カテゴリーアーカイブ:経済

ブルーカラーの賃上げ

2026年2月6日   岡本全勝

1月11日の日経新聞に「ブルーカラー賃上げ格差」が載っていました。
・・・専門スキルを持つ現業職「ブルーワーカー」で賃上げの勢いに格差が出ている。2024年の所定内給与を20年と比較すると、タクシー運転手は4割増える一方で、板金従事者など減少する職種もあった。海外では能力次第で厚待遇を得られる現業職を見直す動きがあるが、スキル可視化が不十分な日本では盛り上がりに欠ける。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査で所定内給与を比較した。伸び率が顕著なのが「タクシー運転者」で40%増えた。とび職・鉄筋工・型枠工など「建設軀体工事従事者」は18%増え、事務職を含む全体平均(7%増)の伸びを上回った。一方で警備員(3%増)や板金従事者(1%減)は平均を下回った。
都内で働く30代のタクシー運転手は25年8月、不動産営業から転職した。タクシー運転手の知人が月収100万円近いと聞き、歩合制で高収入を得られることに魅力を感じた。勤務間インターバルの確保など労働時間規制が厳しく1カ月の半分程度しか勤務できないが、「すでに前職の倍近い収入を得ている」という。
タクシー運転手の環境は新型コロナウイルス禍を経て大きく変わった。コロナ収束後の外国人観光客の急増で需要が拡大して人手不足が加速。歩合制を取り入れるタクシー会社では努力次第で高収入を得られる。東京タクシーセンター(東京・江東)によると、都内法人ドライバーの平均年齢はコロナ前に比べて2歳若返った。

ブルーワーカーはスキルが認められれば高収入を得やすいとあって海外で見直し機運が高まっている。日本でも建設工事現場で働くとび職や鉄筋工、型枠工など一部の技能職で賃金が上がり始めたが、タクシー運転手などを除いて人材流出に歯止めがかからない。違いは入職後に持続的に高年収を得られる「夢」を描きにくいことだ。
その理由として、建設現場の現業職で構成する全国建設労働組合総連合(全建総連)の松葉晋平・技術対策部長は「能力の可視化が遅れていることが大きい」と見る。職人自身が自分の持つスキルの市場価値が分からず、適正賃金が見定められない。

海外の賃金制度に詳しい青山学院大大学院の須田敏子教授は「英国やマイスター制度のあるドイツは職業資格が細かく可視化され、賃金に自然とひも付く。日本は職業資格が未発達でスキルの可視化ができておらず、交渉力もうまれない」と指摘する・・・
・・・欧米では未経験者の育成体制も整っている。米国の技能者養成システム「アプレンティスシップ制度」に詳しい筑波大学の藤田晃之教授は「高卒以上の未経験者が長期間かけて、有給でスキルを身につけられるため入職しやすい」と解説する。
肝は複数会社を渡り歩く実地訓練で全米共通のスキルを身につけられることだ。「育成を担う企業には能力評価の透明性があり、その評価は他社でも通用する」(藤田氏)。不透明でその企業内でしか通用しない日本の能力評価とは全く異なる。
ブルーワーカーの賃金上昇率は米国の方が高い。米労働統計局によると、大工の年収中央値は24年に5万9310ドル(936万円)で20年比20%増。日本の所定内給与(12%増の月額30万1200円)の伸び率を上回る・・・

日本人、労働時間も生産性も低く

2026年2月1日   岡本全勝

1月6日の日経新聞「日本人は働いていないのか 時間は減少、生産性も低水準」から。

・・・厚生労働省の毎月勤労統計は1人あたりの所定内と所定外を合わせた「総実労働時間」を公表している。1990年時点では年平均2064時間、月平均172時間だったが、30年余りたった2024年時点だと年平均1643時間、月平均で136.9時間と当時から2割減っている。
背景にあるのはパート社員の増加だ。毎勤統計ではフルタイムで働く正社員より所定労働時間が短い人をパート社員としている。パートは実数も比率も右肩上がりで、比率は90年の12%が24年は30%台をつけている。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏の試算によれば、労働時間が減った最大の要因は正社員から時短のパート社員への置き換わりだ。残業時間の上限が法定化した19年以降は正社員、パートのいずれも労働時間の減り幅が大きくなっている。

海外に比べても日本の労働時間は短い。経済協力開発機構(OECD)によると、日本は90年から24年にかけて20%減ったのに対し、米国は同じ間に4%の減少にとどまる。24年で比べれば、米国の方が日本より1割ほど長い時間働いている。

働く時間が短くても効率良く高い生産性で働いていれば問題ない。だが効率の落ち込みも日本は深刻だ。日本生産性本部の「時間あたり労働生産性」をみると、米国の4位に対し、日本は年々順位を落とし28位と主要7カ国(G7)で最下位だ・・・

キャノン、職務給への改革

2026年1月31日   岡本全勝

日経新聞・私の履歴書、1月は御手洗冨士夫・キャノン会長でした。1月26日の「三自の精神 実力主義、ベア・定昇廃止」から。
・・・社長就任から6年後、2001年12月期の連結決算は売上高、営業利益いずれも過去最高を更新した。経営改革は余力のあるうちに済ませた方がいい。その前年のうちから着手していたのが、人事・賃金制度の改革だった。
医者でもあった初代社長の御手洗毅は、何より健康を優先する健康第一主義、社員が互いに尊重し合う新家族主義、そして公正公平な実力主義を掲げた。そのうち、実力主義の公正さに疑問がわき始めていたからである。
社員の処遇制度で気づいたのは、個人の成績に関係なく全員一律で決まるベースアップ(ベア)、同じ仕事でも家族構成によって支給額が違う手当の存在だった。
それが本当の実力主義なのか。腑に落ちなかった。

私の持論は「サイエンスとファイナンスはインターナショナル。人事はローカル」である。社員は、それぞれの国の国民であるから、その国の文化や伝統を踏まえた経営をすることが合理的といえる。
日本でいえば、終身雇用には長期的な視点で社員が仕事に取り組める利点があり、やめるつもりはない。ただし、実力主義の徹底が前提だ。
見直し作業は職務の分析からだった。全社の仕事内容を6800に分類し、仕事内容を基準に賃金水準を決めた。仕事内容に処遇がひもづく職務給の考え方である。まず管理職向けに導入し、2005年には全社員に適用した。

当時のキヤノン本体の社員は2万5000人。新しい制度を定着させるには、その目的を全員が理解していなければならない。内容は1泊2日の合宿で伝えた。海外にも説明担当者を派遣した。
「会社の発展と従業員一人ひとりの人生の発展が重ならないといけない。それを一緒に求めたい」。労働組合の幹部に私の思いをぶつけると、協力を約束してくれた。それまで積み重ねてきた労使の信頼が生きたと思う。
気を配ったのが公正であることだ。評価する側だけでなく、評価される側にも5段階評価で使う40のチェックポイントを勉強してもらい、互いに議論できるようにした。
新しい賃金制度を導入した後、キヤノンから姿を消したのがベアと定期昇給、そして春闘だった。今は個人の成績に応じて昇給するほか、物価の動きなどを見て労使が賃金水準を確認している。

後から思うと、創業のころから続く行動指針「三自の精神」が社内に根づいていたのだろう。何事にも自ら積極的に取り組む自発、自分を律する自治、自分の立場や役割を理解して行動する自覚という3つの「自」である。
一人ひとりが自立した企業人だからこそ、新しい実力主義を受け入れてくれたのかもしれない。日本流でも米国流でもないキヤノン流が会社を動かすようになっていた・・・

御手洗会長には、経済財政諮問会議でご指導をいただきました。先日亡くなられた丹羽宇一郎・伊藤忠会長と一緒にです。私は内閣府で経済財政担当の官房審議官でした。案件について本社に説明に上がった際に、いつもそれぞれエレベーターまで送ってくださいました。私が恐縮していると、「これが礼儀だ」と教えてくださいました。それまで私は役所で客と会った際に、自席で別れていたのです。官僚の常識は世間の非常識でした。

経済学教科書での日本

2026年1月30日   岡本全勝

最近の経済学の教科書がどのようになっているか、見てみました。専門家に聞くと、アセモグル・レイブソン・リスト『入門経済学』(ALL入門経済学、2020年、東洋経済新報社)が新しくて代表的とのことでした。
図書館で借りて、目次に目を通しました。なるほど、最近の経済学の教科書はこのような構成になっているのですね。

ところで、世界の経済格差や経済成長の章で、主な国の一人あたり所得や経済成長が表で出ています(360ページ、376ページ、380ページ)。アジアでは、韓国と中国が取り上げられています。日本は出てきません。

格差拡大の先に

2026年1月29日   岡本全勝

格差の拡大が問題になっています。一部の富裕層が富の多くを所有し、ほかの人たちが貧しくなっているのです。
アメリカでの貧富の格差が取り上げられますが、日本も進んでいます。例えば、東京都の最低賃金は、2025年10月から時間額1,226円です。1日8時間働いて約1万円。1か月20日働いて20万円。1年12か月で240万円です。最低賃金近くの労働者もいて、中小企業は引き上げに難色を示します。
他方で、東京都の中古マンションの平均価格(70平米)は、1億円を超えたそうです。240万円×40年=9600万円ですから、利息なしで40年かかることになります。生活費ゼロです。首都圏でも6000万円を超えています。

成功した経営者は、「私の努力の成果だ」と考えるでしょう。それは、一部は正しいです。しかし、それが進むとどうなるか。多くの消費者の所得が上がらないと、製品やサービスは売れません。消費者がいて、所得が上がればこそ、売り上げが拡大するのです。
企業が業績を上げるために、売れ行きを拡大するためには、消費者を豊かにしなければなりません。

経済成長期は、製品が売れる→従業員の所得が上がる→製品が売れるという好循環があり、持続的に成長しました。バブル経済崩壊後の長期不況は、この逆に、給与が上がらない→売れない→給与が上がらないの悪循環だったのです。
格差の拡大の行き着く先は、資本主義経済の自滅です。