には追い抜かれた。
企業の業績は好調で、利益の蓄積である内部留保は積み上がり、20年度末は484兆円と9年連続で過去最高だった・・・

日本の産業経済政策は、この30年間の失敗をどのように総括し、どのように転換していくのでしょうか。政府と経済界、そして企業の責任と役割が問われています。